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新たなる脅威篇
2 プラトウへ-4-
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重力に逆らって浮上した小型艇がはるか西を目指して飛ぶ。
遅れて飛び上がった数機の護衛機が艇の前後左右を囲うように陣取ったのを見て、アシュレイはほっと息を吐いた。
安堵といくらかの不安がそうさせた。
「大丈夫でしょうか」
ルタが目を細めて言う。
「護衛はライネだけではありません。他にも優秀な者が多く付き添っています。大きな問題にはならないでしょう」
そもそも問題があっては困る。
シェイドが負傷でもすれば、エルディラントの先行きを暗示するものだとして国中が不安に陥る可能性もあるのだ。
それだけ不安定な状況であるにも関わらず遠出を許したのは、彼が珍しく自分の要望を口にしたからだ。
誰しも故郷を持ち、郷愁に駆られることはある。
大役を押し付けられた挙げ句、公務のためにエルドランに釘づけにされたのではあまりに不憫だ。
「私はそれより彼女が友人として務められるかが心配です」
アシュレイは人選には自信を持っている。
候補は数名いたが警備隊の中でシェイドに年齢が近く、そのうえ彼と対等に口を利けそうな者という条件で最適なのがライネだった。
「アシュレイ殿のご懸念はお察しいたしますが――」
空の彼方に消え行く青白い光を見送りながら、
「――友人は務めるものではございませんよ」
諭すような口調でルタは呟いた。
たしかに、とアシュレイが認識を改めたところにグランがやってきた。
「もう発たれたのか?」
離着陸スペースのたった今できたばかりの空間を見て彼は言った。
「……? ああ」
アシュレイは訝った。
見送りに間に合わなかったのを残念がっている口調ではない。
「そうか――」
グランは安堵したように息を吐いた。
「どうかしたのか?」
「シェイド様のことで……鑑定結果が出たらしい……」
ここには3人以外には誰もいないがグランは声を殺して事情を説明した。
「私が知るべきお話ではないようですから、これで失礼いたします」
国のために働きたいという気持ちはあるが越権行為があってはならない。
口ぶりからどうやら重大事らしいと悟ったルタは席をはずそうとした。
「ああ、いえ、機密というほどのことではありませんが――どちらかというと個人的な事情で――」
本来ならば自分たちも立ち入るべき領域ではない、とグランが補足した。
「もしルタ殿に一個人としてシェイド様に寄り添う気持ちがおありなら、知っておいていただいたほうがいいかもしれません」
そこまで言われれば好奇心もあって断るに断れない雰囲気となってしまう。
「もちろん持ってございます。新皇帝は救世主であると同時に私にとっては恩人も同然ですので」
気になる話から知っておくべき事柄にすり替わったことで、ルタも抵抗なくこの話に加わることができた。
3人は敷地を出て、待機していた車に乗り込んだ。
車窓から見える風景はこの数週間で大きく変わっている。
かつては殺気を隠そうともしない軍人と、何かに怯えたような民間人が行き来するばかりの通りであった。
大都市特有の煌びやかでどこか冷たい雰囲気はそのままだが、今は行き交う人々の顔は明るい。
絶えることのなかった戦車の列が今は民間の一般車両に置き換わっている。
目的地である国立遺伝子研究所は車で10分ほど走ったところにあった。
意外なことにペルガモン政権時代から重用されていた重要施設である。
「お待ちしておりました」
正面ゲートをくぐったところで数名の研究員がアシュレイたちを出迎えた。
「鑑定の結果が出たということですが」
「こちらへ。時間がかかった理由もご説明しましょう」
永く陽を浴びていないのか、白衣よりも白い顔の男たちが案内する。
外観はまるで軍事基地のような物々しさがあった。
死角の少ない半球状の研究所が数棟あり、それぞれを強固な通路がつないでいる。
要所にはガードドールが控え、不法侵入者があればただちに撃退できる態勢がとられていた。
研究員のひとりが壁面のパネルに触れて順次、行く手のセキュリティドアを開放していく。
「無菌室のようなものを想像しておりましたが……私たちは着替えなくてもよろしいのですか?」
場違いな気がしてルタが問う。
「検査室にはお通ししませんのでそのままで結構です」
つまり案内するのは施設奥の面談室までだ、と研究員は言う。
それなら入り口近くの応接室でもよいのでは、と彼は訝った。
進むにつれてすれちがう研究員の姿はまばらになる。
天井も壁も床も真白なせいで、初めて訪れた者は間違いなく方向感覚を失うだろう。
「こちらです」
何度目かの角を曲がったところにある面談室。
中は簡素な応接セットがあるだけだった。
目を引くのは壁面の大きなモニターくらいで、他に変わったものはない。
「ご足労おかけしました。けして外部に漏れてはならない情報と判断し、こちらにお通ししました」
全員が着座したのを確認してから貫禄のある男が言った。
「まず鑑定結果から申し上げます」
壁面モニターにいくつかの計算式や図形が浮かび上がる。
3人にはこれだけ見ても何のことかは全く分からない。
「皇……シェイド様と、母親とされた女性との――」
歯切れの悪さとその言い回しに重鎮は悟った。
「――99.9%の確率で両者に生物学的な血縁関係はないと思われます」
ひとり事情を呑み込めていなかったルタもようやく理解する。
シェイドがクライダードであるなら両親祖父母も強大な魔法の力を有しているハズだ。
なにしろ現代の常識では考えられないほどの力である。
彼らがひとたび魔法を行使すれば、災害と見做されてもおかしくはない。
となれば異常な魔力の持ち主がいるという記録なり証言なりが残っているハズである。
しかしプラトウはおろかその周辺でもクライダードを匂わせる情報は出てこない。
そのことを不審に思ったアシュレイたちは、ひそかに2人の遺伝子鑑定を依頼していたのだった。
はたして結果は告げられたとおり。
つまりシェイドとその母親には血縁関係は認められなかった。
「なんらかの事情でプラトウの家に引き取られた……ということでしょうか?」
グランの問いに研究員は曖昧に頷いた。
「我々は戸籍までは管理していませんのでなんとも……そう考えるのが自然なのでしょうが……」
なぜか彼は不可解そうな顔をした。
「お父上のほうはどうだろうか? もしかしたらそちらのほうは血のつながりが――」
「残念ながらそれもありません」
襟元を触りながら彼は即座に否定した。
「たとえ一時的でも兵役に就いた人は遺伝子情報を提供することになっています。ですから――」
手元の端末を操作してモニターの画像を切り替える。
すると数百人分のプラトウ出身者の名簿が表示された。
「ここにあります、テッド・ルーヴェライズ。シェイド様のお父様にあたる……とされる方ですが」
鑑定した結果、やはり両者に血縁関係はないという。
「ということは、つまり……?」
おおかた理解しているルタは敢えて研究所の見解を訊ねた。
彼らは言い難そうに顔を見合わせたが、やがてひとりが観念したように言う。
「亡くなられたご両親とシェイド様の間に血縁関係はない、ということになります」
ルタはどんな顔をすればよいか分からなかった。
家族を喪い、友人を喪い、故郷を焼き払われるというだけでも充分に凄惨すぎる出来事だ。
そこに加えて産みの親が別にいる事実をシェイドが知ったらどう思うだろうか。
現実とはこうも非情なのか、と彼は項垂れた。
「念のため当所に保管されている全データを参照しましたが、血縁関係にある者はいませんでした」
グランは深く頷いた。
プラトウ周辺にクライダードの存在が囁かれなかった理由はこれで説明がついた。
(彼には気の毒だが……だとすれば本当の両親はどこにいるんだ? 今も健在なのか、それとも……)
生きているならなぜ彼を手放したのか、という疑問が湧く。
経済的な理由か事故か――。
あれこれと考えるグランをアシュレイが肘で突いた。
「あの、よろしいですか……?」
まだ言うべきことがある、と研究員が切り出す。
