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第三章
16・旦那様は何者?
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お腹いっぱいになった子供が眠ってしまったので、キイロと梅花は二人で学生時代の思い出に花を咲かせた。
「懐かしいわね。いつか絶対に一緒に旅行に行こうって」
「言ってた。でも私には無理だから」
キイロの家族はキイロを奴隷のように働かせていたので、女学校に行くのも体面を気にしての事で、それでも貧乏暮しはバレていた。
そんなキイロを気遣ってくれていたのが梅花だ。
元々が良家の梅花の実家だが、没落してしまいいまは長屋暮らしとなっている。
「でも私は諦めてないわ。いまは長屋でも絶対にいつか、キイロと旅行に行ってみせるの」
「梅花……」
「大丈夫、いまの塾だって割と評判良いし、子供相手は苦手じゃないし。お金を溜めて、学校に帰って、いつかちゃんと教師の職も得られたら家族だって養えるんだから」
お嬢様育ちなのに、もしくはだからか、梅花には暗いところがない。
「私だって、いつ離縁されるか判ったものじゃないわ。誰かと間違えてるのかもしれないし」
そもそも、キイロはあの旦那様という存在を全く知らないのだ。
大事にされているのはなんとなくわかるが、その理由が全く判らない。
(誰かと間違えているんじゃないのかな)
それが一番納得がいく。
もしくは、他に誰かと結婚したいけど事情が許さないのでまずキイロを正妻に迎えたとか。
それを梅花に話すと梅花は呆れた。
「なに言ってるの?本気?」
「だって知らない人だし。一番考えたらしっくりくる理由なのよね」
「うーん、それは確かにそうかも」
キイロとは女学校時代にずっと一緒だった梅花も、キイロの夫になった薄氷の事は見たことがない。
ただ、社交界では必ず話題に上がるくらいの人だったので知っていただけだ。
「ねえ、梅花は知ってるんでしょ?あの薄氷さまって、一体、何者なの?」
キイロは疑問を素直に投げかけた。
「うーん、私も知ってるだけの事なら、薄氷家は宮家の一族で、皇族ともつながりが強いって事くらいかしら」
皇族の中にも宮家は、四方を守るという神事を司る一族があって、薄氷家もその一族だ。
「神事もだけど、国を守るという理由から、医療や法律、軍事や政治関係もその宮家出身者がかなり存在しているそうよ。ただ、私も詳しくは知らないわ。うちって割と成り上がりだから」
梅花の家は、ここ数代、商売で成り上がった家で、歴史ある八塩家の養子に入っていまの地位まで上り詰めた、というのはキイロも梅花に聞いて知っていた。
「多分、薄氷様がうちをご存じなのも、そこそこの家だったからでしょうね。安心して預けてくださって、ちょっと家の肩書に感謝するわ」
「なに言ってるの。八塩家はものすごく大きなお家で、ご両親も立派だし、すぐ再興できるわよ」
「うん、実は私もそう思ってる」
梅花の兄は現在、留学中なのだが、家のことは気にせずに留学を続けろと伝えているそうだ。
「兄が勉強を終えて帰ってきたら、絶対再興させるって父も、残っている従業員も言ってるの。だから私は私で、生計をたてなくちゃね」
さすが商家の娘、しっかりした考えだとキイロは感心した。
「忙しい梅花に、面倒を押し付けちゃって申し訳ないわ」
「なに言ってるの。友達はなによりの宝よ。それに、正直、キイロの旦那様が薄氷の君なら私はけっこう安心だわ。あの方、浮いた噂がひとつもないのよ。それにあの外見なのに、かなり生真面目な軍人気質の方だって」
「そうなのね」
夫なのに、なにひとつ彼の事を知らないキイロは梅花の話に頷く。
「とにかく、こんな素敵なホテルをすぐに用意してくれて、しかもお忙しそうなのに私まで気を使ってくれて。安心して良いんじゃない?」
「そうね。しかもこの子の事も知ってそうだし」
薄氷はこの子供を見た時、あからさまにほっとしていた。
(ひょっとして隠し子とか、または私が知らないだけで前の奥様との子供とか?)
