バンドの推しが偶然上司になりました~推し活続けるために内緒で部下を続けます

あきた

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第十五章

99・乾杯!

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 本社から浅田が帰って来てから暫くして、浅田の所属するバンド『バティスタ』とのコラボCMが発表された。
 結果は、すさまじくバズった。
 あっという間にバティスタは人気バンドになり、すでにワンマンツアーの予定も決まり、チケットはどこもソールドアウト。


「まさか、リーダーがあそこまでスゲー人気になるとは思ってなかったっす」
「いやー、イケメンはイケメンだったよね。時々残念だったけど」
「残念ってどういう意味。かっこよかったじゃん」

 会社からほど近いビジネス街の中にある、お洒落な居酒屋で、杏子、平目、鈴木の三人が集まっていた。

 浅田がバンド活動に本腰を入れる事になり、チーム浅田は解散となった。
 浅田のチームは、平目が引きつぐこととなり、鈴木は別の会社へ就職が決まり、杏子もまた、チーム浅田を離れる事となった。

「うぐちゃんは、結局ヴェロニカのBAやるんでしょ?」
「はい。バイトとしてもけっこう続いたし、店舗も人数も増やすって事で社員にしてもらえて。タイミング良かったです」

 今日はチーム浅田の、特に親しかった数人での送別会だ。

「平目ちゃんはすごいね。結局リーダーかあ」
「ま、向いてたってことですね。浅田リーダーのおかげで鍛えられたし。適当に入った会社でも、適職が見つかったならなによりですよ」
「鈴木君はスーツの会社?」
「そうなんす!仕立てもやってて、デザイナーもいるんです」

 そして杏子に近寄り、こそこそっと囁いた。

「まだ公式じゃないんですけど、バティスタとのコラボも進んでて」
「本当?かっこいいスーツ着せてほしいなあ」
「まかしといてください!」

 そう言って笑っていると、「おーい」と上からツッコミが入る。

「なにいちゃついてんだ。近づきすぎだぞ」
「うわ出た。かっこいい人が」

 現れたのは浅田、だったが、黒いキャップにサングラス。
 微妙に変装した姿だった。

「本当に来たんだ」

 驚く平目に「来るよ」と浅田は言った。

「だって可愛い初めての部下との会合ラストじゃん。寂しい」
「一番デカくなったひとがそれ言いますか」

 鈴木はそういって浅田とわざとらしく写真を撮った。

「コラボの話は?」
「進んでる。特に問題なかったら、またCMがあるよ」

 杏子はうっとりと妄想した。

「きっとかっこいいんだろうなあ、アベルのスーツ」
「アベルは俺だし、毎日スーツ姿見てたじゃん」
「アベルっていうより浅田リーダーだったんで。きっとCMだったらめちゃかっこいい効果とか使われるんだろうなあ」

 うっとりと言う杏子は、相変わらずバティスタの推しを続けている。

「うぐちゃんはゆるぎないよね」
「そりゃもう。推しも推しなんで」
「でもこのチーム、楽しかったっす!おかげで俺も、新しい会社にぐいぐい営業できたし。リーダーのスーツ、選んだの俺って言ったらすごいくいつき良かったし。バティスタ効果、まじすげっす」

 だから、まさか一応誘いはしたけれど、チームの送別会に来るとは思わなかった。

「俺だってこのチーム、すごい好きだったからね。彼女とも会えたし」
「それよ!いいっすねリーダー!それが一番の勝ち組だわ」
「なー、うぐちゃん」

 そういって杏子の肩を抱くが、杏子はメニューを真剣に眺めていた。

「やっぱからあげは2セット必要ですよね。このしょうゆ味としお味は鉄板だけど……ゆず胡椒……」
「ちょっと、いまめちゃかっこいい所なんだけど」
「すみません、アベル情報としてからあげはどれがいいか教えてください」
「ゆず胡椒のやつが好き。ってかうぐちゃんさあ」
「これで推し情報がまた増えましたぞ」

 フフフ、と微笑む杏子に、平目が苦笑した。

「うぐちゃん、本当にリーダーが推しなんだね」
「それはもう。推し活を思う存分できるのが嬉しいです」

 照れもあるけれど、一番は浅田の力になれているのはものすごく嬉しいのだ。
 頼んでいた飲み物が運ばれてきて、全員がグラスを持った。

「じゃ、チーム浅田の解散に?」

 浅田は首を横に振った。

「俺の結婚祝いに乾杯して?」

 浅田が言うと、杏子が驚いた。

「えっ、結婚するんですか?いつ?誰と?」

 浅田は苦笑して「きみ以外に誰がいんの」と答えた。

「断られたら、乾杯できないんだけどさ」

 杏子は思い切り頷いて「乾杯しましょう」とグラスを掲げた。
 居酒屋で、やたら賑やかな乾杯の声が響いた。
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