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第2章 魔女マリエーヌ
コロシアム
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目覚めると天井が見えた。
低い天井なので、少なくとも魔王城にUターンということはないだろう。
石造りの建物だ。
けっこうボロっちいな……。
いや、手入れはされているので清潔感はある。
『年季が入っている』という表現の方が適切か……?
「目が覚めたかい?」
近くから男の声がした。
辺りを見渡すと、白衣姿のお兄さんがいた。
……どうやら俺はベッドで寝ているようだ。
「ここはコロシアムの治療室だよ」
治療室……。
ということは、この白衣姿のお兄さんは医者だろうか。
コロシアムとはどういうことだ?
「……コロシアム? 治療室? どういうことですか?」
俺は状況が理解できなかったため、お兄さんに質問した。
すると、彼は優しく微笑んだ後に返答した。
「金持ちの娯楽施設さ。君にとっては、地獄になるかもしれないけどね」
……はい?
答えになっていないと思うんですけど。
俺が追求しようかどうか迷っていると、お兄さんが再び口を開いた。
「もう君のケガは回復している。この部屋から出て、選手用の受付に行きなさい」
「はぁ……」
いきなり指示を出された。
選手用?
詳細はよく分からないが、嫌な予感しかしない。
とりあえず行ってみるか。
ベッドから立ち上がり、あることに気づいた。
……俺はまだ全裸かい!
「あの~、服とか貸してくれませんか?」
「いや、それはできないよ」
ええ!?
病人用の寝巻とかってよくあるじゃん?
「そ、そうですか……」
仕方がないので全裸で部屋の外に出ると、そこは大広間であった。
やはり石造りの建物である。
戦士や魔法使いだと思われる格好をしている人達や、金持ちそうな人達がたくさん歩いていた。
他には、食料品や武器・防具を売っているお店がいくつかあった。
また、選手用の受付と書かれている場所が目に入った。
ここが俺の行くべきところだろう。
観客用の受付と書かれている場所もある。
観客、観客か……。
選手に観客、戦士や魔法使いに金持ちそうな人々……ここがどんな場所か分かってきたぞ。
全裸で恥ずかしいと思っていたが、部屋から出ると恥ずかしさが薄らいだ。
なぜならば、全裸の人が辺りにそこそこいるからだ。
首輪をした全裸の男を隣に引き連れている女性の武闘家がいる……。
……逆パターンもあるぞ?
鎧を装備した大男が全裸の女の子を担いでいる。
……どういう状況?
SMクラブか?
こういうの流行ってんの?
俺は全裸だけど、これだけ全裸率が高いと恥ずかしくなくなってきたというわけだ。
とりあえず、医者に言われた通り選手用の受付まで歩いて行った。
女性が一人並んでいるな。
木材でできたカウンター越しに、ちょっと太ったおじさんが対応しているようだ。
……彼女の番が終わるまで待つか。
「……もう私の試合なの? ちょっとオジさん! スタンバイの時間短くない?」
「もうちょっと早く来てくれよ! それか前日に来て確認してくれないと、こっちだって……」
「もう、分かったから! 別にいいんだけどさ!」
なんかクレーマーがいるぞ……。
「なによ、あんた」
クレーマーの女性が後ろを振り向き、俺をニラんだ。
「いや、ここに来いって言われたんで……」
「あ、そう。……ん? なんで全裸? 奴隷? 奴隷なの? 奴隷なのに何で誰にも飼われてないの?」
「い、いや……奴隷とかじゃないと思いますけど」
魔王城にいなければ、俺は奴隷じゃない。
「あ、そう。どうでもいいけど」
すごいよく喋る子だな!
それにしても、この子……すごい可愛いな。
紫色の三角帽子とマントを身に付けている。
中も……紫色のミニスカートに、白い絹のベアトップの服を合わせている。
地球人的感覚で言えば、魔法使いか魔女のコスプレだな……。
髪は明るめのブラウンでセミロング、少しウェーブがかかっている。
メイクは派手で、ちょっとネコ目。
身長は俺よりちょっと低いぐらいか。
黒いヒールを履いているので、同じぐらいに感じるけども。
おお、スタイルいいな……。
足がきれい。
あ、網タイツがマジでエロいんですけど!
魔王の細さには負けるが、健康的な細さでいいよね!
肌の色は、白い方だが魔王よりは白くないな。
これまた健康的だよね。
……うわ! この子……Eカップはあるでしょ?
ベアトップからはみ出てるー!!
すげー。
いや、魔王のJを基準にしてはいけないよ?
Eだよ!
Eなんだよ!?
俺の目はごまかせないぞ!
AV界にスカウトするわ!
……唇もどちらかといえば厚めだな。
リップを付けているのか、魔王同様ピンク色なのでエロい。
そんな可愛い猫目で俺をニラむなよ……。
肌の感じから、おそらく20代前半ぐらいだな……。
この子に翼と尻尾をつけて、搾取されたい。
って、俺はまだサキュバスに魅了されているのか……!?
「……ちょ、ちょっと!? アンタ、なに半ボッキさせてんのよ!?」
「……え!?」
俺は自分の下半身を確認した。
やばい……!
……70%は勃っている。
「私をどんな目で見てんのよ!? この変態!!」
「えぇ!?」
彼女は俺の顔に唾を吐いた……。
嘘でしょ……!?
