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新たなる脅威篇
6 予言を覆す力-2-
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間断なく降り注ぐ光弾が音と熱とをもたらす。
敵の攻撃機は艦ではなく、地上に狙いをしぼったようだ。
避難所周辺には幾重にも防備を敷いているが、やはり上空からの攻撃には抗しきれない。
「ライネさん、これ!」
彼女に銃を押しつけ、シェイドは走り出した。
「あ!? おい、どこ行くんだよ!?」
「避難所を守らなきゃ!」
律義な彼にしては珍しく、振り向かず答えも待たずに戦禍へと飛び込んでいく。
「ああ、もう! 分かってねえなぁ!」
受け取った銃を投げ捨て、ライネもその後を追った。
「アタシはキミの護衛なんだって!」
不整地に足をとられながらシェイドは走る。
熱風と跳ね飛ぶ砂礫が代わる代わるに押し寄せてくるが、気にしてはいられない。
「あのさあ――」
ライネはあっさり追いついた。
「行き先は前もって教えてくれると助かるんだけど?」
「え……? え、あっ……すみません、つい……!」
彼女の脚の速さと息ひとつ切らさない体力に驚きつつ、シェイドは短く詫びる。
「ま、いいけどさ」
拗ねたような口調で返すライネ。
それも無理のないことで、攻撃機が相手では護衛が務まるかどうかは怪しい。
せめて防御の魔法が得意なら少しは役に立てただろうが、彼女はさして魔法の才能に恵まれていない。
ここでもアシュレイの期待に応えられないことが重くのしかかる。
(………………)
抜擢された自分の力がどこまで通用するのか。
この任務はライネにとって、それを試す場でもあった。
重機の裏に隠れ、シェイドは空中のミストをたぐり寄せた。
指先から手首にかけて、わずかに熱を感じる。
(これがミスト……?)
と彼は思ったが、すぐに見当違いだと気付く。
熱は周囲からもたらされるもの。
戦の熱風が充満しているのだ。
「あそこまで行きます!」
避難所の一角を指さす。
2人は無造作に積まれた資材の間を縫うようにして駆けた。
「ほんとにやるのか?」
ライネは訝しんだ。
戦場にいるだけでも危険だというのに、標的にされているらしい施設に近づくなど自殺行為だ。
しかし彼は躊躇わなかった。
対空車両の脇を通り抜け、損壊した避難所の前に立つ。
突き出した両手から溢れ出すミストが半球状の膜を形成する。
が、そのサイズは避難所を覆うには至らない。
(なんとか持ちこたえないと……!)
凝集したミストが波状攻撃を食い止める。
降り注ぐ光弾は淡い光の膜に吸い込まれ消えていく。
だがその一撃は重い。
攻撃を受ける度にミストの結合が剥がれ、シールドとしての機能は減衰していく。
同じ場所に立て続けに着弾すれば穴が開いてしまう。
その修復のためにミストを補充することになる――が、一度展開したシールドに対して局所的にミストを送り込む方法をシェイドはまだ学んでいない。
そのため彼はシールドを維持したまま、新たにシールドを生成することで追撃に備えた。
(これで…………!)