「懐かしいわね。いつか絶対に一緒に旅行に行こうって」
「言ってた。でも私には無理だから」
キイロの家族はキイロを奴隷のように働かせていたので、女学校に行くのも体面を気にしての事で、それでも貧乏暮しはバレていた。
そんなキイロを気遣ってくれていたのが梅花だ。
元々が良家の梅花の実家だが、没落してしまいいまは長屋暮らしとなっている。
「でも私は諦めてないわ。いまは長屋でも絶対にいつか、キイロと旅行に行ってみせるの」
「梅花……」
「大丈夫、いまの塾だって割と評判良いし、子供相手は苦手じゃないし。お金を溜めて、学校に帰って、いつかちゃんと教師の職も得られたら家族だって養えるんだから」
お嬢様育ちなのに、もしくはだからか、梅花には暗いところがない。
「私だって、いつ離縁されるか判ったものじゃないわ。誰かと間違えてるのかもしれないし」
そもそも、キイロはあの旦那様という存在を全く知らないのだ。
大事にされているのはなんとなくわかるが、その理由が全く判らない。
(誰かと間違えているんじゃないのかな)
それが一番納得がいく。
もしくは、他に誰かと結婚したいけど事情が許さないのでまずキイロを正妻に迎えたとか。
それを梅花に話すと梅花は呆れた。
「なに言ってるの?本気?」
「だって知らない人だし。一番考えたらしっくりくる理由なのよね」
「うーん、それは確かにそうかも」
キイロとは女学校時代にずっと一緒だった梅花も、キイロの夫になった薄氷の事は見たことがない。
ただ、社交界では必ず話題に上がるくらいの人だったので知っていただけだ。
「ねえ、梅花は知ってるんでしょ?あの薄氷さまって、一体、何者なの?」
キイロは疑問を素直に投げかけた。
「うーん、私も知ってるだけの事なら、薄氷家は宮家の一族で、皇族ともつながりが強いって事くらいかしら」
皇族の中にも宮家は、四方を守るという神事を司る一族があって、薄氷家もその一族だ。
「神事もだけど、国を守るという理由から、医療や法律、軍事や政治関係もその宮家出身者がかなり存在しているそうよ。ただ、私も詳しくは知らないわ。うちって割と成り上がりだから」
梅花の家は、ここ数代、商売で成り上がった家で、歴史ある八塩家の養子に入っていまの地位まで上り詰めた、というのはキイロも梅花に聞いて知っていた。
「多分、薄氷様がうちをご存じなのも、そこそこの家だったからでしょうね。安心して預けてくださって、ちょっと家の肩書に感謝するわ」
「なに言ってるの。八塩家はものすごく大きなお家で、ご両親も立派だし、すぐ再興できるわよ」
「うん、実は私もそう思ってる」
梅花の兄は現在、留学中なのだが、家のことは気にせずに留学を続けろと伝えているそうだ。
「兄が勉強を終えて帰ってきたら、絶対再興させるって父も、残っている従業員も言ってるの。だから私は私で、生計をたてなくちゃね」
さすが商家の娘、しっかりした考えだとキイロは感心した。
「忙しい梅花に、面倒を押し付けちゃって申し訳ないわ」
「なに言ってるの。友達はなによりの宝よ。それに、正直、キイロの旦那様が薄氷の君なら私はけっこう安心だわ。あの方、浮いた噂がひとつもないのよ。それにあの外見なのに、かなり生真面目な軍人気質の方だって」
「そうなのね」
夫なのに、なにひとつ彼の事を知らないキイロは梅花の話に頷く。
「とにかく、こんな素敵なホテルをすぐに用意してくれて、しかもお忙しそうなのに私まで気を使ってくれて。安心して良いんじゃない?」
「そうね。しかもこの子の事も知ってそうだし」
薄氷はこの子供を見た時、あからさまにほっとしていた。
(ひょっとして隠し子とか、または私が知らないだけで前の奥様との子供とか?)
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