アメジストの軌跡

JEDI_tkms1984

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新たなる脅威篇

6 予言を覆す力-1-

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「こんなのは予定にないぞ」

 年齢のせいで白くなり始めた長髪をかきむしりながら、オルドン艦長は憎々しげに言った。

「廃墟を焼け、が命令のハズだ。なのになぜ戦闘が起こる? 誰か説明できるか?」

 見るからに狡猾そうなこの老翁は、わざと困らせるような口調で部下に問うた。

「い、いえ……それは」

 もちろん答えられない。

 目の前で起こっていることは、ここにいる誰もが想定していなかったからだ。



”プラトウのすべてを焼き払え”



 クライズデールという人物から受け取った指示はシンプルだった。

 シェイド政権を打倒した暁には相応の報酬を約束する。

 これは破格の条件だった。

 なにしろプラトウには焼き払うほどのものは残っていないのだ。

 大掃除を終えたあとの、最後の仕上げよりも簡単な仕事だ。

 ――そう思っていたが、それはたんなる楽観視だった。

「敵機、来ます!」

 乗員が叫んだ。

「撃ち落とせ!」

 オルドン艦長は腹立たしげに言った。

 プラトウには先客がいた。

 彼らにとっては悪いことに、簡単だったハズの仕事を邪魔する存在だ。

「最も近い艦に攻撃を集中させよ。地上を焼くのはその後だ」

 戦況はよろしくない。

 艦数は同じだが、こちらは戦闘向きではないからだ。

 対して相手は防衛戦に長けた構成で、いずれもシールド出力が高い。

 長引けばそれだけ不利になる。

 彼は思った。

 これは報酬の上乗せをしてもらわなければならない。





 地上は早くから激戦区となっていた。

 護衛の艦隊が戦力を広げた頃には、正体不明の敵勢力はプラトウを射程に収めていた。

 だがその砲塔は地上めがけて火を吹かない。

 艦船同士の激しい撃ち合いになっていたからだ。

 しかしだからといって地上が安全というワケではなかった。

「南側に回れ! 避難所に近づけるな!」

 民間人を含めた歩兵隊は扇状に布陣する。

 東の空から放たれたのは多数のドール、攻撃機という顔ぶれだ。

「どうか……くれぐれも前に出られませんように!」

 兵士のひとりがシェイドをたしなめる。

 前線で戦いたいという皇帝の意思に逆らうことはできず、といって危険に晒すワケにもいかない。

 困った彼らは、”シェイドよりもさらに前に出る”ことで問題を解決することにした。

「は、はい! 大丈夫です!」

 渡された銃を大事そうに抱えながら、ぎこちなくうなずく。

 こちらにも戦力として多くのドールが投入されており、その姿にまだ慣れないシェイドは無意識に距離を置いた。

「第一隊、前へ!!」

 無数の光弾が飛び交う。

 資材や丘陵を盾にできる分、こちらが有利だ。

 衛兵に守られながら、シェイドも銃で応戦する。

 相手はドールだから安否を気遣う必要はない。

 真っすぐに放たれる光は5回に4回の割合で外れた。

(これ……難しい……!)

 数分前に使い方を教わったばかりの彼には手にあまる武器だった。

 しっかりと狙いをつけているハズなのだが、光弾はそれていく。

 あせり、さらに発射時のわずかな反動も手伝い、迫るドールの迎撃にはいたらない。

 一方、やや離れた位置にいるフェルノーラの射撃は見事なものだった。

 ドールの動きが緩慢なせいもあるが、光弾は的確に胴体を撃ち抜いていく。

「あの子、なかなかやるじゃん」

 シェイドと同じく、扱い慣れない銃に悪戦苦闘しながらライネが言った。

 頭上を敵の攻撃機が飛び越えた。

 向かう先にあるのは避難所だ。

 後方に待機していた対空車両が一斉に火を噴いた。

 鋭く、空気を裂くような音と光が天に伸び、攻撃機の翼を焼いた。

 だが迎撃を免れた数機が地上めがけて攻撃をしかける。

「…………!!」

 地響きとともに外壁の一部が無残にもえぐり取られた。
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