わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた

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第三章

15・旦那様

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「どのお部屋でも」
「はい」
「このフロア全部」
「ええそうです」

 そうして薄氷うすらいは優しく微笑んだ。

「狭いですか?」
「とんでもない!広すぎます!」

 ぶんぶんと首を横に振ると、そうですか、と薄氷は微笑んだ。

「ここは私のお気に入りのホテルでもあります。本当はここで暫く過ごしたいと思っていたのですが、ホテル暮らしより家があったほうがいいだろうと考えて、家を用意していたのですが。申し訳ないことに火事になってしまって」
「いえ、あの……旦那様が悪いわけじゃないので」

 キイロが言うと、薄氷は目を丸くした。

「それは私のことですよね?」
「そ、そうですけど」
「そうですよね?」
「あ、でも失礼だったでしょうか?まだ結婚式を挙げていなかったのに」
「いえ、問題ありません。私には」
「そうですか」

 間違っていなかったとキイロはほっとした。

「それより、この子の着替えとか、用意して貰えますか?」

 子供はやたら大人しくて、キイロはまるで人形を抱えているような気分だった。
 泣かないしぐずらないし、たまに甘えてくるくらいで。
 しかも話をしている間はじっと静かにしている。

「用意させていますよ。お急ぎならすぐに持ってこさせましょう」
「いえ、大丈夫です。その、気になったので」

 すると呼び鈴が鳴った。

「ああ、私が出ましょう」

 薄氷がドアを開けると、ホテルの給仕が入って来た。

「テーブルに軽食とお茶を用意させます。梅花さん、どうぞ妻と一緒に召しあがっていただけますか?」
「も、勿論です!ありがとうございます」

 話していると別の給仕が入って来て薄氷になにか囁いた。
 薄氷は頷く。

「申し訳ないが、急ぎの仕事がありますので、梅花さん、妻を任せても良いでしょうか?お帰りの際には馬車を用意させていますので、ご自由にお使いください」
「お気遣いありがとうございます。私も今夜には家に戻りますので、それまでお邪魔させていただきます」

 梅花の言葉に薄氷は感謝して「では」とホテルを出て行った。
 軽食の準備を終えた給仕が待っていたが、梅花が「ここはもういいわ」というと、給仕は小さく頭を下げて部屋を出て行った。

「梅花、ありがとう。私、なにをしたらいいのかさっぱりわからなくて」
「いいのよ。元、お嬢様の立場が役に立つなんて思わなかった」

 そういって梅花は笑った。

「このホテルも懐かしいわ。家族でよく来ていたけど。でもさすがに最上階は初めてね」
「そうなのね」
「ええ。このホテルは格式が高いの。例えいくらお金を払っても、この部屋を貸してくれるのは相当の立場じゃないと許されないわ」
「ご立派な方なのねえ」

 キイロは言うが、でもそのご立派な方がどうして自分を妻に欲しがるのかが判らない。

「なんだかばたばたしてばかり。ちゃんとお話が聞けるのっていつなのかしら」

 はあ、とため息をつくも、子供がぴょこんと起き上った。

「あら、おいしいものに気が付いたのかな」

 子供は目の前の軽食とお茶に興味津々のようで、キイロに「あれ」というように指で示した。

「食べたいのかな。はい」

 キイロが渡すと子供はあんしんして軽食のサンドイッチに食いついた。

「じゃ、私たちもいただきましょうキイロ。腹が減っては戦はできぬ!よ」
「そうね。おいしそうだし」

 いただきます、とキイロも軽食に手を伸ばした。


 ホテルから出て、薄氷は馬に乗り、ある場所へ向かった。

(全く、忙しい事だ)

 しかし、本来ならもっと時間がかかる所を、いますぐと強引にお願いしたのだから、自分が動くのは当然だ。
 よく知った道を抜け、薄氷は目的地へ到着した。
 煉瓦造りの門を通り過ぎ、知らぬものは公園かと勘違いする程の敷地内を抜け、やがてある屋敷前にたどり着く。
 馬を受けとりに来た従者に渡し、薄氷は出て来た執事へ尋ねた。

「伯爵は」
「すでにお待ちでございます」

 そういって中へ薄氷を案内した。
 灰色がかった薄水色の絨毯を踏み、薄氷は奥へ進んだ。
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