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旅人編 第一章
ジャック、夜の森にて
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ジャックは、誰にも見つからないように、コレクト王国を出ようと考え、人通りの少ない西方のトレット湖を経由して、南のハーベス山を越えようとしました。
ところが、ハーベス山まで来たことがほとんど無かったジャックは、ハーベス山より先の土地勘が無いことに気が付きました。
ですが、今更戻ることも躊躇われたので、諦めて、進む先に街があることを願いながら歩き続けました。
長らく歩き続けていると、流石に夜が近づいていることに気付いたジャックは、急ぎ足で森を抜けようとしました。
野営の方法を知らないジャックは、どうにかして、開けた平野へたどり着きたかったのです。
ですが、時間は無情にも、止まることなく進み続け、遂に夜の闇がやって来ました。
ジャックは焦りました。
月明かりすら差し込まない森の真っ暗な夜闇の中では、身動きが取れない上に、武器も防具もない丸腰で、しかも、お世辞でもガタイが良いとは言えない程に弱そうな見た目のジャックは、野生の動物にも魔物にも、当然勝つことはできません。
「武器が無くても、魔法が使えれば、きっと、戦えるんだろうけど・・・」
ジャックは、自身が何かしらの魔法を使えることは知っていました。
コレクト王国でも、子供の魔法の適性検査を行うことは出来ていました。
ですが、魔法の指導を行えるような人材までは、コレクト王国には居なかったため、ジャックは生まれてから、今まで、一度も魔法を使ったことが無かったのです。
「こんな時こそ、何か魔法が使えたらなぁ・・・」
自身が適性を持つ属性を思い出そうにも、適性検査を受けた当時のジャックはまだ5歳だった上に、周りからは持っている属性の話もされなかったために、ジャックの欲しい情報は完全に記憶の中から消え去っていました。
ジャックの持つ魔法の知識は、父パーシヴァルが使える火属性と母アンネリーゼの使える水属性の魔法が存在することを認識している、程度のものです。
そのため、魔法の使い方は全く分からず、途方に暮れていたのです。
「あれ?
見たことない顔のお兄さんだ。
ねえねえ、お兄さんは、カロンの村に用がある人ですか?」
ジャックは突然声を掛けられて、驚き、大声を上げそうになるのを必死に抑えました。
森の中で、夜遅くに叫べば、肉食の魔物を呼んでしまう可能性が高まるという知識が、ジャックの脳裏に浮かびました。
森の中で生活する上で、必要な知識をコレクト王国では幼少の頃より叩き込まれます。
その知識がなければ、森の中に位置するコレクト王国で、生活し続けることができないからです。
「えっと・・・」
ジャックは平静を装うと、声の主の方へゆっくりと振り返り、確認しました。
そこには、10歳くらいに見える少女が、木の影に立っていました。
少女は右手には、木の実などの山菜が入った籠を左手には松明のような形をした不思議な棒を持っており、その棒から薄ぼんやりとした光が漂っていました。
「僕は、ただの旅人です。
うん、旅人。
迷子の旅人。
僕には、ここがどこかも分からないし、野営の仕方も分からない。
だから、近くに集落とかがあるなら、寄りたいかな?」
少女に警戒されないように最大限、気を使いながら、ジャック少女の問に返答をしましたが、コレクト王国の王子として今まで見逃されてきていた、不審感のある喋り方が出てしまいました。
そのため・・・
「お兄さん、・・・盗賊とかじゃないんだよね?
身綺麗だし。
・・・・・・んー、そっかぁ、迷子なのかぁ。」
盗賊かどうかを疑われてしまいました。
ただ、幸いなことに、国擬きの王国とは言えど、コレクト王国の王子として扱われていたジャックの身なりは、よその国の下級貴族や大商家の坊ちゃんくらいには見えるため、隊列から少し離れたところで一人行動を取り、旅人気分を味わおうとして失敗し、隊列から完全にはぐれてしまった良家の坊ちゃんなんだと、少女は勘違いしたようです。
「お兄さん、野営ができないなら、カロンの村で泊まっていく?
私の家はね、カロンの村で宿屋をしているんだよ。」
宿で泊まれることに、ジャックが喜んだのもつかの間、とあることに気付いたジャックは焦りながらも少女言うべきことを伝えました。
「良いのかい?
こう言ってはなんだけど、今の僕は無一文だよ?」
コレクト王国での生活には、お金など必要なかったために、ジャックはお金を全く持ち出していませんでした。
ですが、そこは少女も予想していたらしく、素早い返事が返ってきました。
「大丈夫だよ。
カロンの村には冒険者ギルドがあるから、ギルドで仕事をしてお金を稼いでもいいし、家でお手伝いしてくれたら、それで相殺してもいいんだよ?」
ジャックは、無一文に対する待遇が、予想よりもいいことに疑いを抱きながらも、冒険者ギルドというものへの好奇心から、少女に付いて行くことに決めました。
「そうか。
それなら、世話になろうか。
このままでは、流石に困るからな。」
「そっかぁ。
それじゃあ、私についてきて。
・・・・・・私、アリア。
お兄さんは?」
ジャックはアリアが名乗ったのを聞いて、初めてお互いに名乗っていなかったことを思い出しました。
「あ、あぁ。
君は、アリアと言うんだね。
いい名前だと思うよ。
僕はジャックだ。」
ジャックが幼少の頃に、母親から教わったように、相手の名前を褒めてから名乗ると、アリアは目を逸らしてしまいました。
ジャックは、目を逸らされたことに疑問を持ちましたが、機嫌を損ねてしまった可能性を考えて、尋ねることはしませんでした。
_____________________
Side:アリア
森の中での採取が捗りすぎて、辺りが暗くなっていることに、全然気が付かなかった。
急いで村に帰らないと、みんなが心配しちゃうよね?
みんなに心配させたくはないから、安全な正規ルートとは違い、少し危険な獣道を駆け抜けていると、木の根元に座り込んでいる人がいるのに気がついた。
木の影からそっと顔を伺ってみると、村では見かけたことがない男性だった。
もしかして、カロンの村へ向かう途中に正規ルートを逸れてしまい、道に迷っている冒険者なのかもと思ったから、声を掛けてみることにする。
「あれ?
見たことない顔のお兄さんだ。
ねえねえ、お兄さんは、カロンの村に用がある人ですか?」
お兄さんが驚いているような動作をしたので、しまった、と思ったけど、大きな声を上げられることはなくて、ほっとする。
大声を上げられて、魔物がやって来たら大変だからね。
「えっと・・・
僕は、ただの旅人です。
うん、旅人。
迷子の旅人。
僕には、ここがどこかも分からないし、野営の仕方も分からない。
だから、近くに集落とかがあるなら、寄りたいかな?」
お兄さんが、こちらの方へ振り返りながら、自分が旅人だと言う。
だけど、野営の仕方も知らない旅人なんて、今時いないと思う。
怪しさ満載のお兄さんに疑いの目を向ける。
「お兄さん、・・・盗賊とかじゃないんだよね?
身綺麗だし。
・・・・・・んー、そっかぁ、迷子なのかぁ。」
それでもやっぱり、身綺麗すぎることから、旅人ごっこ中に護衛とはぐれてしまった坊ちゃんの可能性に思い至った。
もしそうなら、今のお兄さんは無一文である可能性が高い。
うちは宿屋だから、お兄さんを泊めてあげれば、恩を売れると思う。
身なり的には、下級貴族か大商家の出と言ったところだと思う。
下級でも貴族ならカロンの村の後ろ盾になってもらえると助かるし、大商家ならカロンの村に支店を置いてもらえると嬉しい。
打算まみれの提案だけど、お兄さん困ってるみたいだし、聞いてみるか。
「お兄さん、野営ができないなら、カロンの村で泊まっていく?
私の家はね、カロンの村で宿屋をしているんだよ。」
お兄さんの顔が、一瞬、喜びの色に染まるも、すぐに、焦りの色に変わる。
ダメ、そうかも?
「良いのかい?
こう言ってはなんだけど、今の僕は無一文だよ?」
わざわざ、無一文であることを自己申告してきたことを鑑みると、お兄さんはかなり良識のある人だと感じる。
「大丈夫だよ。
カロンの村には冒険者ギルドがあるから、ギルドで仕事をしてお金を稼いでもいいし、家でお手伝いしてくれたら、それで相殺してもいいんだよ?」
打算まみれの考えで声を掛けたことに若干の後ろめたさを感じる。
だからこそ、無一文で宿に泊まることに対して、お兄さんが後ろめたく感じないように、色々と提案をする。
「そうか。
それなら、世話になろうか。
このままでは、流石に困るからな。」
お兄さんが、この提案に乗ってくれたことに一安心する。
「そっかぁ。
それじゃあ、私についてきて。」
案内を始めたところで、ふと気付いたことがあった。
まだ自分は名乗っていないし、お兄さんの名前も知らない。
このまま村まで帰れば、お兄さんが不審者として、村に入れてもらえない可能性がある。
こういう時は、自分から名乗らないと。
「・・・・・・私、アリア。
お兄さんは?」
お兄さんは、少し驚いたような声を出した。
そして、・・・
「あ、あぁ。
君は、アリアと言うんだね。
いい名前だと思うよ。
僕はジャックだ。」
お兄さんに名前を褒められた。
古来より、カロンの村が属するブレイク王国では、相手の名前を褒める行為は求愛を意味している。
ただ、ジャックと名乗ったお兄さんがブレイク王国の出身なのか、それとも、カロンの村周辺の森を東に向かって抜けた先にある、シーズン帝国の出身かで話は変わってくる。
とは言え、今の私が恥しいと感じていることに変わりはないので、つい、ジャックさんから目を逸らしてしまった。
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