俺は腕で彼女の唾を拭った。
なんか……ちょっと興奮してきたけど、この気持ちは心の奥にしまっておこう。
「もしアンタと試合になったら、ボコボコにしてやるから!!」
「す、すみませんでした……」
……全面的にこっちが悪いな。
初対面の女の子の前で全裸かつ半ボッキとかもう変質者じゃん、俺。
まぁ、この全裸っていう状況がそもそもおかしいんだけどさ……。
なんか悲しくなってきた。
試合でボコボコって、やっぱり想像通りのコロシアムか……。
彼女はコツコツとヒールの音を立てながら去って行った。
「おう、半ボッキの兄ちゃん。あんた選手だろ? 今日運ばれて来てすぐに試合とは大変だな」
受付のおじさんが俺の方に向き、話しかけてきた。
「聞いていたんですか……お恥ずかしい。……あ、僕は今日運ばれてきたんですか?」
「そうだ。まだ記憶が曖昧か? コロシアムの医療チームは優秀だからな。ヒールレインでお前の傷なんてその日のうちに回復したってわけだ」
「そうでしたか! ありがとうございます」
「お礼なんてしなくていい。お前を救助した奴らによって、お前はコロシアムに金で売られたんだ。選手としてな。強制的に試合をさせられることになる」
「どういうことですか? 教えていただきたいのですが……」
「ここはコロシアム……まぁ、闘技場だ。ここのルールじゃ、一度たりとも負けられねぇぜ?」
「え!? もう少し詳しく聞きたいのですが」
「いやいや、面倒だ。とりあえず1回勝て。さっきの姉ちゃんの次の試合だからな。がんばれ。ほれ、これがお前のチケットだ。次の試合の選手はタダで前の試合が見られるんだぜ」
「はぁ……。では、お言葉に甘えて見ておきます。ところで、服とかはいただけませんか?」
「服? ああ、ここじゃ勝てないやつは何も得られないぜ。とりあえず1回勝て」
「そうですか……。病み上がりで話がよく飲み込めませんが、絶対に今日試合をしなきゃダメですか?」
「ダメだ。お前は売られたんだ。分かりやすく言えば、奴隷だ」
「……奴隷ですか。試合からはどうしても逃げられないと?」
「ああ。試合どころか、奴隷はこのコロシアムからも逃げ出せないからな。ここの警備は厳しいぜ。監視員がウロウロしているからな」
「はぁ……」
「ただ、治安は良いから安心しろ。さっきの姉ちゃんがアンタを殴らなかったのも、警備の目が厳しいからだ。この建物の中で魔法を使ったり、他の選手に暴行したりしたらペナルティがあるからな。試合に勝つことによって生活、さらには人生が決まるんだ。さぁ、行って来い。大広間を抜けた先に、試合会場がある」
「……よく分かりませんが、行ってきます」
おじさんが指差した先の通路を歩き、試合会場の観客席に出た。
そこにはテレビで見たことあるような、闘牛場っぽい造りの場所であった。
試合会場の地面は土で、観客席は石造りである。
上を見ると夜空が広がっており、星がたくさん見えた。
ちなみに、試合会場はライトアップされている。
電気は通っているんだな。
魔法使いの村や魔王城にはなかった気がするが。
ここは都会なのか?
……マジで戦うの?
ここで?
とりあえず、チケットに書いてあった最前列に座った。
前の試合を見ることができるらしい。
……俺の試合の参考にするか。
石で造られた席に座って待っていると、アナウンスが流れ始めた。
男の声だ。
『さぁ、本日第6試合!! 北の大陸から遥々来た魔女! マリエーヌ選手!』
拡声器もあるようだ!
少し離れた位置に実況席が見えた。
実況付きとは……。
「は~い!」
俺が見ている左手側から美しい女性が出てきた。
って……さっきの子か!
俺の顔に唾を吐いた……。
いやいや……ガムを噛んでいるぞ。
てか本当に魔女なんだ!?
この世界で魔女がどういう存在なのか知らないけど。
『これまで25勝!! 未だに危なげない試合運びでサービスも抜群! 魔女でありながら魔法は一切使わずに素手で戦う激強かわい子ちゃんです!! 今日の試合はどうでしょう? 解説のバルト先生』
『いやいや、今日も可愛いのう! 今日も勝って欲しいぞ! エロス全開で戦って欲しいんじゃが……』
解説のおじいさんは彼女のファンのようだ。
『はい、そうですね。続きまして、旅の武闘家チェイン選手!』
今度は右手側から背が高くて若い男が出てきた。
武闘家らしく道着を着ており、軽装備である。
武器は持っていないようだ。
『チェイン選手はこれまで6勝で、ノリに乗っていますね! バルト先生、どんな戦いになるでしょうか?』
『まぁ、殴り合いでしょうな。チェイン選手は体術一筋の男だからのう……手足のリーチの差は歴然であり、マリエーヌ選手にとって、難しい試合になるかもしれませんな』
『はい、そうですね。この試合の倍率では……マリエーヌ選手が優勢と見られています!』
『やはり25連勝という結果があるからですな』
賭け事もやっているんだ……。
周りにいる観客は大広間にいた金持ちそうな人たちだからな。
ここは、そういう人たちの道楽の場か。
「はーい! 私、がんばりまーす」
「ふん……小娘が! 一流の格闘術を教えてやろう」
選手の声がやたらと響くな。
マイクで音を拾っているのか?
それとも魔法の類だろうか?
『ルールはいつも通り何でもアリです!! 勝ち負けは相手に【参った】と言わせるか、気を失わせるか、観客席まで吹っ飛ばすか、殺すかです! 何が起きても責任は一切取りません! 優秀な医療班が待機していますので、大抵の傷は治せますけどね! それでは、始めてくだい!』
……は!?
めちゃくちゃなルールじゃないか!!
死ぬこともあるってこと?
おいおいおい……。
何も聞いてないよ……。
「さーて、いくよ! 武闘家さん!」
「ふん! お前のような素人に私が負けるはずがない!!」
武闘家の選手はいかにも拳法を使うであろう構えを取った。
ス、スキがない!
……ように見える。
俺にはよく分からないけどね。
「素人? 言ってくれるねー」
「来い!」
「じゃ、遠慮なく」
マリエーヌは武闘家に向かって、モデルのようなウォーキングで近づき始めた。
ガムを噛みながら、ナメた感じで。
大きな歓声が湧く。
男どもが口笛を鳴らす音も聞こえた。
すごい人気だな、マリエーヌ!
……いや、彼女の歩く姿は格好いいけどさ。
あんなスキだらけの接近の仕方で、戦う気はあるのか?
あれで25勝!?
しかもヒールを履いているけど?