「実は我々が気になっているのはむしろこちらのほうなのですが、シェイド様のDNAを調べたところ不可解な点があったのです」
「どういうことでしょう?」
アシュレイが問うた。
どうせモニターの鑑定結果を見ても何も分からないから直接聞いたほうが早い。
「DNAの構造が我々と異なるのです。乖離率は0.00029%とわずかなものですが、現代人では考えにくい構造で――」
研究員は言葉を濁した。
つまりシェイドの存在は常識からはずれているということだが、それをそのまま口にすれば侮辱ととられかねない。
「個体差、という話ではなく?」
「その範囲を逸脱しています。今回、ご連絡が遅れたのもこれが理由でして……」
検査に手違いがあったのではないかと、彼らは何度も試行したという。
だが結果は変わらず、研究所としてはこれをもって鑑定を終えたと報告した。
「ご両親の消息はさておいて、純粋なクライダードであればそういった結果も出るのでは?」
納得できないという様子でルタが訊いた。
「ヒトのDNA構造というのは種族が違っても根幹の部分は同一なのです。これはクライダードであろうとルナリスであろうと例外はありません」
「では、何故――?」
「さらに詳しく調べてみなければ何とも言えませんが……」
その先を言うのは躊躇われた。
不確かな情報で見解を述べるべきではない。
推測はただの憶測でしかないからだ。
「現時点で言えることがあれば教えてください」
その空気を感じ取ったアシュレイが促す。
どのような発言をしようと責任を問われることはない、という意味を込めた口調に、
「では、その……申し上げますが……」
逃げ場を失った体で彼は意見を述べる。
「乖離率や構造から考えるとシェイド様は――」
「――シェイド様は?」
「私たちと同じ人間とは思えません……」
言ってから彼はぎゅっと目を閉じた。
ペルガモンが相手なら首が飛んでいたところだ。
「………………」
数秒、静寂。
「――とにかく」
それを苛立たしげにグランが破る。
「この件はここにいる者だけの秘密にしよう。特にシェイド様には」
けして知られてはならないと彼は強調した。
遅れて飛び上がった数機の護衛機が艇の前後左右を囲うように陣取ったのを見て、アシュレイはほっと息を吐いた。
安堵といくらかの不安がそうさせた。
「大丈夫でしょうか」
ルタが目を細めて言う。
「護衛はライネだけではありません。他にも優秀な者が多く付き添っています。大きな問題にはならないでしょう」
そもそも問題があっては困る。
シェイドが負傷でもすれば、エルディラントの先行きを暗示するものだとして国中が不安に陥る可能性もあるのだ。
それだけ不安定な状況であるにも関わらず遠出を許したのは、彼が珍しく自分の要望を口にしたからだ。
誰しも故郷を持ち、郷愁に駆られることはある。
大役を押し付けられた挙げ句、公務のためにエルドランに釘づけにされたのではあまりに不憫だ。
「私はそれより彼女が友人として務められるかが心配です」
アシュレイは人選には自信を持っている。
候補は数名いたが警備隊の中でシェイドに年齢が近く、そのうえ彼と対等に口を利けそうな者という条件で最適なのがライネだった。
「アシュレイ殿のご懸念はお察しいたしますが――」
空の彼方に消え行く青白い光を見送りながら、
「――友人は務めるものではございませんよ」
諭すような口調でルタは呟いた。
たしかに、とアシュレイが認識を改めたところにグランがやってきた。
「もう発たれたのか?」
離着陸スペースのたった今できたばかりの空間を見て彼は言った。
「……? ああ」
アシュレイは訝った。
見送りに間に合わなかったのを残念がっている口調ではない。
「そうか――」
グランは安堵したように息を吐いた。
「どうかしたのか?」
「シェイド様のことで……鑑定結果が出たらしい……」
ここには3人以外には誰もいないがグランは声を殺して事情を説明した。
「私が知るべきお話ではないようですから、これで失礼いたします」
国のために働きたいという気持ちはあるが越権行為があってはならない。
口ぶりからどうやら重大事らしいと悟ったルタは席をはずそうとした。
「ああ、いえ、機密というほどのことではありませんが――どちらかというと個人的な事情で――」
本来ならば自分たちも立ち入るべき領域ではない、とグランが補足した。
「もしルタ殿に一個人としてシェイド様に寄り添う気持ちがおありなら、知っておいていただいたほうがいいかもしれません」
そこまで言われれば好奇心もあって断るに断れない雰囲気となってしまう。
「もちろん持ってございます。新皇帝は救世主であると同時に私にとっては恩人も同然ですので」
気になる話から知っておくべき事柄にすり替わったことで、ルタも抵抗なくこの話に加わることができた。
3人は敷地を出て、待機していた車に乗り込んだ。
車窓から見える風景はこの数週間で大きく変わっている。
かつては殺気を隠そうともしない軍人と、何かに怯えたような民間人が行き来するばかりの通りであった。
大都市特有の煌びやかでどこか冷たい雰囲気はそのままだが、今は行き交う人々の顔は明るい。
絶えることのなかった戦車の列が今は民間の一般車両に置き換わっている。
目的地である国立遺伝子研究所は車で10分ほど走ったところにあった。
意外なことにペルガモン政権時代から重用されていた重要施設である。
「お待ちしておりました」
正面ゲートをくぐったところで数名の研究員がアシュレイたちを出迎えた。
「鑑定の結果が出たということですが」
「こちらへ。時間がかかった理由もご説明しましょう」
永く陽を浴びていないのか、白衣よりも白い顔の男たちが案内する。
外観はまるで軍事基地のような物々しさがあった。
死角の少ない半球状の研究所が数棟あり、それぞれを強固な通路がつないでいる。
要所にはガードドールが控え、不法侵入者があればただちに撃退できる態勢がとられていた。
研究員のひとりが壁面のパネルに触れて順次、行く手のセキュリティドアを開放していく。
「無菌室のようなものを想像しておりましたが……私たちは着替えなくてもよろしいのですか?」
場違いな気がしてルタが問う。
「検査室にはお通ししませんのでそのままで結構です」
つまり案内するのは施設奥の面談室までだ、と研究員は言う。
それなら入り口近くの応接室でもよいのでは、と彼は訝った。
進むにつれてすれちがう研究員の姿はまばらになる。
天井も壁も床も真白なせいで、初めて訪れた者は間違いなく方向感覚を失うだろう。
「こちらです」
何度目かの角を曲がったところにある面談室。
中は簡素な応接セットがあるだけだった。
目を引くのは壁面の大きなモニターくらいで、他に変わったものはない。
「ご足労おかけしました。けして外部に漏れてはならない情報と判断し、こちらにお通ししました」
全員が着座したのを確認してから貫禄のある男が言った。
「まず鑑定結果から申し上げます」
壁面モニターにいくつかの計算式や図形が浮かび上がる。
3人にはこれだけ見ても何のことかは全く分からない。
「皇……シェイド様と、母親とされた女性との――」
歯切れの悪さとその言い回しに重鎮は悟った。
「――99.9%の確率で両者に生物学的な血縁関係はないと思われます」
ひとり事情を呑み込めていなかったルタもようやく理解する。
シェイドがクライダードであるなら両親祖父母も強大な魔法の力を有しているハズだ。
なにしろ現代の常識では考えられないほどの力である。
彼らがひとたび魔法を行使すれば、災害と見做されてもおかしくはない。
となれば異常な魔力の持ち主がいるという記録なり証言なりが残っているハズである。
しかしプラトウはおろかその周辺でもクライダードを匂わせる情報は出てこない。
そのことを不審に思ったアシュレイたちは、ひそかに2人の遺伝子鑑定を依頼していたのだった。
はたして結果は告げられたとおり。
つまりシェイドとその母親には血縁関係は認められなかった。
「なんらかの事情でプラトウの家に引き取られた……ということでしょうか?」
グランの問いに研究員は曖昧に頷いた。
「我々は戸籍までは管理していませんのでなんとも……そう考えるのが自然なのでしょうが……」
