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第27話 ラジオ放送部の番外編
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「皆さんは八天春学園という高校をご存知だろうか? 綾園市に実在するクラブ活動が盛んなことで有名な私立高校なのだが、実はこの学園には世にも珍しい部活動が存在していた。その部活動の名前は放送部。
え? 放送部なんてどこの高校にもある? やれやれ、あなたは何も分かってない。この八天春学園には二つの放送部があるのだ。一つ目は今まさにあなたが思ったような学校行事のアナウンスを行う放送部。そして二つ目の放送部は学園行事のアナウンスは一切しない放送部である。
じゃあ、どうして放送部を名乗っているのかって? ふふふ、お教えしよう。この二つ目の放送部は放送部でも〝ラジオ放送部〟と言う学園内でラジオ番組を放送するために設立された部活動なのだ!」
夜一のナレーションが流れ終わった直後、夜一と奈津美は声を合わせて叫んだ。
「八天春学園ラジオ放送部ばーんがーいへーん!」
奈津美はカフを操作して一旦マイクをOFFにする。
そうすればパーソナリティの声は聞こえずBGMだけ流れるのだ。
視聴者ならば「お? これから番組が始まるんだな」と心理的効果が生まれるだろう。
一通りBGMを流したとき、奈津美は再びカフを操作してマイクをONにした。
「始まってしまいました。私立八天春学園ラジオ放送部がお届けする、八天春学園ラジオ放送部番外編。皆さん、始めまして。今回のパーソナリティを務めさせていただきます。一年A組普通科の朝霧夜一です。そして」
口火を切った夜一は前方の奈津美に手を差し出す。
「はい、皆さん。儲かりまっか。同じくパーソナリティを務めさせていただきます。一年B組芸術科の門前奈津美です」
軽快な滑り出しだ。二人とも一切噛まずに自己紹介を終えることができた。
しかし、気を抜いている暇は無い。続いて間髪を入れずにオープニングである。
「さてさて、いきなり始まった八天春学園ラジオ放送部番外編。せやけど夜一君、番外編ってあるけど実際に何が番外編なんや?」
「奈津美、お前もパーソナリティなら台本をちゃんと読め。今回の放送は映像つきなんだよ」
「何やて!」
奈津美はノルウェーの画家であるエドヴァルド・ムンクの『叫び』をパクったのか、両頬を押さえて口を大きく開く。
ちなみにリアクションは台本に自由と書かれている。
「でもな。映像だけついても何も変わらんのとちゃうか? 普通の私立高校に通う生徒二人が放送するラジオ番組なんて高が知れてるやん」
台本通りに奈津美は不満げなリアクションで頬杖をつく。
「そうだよな。どれだけ高画質なビデオカメラで録ったって高校生だけが作ったラジオ番組が面白いとは思えない」
「そやろ。高校生だけが登場するラジオ番組なんて……ん?」
「どうした? 奈津美」
「しっ、静かに! 間違いない。匂いがする」
「匂い?」
「そうや。うちらの番組を面白くかつ華やかにしてくれるゲストの匂いがする」
「待て待て。幾ら何でも俺たちの番組にゲストが……」
「やあ、ゲストに来たよ」
夜一と奈津美は中央の席に顔を向ける。
同時に武琉が動かしているカメラも中央へ向く。
「正義の炎を拳に纏い、あらゆる悪を一掃する。それが勇者の証明だ! どうも、久し振りに『破天荒勇者みちお』の決め台詞を言って恥ずかしい思いで一杯です。〈オフィス・リング〉所属の上里円清です。今日はよろしく」
「ゲスト来たああああ――――っ!」
諸手を上げて歓喜のポーズを取った奈津美とは別に、メイン進行役を与えられていた夜一は素早く台本を確認して快活に口を開く。
「はい、それでは本日のゲストをご紹介しましょう。今年で何と芸歴二十五年。あの国民的アニメ『破天荒勇者みちお』の主人公――狭間みちお役でお馴染みのベテラン声優の上里円清さんです!」
スピーカーから拍手喝采のSEが鳴り響く。
「初めまして、上里円清です。いや~、まさか高校生の子たちが仕切るラジオ番組に出演することになるとは夢にも思いませんでした」
「ほんまですよ。もしかしたら今回が最初で最後ちゃいます?」
