81 / 101
17 オリジン-2-
しおりを挟む
「私が技師として働いているのは知っているだろう?」
静寂に耐えかねたかリエに気を遣ってか、彼は自分の仕事について話しておくことにした。
「施術のことですか?」
「いや、ちがう。それとは別に依頼を受けて色々な部品を作っていたんだ。義肢だけでなく、車や船舶に使うような物もね」
「ええ、大体は。何を作っているかまでは知りませんでしたけど」
「その中である工場から請け負っていた仕事がある。注文者は政府。つまりは外注だな」
「ドクターのお手前なら引く手数多だったでしょうね」
「そうでもないぞ。信用してもらうまで時間がかかった。ところがある時、調達屋が銅板を拾ってきたんだ」
「……話が繋がりませんね?」
クジラを中心として世の中にどのような職業があり、どのように関わっているかについて彼女は疎かった。
施設で得られる報酬に不足はなかったから、他に目を向ける機会がなかったのだ。
「銅板はクジラから落ちてきたものだった。よく見ると私が作って依頼人に納めた部品だったんだ」
「つまりその部品は循環していると。政府からクジラに渡って地上に落ちてくる。それがまた別の製品の原料に使われるんですね」
「………………」
彼は何も言えなくなってしまった。
「どうかしましたか?」
しばらく待っていたリエは続きを急かすように問うた。
「ああ、いや、うん……もっと早くきみに相談しておけばよかったなと――それより重要なのは――」
有能な助手に恵まれて幸せだ、と褒めてから彼は続けた。
「さっきのロボットに――私が作ったパーツが使われていたんだ」
さあ驚けと言わんばかりにカイロウは振り返った。
聡明なリエもこれには動揺するにちがいないと。
しかし彼女は特別な反応を示さない。
動じていないというより、話が見えていない様子だった。
「リエ君……?」
「あ、すみません。突然の話だったものですから……」
数秒かけてようやく理解が追いついた。
そうするとひとつの疑問が浮かぶ。
「ドクターはそのことをご存じだったのですか?」
「知ったのはさっきだよ。納めた部品が何に使われるかは秘密だった」
分かっていたら協力しなかったのに、と彼は悔恨した。
「単純に悪者とは言い切れませんよ」
しかしここでもリエは異なる考えをぶつけた。
「見ているとあれらは番人や管理人の役をしているように思えるんです。いわばクジラ全体を動かしているスタッフのような――」
「つまりクジラの手下だろう。忌々しい話だ」
将来ロボットの一部になるパーツを作っていたとなれば、間接的にクジラに貢献したことになる。
調達屋への支払いのため、飛行機の製造のために金が必要だったが、それを得る手段がこのような結果を招くという皮肉には。
彼はどんな顔をして感情の波をやり過ごせばいいか分からなかった。
「そういう見方もできますけど、連れてきた赤ん坊の世話をしていたのもあのロボットかもしれません」
これなら彼らが言葉を知らない理由にもなる、と彼女は言った。
カイロウはそれには何も返さなかった。
そこまで好意的に解釈してやる余裕は彼にはない。
クジラや政府に加担してしまったことへの腹立たしさのほうが強かった。
階段を登りきった先は広い通路になっていた。
左右には扉の類はなく、完全な一本道となっている。
「ヘンなところに出てきましたね。このまま進んでも大丈夫でしょうか」
「いざとなったらこれを使うさ。相手が人間じゃなきゃ気兼ねなく撃てる。きみは念のため、後ろに気を付けてくれ」
隠れられる場所はない。
2人はロボットが出てこないことを祈りながら通路を進んだ。
引き返すという手もあったが、わざわざこんな構造にしているのなら、奥に重要な何かがあるかもしれない。
カイロウはそう判断した。
その考えが正しいかどうかは、ほどなくして目の前に現れた重厚な扉を開ければ明らかになる。
「いや、私が開けよう」
壁のパネルに触れかけたリエを制する。
ここまで幾度となく危険に付き合わせてきた。
聡明な彼女が機転を利かせてくれたおかげで難所を逃れてきたが、カイロウにとってリエはあくまで助手だ。
常に自分が前に立たなければならないという責任感くらいはある。
振り返り、後方に異常がないのを確かめてからパネルに触れる。
扉は――開いた。
だがこれまでとちがい、レール部が錆びついているような金切り声をあげた。
まるでここだけが長いこと開閉されていなかったように、扉はゆっくりとスライドする。
