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16 楽園-9-
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(いや、人が入れるような大きさではないな……)
未知の技術が使われているのだろうか。
彼はさらに近づいてその脚部を見つめた。
ロボットとは思えないインパクトに気をとられて見逃していたが、外装は意外にも単純だと気付く。
銅板や鉄板を加工して貼り付けているようだ。
耐久性を増すために適度に丸みがついていて、部分部分はネジで留められている。
カイロウという男は自分の仕事にはプライドと責任感を持っている。
たとえ量産品といえども手掛けたパーツにはそれなりに愛着があったし、それゆえに手を抜くこともしなかった。
工業製品には厳格な規格があって、わずかでも適合しない場合は成果とはならないからだ。
その点を差し置いても、やはり天職だと思っているから傍目にはただの金属の板も、彼には特別なものに見えていた。
だからこそ分かったのだ。
人形を構成している体の一部が、自身が製造してレキシベル工業に納品したものであるということが。
ウォーレスでさえ指摘されなければ見落とすにちがいない。
彼は仕様書をカイロウに提示し、出来上がったパーツを受け取るだけだから、その細部までは注意を払わないだろう。
特殊仕様、という指示を与えられて作ったあの脚部には、製造者にしか分からない決定的な特徴がある。
カイロウはそれを見つけ、確信した。
(これを作るためだったのか……)
循環の秘密は概ね理解できた。
方舟に積み込む物資には、レキシベルが請け負った製品も含まれていたのだ。
これはつまり政府とクジラに直接的な繋がりがあることを示す、重要な証拠だ。
(ダージが拾ってきたあの銅板もこれで説明がつく)
彼は多くを得心した。
理解できないのは、この人形がとうやって作られているかくらいだ。
(どこかに工場があるのか? それとも地上で組み立ててから方舟に乗せているのか?)
人形はいくつかのカプセルを回った後、2人が入ってきた扉から出て行った。
再び静かになったところでリエがのっそりと立ち上がる。
「またあの人が追ってきたのかと思いましたよ……」
青白い顔で呟く彼女も人形を見たようである。
「いったい何ですか、あれは?」
「ロボット――以外の言葉が思いつかない」
「私が知っているのは玩具みたいなやつですよ」
ひとまず脅威は去ったらしいと知り、リエがため息をついた時だった。
カプセルのひとつが電子音を鳴らした。
少し間をおいて、ひとつ、またひとつと合唱を始める。
それらは先ほど、人形が操作していたものだった。
「とりあえず隠れましょう! さっきのが戻って来るかも――」
リエが言い終わる前に、最初に音を発したカプセルが開いた。
中に眠っていた男がゆっくりと起き上がり、緩慢な動きで這い出してくる。
数名の男女がそれに続く。
彼らは半分ほど開いた目で辺りを見回すと、人形を追いかけるように次々と部屋を出て行った。
「私たちのことは見えていないみたいでしたね」
リエは不満そうに言った。
「いや、それより死体が生き返ったぞ! 棺じゃなかったのか!?」
今度はカイロウの顔が青ざめていた。
人の死に触れたことは数度あるが、死者が蘇った話は聞いたことがない。
「死んではいませんよ。眠っているだけです」
「ずいぶん冷静だね……」
「人は死ねば時間の経過によって色々な変化が起こるんです。それらが全く見られなかったので」
「そ、そうか。そうかな……そういえばそうだな……」
彼もその程度は知識として持っていたが、最初に棺を連想してしまったせいでそこまで頭が回らなかった。
とはいえ生きていると分かれば気を張る必要はない。
「なぜ一部だけ起こしたのだろう?」
カイロウは開きっぱなしになっているカプセルを覗きこんだ。
「何か決まりごとのようなものがあるのかもしれませんね。ここのボタンを押せば眠っている人を起こせるみたいですが……」
「下手に触るのはよそう。それより確かめたいことがあるんだ。ロボットが戻って来る前に」
そう言うと彼は端から端まで順番にカプセルの中を見て回った。
リエに指摘されて改めて観察すると、たしかにどの顔も血色が良い。
こんな場所でなければ、心地良く昼寝をしているようにしか見えない。
部屋を一周した彼は嘆息した。
「ここには娘はいない……」
呟くのを聞いて、リエはそもそもクジラに乗り込んだ理由を思い出した。
「あの、気分を悪くしないでほしいのですが、娘さんをどうやって判別するんですか? 今だと6歳くらいのハズですが」
「特徴的なほくろがあるんだ。それを見ればすぐに分かる」
彼はすっかり落魄しているようだった。
「もしかしたらさっきの箱庭にいるのかもしれないな。かなり広かったから人もたくさんいるだろうし」
「戻るなら注意しないと、あのロボットと鉢合わせになる可能性が」
「たしかに……それに帰る手段も確保しなければ」
2人はよくよく検討した結果、ひとまず奥を目指すことにした。
進んでも引き返しても状況はさして変わらない。
ならばできる限り探索して全容をつかもうという考えだった。
もちろん、娘と帰還する手段を探すことも忘れない。
