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第四章
27・本妻と本命
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「突然そんな事を言われても」
キイロには全く判らなかった。
「わたし、自分はずっと蘇芳の人間だと信じていました」
「蘇芳家はそれなりの格式がある家です。でも、あなたとは相性があまりよろしくない。我々は水の一族になりますので」
キイロの義母の目の付け所は決して悪くない。
だが、あの頭の悪さはどうだ。
蘇芳家なら少々マシだと思っていたが、結局は偽装を何度も繰り返した挙句の全くの無関係な人間だった。
(今頃、蘇芳家は対応に追われているだろう)
「だからあなたと私は、同じ一族に間違いないのです。もしあなたの実のお母様が生きていらしたら、きっと我々の結婚も祝福していただけたに違いない」
頷く朧だったが、キイロは首を横に振った。
「突然そんな事を言われても、全く追いつきません。結婚といってもわけがわからないままに決まりましたし、どこへ嫁入りとも聞いていませんでしたし」
反抗なんてできる立場ではなかった。
「ただ、嫁ぎ先でごはんを食べる事が出来て、出来れば早急に離縁していただければ、とばかり考えていました」
「なぜですか?」
「私には、変な力があるから。どうせバレたら離縁なら、先に正直にお話して、あとはできれば働き口が見つかるまで置いていただければそれで良かったんです」
だから、とキイロは顔をあげた。
「この子を、私に育てさせてください」
「勿論、良いですよ。あなたの望みならなんでも叶えましょう」
「本当ですか?」
「ええ。ほかならぬあなたのお願いなら」
「でしたら、あの」
「はい」
「私が一人で稼げるようになるまで、ここで働かせていただくのは可能でしょうか?」
キイロは真剣に伝えたつもりだが、朧は暫く考えて「え?」と返すしかできなかった。
(この人はなにを言っているんだ?)
こういっては何だが、自分の外見にはそれなりの評価があるのは知っている。
悪くないとも思う。
俳優にならないか、と言われた事も何度もあるし、軍の宣伝に使われたのも一度や二度でもない。
女性からの人気だって凄まじかった。
そしてこの薄氷家の嫡男とあって、引く手あまたの自分であれば、決して不満なんかないだろうと。
ここまで来るのに必死で努力したし、それはすべて、この目の前の女性を妻に迎えたいという一念だけだった。
(―――――ひょっとして、私は、彼女の好み、ではないのか?)
そこまでは考えが至らなかった!
朧はがっかりした気持ちを隠しつつ、穏やかに尋ねた。
「私との結婚は、不満、ですか?」
「いえ、とんでもない。でも」
「でも?」
「朧さまの、奥様や本命の方がいらっしゃるんでしたらそのほうが」
なんでそんな発想になるのか、と朧は頭を抱えたくなった。
だけどせっかく目の前にいる妻になってくれた女性に対し、無駄な時間をかけたくない。
なにか誤解があるのかもしれないので必死に考えて尋ねた。
「私に本妻や本命がいると、なぜ思われたのですか?」
「だって、そんなにお美しくご立派なら、わたしを選ぶ理由がありません。同族というならむしろもっとご立派な家のお嬢様がいらっしゃるはずです」
キイロの言う事はもっともで、確かにそういった家の娘も居ない事はなかった。
「私が望んだのはあなただけですよ。昔からずっとそうです」
「人間違いでは」
「ないでしょう?写真は間違いなくあなたのはず」
それを言われると、キイロはそうなんだけど、と思ってしまう。
あの写真は間違いなくキイロ自身だ。
しかし、自分自身に覚えがないし、朧と会ったことがあるなら、覚えていないはずがないと思う。
(こんなに美しい人を、忘れるなんてことがあるかしら?)