静寂に耐えかねたかリエに気を遣ってか、彼は自分の仕事について話しておくことにした。
「施術のことですか?」
「いや、ちがう。それとは別に依頼を受けて色々な部品を作っていたんだ。義肢だけでなく、車や船舶に使うような物もね」
「ええ、大体は。何を作っているかまでは知りませんでしたけど」
「その中である工場から請け負っていた仕事がある。注文者は政府。つまりは外注だな」
「ドクターのお手前なら引く手数多だったでしょうね」
「そうでもないぞ。信用してもらうまで時間がかかった。ところがある時、調達屋が銅板を拾ってきたんだ」
「……話が繋がりませんね?」
クジラを中心として世の中にどのような職業があり、どのように関わっているかについて彼女は疎かった。
施設で得られる報酬に不足はなかったから、他に目を向ける機会がなかったのだ。
「銅板はクジラから落ちてきたものだった。よく見ると私が作って依頼人に納めた部品だったんだ」
「つまりその部品は循環していると。政府からクジラに渡って地上に落ちてくる。それがまた別の製品の原料に使われるんですね」
「………………」
彼は何も言えなくなってしまった。
「どうかしましたか?」
しばらく待っていたリエは続きを急かすように問うた。
「ああ、いや、うん……もっと早くきみに相談しておけばよかったなと――それより重要なのは――」
有能な助手に恵まれて幸せだ、と褒めてから彼は続けた。
「さっきのロボットに――私が作ったパーツが使われていたんだ」
さあ驚けと言わんばかりにカイロウは振り返った。
聡明なリエもこれには動揺するにちがいないと。
しかし彼女は特別な反応を示さない。
動じていないというより、話が見えていない様子だった。
「リエ君……?」
「あ、すみません。突然の話だったものですから……」
数秒かけてようやく理解が追いついた。
そうするとひとつの疑問が浮かぶ。
「ドクターはそのことをご存じだったのですか?」
「知ったのはさっきだよ。納めた部品が何に使われるかは秘密だった」
分かっていたら協力しなかったのに、と彼は悔恨した。
「単純に悪者とは言い切れませんよ」
しかしここでもリエは異なる考えをぶつけた。
「見ているとあれらは番人や管理人の役をしているように思えるんです。いわばクジラ全体を動かしているスタッフのような――」
「つまりクジラの手下だろう。忌々しい話だ」
将来ロボットの一部になるパーツを作っていたとなれば、間接的にクジラに貢献したことになる。
調達屋への支払いのため、飛行機の製造のために金が必要だったが、それを得る手段がこのような結果を招くという皮肉には。
彼はどんな顔をして感情の波をやり過ごせばいいか分からなかった。
「そういう見方もできますけど、連れてきた赤ん坊の世話をしていたのもあのロボットかもしれません」
これなら彼らが言葉を知らない理由にもなる、と彼女は言った。
カイロウはそれには何も返さなかった。
そこまで好意的に解釈してやる余裕は彼にはない。
クジラや政府に加担してしまったことへの腹立たしさのほうが強かった。
階段を登りきった先は広い通路になっていた。
左右には扉の類はなく、完全な一本道となっている。
「ヘンなところに出てきましたね。このまま進んでも大丈夫でしょうか」
「いざとなったらこれを使うさ。相手が人間じゃなきゃ気兼ねなく撃てる。きみは念のため、後ろに気を付けてくれ」
隠れられる場所はない。
2人はロボットが出てこないことを祈りながら通路を進んだ。
引き返すという手もあったが、わざわざこんな構造にしているのなら、奥に重要な何かがあるかもしれない。
カイロウはそう判断した。
その考えが正しいかどうかは、ほどなくして目の前に現れた重厚な扉を開ければ明らかになる。
「いや、私が開けよう」
壁のパネルに触れかけたリエを制する。
ここまで幾度となく危険に付き合わせてきた。
聡明な彼女が機転を利かせてくれたおかげで難所を逃れてきたが、カイロウにとってリエはあくまで助手だ。
常に自分が前に立たなければならないという責任感くらいはある。
振り返り、後方に異常がないのを確かめてからパネルに触れる。
扉は――開いた。
だがこれまでとちがい、レール部が錆びついているような金切り声をあげた。
まるでここだけが長いこと開閉されていなかったように、扉はゆっくりとスライドする。
0
あなたにおすすめの小説
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる