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第六章
40・伯爵からのプレゼント
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「にげたら良いことがあるのか?」
「悪い事から逃げられる、かな」
キイロは力なく笑う。
思えば嫌な事ばかりで、父からも義母からも暴力を振るわれる事もあった。
義兄は知らんふりで、キイロは家の中に存在しないかのような扱いだった。
殴らないだけマシかと思ったが、無視しているのなら似たようなものだな、といまのキイロには判る。
ただそれも、ここに来るまでの話だ。
「りんちゃんは大丈夫ですよ。朧様が守ってくださるし。すぐに大きくなりそう」
そういって抱きかかえると、きゃーっと声をあげて喜んだ。
いきなり大きくなることを除けば、普通の子供と変わらない。
ただ、やたら甘ったれな感じはするが。
「ぎゃくじゃ、われは、みんなを守るのじゃ!」
「あら頼もしい」
「そうじゃ!なぜならわれは、おーりゅーじゃからの!」
おーりゅーとは一体なんなんだろう?と首を傾げるが、多分聞いても判らないので、そっか、とキイロは笑っていた。
「なにをわらう?しんじてないのか?」
「いえ、おーりゅーを知らないのです」
キイロが言うと、りんは「そうか」と初めて気が付いたような顔をした。
「しかたがない、しらないのはしかたがないことじゃ」
「ええ」
「われはやっとおーりゅーになれるんじゃ。さんぜんねんもかかったんじゃぞ」
「三千年……」
それは皇紀をも超える程の年数で、キイロは笑った。
「なにをわらう!ほんとうじゃぞ!」
「ええ、大丈夫です」
三千年かあ、そりゃ長いなあ、と思いながらキイロはりんを抱きしめる。
「だったら、三千歳のおとしよりかな?」
「ちがう。うまれかわったんじゃ」
「なるほど!」
生まれ変わったのなら、確かに三千歳ではない。
「じゃあ、いろんなことをご存じですね?」
「そうでもない、このせかいのことはまだまだじゃ」
そういってりんは絵本を差し出した。
「だからこの世界を知る!読め!」
「読んでください、ですよ」
「われはえらいのに」
「だからです。偉い人なら、偉いのですから、下の人には全部丁寧にしないといけないんです」
「そういうものか」
「そういうものです」
うん、と頷くキイロにりんは「わかった」と頷く。
「頼む。われにえほんをよんでください」
「まあ、合格です」
「ちゃんとやった」
「少しずつ、上手になりましょうね」
そういって頭を撫でると、りんは「うん!」と機嫌よく笑った。
外はざあ、と雨が降り続いている。
今日はお出かけができないけど、本を読んでいればいいか、とキイロは思った。
りんに絵本を読んでいると、暫くしてりんは飽きてしまい、部屋の中に置きっぱなしだった箱に興味を持った。
「あれを見たい!見せてくれ!」
「ええ、かまいませんけど」
朧から、あれは全部藍銅伯爵からキイロへのプレゼントと聞いている。
貰えないと慌てたキイロに『貰ってあげないと却って失礼ですよ』と言われ、渋々受け取ったものだ。
中身がなにかを知るのもちょっと怖くて、まだあけずにおいたのだが、りんはすっかり箱の中身に興味が沸いたらしい。
「あけてくれ!これはおまえのものじゃ!勝手にわれがあけられぬ!」
「そうですね。では、開けていきましょうか」
どうせ全部中身を見て、後日お礼を伝えなければならないと朧に聞いてたので、キイロはまず、りんが持っている箱を開けてみた。
サテンの美しいリボンが巻かれた箱で、この箱だけでも宝物にしたいくらい可愛かった。
「では、開けますよ」
丸い箱を開けると、そこに入っていたのは。
「……わあ」
柔らかな、美しいショールだった。
薄水色の布はまるで流れる滝を切り取ったかのような生地で、きらきらと光がこぼれるようだった。
「なんて綺麗」
びっくりするキイロに、りんは言った。
「それ!それをかぶってみて!」
「被る?こうかしら?」
キイロは布を頭の上からかぶると、りんは手を叩いて喜んだ。
「似合う!美しいな!」
「美しいって……」
ませたことをいうなあ、とキイロは思ったが、素直に褒め言葉に喜んだ。