「わたし、旦那様ほど美しい人を見たら絶対忘れないと思うんです。でも、覚えていないのは信じられなくて」
「言ったでしょう。あなたは名前を奪われた。その影響で記憶が定かではないのです」
そして静かに優しく言った。
「本妻も本命も、間違いなくあなたでしかありませんよ」
キイロは思わず赤くなった。
キイロには全く判らなかった。
「わたし、自分はずっと蘇芳の人間だと信じていました」
「蘇芳家はそれなりの格式がある家です。でも、あなたとは相性があまりよろしくない。我々は水の一族になりますので」
キイロの義母の目の付け所は決して悪くない。
だが、あの頭の悪さはどうだ。
蘇芳家なら少々マシだと思っていたが、結局は偽装を何度も繰り返した挙句の全くの無関係な人間だった。
(今頃、蘇芳家は対応に追われているだろう)
「だからあなたと私は、同じ一族に間違いないのです。もしあなたの実のお母様が生きていらしたら、きっと我々の結婚も祝福していただけたに違いない」
頷く朧だったが、キイロは首を横に振った。
「突然そんな事を言われても、全く追いつきません。結婚といってもわけがわからないままに決まりましたし、どこへ嫁入りとも聞いていませんでしたし」
反抗なんてできる立場ではなかった。
「ただ、嫁ぎ先でごはんを食べる事が出来て、出来れば早急に離縁していただければ、とばかり考えていました」
「なぜですか?」
「私には、変な力があるから。どうせバレたら離縁なら、先に正直にお話して、あとはできれば働き口が見つかるまで置いていただければそれで良かったんです」
だから、とキイロは顔をあげた。
「この子を、私に育てさせてください」
「勿論、良いですよ。あなたの望みならなんでも叶えましょう」
「本当ですか?」
「ええ。ほかならぬあなたのお願いなら」
「でしたら、あの」
「はい」
「私が一人で稼げるようになるまで、ここで働かせていただくのは可能でしょうか?」
キイロは真剣に伝えたつもりだが、朧は暫く考えて「え?」と返すしかできなかった。
(この人はなにを言っているんだ?)
こういっては何だが、自分の外見にはそれなりの評価があるのは知っている。
悪くないとも思う。
俳優にならないか、と言われた事も何度もあるし、軍の宣伝に使われたのも一度や二度でもない。
女性からの人気だって凄まじかった。
そしてこの薄氷家の嫡男とあって、引く手あまたの自分であれば、決して不満なんかないだろうと。
ここまで来るのに必死で努力したし、それはすべて、この目の前の女性を妻に迎えたいという一念だけだった。
(―――――ひょっとして、私は、彼女の好み、ではないのか?)
そこまでは考えが至らなかった!
朧はがっかりした気持ちを隠しつつ、穏やかに尋ねた。
「私との結婚は、不満、ですか?」
「いえ、とんでもない。でも」
「でも?」
「朧さまの、奥様や本命の方がいらっしゃるんでしたらそのほうが」
なんでそんな発想になるのか、と朧は頭を抱えたくなった。
だけどせっかく目の前にいる妻になってくれた女性に対し、無駄な時間をかけたくない。
なにか誤解があるのかもしれないので必死に考えて尋ねた。
「私に本妻や本命がいると、なぜ思われたのですか?」
「だって、そんなにお美しくご立派なら、わたしを選ぶ理由がありません。同族というならむしろもっとご立派な家のお嬢様がいらっしゃるはずです」
キイロの言う事はもっともで、確かにそういった家の娘も居ない事はなかった。
「私が望んだのはあなただけですよ。昔からずっとそうです」
「人間違いでは」
「ないでしょう?写真は間違いなくあなたのはず」
それを言われると、キイロはそうなんだけど、と思ってしまう。
あの写真は間違いなくキイロ自身だ。
しかし、自分自身に覚えがないし、朧と会ったことがあるなら、覚えていないはずがないと思う。
(こんなに美しい人を、忘れるなんてことがあるかしら?)
「わたし、旦那様ほど美しい人を見たら絶対忘れないと思うんです。でも、覚えていないのは信じられなくて」
「言ったでしょう。あなたは名前を奪われた。その影響で記憶が定かではないのです」
そして静かに優しく言った。
「本妻も本命も、間違いなくあなたでしかありませんよ」
キイロは思わず赤くなった。
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