わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた

文字の大きさ
17 / 64
第三章

17・子供を守れ

しおりを挟む
 それでも子供に罪はないので、もし育てなくちゃいけなくても、可愛いからいいかな、とキイロは思った。

 ドアベルが鳴った。

「私、出るわ。はあい」

 梅花がドアを開けると、そこにホテルのボーイが立っていた。

「失礼します、こちらに薄氷の奥様がいらっしゃるとお聞きしたのですが」
「ええ、あちらに……きゃっ、」

 梅花が言い終わらないうちに、どかどかとボーイの後ろから警官が入って来た。
 なに?と驚くキイロはさっと子供を抱き上げる。

「いたぞ!あの子供だ!」

 警官が数人、勝手に部屋の中へ入り込んできた。

「なんですかあなたたち!」

 梅花が叫ぶも警官らは「うるさい!」と梅花を突き飛ばした。
 キイロは子供を抱えて、慌てて別の部屋へと駆け込んだ。

(よくわかんないけど、この子が狙われている!)

 子供を隠さなければ、とっさに考え、キイロはクローゼットに目をやった。

(ここだ!)

「ごめんね、静かにしててね」

 そう言うと子供をクローゼットに押し込み、そこらへんにあったクッションを胸の中へ押し込んだ。

「いたぞ!あの女だ!」

 まるで子供を抱えているかのように逃げ出すキイロを警察官が追いかけてくる。
 必死で子供の代わりのクッションをぎゅうぎゅうと抱きしめ、キイロは警察官の腕にかみついた。

「うあっ!この女め!」

 ばしっと頬を殴られたが、キイロは隙を見て逃げ出し、ドアを抜け、ホテルのエレベーターのボタンを押すと、階下へと流し、自分は非常階段へ向かった。

「エレベーターだ!」
「追いかけろ!」

 そういって別のエレベーターに乗り込む警察官を見送り、キイロは自分の部屋に戻った。
 なんとかまいたかな、とホテルのドアに鍵をかけた。

「梅花?大丈夫?」
「大丈夫でもないけどね。ったく、なんなの?」
「わかんない。警察官っぽかったけど、警察官なのかなんなのか」

 ふう、とキイロはため息をついて、隠した子供を迎えにクローゼットのある部屋へ戻ろうとした。
 その時だった。
 かちゃりと後頭部に、銃が突き付けられた。

「大人しくしてもらおうか」

 うわ、とキイロは両手をあげた。

(しまった、まだもう一人いたのか)

「知恵のまわる女だな。他の連中はあっさり騙されたらしいが、俺はそうはいかん」

 そうみたいだなーとキイロはため息をついた。

(しまったー、さすがに人数迄は把握できなかったや)

 キイロの胸元に押し込まれているのがクッションだと知ると、男は鼻で笑ってキイロに尋ねた。

「子供はどうした」
「さっき外に逃がしました」
「嘘をつくな。そんな隙はなかったはずだ。どこにいる」
「外です」
「よっぽど死にたいのか?」

 そう言われても、キイロはなぜか全く動じなかった。

(別に、生きている意味はない気がする)

 自分の人生を思い返しても、そんなに惜しいほどのことはないし、あの子供は、多分大事な子供なのだろう。
 ここで自分が死んで、時間が稼げるとは思わないが、子供を奪われなければなんとかなるかもしれないな。
 キイロは突然、くるっと向きを変えた。
 後頭部に押し付けられた銃が、額に向けられることになった。
 驚いたのは銃を向けた警官だ。
 いきなりキイロの顔を真正面から見据えることになり、たじろいだ。

「別に死にたいワケでもないけど、生きる価値も殆どないなって」
「キイロ?何言ってるの?」

 驚いたのは梅花だ。

「私より正直、あの子供の方が価値があるから狙われてるのは判るのよね」

 意味は全く分からないが、多分大事な子供なのはキイロにも判る。
 だったら、優先すべきは自分よりもあの子供だ。

「どうしたの?私を撃ったら子供の居場所がわかるとでも?」

 脅しても通用しないわよ、という風にキイロが言うと、警官はやや、躊躇った。

「お前、銃が怖くないのか?」
「よくわからないし怖いのかどうかも知らない」

 でも、いま自分がすべきことは命乞いじゃない。

 キイロは警官をまっすぐ睨んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』

チャチャ
ファンタジー
孤児院育ちの23歳女子・葛西ひまりは、ある日、不思議な本に導かれて異世界へ。 そこでは、アレルギー体質がウソのように治り、もふもふたちとふれあえる夢の生活が待っていた! 畑と料理、ちょっと不思議な魔法とあったかい人々——のんびりスローな新しい毎日が、今始まる。

そんな未来はお断り! ~未来が見える少女サブリナはこつこつ暗躍で成り上がる~

みねバイヤーン
ファンタジー
孤児の少女サブリナは、夢の中で色んな未来を見た。王子に溺愛される「ヒロイン」、逆ハーレムで嫉妬を買う「ヒドイン」、追放され惨めに生きる「悪役令嬢」。──だけど、どれもサブリナの望む未来ではなかった。「あんな未来は、イヤ、お断りよ!」望む未来を手に入れるため、サブリナは未来視を武器に孤児院の仲間を救い、没落貴族を復興し、王宮の陰謀までひっくり返す。すると、王子や貴族令嬢、国中の要人たちが次々と彼女に惹かれる事態に。「さすがにこの未来は予想外だったわ……」運命を塗り替えて、新しい未来を楽しむ異世界改革奮闘記。

【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました

きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。

処理中です...