「そもそも高校生のラジオ番組にゲスト出演する声優があまりいませんからね。おそらくプロ声優だったら私が最初で最後じゃないでしょうか」
「本当に出演してくれてありがとうございます。まさか、プロの声優さんを招いて番組が始まるとは思いませんでした。本日はよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそよろしく」
三人の顔がカメラに映った頃を見計らい、夜一は手元に置いてあるストップウォッチで時間を確認する。
これはラジオ放送部に入って初めて知ったのだが、ラジオ放送では時間を正確に把握するためパーソナリティはストップウォッチが必須なのだという。
「それではゲストさんの紹介が終わったところで、さっそくコーナーに行きたいと思います。先ずは普通のおたよりコーナー。略してふつおたのコーナーです」
夜一は台本を捲って二枚目に目を通す。
「一通目はラジオネーム・異世界の賞金稼ぎさんから。パーソナリティのお二人さん、驚きのゲストである上里さん、こんにちは。はい、こんにちは」
「メールありがとな」と奈津美。
「こんにちは」と円清。
「綾園動画コンテストに映像つきのラジオ番組を応募するという情報を聞きつけたのでメールしました。いや~、最初は半信半疑だったんですが本当にやるんですね。せいぜい一次審査で落ちないよう頑張ってください。ではでは……って半ば冷やかしメールだな」
「夜一君、初っ端からそんなメール読んだらあかんやん」
「ごめんごめん。次はマシなメールを読むよ」
などと会話を交わしていたが、これらのメールはすべて構成作家である武琉が書いたサクラメールである。
そもそもプロの声優を招いてラジオ番組を収録することは周囲の誰にも漏らしていないのだ。
そんなラジオ放送部にメールが来るはずがない。
「では気を取り直して二通目のメールを読みたいと思います。続いてメールを送ってくれたのはラジオネーム・あんみつ大好きっ子さんから。パーソナリティのお二人さん。ゲストの上里さん、こんにちは。今回、ラジオ放送部さんが綾園動画コンテストに作品を応募すると聞きつけて急いでメールしました。しかも人気声優の上里円清さんをゲストに呼ぶとは……ラジオ放送部さんの本気が窺えます。私は上里さんの大ファンなので一時間かけてたっぷりと上里さんのプライベート情報を暴いてほしいのですが、この番組が綾園動画コンテストに応募する作品と思うと却下されそうなので止めておきます」
「あんみつ大好きっ子さん。空気読むのはええことやで」
奈津美の相槌を聞きつつ夜一はメールを読んでいく。
「なので今回は番組の趣旨に則った綾園市の紹介を行ってください。ベテラン声優の上里さんが綾園市の紹介をすれば、某人気アニメみたいに聖地巡礼で綾園市が活性化するかもしれませんよ。あ、パーソナリティのお二人は知名度ゼロなのでいりません。ではでは」
「何やっちゅうねん! こんなメールばっかやないか!」
「まあまあ、落ち着けよ。これが一般人の見解なんだって」
怒った演技をする奈津美を夜一は同じ演技で持って宥める。
「それにラジオネーム・あんみつ大好きっ子さんの言っていることは正論だ。綾園市が主催する動画コンテストに作品を応募するんだから、これでもかって言うほど綾園市の宣伝をしようじゃないか。そう言うわけで上里さんから綾園市の宣伝をお願いします」
「任せてください。あんみつ大好きっ子さんのご期待に沿えるよう頑張ります。これでも私は綾園市に詳しいんですよ」
「もしかして上里さんは綾園市の生まれですか?」
奈津美が目を点にすると、円清は「いいえ」と微笑を作った。
「私は生まれも育ちも東京です」
「ちゃうんですかい!」と奈津美は盛大に突っ込みを入れた。
「そう落ち込まないでください。たとえ東京生まれでも私は綾園市のことに何でも答えられますよ。論より証拠。お聞かせしましょうか?」
円清は台本に挟んでいた別色のA4サイズのコピー用紙を持つ。
「国から特例市に指定されている綾園市は、戦国時代は城下町として栄えた一大都市。人口は約三十万人。【文化・芸術・自然が豊かな人間を作る】をスローガンに掲げており、市長の名前は風間哲夫さん。この風間市長は海外との異文化交流を積極的に推奨している人物で――」
「読んでいます。上里さんは綾園市に詳しいと言いながら、台本に書かれている文字を一心不乱に読み続けております」