一体、どんな戦い方をするのか……。
俺の顔に唾を吐きかけて嫌な感じの子だけどさ、あんな可愛い女の子がボコボコにされるところはさすがに見たくないよ、俺は……。
そうこう思っている間にマリエーヌが武道家との距離を歩いて詰めていく……。
やがて彼女は武道家の目の前まで到達した。
武道家の身長は高く180センチメートルほどで、マリエーヌを見下ろす形になっている。
体格は普通だが、筋肉質である……。
体格差は明らかで、無謀な戦いに見えるのだが……!?
「どうしたの? ビビっちゃったのかな? 武闘家さん」
マリエーヌが腰に手を当てながら、男の顔を覗き込んだ。
相変わらずガムを噛んでいる……。
「ほざけ! このアマが!」
男はマリエーヌに右手でボディブローを放った!
彼女は体を横向きにし、男の攻撃を避けた。
「遅い遅い!」
マリエーヌは体を横向きに逸らしながら、男の顔面に唾を吐いた。
「ぐわぁ! な! なんだ!? 唾を吐いたのか!? ……このクソアマ!」
武闘家は頬についた唾をぬぐい、彼女の顔にむけて前蹴りを放った!
マリエーヌは首を傾け、男の前蹴りをギリギリでかわした。
「やっぱり遅いなー」
彼女は目を細めながら溜息をついた。
そして、再び男の顔に唾を飛ばした。
「うぅっ……! またしても!! こ、この……!」
マリエーヌの唾飛ばしに怒りを露わにした男は、彼女の首に向けて右手で手刀を放った。
彼の手刀は速いぞ……!!
彼女は冷めた目をしながら、左手で男の手首を掴んだ。
「……マジメにやってる?」
マリエーヌが軽蔑した目で男を見ている。
そして、男の手首を掴んだまま、彼の顔面に唾を飛ばした。
……どんだけ唾液量が多いんだよ!?
「く! くそう! やめろ!! こいつ……!! 戦う気があるのか?」
「当ぜ~ん」
マリエーヌが笑顔で答えた。
武闘家は掴まれた右手を振り解こうとしたが、マリエーヌの握力が強いためかビクともしない!
彼は諦め、今度は左手で手刀を放った!
「遅いってー」
マリエーヌは彼の左手首を右手で掴んだ。
彼女が男の両腕を掴んでいる状態だ。
彼女は武闘家の男よりも力が強いというのか!?
「どうにかして私の両手から抜け出さないと負けちゃうよー」
マリエーヌが不敵の笑みを浮かべている!
そして、またしても大量の唾液を男の顔に飛ばした!!
「う、うぁ!? くっ! なんという侮辱!」
「ふふっ! みんなは嬉しいってさ」
たしかに、観客の歓声はどんどん大きくなっていく!
「もっとかけてあげようか?」
マリエーヌが三連続で唾を吐いた!
男は避けることができず、顔面に全て直撃した!
最後の一発は噛んでいたガムだな!?
マリエーヌの唾が男の両目に入った!
「ぎゃあぁ! め、目が! 目がぁ! ……目潰しのつもりか! このクソアマァ!!」
「別に~?」
「く! 手を離せ!」
「それが人にものを頼む態度かな? えいっ!」
マリエーヌが膝蹴りを放った!
「うぎぃ!? ぐ、ぐおおおぉぉぉっ!?」
男の股間に命中した!
「ああああっ! ああああぁぁーーー!!?」
あああぁぁ!!
……めっちゃ痛そう!!
男は苦しんでいる!
「ん? 軽く当たっただけでしょ? なに悶えてんの?」
……女性には分からないよね!
マリエーヌは未だに男の両腕を掴んだままだ。
男は内股になって悶えている……。
苦悶の表情がなんとも言えない。
「ぐおおおぁぁ! 卑怯な! め、目潰しに金的攻撃だと……? お前みたいなクソアマが25連勝とはおかしいと思ったが……そういうことかぁ!?」
「……ねぇ、そのクソアマっていうの止めてくれる? なんかイラっとするわ」
「クソアマァ!! て、手を離せ!」
「は? うっざ……」
男が内股の状態を解いたスキをついて、マリエーヌは再び股間を蹴り上げた。
今度は膝蹴りではなく、足の甲を当てたのだ。
先ほどの膝蹴りより、速くて鋭い蹴りだ。
「い! い! いいぎゃああああぁぁっーーー!!!」
男はマリエーヌに両腕を掴まれたまま、その場でピョンピョンと跳ね始めた。
「うわ! だっさ! マジウケるんですけどー」
彼女はケラケラと笑っている。
……ん?
なんか頭上からお札が降って来たぞ?
『はい、ここで観客からチップが出ましたね。みなさんが放り投げたお札、ネコババしないでくださいね。魔法を使ってバレないようにしてもダメですよ。観客席で魔法を使ったらペナルティがありますからね。係員が大勢見張っていますから。試合終了後に係員がお札を回収して、80%はこの試合の勝者のチップになります』
実況の男が説明し始めた。
……なにそのシステム!?
金持ちの遊びは発想がヤバいな。
『解説のバルト先生、戦況はどうでしょうか?』
『ん~。マリエーヌちゃん、ちょっと怒っているようじゃ……。そんな姿も可愛いのう』
『はい、マリエーヌ選手が優勢のようですね』
武闘家の男は依然としてピョンピョンと飛び跳ねている。
マリエーヌに両腕を掴まれたまま……。
彼女はその飛び跳ねる動きに合わせて、再び男の股間を蹴り上げた。
「それ!」
「あひぃ!! あ、あひやあぁ……!?」
再び金的蹴りが炸裂した!
男は力のない悲鳴を上げ、両腕を掴まれたまま彼女の前にひれ伏した。
「はい、降参する?」
「ひ、ひぃ! ひいぃぃ! い、痛いぃ……。だ、誰がするかぁ! お前のような……卑怯者にぃ!」
「あ、そう」
男は痛みをこらえて、残された力を振り絞るように声を出している。
マリエーヌの攻撃手段は卑怯かもしれないが、彼女は男の攻撃を見切っている。
一回もヒットしていない。
そして、あの武闘家は彼女に掴まれた手を解けなかった……。
実力差は歴然である。
しかも、マリエーヌはヒールを履いているんだぞ!?
