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第八章 ~華やかで煌びやかな地下の世界・裏闘技場の闇試合編~
道場訓 七十 予選バトルロイヤル ②
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大規模な乱戦が始まった直後、5人の男たちが俺の周りを取り囲んだ。
18歳の俺よりも1回りは年上かもしれない。
そんな男たちを俺は冷静な目で見回した。
俺は壁際に立っていたため、相手にとっては俺の逃げ道を塞いだ腹づもりだったのだろう。
しかも、この5人はどうやら協定関係を結んでいるようだった。
いや、元々外では仲間でここには別々に参加したのかもしれない。
「おい、ガキ。お前の番符を渡せ。それで命だけは許してやる」
リーダー格と思われる筋骨隆々の男が右手を差し出してくる。
この大規模な乱戦の本質は単純な闘いではない。
いかに各々に配布された番符を割らず、相手を戦闘不能にするかが重要になる。
だとすると、リーダー格の男の要求も正しいと言えば正しい。
相手の無傷な番符さえ手に入れれば、あとは番符を奪った相手を煮るなり焼くなり好きにできるのだ。
言葉で降伏を要求するも良し。
武器を使って気絶させるも良し。
そして、魔法やスキルを使って殺すも良し。
もちろん、これは相手から番符を上手く奪えた場合だ。
逆に番符を要求された側も選択は無数にある。
素直に番符を渡すも良し。
抵抗して番符を守るも良し。
逆に相手の番符を奪って戦闘不能にするも良し。
けれども、今の俺はその3択のどれも選ぶつもりはなかった。
それよりも俺はまったく別のことをリーダー格の男に尋ねる。
「なあ、アンタたちは冒険者なのか?」
5人の男たちは首元から足先までの全身が隠れた厚手の服を着ており、胸元や前腕と脛には丈夫な革鎧で武装している。
それだけではない。
背中には槍や弓を担ぎ、それぞれの手にはナイフや長剣を持っていた。
これは冒険者の中でもダンジョンというよりは、森の中で活動することに主軸を置いていた狩人の装備に近い。
リーダー格の男はふんと鼻を鳴らした。
「だったらどうした? 俺たちが冒険者だと何か不都合でもあるのか?」
狩人じゃなくて本当の冒険者だったか。
「いや、冒険者なら俺のことを知っているのかと思ってね」
「はあ? てめえみたいな丸腰同然のガキのことなんて知るかよ」
リーダー格の男は「それよりも」と怒声を上げた。
「番符を渡すか渡せねえのかどっちだ! 言っとくが、答えが遅くなればなるほど痛い目に遭う確率が高くなるぜ! それでも――」
いいのか、とリーダー格の男が言葉を続けようとするのは分かった。
だからこそ、俺はその言葉を言い終える前に行動に出た。
下丹田に気力を集中させ、心の中で「殺すぞ」と強く念じたのだ。
次の瞬間、俺の念は物理的な威力をともなう衝撃波となって部屋全体に放射されていく。
「ぶげッ!」
すると俺の目の前にいたリーダー格の男は、俺の念による衝撃波を食らって泡を吹きながらその場に倒れた。
そして他の取り巻きの人間も次々と床に崩れ落ちる。
〈闘神の威圧〉。
闘神流空手の初段から修得できる技術の1つであり、術者の強さによる念の衝撃波で対象者を無力化することができる。
今もそうだった。
俺が発動させた〈闘神の威圧〉によって、まるで〈痙攣〉の魔法を浴びたように他の参加志望者たちがバタバタと倒れていく。
さて、何人残ったかな。
俺は部屋の中をぐるりと見渡す。
すると、まともに立っていたのは3人だけだった。
主催者側の般若面の男女2人と、1人の小柄な男である。
ただし、俺は般若面の男女2人のところまで〈闘神の威圧〉を広げてはいない。
あくまでも番符を渡されていた参加志望者がいる範囲で使ったのだ。
そうなると俺の〈闘神の威圧〉をまともに受けて平気だったのは、小柄な男1人ということになる。
数秒後、俺は部屋の中央に向かって歩き始めた。
一方の小柄な男も同様だ。
何食わぬ顔で部屋の中央の場所まで歩いてくる。
やがて俺たちは部屋の中央で対峙した。
小柄な男の背丈は170センチの俺より頭1つは小さい。
年齢は20代前半か半ばほど。
刈り上げられた頭に、太くて短い眉毛。
鼻は獅子鼻で、両目は糸のように細い。
だが、簡素なシャツとズボンの上からでも分かるほど筋肉が発達している。
いや、異常に発達しすぎていた。
一見すると、太った子供のようにも見えなくもない。
しかし、その身体から発せられている雰囲気は強者のそれだ。
俺の〈闘神の威圧〉に平然と耐えられたということは、少なくとも小柄な男の強さは魔物で例えるならAランクで冒険者ならばSランクに相当する。