「ありがとう」
「うむ!ほかのも見てみよう!」
キイロもなんだかワクワクして来た。
「悪い事から逃げられる、かな」
キイロは力なく笑う。
思えば嫌な事ばかりで、父からも義母からも暴力を振るわれる事もあった。
義兄は知らんふりで、キイロは家の中に存在しないかのような扱いだった。
殴らないだけマシかと思ったが、無視しているのなら似たようなものだな、といまのキイロには判る。
ただそれも、ここに来るまでの話だ。
「りんちゃんは大丈夫ですよ。朧様が守ってくださるし。すぐに大きくなりそう」
そういって抱きかかえると、きゃーっと声をあげて喜んだ。
いきなり大きくなることを除けば、普通の子供と変わらない。
ただ、やたら甘ったれな感じはするが。
「ぎゃくじゃ、われは、みんなを守るのじゃ!」
「あら頼もしい」
「そうじゃ!なぜならわれは、おーりゅーじゃからの!」
おーりゅーとは一体なんなんだろう?と首を傾げるが、多分聞いても判らないので、そっか、とキイロは笑っていた。
「なにをわらう?しんじてないのか?」
「いえ、おーりゅーを知らないのです」
キイロが言うと、りんは「そうか」と初めて気が付いたような顔をした。
「しかたがない、しらないのはしかたがないことじゃ」
「ええ」
「われはやっとおーりゅーになれるんじゃ。さんぜんねんもかかったんじゃぞ」
「三千年……」
それは皇紀をも超える程の年数で、キイロは笑った。
「なにをわらう!ほんとうじゃぞ!」
「ええ、大丈夫です」
三千年かあ、そりゃ長いなあ、と思いながらキイロはりんを抱きしめる。
「だったら、三千歳のおとしよりかな?」
「ちがう。うまれかわったんじゃ」
「なるほど!」
生まれ変わったのなら、確かに三千歳ではない。
「じゃあ、いろんなことをご存じですね?」
「そうでもない、このせかいのことはまだまだじゃ」
そういってりんは絵本を差し出した。
「だからこの世界を知る!読め!」
「読んでください、ですよ」
「われはえらいのに」
「だからです。偉い人なら、偉いのですから、下の人には全部丁寧にしないといけないんです」
「そういうものか」
「そういうものです」
うん、と頷くキイロにりんは「わかった」と頷く。
「頼む。われにえほんをよんでください」
「まあ、合格です」
「ちゃんとやった」
「少しずつ、上手になりましょうね」
そういって頭を撫でると、りんは「うん!」と機嫌よく笑った。
外はざあ、と雨が降り続いている。
今日はお出かけができないけど、本を読んでいればいいか、とキイロは思った。
りんに絵本を読んでいると、暫くしてりんは飽きてしまい、部屋の中に置きっぱなしだった箱に興味を持った。
「あれを見たい!見せてくれ!」
「ええ、かまいませんけど」
朧から、あれは全部藍銅伯爵からキイロへのプレゼントと聞いている。
貰えないと慌てたキイロに『貰ってあげないと却って失礼ですよ』と言われ、渋々受け取ったものだ。
中身がなにかを知るのもちょっと怖くて、まだあけずにおいたのだが、りんはすっかり箱の中身に興味が沸いたらしい。
「あけてくれ!これはおまえのものじゃ!勝手にわれがあけられぬ!」
「そうですね。では、開けていきましょうか」
どうせ全部中身を見て、後日お礼を伝えなければならないと朧に聞いてたので、キイロはまず、りんが持っている箱を開けてみた。
サテンの美しいリボンが巻かれた箱で、この箱だけでも宝物にしたいくらい可愛かった。
「では、開けますよ」
丸い箱を開けると、そこに入っていたのは。
「……わあ」
柔らかな、美しいショールだった。
薄水色の布はまるで流れる滝を切り取ったかのような生地で、きらきらと光がこぼれるようだった。
「なんて綺麗」
びっくりするキイロに、りんは言った。
「それ!それをかぶってみて!」
「被る?こうかしら?」
キイロは布を頭の上からかぶると、りんは手を叩いて喜んだ。
「似合う!美しいな!」
「美しいって……」
ませたことをいうなあ、とキイロは思ったが、素直に褒め言葉に喜んだ。
「ありがとう」
「うむ!ほかのも見てみよう!」
キイロもなんだかワクワクして来た。
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