魔女ってこんなに強いの?
それとも、相手が弱過ぎるのか?
両選手をシラベールで解析したいが、場外から魔法を使ったことがバレたら問題になりそうだな。
受付のおじさんと実況の男の説明の感じだと、監視されているみたいだし。
……おっと!?
マリエーヌは男からついに両手を離した。
男は四つん這いの状態になり、地面をみつめながら必死で痛みと戦っている。
「そんなんじゃ戦うのはもうムリじゃな~い? 降参しなよー」
マリエーヌが武闘家の目の前で腰に手を当てながら、彼を見下ろしている。
男がマリエーヌを見上げ、ニラみつけた。
「……このクソアマ! お、お前みたいなヒョロヒョロとした女に負けてたまるか! この卑怯女が……!」
彼はこの後に及んでまだ彼女を罵っている。
なんてメンタルだ……。
いや、実力差を分かっていないのか?
「はぁ? まだ私との実力者が分からないの? あんた、たいした使い手じゃないでしょ?」
「な、なにぃ!? 俺はこの手で何体もの凶悪なモンスターを倒してきた! お前みたいなクソアマに……」
マリエーヌは少しだけ前進した。
彼女の股の下に男の頭部がある状態である。
彼女はそのまま少しだけしゃがみ、男の首を自分の股に挟んだ!
「う、ぐああああ! な、何を……!? く! く、苦しい!」
網タイツを履いた綺麗な太ももが男の首を絞め上げる!
金蹴りはゾっとするが、あれは少し羨ましいかもしれない。
ミニスカートがエロい……。
よく見えないけど、彼女のパンツが後頭部に当たってんのかな……?
「……ちょっと女性をバカにし過ぎじゃない? この状況をどうにかしないと、気を失って負けちゃうよ?」
「おのれいぃぃ……!」
男はマリエーヌの太ももを両手で掴んだ!
お、俺も触りたい……。
「ちょっと! 私の足に何するのよ?」
マリエーヌは男の首を太ももで挟んだまま更に少しだけしゃがんだ。
自分の両手を使い、男の両手を彼女の足から引き剥がした。
「ぐ!? ぐぎゃああああ……!!」
マリエーヌは男の両腕を捻りながらそのまま真上に伸ばしていった!
関節技だ!
「ひいいぃぃぃ…!! お、折れる! 折れるよ……!!」
「うん、折っちゃうよ? 降参する?」
「ふ、ふざけるなぁ……!!」
「え~? これでもー?」
「い! いぎゃああああっーー!」
「やば! 変な方向に曲がってきたよ? やばいやばい! 早く降参しないと! 折れちゃうよ~」
マリエーヌがわざとらしく焦る。
「ぐわあああっ!! や、やめ……やめてくれぇ~!!」
「いやいや、降参しないと! 折れちゃうよ? 大変大変!」
「い! いや! いやああぁぁ……!? た、たすけ……」
「だ~か~らぁ~。……もういいや。めんどくさい」
......鈍い音がした!
「いぎゃあああああ!! ああああぁぁぁ! ああああぁぁぁっー!!!」
男の両腕が折れたのだ……。
男はうつ伏せで倒れ込み、泣き叫んだ。
マリエーヌは彼から離れ、歩いて距離を取った。
会場では、お札の雨が勢いを増している。
「ぐおおおおぉぉ……!! お、折れたあああぁぁー!」
「だから折れちゃうって言ったじゃん! ……てか、まだ気を失わないんだね? 早く降参してよー」
「ぎぃぃ!! く、くそぉ……!! ちくしょお……!!! し、死ね!! クソ女!」
「……は?」
マリエーヌの目の色が変わった。
うつ伏せで倒れる男の後ろにゆっくりと歩いて回り込んだ。
「な、なはっ!? 何をする……!?」
マリエーヌはしゃがみ込み、男の下の道着を脱がし始めた。
「い!? いいぃ!? おいっ! 貴様……!」
男は痛みに耐えながら、マリエーヌの行動に抗った。
その抵抗も虚しく、男の恥部が露わになった。
魔王城でも見たぞ、こんな感じの光景……。
「降参しないと、タマタマ潰すよー?」
彼女の右手が男の右のキンタマをそっと包み込んだ。
「お、おま……!? お前のような外道に……ま、負けを認めるなんてぇ……!!」
マリエーヌの右手に力が入った!
「……は!? は、はがあああああぁぁぁっ!?」
……完全に右手を握り締めている。
おいおい……つ、潰れたろ?
潰れた音は聞こえなかったが……。
「はひぃぃぃいいいっーーーー!! はひぃぃぃいいいいいっ!!!!」
「お? まだ意識あるの? タフだねー」
「ひ!? ひぃっ!! ひぃぃぃいいいっ!!!」
「降参しなってー。もう一個いっちゃうよ?」
彼女は左のキンタマを握りしめた。
「ひ! ひぃ! そんな……! 俺が! ……こんな! こんなイカれた女に! ま、負けるなんてぇぇ……!」
「は? 私がなんて言ってるのか伝わってない? あと3秒以内! さーん、にぃー……」
「ひぃ!? ま、まってぇ……!! ……く、くそう! ま、まいっ……」
「いちっ!」
「ふぎゃあああああああっ!! あああああぁぁあああっーーー!!!?」
マリエーヌがもう一つの睾丸を潰した。
……彼はついに気絶した。
おいおい……。
……彼女はダークヒールを使えるのか?
魔王いわく、人間には使えないらしいが……。
あの子は魔女だから分からないが。
あのままキンタマが元に戻らなかったらと思うと不憫だ……。
元に戻さないとしたら……魔女マリエーヌ、ある意味サキュバス以上に残酷だぞ。
「あ~あ、もう子作りできないねー」
彼女は紫色の三角帽子を取って髪を掻き上げながら、そんな言葉を吐き捨てた。
おっと……!