「行きましょう」
先頭を行くのはあくまでカイロウだったが、主導するのはリエの役目だった。
未知の技術が使われているのだろうか。
彼はさらに近づいてその脚部を見つめた。
ロボットとは思えないインパクトに気をとられて見逃していたが、外装は意外にも単純だと気付く。
銅板や鉄板を加工して貼り付けているようだ。
耐久性を増すために適度に丸みがついていて、部分部分はネジで留められている。
カイロウという男は自分の仕事にはプライドと責任感を持っている。
たとえ量産品といえども手掛けたパーツにはそれなりに愛着があったし、それゆえに手を抜くこともしなかった。
工業製品には厳格な規格があって、わずかでも適合しない場合は成果とはならないからだ。
その点を差し置いても、やはり天職だと思っているから傍目にはただの金属の板も、彼には特別なものに見えていた。
だからこそ分かったのだ。
人形を構成している体の一部が、自身が製造してレキシベル工業に納品したものであるということが。
ウォーレスでさえ指摘されなければ見落とすにちがいない。
彼は仕様書をカイロウに提示し、出来上がったパーツを受け取るだけだから、その細部までは注意を払わないだろう。
特殊仕様、という指示を与えられて作ったあの脚部には、製造者にしか分からない決定的な特徴がある。
カイロウはそれを見つけ、確信した。
(これを作るためだったのか……)
循環の秘密は概ね理解できた。
方舟に積み込む物資には、レキシベルが請け負った製品も含まれていたのだ。
これはつまり政府とクジラに直接的な繋がりがあることを示す、重要な証拠だ。
(ダージが拾ってきたあの銅板もこれで説明がつく)
彼は多くを得心した。
理解できないのは、この人形がとうやって作られているかくらいだ。
(どこかに工場があるのか? それとも地上で組み立ててから方舟に乗せているのか?)
人形はいくつかのカプセルを回った後、2人が入ってきた扉から出て行った。
再び静かになったところでリエがのっそりと立ち上がる。
「またあの人が追ってきたのかと思いましたよ……」
青白い顔で呟く彼女も人形を見たようである。
「いったい何ですか、あれは?」
「ロボット――以外の言葉が思いつかない」
「私が知っているのは玩具みたいなやつですよ」
ひとまず脅威は去ったらしいと知り、リエがため息をついた時だった。
カプセルのひとつが電子音を鳴らした。
少し間をおいて、ひとつ、またひとつと合唱を始める。
それらは先ほど、人形が操作していたものだった。
「とりあえず隠れましょう! さっきのが戻って来るかも――」
リエが言い終わる前に、最初に音を発したカプセルが開いた。
中に眠っていた男がゆっくりと起き上がり、緩慢な動きで這い出してくる。
数名の男女がそれに続く。
彼らは半分ほど開いた目で辺りを見回すと、人形を追いかけるように次々と部屋を出て行った。
「私たちのことは見えていないみたいでしたね」
リエは不満そうに言った。
「いや、それより死体が生き返ったぞ! 棺じゃなかったのか!?」
今度はカイロウの顔が青ざめていた。
人の死に触れたことは数度あるが、死者が蘇った話は聞いたことがない。
「死んではいませんよ。眠っているだけです」
「ずいぶん冷静だね……」
「人は死ねば時間の経過によって色々な変化が起こるんです。それらが全く見られなかったので」
「そ、そうか。そうかな……そういえばそうだな……」
彼もその程度は知識として持っていたが、最初に棺を連想してしまったせいでそこまで頭が回らなかった。
とはいえ生きていると分かれば気を張る必要はない。
「なぜ一部だけ起こしたのだろう?」
カイロウは開きっぱなしになっているカプセルを覗きこんだ。
「何か決まりごとのようなものがあるのかもしれませんね。ここのボタンを押せば眠っている人を起こせるみたいですが……」
「下手に触るのはよそう。それより確かめたいことがあるんだ。ロボットが戻って来る前に」
そう言うと彼は端から端まで順番にカプセルの中を見て回った。
リエに指摘されて改めて観察すると、たしかにどの顔も血色が良い。
こんな場所でなければ、心地良く昼寝をしているようにしか見えない。
部屋を一周した彼は嘆息した。
「ここには娘はいない……」
呟くのを聞いて、リエはそもそもクジラに乗り込んだ理由を思い出した。
「あの、気分を悪くしないでほしいのですが、娘さんをどうやって判別するんですか? 今だと6歳くらいのハズですが」
「特徴的なほくろがあるんだ。それを見ればすぐに分かる」
彼はすっかり落魄しているようだった。
「もしかしたらさっきの箱庭にいるのかもしれないな。かなり広かったから人もたくさんいるだろうし」
「戻るなら注意しないと、あのロボットと鉢合わせになる可能性が」
「たしかに……それに帰る手段も確保しなければ」
2人はよくよく検討した結果、ひとまず奥を目指すことにした。
進んでも引き返しても状況はさして変わらない。
ならばできる限り探索して全容をつかもうという考えだった。
もちろん、娘と帰還する手段を探すことも忘れない。
「行きましょう」
先頭を行くのはあくまでカイロウだったが、主導するのはリエの役目だった。
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