「……妙な技を使う。〈威圧〉スキルの変化系か?」
小柄な男が尋ねてくる。
俺は「違う」と簡潔に答えた。
スキルの中には術者の後天的な才能や修練によって変化するものがある。
小柄な男は俺の〈闘神の威圧〉を、普通の〈威圧〉スキルの変化したものだと思ったのだろう。
「……まあいいさ。お前がどのようなスキルの持ち主だろうと関係ない。むしろ、俺としては他の雑魚どもを一掃してくれて助かったぐらいだ。余計な体力を使わずに済んだ」
そう言うと小柄な男は、ズボンのポケットから番符を取り出した。
「その礼も兼ねて、特別にこいつでお前の運命を決めてやる」
だが、と小柄な男は握った拳の掌の部分が横になるような形――縦拳にした状態で人差し指と親指で輪を作るようにした。
そして人差し指の末節の上に番符を置き、一方の親指は爪の部分が人差し指の末節の下に当たるような形を作る。
このとき、俺は小柄な男が何をやりたいのか分かった。
コイン投げだ。
あらかじめ表と裏を決めたコインを投げ、その出た表か裏によって前もって決めていた役割・順位、勝敗・権利などを決定する遊戯の1つ。
それを小柄な男は番符でやるつもりだったのだろう。
「その顔だと俺が何をしたいのか分かったようだな。だったら話は早い。もしも番符の数字の部分が出たら特別に命だけは助けてやる」
なるほど。
この男のことはよく分かった。
などと俺が思った直後、小柄な男は得意げな顔で番符を親指で弾いた。
小柄な男の番符が天高く飛んでいく。
次の瞬間、俺は床を蹴って飛翔した。
そのまま空中にあった番符を掴み、小柄な男の背後へと着地する。
「なッ!」
俺は小柄な男が驚いて振り向こうとした隙を狙い、小柄な男の喉に目掛けて攻撃を放った。
〈螺旋・貫手突き〉。
親指を除いた4本の手の指を真っ直ぐ伸ばし、揃えた指先で相手の肉体を突く――貫手突きに回転を加えた技である。
その〈螺旋・貫手突き〉で小柄な男の喉を狙ったのだ。
「ぐうッ!」
俺の〈螺旋・貫手突き〉は小柄な男の喉に深々と突き刺さり、気道を潰された小柄な男は白目を剥いて床に倒れた。
俺はそんな小柄な男を見下ろしながら呟く。
「どんなに強くても相手を舐める奴は2流で、状況が把握できない奴は3流。そして真剣勝負の場所で遊び心を出す奴は評価するのにも値しない。今度からは場の状況を見極めながら相手を舐めるようなことをせず、遊び心など一切捨てて最初から自分の全力を出すんだな」
俺はそのまま振り向くと、般若面の男女を見つめた。
さて、これからだな。
一呼吸ついた俺は、般若面の男女に歩を進めた。
18歳の俺よりも1回りは年上かもしれない。
そんな男たちを俺は冷静な目で見回した。
俺は壁際に立っていたため、相手にとっては俺の逃げ道を塞いだ腹づもりだったのだろう。
しかも、この5人はどうやら協定関係を結んでいるようだった。
いや、元々外では仲間でここには別々に参加したのかもしれない。
「おい、ガキ。お前の番符を渡せ。それで命だけは許してやる」
リーダー格と思われる筋骨隆々の男が右手を差し出してくる。
この大規模な乱戦の本質は単純な闘いではない。
いかに各々に配布された番符を割らず、相手を戦闘不能にするかが重要になる。
だとすると、リーダー格の男の要求も正しいと言えば正しい。
相手の無傷な番符さえ手に入れれば、あとは番符を奪った相手を煮るなり焼くなり好きにできるのだ。
言葉で降伏を要求するも良し。
武器を使って気絶させるも良し。
そして、魔法やスキルを使って殺すも良し。
もちろん、これは相手から番符を上手く奪えた場合だ。
逆に番符を要求された側も選択は無数にある。
素直に番符を渡すも良し。
抵抗して番符を守るも良し。
逆に相手の番符を奪って戦闘不能にするも良し。
けれども、今の俺はその3択のどれも選ぶつもりはなかった。
それよりも俺はまったく別のことをリーダー格の男に尋ねる。
「なあ、アンタたちは冒険者なのか?」
5人の男たちは首元から足先までの全身が隠れた厚手の服を着ており、胸元や前腕と脛には丈夫な革鎧で武装している。
それだけではない。
背中には槍や弓を担ぎ、それぞれの手にはナイフや長剣を持っていた。
これは冒険者の中でもダンジョンというよりは、森の中で活動することに主軸を置いていた狩人の装備に近い。
リーダー格の男はふんと鼻を鳴らした。
「だったらどうした? 俺たちが冒険者だと何か不都合でもあるのか?」
狩人じゃなくて本当の冒険者だったか。
「いや、冒険者なら俺のことを知っているのかと思ってね」
「はあ? てめえみたいな丸腰同然のガキのことなんて知るかよ」
リーダー格の男は「それよりも」と怒声を上げた。
「番符を渡すか渡せねえのかどっちだ! 言っとくが、答えが遅くなればなるほど痛い目に遭う確率が高くなるぜ! それでも――」
いいのか、とリーダー格の男が言葉を続けようとするのは分かった。
だからこそ、俺はその言葉を言い終える前に行動に出た。
下丹田に気力を集中させ、心の中で「殺すぞ」と強く念じたのだ。
次の瞬間、俺の念は物理的な威力をともなう衝撃波となって部屋全体に放射されていく。
「ぶげッ!」
すると俺の目の前にいたリーダー格の男は、俺の念による衝撃波を食らって泡を吹きながらその場に倒れた。
そして他の取り巻きの人間も次々と床に崩れ落ちる。
〈闘神の威圧〉。
闘神流空手の初段から修得できる技術の1つであり、術者の強さによる念の衝撃波で対象者を無力化することができる。
今もそうだった。
俺が発動させた〈闘神の威圧〉によって、まるで〈痙攣〉の魔法を浴びたように他の参加志望者たちがバタバタと倒れていく。
さて、何人残ったかな。
俺は部屋の中をぐるりと見渡す。
すると、まともに立っていたのは3人だけだった。
主催者側の般若面の男女2人と、1人の小柄な男である。
ただし、俺は般若面の男女2人のところまで〈闘神の威圧〉を広げてはいない。
あくまでも番符を渡されていた参加志望者がいる範囲で使ったのだ。
そうなると俺の〈闘神の威圧〉をまともに受けて平気だったのは、小柄な男1人ということになる。
数秒後、俺は部屋の中央に向かって歩き始めた。
一方の小柄な男も同様だ。
何食わぬ顔で部屋の中央の場所まで歩いてくる。
やがて俺たちは部屋の中央で対峙した。
小柄な男の背丈は170センチの俺より頭1つは小さい。
年齢は20代前半か半ばほど。
刈り上げられた頭に、太くて短い眉毛。
鼻は獅子鼻で、両目は糸のように細い。
だが、簡素なシャツとズボンの上からでも分かるほど筋肉が発達している。
いや、異常に発達しすぎていた。
一見すると、太った子供のようにも見えなくもない。
しかし、その身体から発せられている雰囲気は強者のそれだ。
俺の〈闘神の威圧〉に平然と耐えられたということは、少なくとも小柄な男の強さは魔物で例えるならAランクで冒険者ならばSランクに相当する。
「……妙な技を使う。〈威圧〉スキルの変化系か?」
小柄な男が尋ねてくる。
俺は「違う」と簡潔に答えた。
スキルの中には術者の後天的な才能や修練によって変化するものがある。
小柄な男は俺の〈闘神の威圧〉を、普通の〈威圧〉スキルの変化したものだと思ったのだろう。
「……まあいいさ。お前がどのようなスキルの持ち主だろうと関係ない。むしろ、俺としては他の雑魚どもを一掃してくれて助かったぐらいだ。余計な体力を使わずに済んだ」
そう言うと小柄な男は、ズボンのポケットから番符を取り出した。
「その礼も兼ねて、特別にこいつでお前の運命を決めてやる」
だが、と小柄な男は握った拳の掌の部分が横になるような形――縦拳にした状態で人差し指と親指で輪を作るようにした。
そして人差し指の末節の上に番符を置き、一方の親指は爪の部分が人差し指の末節の下に当たるような形を作る。
このとき、俺は小柄な男が何をやりたいのか分かった。
コイン投げだ。
あらかじめ表と裏を決めたコインを投げ、その出た表か裏によって前もって決めていた役割・順位、勝敗・権利などを決定する遊戯の1つ。
それを小柄な男は番符でやるつもりだったのだろう。
「その顔だと俺が何をしたいのか分かったようだな。だったら話は早い。もしも番符の数字の部分が出たら特別に命だけは助けてやる」
なるほど。
この男のことはよく分かった。
などと俺が思った直後、小柄な男は得意げな顔で番符を親指で弾いた。
小柄な男の番符が天高く飛んでいく。
次の瞬間、俺は床を蹴って飛翔した。
そのまま空中にあった番符を掴み、小柄な男の背後へと着地する。
「なッ!」
俺は小柄な男が驚いて振り向こうとした隙を狙い、小柄な男の喉に目掛けて攻撃を放った。
〈螺旋・貫手突き〉。
親指を除いた4本の手の指を真っ直ぐ伸ばし、揃えた指先で相手の肉体を突く――貫手突きに回転を加えた技である。
その〈螺旋・貫手突き〉で小柄な男の喉を狙ったのだ。
「ぐうッ!」
俺の〈螺旋・貫手突き〉は小柄な男の喉に深々と突き刺さり、気道を潰された小柄な男は白目を剥いて床に倒れた。
俺はそんな小柄な男を見下ろしながら呟く。
「どんなに強くても相手を舐める奴は2流で、状況が把握できない奴は3流。そして真剣勝負の場所で遊び心を出す奴は評価するのにも値しない。今度からは場の状況を見極めながら相手を舐めるようなことをせず、遊び心など一切捨てて最初から自分の全力を出すんだな」
俺はそのまま振り向くと、般若面の男女を見つめた。
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