非効率的なミストの使用は体に大きな負担がかかる。
呼吸を乱しながらも彼はシールドの維持に全力を注ぐ。
上空に意識を向けているシェイドを守るため、ライネは地上に気を配った。
民間人を含めた防衛隊が敵の侵攻を食い止めているが油断はできない。
空が2度光り、地が鳴動した。
旋回した攻撃機が背後から避難所を狙い撃つ。
シェイドの張るシールドは届かない。
粗造りの外壁が砕け散った。
堆積した瓦礫の向こうに食堂や寝室が裸出する。
「………………!!」
瞬間、彼の心の内に静かな怒りが芽生えた。
迫る敵を迎え撃つだけでは何の解決にもならない。
といって殲滅する、という苛烈な思考もできない。
その板挟みに少年は憤った。
こんなとき、ソーマなら迷う暇もなく最適な答えを出してくれるのに。
シェイドは思った。
だが導いてくれる人はもういない。
手を差し伸べ、立ち上がらせ、引っ張ってくれる人はもういない。
導かれるのではない。
自分が導くのだ。
そう考え至ったとき、彼の視線は上空をやかましく飛ぶ攻撃機に向けられていた。
敵の攻撃機は艦ではなく、地上に狙いをしぼったようだ。
避難所周辺には幾重にも防備を敷いているが、やはり上空からの攻撃には抗しきれない。
「ライネさん、これ!」
彼女に銃を押しつけ、シェイドは走り出した。
「あ!? おい、どこ行くんだよ!?」
「避難所を守らなきゃ!」
律義な彼にしては珍しく、振り向かず答えも待たずに戦禍へと飛び込んでいく。
「ああ、もう! 分かってねえなぁ!」
受け取った銃を投げ捨て、ライネもその後を追った。
「アタシはキミの護衛なんだって!」
不整地に足をとられながらシェイドは走る。
熱風と跳ね飛ぶ砂礫が代わる代わるに押し寄せてくるが、気にしてはいられない。
「あのさあ――」
ライネはあっさり追いついた。
「行き先は前もって教えてくれると助かるんだけど?」
「え……? え、あっ……すみません、つい……!」
彼女の脚の速さと息ひとつ切らさない体力に驚きつつ、シェイドは短く詫びる。
「ま、いいけどさ」
拗ねたような口調で返すライネ。
それも無理のないことで、攻撃機が相手では護衛が務まるかどうかは怪しい。
せめて防御の魔法が得意なら少しは役に立てただろうが、彼女はさして魔法の才能に恵まれていない。
ここでもアシュレイの期待に応えられないことが重くのしかかる。
(………………)
抜擢された自分の力がどこまで通用するのか。
この任務はライネにとって、それを試す場でもあった。
重機の裏に隠れ、シェイドは空中のミストをたぐり寄せた。
指先から手首にかけて、わずかに熱を感じる。
(これがミスト……?)
と彼は思ったが、すぐに見当違いだと気付く。
熱は周囲からもたらされるもの。
戦の熱風が充満しているのだ。
「あそこまで行きます!」
避難所の一角を指さす。
2人は無造作に積まれた資材の間を縫うようにして駆けた。
「ほんとにやるのか?」
ライネは訝しんだ。
戦場にいるだけでも危険だというのに、標的にされているらしい施設に近づくなど自殺行為だ。
しかし彼は躊躇わなかった。
対空車両の脇を通り抜け、損壊した避難所の前に立つ。
突き出した両手から溢れ出すミストが半球状の膜を形成する。
が、そのサイズは避難所を覆うには至らない。
(なんとか持ちこたえないと……!)
凝集したミストが波状攻撃を食い止める。
降り注ぐ光弾は淡い光の膜に吸い込まれ消えていく。
だがその一撃は重い。
攻撃を受ける度にミストの結合が剥がれ、シールドとしての機能は減衰していく。
同じ場所に立て続けに着弾すれば穴が開いてしまう。
その修復のためにミストを補充することになる――が、一度展開したシールドに対して局所的にミストを送り込む方法をシェイドはまだ学んでいない。
そのため彼はシールドを維持したまま、新たにシールドを生成することで追撃に備えた。
(これで…………!)
非効率的なミストの使用は体に大きな負担がかかる。
呼吸を乱しながらも彼はシールドの維持に全力を注ぐ。
上空に意識を向けているシェイドを守るため、ライネは地上に気を配った。
民間人を含めた防衛隊が敵の侵攻を食い止めているが油断はできない。
空が2度光り、地が鳴動した。
旋回した攻撃機が背後から避難所を狙い撃つ。
シェイドの張るシールドは届かない。
粗造りの外壁が砕け散った。
堆積した瓦礫の向こうに食堂や寝室が裸出する。
「………………!!」
瞬間、彼の心の内に静かな怒りが芽生えた。
迫る敵を迎え撃つだけでは何の解決にもならない。
といって殲滅する、という苛烈な思考もできない。
その板挟みに少年は憤った。
こんなとき、ソーマなら迷う暇もなく最適な答えを出してくれるのに。
シェイドは思った。
だが導いてくれる人はもういない。
手を差し伸べ、立ち上がらせ、引っ張ってくれる人はもういない。
導かれるのではない。
自分が導くのだ。
そう考え至ったとき、彼の視線は上空をやかましく飛ぶ攻撃機に向けられていた。
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