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新たなる脅威篇
4 暗躍-6-
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――数分後。
足元で起きた爆発音を最後に襲撃は終わりを告げた。
残骸があちこちで黒煙を上げている。
「お怪我は――」
そう訊かれると思ったシェイドはあらかじめ目立つ傷を魔法で治しておいた。
「先ほど襲ってきた連中のようですね」
3人の襲撃者たちは後ろ手に手錠をかけられている。
密着するように従者が数名付いているから逃亡のおそれはない。
「誰かに雇われたのか?」
イエレドが凄みを利かせて問う。
だが彼らは答えようとしない。
「――顔を」
傍にいた従者にマスクをはずさせる。
露わになった顔は仕留め損ねた標的を睨みつけていた。
「素直に答えれば悪いようにはしない。誰かの指示を受けたのか?」
返ってくるのは沈黙だけ。
「…………」
射抜くような彼らの視線に、シェイドはびくりと体を震わせた。
その手をライネがそっと握った。
「何も言わないようだな」
従者たちは顔を見合わせた。
表情には諦念と怒りが混じる。
「しかたがない。こいつを残して、あとの2人は殺せ」
イエレドは3人のうち、最も利口そうな男を指差して言った。
その言葉を待っていたように傍にいた従者が銃を構える。
「ちょ、ちょっと! 待って……! 待ってください!!」
シェイドが慌てて間に割り込む。
「なにも殺さ……なくてもいいじゃないですか!?」
それはさすがにやりすぎだ、と訴える。
「しかし彼らはあなたを殺害しようとしたのですよ?」
イエレドは少し考えてから言った。
つまりそれなりの制裁――見せしめ――が必要だと説いた。
「それは……そうかもしれませんけど…………」
だからといって殺すのは間違っている。
ひかえめながらシェイドはなおも拒む。
「………………」
しばらくの沈黙のあと、折れたのはイエレドのほうだった。
「それがシェイド様のご意思なら、そのようにいたしましょう」
従者たちは銃をおろした。
「申し訳ありません。先帝のやり方が抜けていなかったようです」
襲撃者を睨みつけながら彼らは詫びた。
ペルガモンは苛烈だった。
あの暴虐な支配者に駆け引きなど存在しない。
捕らえた叛逆者が口を割らなければ容赦なく殺した。
たとえ捕虜が情報を提供したとしても、その時点で用済みとなるからやはり殺す。
温情をかけて懐柔すれば結果的に多くの収穫を得られる、という発想はなかったのだ。
この非情なやり方は部下にも浸透していた。
「拘束を強め……避難所の奥に隔離しておくしかなさそうですね」
精一杯の温情だ、と言わんばかりに従者は捕虜の3人を引き立てる。
「あの、あまり手荒なことは――」
後ろ手に縛り上げるのを見てシェイドは思わず口にした。
「そうはいきません。こいつらは暗殺未遂犯です。手心を加えれば何をするか分かりません」
強く言われた彼は何も返せなかった。
「ああ、まあ、なんだ。とりあえず無事でよかったじゃんか」
陰鬱な空気を吹き飛ばすようにライネが言う。
連行されていく3人を見送りながら、シェイドは複雑な笑みを浮かべていた。
「私たちも戻ったほうがいいわ」
涼しげに言うフェルノーラの手には、まるで掌に張り付いたように今も銃がしっかりと握られている。
「せっかくの夕食が冷めてしまうから」
声に元気はない。
その理由は2人にも、フェルノーラ自身にも分かっていなかった。
足元で起きた爆発音を最後に襲撃は終わりを告げた。
残骸があちこちで黒煙を上げている。
「お怪我は――」
そう訊かれると思ったシェイドはあらかじめ目立つ傷を魔法で治しておいた。
「先ほど襲ってきた連中のようですね」
3人の襲撃者たちは後ろ手に手錠をかけられている。
密着するように従者が数名付いているから逃亡のおそれはない。
「誰かに雇われたのか?」
イエレドが凄みを利かせて問う。
だが彼らは答えようとしない。
「――顔を」
傍にいた従者にマスクをはずさせる。
露わになった顔は仕留め損ねた標的を睨みつけていた。
「素直に答えれば悪いようにはしない。誰かの指示を受けたのか?」
返ってくるのは沈黙だけ。
「…………」
射抜くような彼らの視線に、シェイドはびくりと体を震わせた。
その手をライネがそっと握った。
「何も言わないようだな」
従者たちは顔を見合わせた。
表情には諦念と怒りが混じる。
「しかたがない。こいつを残して、あとの2人は殺せ」
イエレドは3人のうち、最も利口そうな男を指差して言った。
その言葉を待っていたように傍にいた従者が銃を構える。
「ちょ、ちょっと! 待って……! 待ってください!!」
シェイドが慌てて間に割り込む。
「なにも殺さ……なくてもいいじゃないですか!?」
それはさすがにやりすぎだ、と訴える。
「しかし彼らはあなたを殺害しようとしたのですよ?」
イエレドは少し考えてから言った。
つまりそれなりの制裁――見せしめ――が必要だと説いた。
「それは……そうかもしれませんけど…………」
だからといって殺すのは間違っている。
ひかえめながらシェイドはなおも拒む。
「………………」
しばらくの沈黙のあと、折れたのはイエレドのほうだった。
「それがシェイド様のご意思なら、そのようにいたしましょう」
従者たちは銃をおろした。
「申し訳ありません。先帝のやり方が抜けていなかったようです」
襲撃者を睨みつけながら彼らは詫びた。
ペルガモンは苛烈だった。
あの暴虐な支配者に駆け引きなど存在しない。
捕らえた叛逆者が口を割らなければ容赦なく殺した。
たとえ捕虜が情報を提供したとしても、その時点で用済みとなるからやはり殺す。
温情をかけて懐柔すれば結果的に多くの収穫を得られる、という発想はなかったのだ。
この非情なやり方は部下にも浸透していた。
「拘束を強め……避難所の奥に隔離しておくしかなさそうですね」
精一杯の温情だ、と言わんばかりに従者は捕虜の3人を引き立てる。
「あの、あまり手荒なことは――」
後ろ手に縛り上げるのを見てシェイドは思わず口にした。
「そうはいきません。こいつらは暗殺未遂犯です。手心を加えれば何をするか分かりません」
強く言われた彼は何も返せなかった。
「ああ、まあ、なんだ。とりあえず無事でよかったじゃんか」
陰鬱な空気を吹き飛ばすようにライネが言う。
連行されていく3人を見送りながら、シェイドは複雑な笑みを浮かべていた。
「私たちも戻ったほうがいいわ」
涼しげに言うフェルノーラの手には、まるで掌に張り付いたように今も銃がしっかりと握られている。
「せっかくの夕食が冷めてしまうから」
声に元気はない。
その理由は2人にも、フェルノーラ自身にも分かっていなかった。
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