そもそも治す気はなしか……。
『勝者! マリエーヌ!』
低い天井なので、少なくとも魔王城にUターンということはないだろう。
石造りの建物だ。
けっこうボロっちいな……。
いや、手入れはされているので清潔感はある。
『年季が入っている』という表現の方が適切か……?
「目が覚めたかい?」
近くから男の声がした。
辺りを見渡すと、白衣姿のお兄さんがいた。
……どうやら俺はベッドで寝ているようだ。
「ここはコロシアムの治療室だよ」
治療室……。
ということは、この白衣姿のお兄さんは医者だろうか。
コロシアムとはどういうことだ?
「……コロシアム? 治療室? どういうことですか?」
俺は状況が理解できなかったため、お兄さんに質問した。
すると、彼は優しく微笑んだ後に返答した。
「金持ちの娯楽施設さ。君にとっては、地獄になるかもしれないけどね」
……はい?
答えになっていないと思うんですけど。
俺が追求しようかどうか迷っていると、お兄さんが再び口を開いた。
「もう君のケガは回復している。この部屋から出て、選手用の受付に行きなさい」
「はぁ……」
いきなり指示を出された。
選手用?
詳細はよく分からないが、嫌な予感しかしない。
とりあえず行ってみるか。
ベッドから立ち上がり、あることに気づいた。
……俺はまだ全裸かい!
「あの~、服とか貸してくれませんか?」
「いや、それはできないよ」
ええ!?
病人用の寝巻とかってよくあるじゃん?
「そ、そうですか……」
仕方がないので全裸で部屋の外に出ると、そこは大広間であった。
やはり石造りの建物である。
戦士や魔法使いだと思われる格好をしている人達や、金持ちそうな人達がたくさん歩いていた。
他には、食料品や武器・防具を売っているお店がいくつかあった。
また、選手用の受付と書かれている場所が目に入った。
ここが俺の行くべきところだろう。
観客用の受付と書かれている場所もある。
観客、観客か……。
選手に観客、戦士や魔法使いに金持ちそうな人々……ここがどんな場所か分かってきたぞ。
全裸で恥ずかしいと思っていたが、部屋から出ると恥ずかしさが薄らいだ。
なぜならば、全裸の人が辺りにそこそこいるからだ。
首輪をした全裸の男を隣に引き連れている女性の武闘家がいる……。
……逆パターンもあるぞ?
鎧を装備した大男が全裸の女の子を担いでいる。
……どういう状況?
SMクラブか?
こういうの流行ってんの?
俺は全裸だけど、これだけ全裸率が高いと恥ずかしくなくなってきたというわけだ。
とりあえず、医者に言われた通り選手用の受付まで歩いて行った。
女性が一人並んでいるな。
木材でできたカウンター越しに、ちょっと太ったおじさんが対応しているようだ。
……彼女の番が終わるまで待つか。
「……もう私の試合なの? ちょっとオジさん! スタンバイの時間短くない?」
「もうちょっと早く来てくれよ! それか前日に来て確認してくれないと、こっちだって……」
「もう、分かったから! 別にいいんだけどさ!」
なんかクレーマーがいるぞ……。
「なによ、あんた」
クレーマーの女性が後ろを振り向き、俺をニラんだ。
「いや、ここに来いって言われたんで……」
「あ、そう。……ん? なんで全裸? 奴隷? 奴隷なの? 奴隷なのに何で誰にも飼われてないの?」
「い、いや……奴隷とかじゃないと思いますけど」
魔王城にいなければ、俺は奴隷じゃない。
「あ、そう。どうでもいいけど」
すごいよく喋る子だな!
それにしても、この子……すごい可愛いな。
紫色の三角帽子とマントを身に付けている。
中も……紫色のミニスカートに、白い絹のベアトップの服を合わせている。
地球人的感覚で言えば、魔法使いか魔女のコスプレだな……。
髪は明るめのブラウンでセミロング、少しウェーブがかかっている。
メイクは派手で、ちょっとネコ目。
身長は俺よりちょっと低いぐらいか。
黒いヒールを履いているので、同じぐらいに感じるけども。
おお、スタイルいいな……。
足がきれい。
あ、網タイツがマジでエロいんですけど!
魔王の細さには負けるが、健康的な細さでいいよね!
肌の色は、白い方だが魔王よりは白くないな。
これまた健康的だよね。
……うわ! この子……Eカップはあるでしょ?
ベアトップからはみ出てるー!!
すげー。
いや、魔王のJを基準にしてはいけないよ?
Eだよ!
Eなんだよ!?
俺の目はごまかせないぞ!
AV界にスカウトするわ!
……唇もどちらかといえば厚めだな。
リップを付けているのか、魔王同様ピンク色なのでエロい。
そんな可愛い猫目で俺をニラむなよ……。
肌の感じから、おそらく20代前半ぐらいだな……。
この子に翼と尻尾をつけて、搾取されたい。
って、俺はまだサキュバスに魅了されているのか……!?
「……ちょ、ちょっと!? アンタ、なに半ボッキさせてんのよ!?」
「……え!?」
俺は自分の下半身を確認した。
やばい……!
……70%は勃っている。
「私をどんな目で見てんのよ!? この変態!!」
「えぇ!?」
彼女は俺の顔に唾を吐いた……。
嘘でしょ……!?