なぜか彼は不可解そうな顔をした。
「お父上のほうはどうだろうか? もしかしたらそちらのほうは血のつながりが――」
「残念ながらそれもありません」
襟元を触りながら彼は即座に否定した。
「たとえ一時的でも兵役に就いた人は遺伝子情報を提供することになっています。ですから――」
手元の端末を操作してモニターの画像を切り替える。
すると数百人分のプラトウ出身者の名簿が表示された。
「ここにあります、テッド・ルーヴェライズ。シェイド様のお父様にあたる……とされる方ですが」
鑑定した結果、やはり両者に血縁関係はないという。
「ということは、つまり……?」
おおかた理解しているルタは敢えて研究所の見解を訊ねた。
彼らは言い難そうに顔を見合わせたが、やがてひとりが観念したように言う。
「亡くなられたご両親とシェイド様の間に血縁関係はない、ということになります」
ルタはどんな顔をすればよいか分からなかった。
家族を喪い、友人を喪い、故郷を焼き払われるというだけでも充分に凄惨すぎる出来事だ。
そこに加えて産みの親が別にいる事実をシェイドが知ったらどう思うだろうか。
現実とはこうも非情なのか、と彼は項垂れた。
「念のため当所に保管されている全データを参照しましたが、血縁関係にある者はいませんでした」
グランは深く頷いた。
プラトウ周辺にクライダードの存在が囁かれなかった理由はこれで説明がついた。
(彼には気の毒だが……だとすれば本当の両親はどこにいるんだ? 今も健在なのか、それとも……)
生きているならなぜ彼を手放したのか、という疑問が湧く。
経済的な理由か事故か――。
あれこれと考えるグランをアシュレイが肘で突いた。
「あの、よろしいですか……?」
まだ言うべきことがある、と研究員が切り出す。
「実は我々が気になっているのはむしろこちらのほうなのですが、シェイド様のDNAを調べたところ不可解な点があったのです」
「どういうことでしょう?」
アシュレイが問うた。
どうせモニターの鑑定結果を見ても何も分からないから直接聞いたほうが早い。
「DNAの構造が我々と異なるのです。乖離率は0.00029%とわずかなものですが、現代人では考えにくい構造で――」
研究員は言葉を濁した。
つまりシェイドの存在は常識からはずれているということだが、それをそのまま口にすれば侮辱ととられかねない。
「個体差、という話ではなく?」
「その範囲を逸脱しています。今回、ご連絡が遅れたのもこれが理由でして……」
検査に手違いがあったのではないかと、彼らは何度も試行したという。
だが結果は変わらず、研究所としてはこれをもって鑑定を終えたと報告した。
「ご両親の消息はさておいて、純粋なクライダードであればそういった結果も出るのでは?」
納得できないという様子でルタが訊いた。
「ヒトのDNA構造というのは種族が違っても根幹の部分は同一なのです。これはクライダードであろうとルナリスであろうと例外はありません」
「では、何故――?」
「さらに詳しく調べてみなければ何とも言えませんが……」
その先を言うのは躊躇われた。
不確かな情報で見解を述べるべきではない。
推測はただの憶測でしかないからだ。
「現時点で言えることがあれば教えてください」
その空気を感じ取ったアシュレイが促す。
どのような発言をしようと責任を問われることはない、という意味を込めた口調に、
「では、その……申し上げますが……」
逃げ場を失った体で彼は意見を述べる。
「乖離率や構造から考えるとシェイド様は――」
「――シェイド様は?」
「私たちと同じ人間とは思えません……」
言ってから彼はぎゅっと目を閉じた。
ペルガモンが相手なら首が飛んでいたところだ。
「………………」
数秒、静寂。
「――とにかく」
それを苛立たしげにグランが破る。
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けして知られてはならないと彼は強調した。
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