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17 オリジン-1-
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カイロウたちは1時間ちかく歩き回っていた。
コンテナが積まれた部屋、巨大な水槽が置かれた広場、一面が土で覆われた部屋、何もない空間……。
道中にはいくつもの部屋があり、それらは全てあの真白な通路で繋がっていた。
構造はさして複雑ではなかったが、ひとつひとつの部屋が広いため、つぶさに調べることはできなかった。
「向こうに渡りましょう。あれがいます」
探索を難しくしているもうひとつの理由はあのロボットだ。
根拠はなかったが、あれが警備兵を担っていると考えている2人は出くわすたびに迂回を余儀なくされた。
いざとなれば、とカイロウはいつでも発砲できるよう構えているが弾には限りがある。
できれば衝突を避けたい彼らは回り回って、上り階段の手前にいた。
「ここにきて階段か」
「大きさからすれば上階や下階があってもおかしくないですからね」
「ああ…………」
階段はずっと上まで続いている。
周囲はやはり白色に包まれていて、ただの段差の連続も天界への道を思わせる神々しさがあった。
「何を考えてます?」
登る以外にないというのに、動く気配を見せないカイロウにリエが訝るように問うた。
「誰が造ったのかと思ってね」
「クジラを、ですか?」
彼は小さく頷いた。
「地上から見上げているうちは、クジラの形をした忌々しいものが飛んでいるとしか思っていなかった。
それが生物なのか人工の物かなんて考えもしなかったし、そもそもそんな疑問さえ抱かなかったよ」
「私も同じです」
「でもこうして歩き回ってハッキリしたな。これは誰かが造った物だ」
「こういう構造をした生物という可能性は?」
「だったら血が流れてるハズだ。臓器も。でもそんな器官はどこにもない。そもそも体内に触っただけで開く扉があるかい?」
知らないだけで、世界には彼が言ったような特徴を持つ生物がいるかもしれない。
――そう否定することも可能だが、リエはそんな気にはなれなかった。
「ないでしょうね。それにだとしたら私たちは胃の中です。とっくに消化されていますね」
クジラというものはもっと幻想的で神秘的で、荘厳さに満ち溢れた存在のハズだった。
雲のように捉えどころのないもの。
しかし確かにそこにあって下界を見下ろす神のような。
誰もがそのように教えられてきた。
それが人工物だとなれば、彼らはきっとガッカリするだろう。
「しかしそうだとすると恐ろしいな」
階段の向こうを見つめ、彼は深呼吸する。
「こんな巨大なものがどうやって飛んでいるのか……」
モノを作る人間はそれがどんなものであれ、仕組みや構造について人一倍の興味や関心を持つ。
彼にもそうした一面があったから、娘を捜しながらクジラについて理解しようとした。
だが知ろうとすればするほど、真実が遠退いて行くような感覚があった。
真に理解するには何百年あっても足りないのではないかと思わせるほどだ。
「ドクターが造った飛行機でさえ飛んだのですから、これを飛ばす技術もあるのでは?」
「たしかに――うん……?」
一瞬、上機嫌になりかけた彼はすぐに怪訝な顔をした。
「私も興味はありますが――」
リエの口調は冷めていた。
「ドクターは娘さんを取り戻しに来たのでしょう? 考えるのは後でもいいと思いますよ」
こう言えたのは彼女が賢しいからではない。
カイロウには果たすべき確かな目的と、それを達成した後の生活があるからだ。
娘を取り戻す、は彼の人生の一時点での出来事でしかない。
無事に地上に戻れば、そこからは父と子の新たな人生が待っている。
それを実現すべく危険を冒して乗り込んだのだ。
今になって立ち止まる必要などない。
にもかかわらずあれこれと考えあぐね、目の前の階段を登ることにさえ躊躇する彼を、リエは見ていられなかった。
「まったく、きみの言うとおりだな」
カイロウは笑った。
「悪い癖が出てしまった」
詫びの意味も込めて彼は階段に足をかけた。
伝わってくる冷たく固い感触は、やはり生物のそれではない。
「………………」
有能な助手は複雑な笑みを浮かべ、彼に続いた。
辺りは不気味なほど静かだった。