俺は腕で彼女の唾を拭った。
なんか……ちょっと興奮してきたけど、この気持ちは心の奥にしまっておこう。
「もしアンタと試合になったら、ボコボコにしてやるから!!」
「す、すみませんでした……」
……全面的にこっちが悪いな。
初対面の女の子の前で全裸かつ半ボッキとかもう変質者じゃん、俺。
まぁ、この全裸っていう状況がそもそもおかしいんだけどさ……。
なんか悲しくなってきた。
試合でボコボコって、やっぱり想像通りのコロシアムか……。
彼女はコツコツとヒールの音を立てながら去って行った。
「おう、半ボッキの兄ちゃん。あんた選手だろ? 今日運ばれて来てすぐに試合とは大変だな」
受付のおじさんが俺の方に向き、話しかけてきた。
「聞いていたんですか……お恥ずかしい。……あ、僕は今日運ばれてきたんですか?」
「そうだ。まだ記憶が曖昧か? コロシアムの医療チームは優秀だからな。ヒールレインでお前の傷なんてその日のうちに回復したってわけだ」
「そうでしたか! ありがとうございます」
「お礼なんてしなくていい。お前を救助した奴らによって、お前はコロシアムに金で売られたんだ。選手としてな。強制的に試合をさせられることになる」
「どういうことですか? 教えていただきたいのですが……」
「ここはコロシアム……まぁ、闘技場だ。ここのルールじゃ、一度たりとも負けられねぇぜ?」
「え!? もう少し詳しく聞きたいのですが」
「いやいや、面倒だ。とりあえず1回勝て。さっきの姉ちゃんの次の試合だからな。がんばれ。ほれ、これがお前のチケットだ。次の試合の選手はタダで前の試合が見られるんだぜ」
「はぁ……。では、お言葉に甘えて見ておきます。ところで、服とかはいただけませんか?」
「服? ああ、ここじゃ勝てないやつは何も得られないぜ。とりあえず1回勝て」
「そうですか……。病み上がりで話がよく飲み込めませんが、絶対に今日試合をしなきゃダメですか?」
「ダメだ。お前は売られたんだ。分かりやすく言えば、奴隷だ」
「……奴隷ですか。試合からはどうしても逃げられないと?」
「ああ。試合どころか、奴隷はこのコロシアムからも逃げ出せないからな。ここの警備は厳しいぜ。監視員がウロウロしているからな」
「はぁ……」
「ただ、治安は良いから安心しろ。さっきの姉ちゃんがアンタを殴らなかったのも、警備の目が厳しいからだ。この建物の中で魔法を使ったり、他の選手に暴行したりしたらペナルティがあるからな。試合に勝つことによって生活、さらには人生が決まるんだ。さぁ、行って来い。大広間を抜けた先に、試合会場がある」
「……よく分かりませんが、行ってきます」
おじさんが指差した先の通路を歩き、試合会場の観客席に出た。
そこにはテレビで見たことあるような、闘牛場っぽい造りの場所であった。
試合会場の地面は土で、観客席は石造りである。
上を見ると夜空が広がっており、星がたくさん見えた。
ちなみに、試合会場はライトアップされている。
電気は通っているんだな。
魔法使いの村や魔王城にはなかった気がするが。
ここは都会なのか?
……マジで戦うの?
ここで?
とりあえず、チケットに書いてあった最前列に座った。
前の試合を見ることができるらしい。
……俺の試合の参考にするか。
石で造られた席に座って待っていると、アナウンスが流れ始めた。
男の声だ。
『さぁ、本日第6試合!! 北の大陸から遥々来た魔女! マリエーヌ選手!』
拡声器もあるようだ!
少し離れた位置に実況席が見えた。
実況付きとは……。
「は~い!」
俺が見ている左手側から美しい女性が出てきた。
って……さっきの子か!
俺の顔に唾を吐いた……。
いやいや……ガムを噛んでいるぞ。
てか本当に魔女なんだ!?
この世界で魔女がどういう存在なのか知らないけど。
『これまで25勝!! 未だに危なげない試合運びでサービスも抜群! 魔女でありながら魔法は一切使わずに素手で戦う激強かわい子ちゃんです!! 今日の試合はどうでしょう? 解説のバルト先生』
『いやいや、今日も可愛いのう! 今日も勝って欲しいぞ! エロス全開で戦って欲しいんじゃが……』
解説のおじいさんは彼女のファンのようだ。
『はい、そうですね。続きまして、旅の武闘家チェイン選手!』
今度は右手側から背が高くて若い男が出てきた。
武闘家らしく道着を着ており、軽装備である。
武器は持っていないようだ。
『チェイン選手はこれまで6勝で、ノリに乗っていますね! バルト先生、どんな戦いになるでしょうか?』
『まぁ、殴り合いでしょうな。チェイン選手は体術一筋の男だからのう……手足のリーチの差は歴然であり、マリエーヌ選手にとって、難しい試合になるかもしれませんな』
『はい、そうですね。この試合の倍率では……マリエーヌ選手が優勢と見られています!』
『やはり25連勝という結果があるからですな』
賭け事もやっているんだ……。
周りにいる観客は大広間にいた金持ちそうな人たちだからな。
ここは、そういう人たちの道楽の場か。
「はーい! 私、がんばりまーす」
「ふん……小娘が! 一流の格闘術を教えてやろう」
選手の声がやたらと響くな。
マイクで音を拾っているのか?
それとも魔法の類だろうか?
『ルールはいつも通り何でもアリです!! 勝ち負けは相手に【参った】と言わせるか、気を失わせるか、観客席まで吹っ飛ばすか、殺すかです! 何が起きても責任は一切取りません! 優秀な医療班が待機していますので、大抵の傷は治せますけどね! それでは、始めてくだい!』
……は!?
めちゃくちゃなルールじゃないか!!
死ぬこともあるってこと?
おいおいおい……。
何も聞いてないよ……。
「さーて、いくよ! 武闘家さん!」
「ふん! お前のような素人に私が負けるはずがない!!」
武闘家の選手はいかにも拳法を使うであろう構えを取った。
ス、スキがない!
……ように見える。
俺にはよく分からないけどね。
「素人? 言ってくれるねー」
「来い!」
「じゃ、遠慮なく」
マリエーヌは武闘家に向かって、モデルのようなウォーキングで近づき始めた。
ガムを噛みながら、ナメた感じで。
大きな歓声が湧く。
男どもが口笛を鳴らす音も聞こえた。
すごい人気だな、マリエーヌ!
……いや、彼女の歩く姿は格好いいけどさ。
あんなスキだらけの接近の仕方で、戦う気はあるのか?
あれで25勝!?
しかもヒールを履いているけど?
一体、どんな戦い方をするのか……。
俺の顔に唾を吐きかけて嫌な感じの子だけどさ、あんな可愛い女の子がボコボコにされるところはさすがに見たくないよ、俺は……。
そうこう思っている間にマリエーヌが武道家との距離を歩いて詰めていく……。
やがて彼女は武道家の目の前まで到達した。
武道家の身長は高く180センチメートルほどで、マリエーヌを見下ろす形になっている。
体格は普通だが、筋肉質である……。
体格差は明らかで、無謀な戦いに見えるのだが……!?
「どうしたの? ビビっちゃったのかな? 武闘家さん」
マリエーヌが腰に手を当てながら、男の顔を覗き込んだ。
相変わらずガムを噛んでいる……。
「ほざけ! このアマが!」
男はマリエーヌに右手でボディブローを放った!
彼女は体を横向きにし、男の攻撃を避けた。
「遅い遅い!」
マリエーヌは体を横向きに逸らしながら、男の顔面に唾を吐いた。
「ぐわぁ! な! なんだ!? 唾を吐いたのか!? ……このクソアマ!」
武闘家は頬についた唾をぬぐい、彼女の顔にむけて前蹴りを放った!
マリエーヌは首を傾け、男の前蹴りをギリギリでかわした。
「やっぱり遅いなー」
彼女は目を細めながら溜息をついた。
そして、再び男の顔に唾を飛ばした。
「うぅっ……! またしても!! こ、この……!」
マリエーヌの唾飛ばしに怒りを露わにした男は、彼女の首に向けて右手で手刀を放った。
彼の手刀は速いぞ……!!
彼女は冷めた目をしながら、左手で男の手首を掴んだ。
「……マジメにやってる?」
マリエーヌが軽蔑した目で男を見ている。
そして、男の手首を掴んだまま、彼の顔面に唾を飛ばした。
……どんだけ唾液量が多いんだよ!?
「く! くそう! やめろ!! こいつ……!! 戦う気があるのか?」
「当ぜ~ん」
マリエーヌが笑顔で答えた。
武闘家は掴まれた右手を振り解こうとしたが、マリエーヌの握力が強いためかビクともしない!
彼は諦め、今度は左手で手刀を放った!
「遅いってー」
マリエーヌは彼の左手首を右手で掴んだ。
彼女が男の両腕を掴んでいる状態だ。
彼女は武闘家の男よりも力が強いというのか!?
「どうにかして私の両手から抜け出さないと負けちゃうよー」
マリエーヌが不敵の笑みを浮かべている!
そして、またしても大量の唾液を男の顔に飛ばした!!
「う、うぁ!? くっ! なんという侮辱!」
「ふふっ! みんなは嬉しいってさ」
たしかに、観客の歓声はどんどん大きくなっていく!
「もっとかけてあげようか?」
マリエーヌが三連続で唾を吐いた!
男は避けることができず、顔面に全て直撃した!
最後の一発は噛んでいたガムだな!?
マリエーヌの唾が男の両目に入った!
「ぎゃあぁ! め、目が! 目がぁ! ……目潰しのつもりか! このクソアマァ!!」
「別に~?」
「く! 手を離せ!」
「それが人にものを頼む態度かな? えいっ!」
マリエーヌが膝蹴りを放った!
「うぎぃ!? ぐ、ぐおおおぉぉぉっ!?」
男の股間に命中した!
「ああああっ! ああああぁぁーーー!!?」
あああぁぁ!!
……めっちゃ痛そう!!
男は苦しんでいる!
「ん? 軽く当たっただけでしょ? なに悶えてんの?」
……女性には分からないよね!
マリエーヌは未だに男の両腕を掴んだままだ。
男は内股になって悶えている……。
苦悶の表情がなんとも言えない。
「ぐおおおぁぁ! 卑怯な! め、目潰しに金的攻撃だと……? お前みたいなクソアマが25連勝とはおかしいと思ったが……そういうことかぁ!?」
「……ねぇ、そのクソアマっていうの止めてくれる? なんかイラっとするわ」
「クソアマァ!! て、手を離せ!」
「は? うっざ……」
男が内股の状態を解いたスキをついて、マリエーヌは再び股間を蹴り上げた。
今度は膝蹴りではなく、足の甲を当てたのだ。
先ほどの膝蹴りより、速くて鋭い蹴りだ。
「い! い! いいぎゃああああぁぁっーーー!!!」
男はマリエーヌに両腕を掴まれたまま、その場でピョンピョンと跳ね始めた。
「うわ! だっさ! マジウケるんですけどー」
彼女はケラケラと笑っている。
……ん?
なんか頭上からお札が降って来たぞ?
『はい、ここで観客からチップが出ましたね。みなさんが放り投げたお札、ネコババしないでくださいね。魔法を使ってバレないようにしてもダメですよ。観客席で魔法を使ったらペナルティがありますからね。係員が大勢見張っていますから。試合終了後に係員がお札を回収して、80%はこの試合の勝者のチップになります』
実況の男が説明し始めた。
……なにそのシステム!?
金持ちの遊びは発想がヤバいな。
『解説のバルト先生、戦況はどうでしょうか?』
『ん~。マリエーヌちゃん、ちょっと怒っているようじゃ……。そんな姿も可愛いのう』
『はい、マリエーヌ選手が優勢のようですね』
武闘家の男は依然としてピョンピョンと飛び跳ねている。
マリエーヌに両腕を掴まれたまま……。
彼女はその飛び跳ねる動きに合わせて、再び男の股間を蹴り上げた。
「それ!」
「あひぃ!! あ、あひやあぁ……!?」
再び金的蹴りが炸裂した!
男は力のない悲鳴を上げ、両腕を掴まれたまま彼女の前にひれ伏した。
「はい、降参する?」
「ひ、ひぃ! ひいぃぃ! い、痛いぃ……。だ、誰がするかぁ! お前のような……卑怯者にぃ!」
「あ、そう」
男は痛みをこらえて、残された力を振り絞るように声を出している。
マリエーヌの攻撃手段は卑怯かもしれないが、彼女は男の攻撃を見切っている。
一回もヒットしていない。
そして、あの武闘家は彼女に掴まれた手を解けなかった……。
実力差は歴然である。
しかも、マリエーヌはヒールを履いているんだぞ!?