夜一は含み笑いを漏らしながら武琉の後方を見やった。
カメラマンを務めていた武琉の後ろには、一台の液晶モニターが設置されている。
夜一、奈津美、円清の三人が鮮明に映し出されていた液晶モニターだ。
この液晶モニターはビデオカメラと直結されており、ビデオカメラの方向を見れば自分たちの映り具合が液晶モニターに転写されるという仕組みだった。
「プロや。これがプロの仕事なんやで、夜一君」
このような調子で番組は順調に進み、収録時間が三十分を超えたときだ。
番組は佳境であるフリートークのコーナーに突入した。
夜一は六枚目の台本に視線を落とす。
事前の打ち合わせでは円清の声優苦労話などで番組を盛り上げると書いてある。
これは声優志望である夜一が提案したことだった。
ラジオ番組においてフリートークは諸刃の刃だ。
下手をすればパーソナリティすらも事態を収拾できない支離滅裂なコーナーになってしまい、番組を面白くさせようと下ネタに走れば視聴者の退屈を増進しかねない。
しかも番組の司会進行役は高校生の夜一と奈津美の二人なのだ。
全国どころか綾園市でも知名度が皆無な夜一と奈津美の二人がフリーコーナーを行ったところで、番組が面白くなるとは思えなかった。
それゆえにここは安全牌を取ったほうが無難なのだ。
ベテラン声優として業界のトップをひた走っている円清の苦労話ならば、番組が盛り上がることは必至。
そう考えたからこそ、夜一はフリートークのコーナーを円清一色に染めようと意見を出した。
他にも理由がある。
綾園動画コンテストについて調べたところ、審査員は幅広いジャンルに通じている剛の者ばかりと分かった。
中には声優というジャンルに多大な興味や関心を抱いている審査員が一人や二人はいるだろう。
そこへ上里円清自身が語る苦労話や声優業界の裏話などが聞けたら受賞に限りなく近づくと夜一は密かに確信していた。
ところがである。
「さて八天春学園ラジオ放送部番外編もいよいよ終盤に差しかかり、次のフリーコーナーではゲストに招いた上里円清さんの声優という職業についての苦労話を聞きたかったのですが……何とここからは急遽コーナーを変更したいと思います!」
台本を読んでいた奈津美が意味深な発言を繰り出した。
「題して『声優志望の朝霧夜一がお届けする十分間アドリブ頑張って』コーナーで~す!」
え? 放送部なんてどこの高校にもある? やれやれ、あなたは何も分かってない。この八天春学園には二つの放送部があるのだ。一つ目は今まさにあなたが思ったような学校行事のアナウンスを行う放送部。そして二つ目の放送部は学園行事のアナウンスは一切しない放送部である。
じゃあ、どうして放送部を名乗っているのかって? ふふふ、お教えしよう。この二つ目の放送部は放送部でも〝ラジオ放送部〟と言う学園内でラジオ番組を放送するために設立された部活動なのだ!」
夜一のナレーションが流れ終わった直後、夜一と奈津美は声を合わせて叫んだ。
「八天春学園ラジオ放送部ばーんがーいへーん!」
奈津美はカフを操作して一旦マイクをOFFにする。
そうすればパーソナリティの声は聞こえずBGMだけ流れるのだ。
視聴者ならば「お? これから番組が始まるんだな」と心理的効果が生まれるだろう。
一通りBGMを流したとき、奈津美は再びカフを操作してマイクをONにした。
「始まってしまいました。私立八天春学園ラジオ放送部がお届けする、八天春学園ラジオ放送部番外編。皆さん、始めまして。今回のパーソナリティを務めさせていただきます。一年A組普通科の朝霧夜一です。そして」
口火を切った夜一は前方の奈津美に手を差し出す。
「はい、皆さん。儲かりまっか。同じくパーソナリティを務めさせていただきます。一年B組芸術科の門前奈津美です」
軽快な滑り出しだ。二人とも一切噛まずに自己紹介を終えることができた。
しかし、気を抜いている暇は無い。続いて間髪を入れずにオープニングである。
「さてさて、いきなり始まった八天春学園ラジオ放送部番外編。せやけど夜一君、番外編ってあるけど実際に何が番外編なんや?」
「奈津美、お前もパーソナリティなら台本をちゃんと読め。今回の放送は映像つきなんだよ」
「何やて!」
奈津美はノルウェーの画家であるエドヴァルド・ムンクの『叫び』をパクったのか、両頬を押さえて口を大きく開く。
ちなみにリアクションは台本に自由と書かれている。
「でもな。映像だけついても何も変わらんのとちゃうか? 普通の私立高校に通う生徒二人が放送するラジオ番組なんて高が知れてるやん」
台本通りに奈津美は不満げなリアクションで頬杖をつく。
「そうだよな。どれだけ高画質なビデオカメラで録ったって高校生だけが作ったラジオ番組が面白いとは思えない」
「そやろ。高校生だけが登場するラジオ番組なんて……ん?」
「どうした? 奈津美」
「しっ、静かに! 間違いない。匂いがする」
「匂い?」
「そうや。うちらの番組を面白くかつ華やかにしてくれるゲストの匂いがする」
「待て待て。幾ら何でも俺たちの番組にゲストが……」
「やあ、ゲストに来たよ」
夜一と奈津美は中央の席に顔を向ける。
同時に武琉が動かしているカメラも中央へ向く。
「正義の炎を拳に纏い、あらゆる悪を一掃する。それが勇者の証明だ! どうも、久し振りに『破天荒勇者みちお』の決め台詞を言って恥ずかしい思いで一杯です。〈オフィス・リング〉所属の上里円清です。今日はよろしく」
「ゲスト来たああああ――――っ!」
諸手を上げて歓喜のポーズを取った奈津美とは別に、メイン進行役を与えられていた夜一は素早く台本を確認して快活に口を開く。
「はい、それでは本日のゲストをご紹介しましょう。今年で何と芸歴二十五年。あの国民的アニメ『破天荒勇者みちお』の主人公――狭間みちお役でお馴染みのベテラン声優の上里円清さんです!」
スピーカーから拍手喝采のSEが鳴り響く。
「初めまして、上里円清です。いや~、まさか高校生の子たちが仕切るラジオ番組に出演することになるとは夢にも思いませんでした」
「ほんまですよ。もしかしたら今回が最初で最後ちゃいます?」
「そもそも高校生のラジオ番組にゲスト出演する声優があまりいませんからね。おそらくプロ声優だったら私が最初で最後じゃないでしょうか」
「本当に出演してくれてありがとうございます。まさか、プロの声優さんを招いて番組が始まるとは思いませんでした。本日はよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそよろしく」
三人の顔がカメラに映った頃を見計らい、夜一は手元に置いてあるストップウォッチで時間を確認する。
これはラジオ放送部に入って初めて知ったのだが、ラジオ放送では時間を正確に把握するためパーソナリティはストップウォッチが必須なのだという。
「それではゲストさんの紹介が終わったところで、さっそくコーナーに行きたいと思います。先ずは普通のおたよりコーナー。略してふつおたのコーナーです」
夜一は台本を捲って二枚目に目を通す。
「一通目はラジオネーム・異世界の賞金稼ぎさんから。パーソナリティのお二人さん、驚きのゲストである上里さん、こんにちは。はい、こんにちは」
「メールありがとな」と奈津美。
「こんにちは」と円清。
「綾園動画コンテストに映像つきのラジオ番組を応募するという情報を聞きつけたのでメールしました。いや~、最初は半信半疑だったんですが本当にやるんですね。せいぜい一次審査で落ちないよう頑張ってください。ではでは……って半ば冷やかしメールだな」
「夜一君、初っ端からそんなメール読んだらあかんやん」
「ごめんごめん。次はマシなメールを読むよ」
などと会話を交わしていたが、これらのメールはすべて構成作家である武琉が書いたサクラメールである。
そもそもプロの声優を招いてラジオ番組を収録することは周囲の誰にも漏らしていないのだ。
そんなラジオ放送部にメールが来るはずがない。
「では気を取り直して二通目のメールを読みたいと思います。続いてメールを送ってくれたのはラジオネーム・あんみつ大好きっ子さんから。パーソナリティのお二人さん。ゲストの上里さん、こんにちは。今回、ラジオ放送部さんが綾園動画コンテストに作品を応募すると聞きつけて急いでメールしました。しかも人気声優の上里円清さんをゲストに呼ぶとは……ラジオ放送部さんの本気が窺えます。私は上里さんの大ファンなので一時間かけてたっぷりと上里さんのプライベート情報を暴いてほしいのですが、この番組が綾園動画コンテストに応募する作品と思うと却下されそうなので止めておきます」
「あんみつ大好きっ子さん。空気読むのはええことやで」
奈津美の相槌を聞きつつ夜一はメールを読んでいく。
「なので今回は番組の趣旨に則った綾園市の紹介を行ってください。ベテラン声優の上里さんが綾園市の紹介をすれば、某人気アニメみたいに聖地巡礼で綾園市が活性化するかもしれませんよ。あ、パーソナリティのお二人は知名度ゼロなのでいりません。ではでは」
「何やっちゅうねん! こんなメールばっかやないか!」
「まあまあ、落ち着けよ。これが一般人の見解なんだって」
怒った演技をする奈津美を夜一は同じ演技で持って宥める。
「それにラジオネーム・あんみつ大好きっ子さんの言っていることは正論だ。綾園市が主催する動画コンテストに作品を応募するんだから、これでもかって言うほど綾園市の宣伝をしようじゃないか。そう言うわけで上里さんから綾園市の宣伝をお願いします」
「任せてください。あんみつ大好きっ子さんのご期待に沿えるよう頑張ります。これでも私は綾園市に詳しいんですよ」
「もしかして上里さんは綾園市の生まれですか?」
奈津美が目を点にすると、円清は「いいえ」と微笑を作った。
「私は生まれも育ちも東京です」
「ちゃうんですかい!」と奈津美は盛大に突っ込みを入れた。
「そう落ち込まないでください。たとえ東京生まれでも私は綾園市のことに何でも答えられますよ。論より証拠。お聞かせしましょうか?」
円清は台本に挟んでいた別色のA4サイズのコピー用紙を持つ。
「国から特例市に指定されている綾園市は、戦国時代は城下町として栄えた一大都市。人口は約三十万人。【文化・芸術・自然が豊かな人間を作る】をスローガンに掲げており、市長の名前は風間哲夫さん。この風間市長は海外との異文化交流を積極的に推奨している人物で――」
「読んでいます。上里さんは綾園市に詳しいと言いながら、台本に書かれている文字を一心不乱に読み続けております」
夜一は含み笑いを漏らしながら武琉の後方を見やった。
カメラマンを務めていた武琉の後ろには、一台の液晶モニターが設置されている。
夜一、奈津美、円清の三人が鮮明に映し出されていた液晶モニターだ。
この液晶モニターはビデオカメラと直結されており、ビデオカメラの方向を見れば自分たちの映り具合が液晶モニターに転写されるという仕組みだった。
「プロや。これがプロの仕事なんやで、夜一君」
このような調子で番組は順調に進み、収録時間が三十分を超えたときだ。
番組は佳境であるフリートークのコーナーに突入した。
夜一は六枚目の台本に視線を落とす。
事前の打ち合わせでは円清の声優苦労話などで番組を盛り上げると書いてある。
これは声優志望である夜一が提案したことだった。
ラジオ番組においてフリートークは諸刃の刃だ。
下手をすればパーソナリティすらも事態を収拾できない支離滅裂なコーナーになってしまい、番組を面白くさせようと下ネタに走れば視聴者の退屈を増進しかねない。
しかも番組の司会進行役は高校生の夜一と奈津美の二人なのだ。
全国どころか綾園市でも知名度が皆無な夜一と奈津美の二人がフリーコーナーを行ったところで、番組が面白くなるとは思えなかった。
それゆえにここは安全牌を取ったほうが無難なのだ。
ベテラン声優として業界のトップをひた走っている円清の苦労話ならば、番組が盛り上がることは必至。
そう考えたからこそ、夜一はフリートークのコーナーを円清一色に染めようと意見を出した。
他にも理由がある。
綾園動画コンテストについて調べたところ、審査員は幅広いジャンルに通じている剛の者ばかりと分かった。
中には声優というジャンルに多大な興味や関心を抱いている審査員が一人や二人はいるだろう。
そこへ上里円清自身が語る苦労話や声優業界の裏話などが聞けたら受賞に限りなく近づくと夜一は密かに確信していた。
ところがである。
「さて八天春学園ラジオ放送部番外編もいよいよ終盤に差しかかり、次のフリーコーナーではゲストに招いた上里円清さんの声優という職業についての苦労話を聞きたかったのですが……何とここからは急遽コーナーを変更したいと思います!」
台本を読んでいた奈津美が意味深な発言を繰り出した。
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