物音ひとつしない空間には2人の足音だけが不規則に響く。
歩みを止めれば互いの息遣いさえ聞こえそうだ。
コンテナが積まれた部屋、巨大な水槽が置かれた広場、一面が土で覆われた部屋、何もない空間……。
道中にはいくつもの部屋があり、それらは全てあの真白な通路で繋がっていた。
構造はさして複雑ではなかったが、ひとつひとつの部屋が広いため、つぶさに調べることはできなかった。
「向こうに渡りましょう。あれがいます」
探索を難しくしているもうひとつの理由はあのロボットだ。
根拠はなかったが、あれが警備兵を担っていると考えている2人は出くわすたびに迂回を余儀なくされた。
いざとなれば、とカイロウはいつでも発砲できるよう構えているが弾には限りがある。
できれば衝突を避けたい彼らは回り回って、上り階段の手前にいた。
「ここにきて階段か」
「大きさからすれば上階や下階があってもおかしくないですからね」
「ああ…………」
階段はずっと上まで続いている。
周囲はやはり白色に包まれていて、ただの段差の連続も天界への道を思わせる神々しさがあった。
「何を考えてます?」
登る以外にないというのに、動く気配を見せないカイロウにリエが訝るように問うた。
「誰が造ったのかと思ってね」
「クジラを、ですか?」
彼は小さく頷いた。
「地上から見上げているうちは、クジラの形をした忌々しいものが飛んでいるとしか思っていなかった。
それが生物なのか人工の物かなんて考えもしなかったし、そもそもそんな疑問さえ抱かなかったよ」
「私も同じです」
「でもこうして歩き回ってハッキリしたな。これは誰かが造った物だ」
「こういう構造をした生物という可能性は?」
「だったら血が流れてるハズだ。臓器も。でもそんな器官はどこにもない。そもそも体内に触っただけで開く扉があるかい?」
知らないだけで、世界には彼が言ったような特徴を持つ生物がいるかもしれない。
――そう否定することも可能だが、リエはそんな気にはなれなかった。
「ないでしょうね。それにだとしたら私たちは胃の中です。とっくに消化されていますね」
クジラというものはもっと幻想的で神秘的で、荘厳さに満ち溢れた存在のハズだった。
雲のように捉えどころのないもの。
しかし確かにそこにあって下界を見下ろす神のような。
誰もがそのように教えられてきた。
それが人工物だとなれば、彼らはきっとガッカリするだろう。
「しかしそうだとすると恐ろしいな」
階段の向こうを見つめ、彼は深呼吸する。
「こんな巨大なものがどうやって飛んでいるのか……」
モノを作る人間はそれがどんなものであれ、仕組みや構造について人一倍の興味や関心を持つ。
彼にもそうした一面があったから、娘を捜しながらクジラについて理解しようとした。
だが知ろうとすればするほど、真実が遠退いて行くような感覚があった。
真に理解するには何百年あっても足りないのではないかと思わせるほどだ。
「ドクターが造った飛行機でさえ飛んだのですから、これを飛ばす技術もあるのでは?」
「たしかに――うん……?」
一瞬、上機嫌になりかけた彼はすぐに怪訝な顔をした。
「私も興味はありますが――」
リエの口調は冷めていた。
「ドクターは娘さんを取り戻しに来たのでしょう? 考えるのは後でもいいと思いますよ」
こう言えたのは彼女が賢しいからではない。
カイロウには果たすべき確かな目的と、それを達成した後の生活があるからだ。
娘を取り戻す、は彼の人生の一時点での出来事でしかない。
無事に地上に戻れば、そこからは父と子の新たな人生が待っている。
それを実現すべく危険を冒して乗り込んだのだ。
今になって立ち止まる必要などない。
にもかかわらずあれこれと考えあぐね、目の前の階段を登ることにさえ躊躇する彼を、リエは見ていられなかった。
「まったく、きみの言うとおりだな」
カイロウは笑った。
「悪い癖が出てしまった」
詫びの意味も込めて彼は階段に足をかけた。
伝わってくる冷たく固い感触は、やはり生物のそれではない。
「………………」
有能な助手は複雑な笑みを浮かべ、彼に続いた。
辺りは不気味なほど静かだった。
物音ひとつしない空間には2人の足音だけが不規則に響く。
歩みを止めれば互いの息遣いさえ聞こえそうだ。
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