魔女ってこんなに強いの?
それとも、相手が弱過ぎるのか?
両選手をシラベールで解析したいが、場外から魔法を使ったことがバレたら問題になりそうだな。
受付のおじさんと実況の男の説明の感じだと、監視されているみたいだし。
……おっと!?
マリエーヌは男からついに両手を離した。
男は四つん這いの状態になり、地面をみつめながら必死で痛みと戦っている。
「そんなんじゃ戦うのはもうムリじゃな~い? 降参しなよー」
マリエーヌが武闘家の目の前で腰に手を当てながら、彼を見下ろしている。
男がマリエーヌを見上げ、ニラみつけた。
「……このクソアマ! お、お前みたいなヒョロヒョロとした女に負けてたまるか! この卑怯女が……!」
彼はこの後に及んでまだ彼女を罵っている。
なんてメンタルだ……。
いや、実力差を分かっていないのか?
「はぁ? まだ私との実力者が分からないの? あんた、たいした使い手じゃないでしょ?」
「な、なにぃ!? 俺はこの手で何体もの凶悪なモンスターを倒してきた! お前みたいなクソアマに……」
マリエーヌは少しだけ前進した。
彼女の股の下に男の頭部がある状態である。
彼女はそのまま少しだけしゃがみ、男の首を自分の股に挟んだ!
「う、ぐああああ! な、何を……!? く! く、苦しい!」
網タイツを履いた綺麗な太ももが男の首を絞め上げる!
金蹴りはゾっとするが、あれは少し羨ましいかもしれない。
ミニスカートがエロい……。
よく見えないけど、彼女のパンツが後頭部に当たってんのかな……?
「……ちょっと女性をバカにし過ぎじゃない? この状況をどうにかしないと、気を失って負けちゃうよ?」
「おのれいぃぃ……!」
男はマリエーヌの太ももを両手で掴んだ!
お、俺も触りたい……。
「ちょっと! 私の足に何するのよ?」
マリエーヌは男の首を太ももで挟んだまま更に少しだけしゃがんだ。
自分の両手を使い、男の両手を彼女の足から引き剥がした。
「ぐ!? ぐぎゃああああ……!!」
マリエーヌは男の両腕を捻りながらそのまま真上に伸ばしていった!
関節技だ!
「ひいいぃぃぃ…!! お、折れる! 折れるよ……!!」
「うん、折っちゃうよ? 降参する?」
「ふ、ふざけるなぁ……!!」
「え~? これでもー?」
「い! いぎゃああああっーー!」
「やば! 変な方向に曲がってきたよ? やばいやばい! 早く降参しないと! 折れちゃうよ~」
マリエーヌがわざとらしく焦る。
「ぐわあああっ!! や、やめ……やめてくれぇ~!!」
「いやいや、降参しないと! 折れちゃうよ? 大変大変!」
「い! いや! いやああぁぁ……!? た、たすけ……」
「だ~か~らぁ~。……もういいや。めんどくさい」
......鈍い音がした!
「いぎゃあああああ!! ああああぁぁぁ! ああああぁぁぁっー!!!」
男の両腕が折れたのだ……。
男はうつ伏せで倒れ込み、泣き叫んだ。
マリエーヌは彼から離れ、歩いて距離を取った。
会場では、お札の雨が勢いを増している。
「ぐおおおおぉぉ……!! お、折れたあああぁぁー!」
「だから折れちゃうって言ったじゃん! ……てか、まだ気を失わないんだね? 早く降参してよー」
「ぎぃぃ!! く、くそぉ……!! ちくしょお……!!! し、死ね!! クソ女!」
「……は?」
マリエーヌの目の色が変わった。
うつ伏せで倒れる男の後ろにゆっくりと歩いて回り込んだ。
「な、なはっ!? 何をする……!?」
マリエーヌはしゃがみ込み、男の下の道着を脱がし始めた。
「い!? いいぃ!? おいっ! 貴様……!」
男は痛みに耐えながら、マリエーヌの行動に抗った。
その抵抗も虚しく、男の恥部が露わになった。
魔王城でも見たぞ、こんな感じの光景……。
「降参しないと、タマタマ潰すよー?」
彼女の右手が男の右のキンタマをそっと包み込んだ。
「お、おま……!? お前のような外道に……ま、負けを認めるなんてぇ……!!」
マリエーヌの右手に力が入った!
「……は!? は、はがあああああぁぁぁっ!?」
……完全に右手を握り締めている。
おいおい……つ、潰れたろ?
潰れた音は聞こえなかったが……。
「はひぃぃぃいいいっーーーー!! はひぃぃぃいいいいいっ!!!!」
「お? まだ意識あるの? タフだねー」
「ひ!? ひぃっ!! ひぃぃぃいいいっ!!!」
「降参しなってー。もう一個いっちゃうよ?」
彼女は左のキンタマを握りしめた。
「ひ! ひぃ! そんな……! 俺が! ……こんな! こんなイカれた女に! ま、負けるなんてぇぇ……!」
「は? 私がなんて言ってるのか伝わってない? あと3秒以内! さーん、にぃー……」
「ひぃ!? ま、まってぇ……!! ……く、くそう! ま、まいっ……」
「いちっ!」
「ふぎゃあああああああっ!! あああああぁぁあああっーーー!!!?」
マリエーヌがもう一つの睾丸を潰した。
……彼はついに気絶した。
おいおい……。
……彼女はダークヒールを使えるのか?
魔王いわく、人間には使えないらしいが……。
あの子は魔女だから分からないが。
あのままキンタマが元に戻らなかったらと思うと不憫だ……。
元に戻さないとしたら……魔女マリエーヌ、ある意味サキュバス以上に残酷だぞ。
「あ~あ、もう子作りできないねー」
彼女は紫色の三角帽子を取って髪を掻き上げながら、そんな言葉を吐き捨てた。
おっと……!
そもそも治す気はなしか……。
『勝者! マリエーヌ!』
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