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第七章
45・しあわせは苦しい
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「―――――おいしい」
甘くて冷たくて、ふわっと洋酒の香りもする。
「ほんとうに美味しいです」
「そうか!ありがたい」
青白が言った。
「お前らの披露宴の時には、是非俺を使ってくれ!これより、いや、人生で最高峰の作品を持ってお祝いしてやるからな!」
がはは、と青白は笑うが、こんな力強そうな人がこんなにも繊細なお菓子を作るのか、とキイロは感心した。
「キイロ、ねえこっちも食べてみて!ものすごく美味しいの!可愛くてこんなにもおいしいなんて!」
「え、ちょっと食べさせて」
梅花のほうは、最中とあんこ、そしてカラフルなお餅とアイスクリームのデザートだった。
「うわ、おいしい……!」
「でしょう?毎日でも食べたい!」
喜ぶ梅花とキイロに、今度はりんが言った。
「われも!われも食べる!」
りんが騒ぐので、梅花とキイロはりんにデザートを食べさせた。
りんはあんなにいつも偉そうにしているのに、ただの子供みたいに一生懸命デザートを頬張る。
「うまい!」
「良かったわね」
にこにこと見守るキイロを、朧がじっと見つめていた。
なんだろう、ときょとんとしていると、朧はデザートのクリームをすくって、キイロの前へ持って来た。
「どうぞ」
どうぞって、とキイロは困惑するが、朧が微笑んでいるのでこれは食べろということかな、とクリームを食べた。
「おいしいですか」
「はい、とても。甘いです」
「良かった」
微笑む朧の表情に、周りに居た女性からため息が漏れる。
「あら、お熱いのねご夫婦」
梅花が言うので、キイロは慌てたが、朧は満足そうに「幸せです」と頷く。
キイロは慌ててしまって、間が持たなくてデザートを次々口に頬張った。
(な、なんだか息が詰まる……!)
食べ過ぎてはいけないなと思いながら、朧の視線が恥ずかしくてついデザートの方へ目を向け、一生懸命食べる事に集中した。
やがて満腹になって、お茶を飲んでいると、店の中がまたざわっとした空気に包まれる。
なんだろうと思って顔をあげると、そこに居たのは。
「藍銅伯爵!」
「やあ、こちらに居ると聞いてね」
朧が椅子から立ち上がった。
「そちらへ向かうとお伝えしていましたが」
「うん、でも仕事がちょっと早く片付いたから。この店はよく来ているから、こっちに来てみようと思ってね」
そして用意された椅子に腰かけ、藍銅伯爵はキイロを見て目を細めた。
「ああ、よく似合っている。というか想像以上だね。とても可愛らしい」
「プレゼントをありがとうございました。あんなにたくさん素敵なものを」
「なにを言うんだね。君という娘がいるだけで、どんなに毎日が楽しくなったか」
にこにこと微笑む藍銅伯爵にキイロは驚く。
「君の事はよく知っているよ。だから朧が、君の父に選んでくれた事を嬉しいと思っていてね。こんなに可愛い娘なら尚更」
「あんまり独占しないで下さいよ」
「なにを言うんだね。もうすぐ嫁にやるから寂しいじゃないか」
むくれる藍銅伯爵に、朧は呆れて言った。
「そんな乗り気じゃなかったくせに」
「いまは乗り気だよ。だからこんなに浮かれているんだろう?」
楽しそうな二人に、キイロは胸が熱くなる。
こんなにもよくしてもらえる理由が判らない。
働き場所さえなんとかすれば、すぐに出て行く。
だから暫く置いて欲しい。
夫になる人にそう言えば、少しは置いてくれるだろうか。
せめて奴隷扱いはされずに済むだろうか。
そんなことばかり考えていたのに。
「どうしました?」
「いえ。あまりに幸せで」
「おや、そんなにこの店のデザートは口にあったかね?」
藍銅伯爵を見ると、全て判っているような瞳でじっと見つめられた。
「―――――はい、」
キイロは笑顔で頷く。
「なにもかも、朧様のおかげです」
覚えていない自分だというのに、こんなにもよくして貰えるなんて。
甘くて冷たくて、ふわっと洋酒の香りもする。
「ほんとうに美味しいです」
「そうか!ありがたい」
青白が言った。
「お前らの披露宴の時には、是非俺を使ってくれ!これより、いや、人生で最高峰の作品を持ってお祝いしてやるからな!」
がはは、と青白は笑うが、こんな力強そうな人がこんなにも繊細なお菓子を作るのか、とキイロは感心した。
「キイロ、ねえこっちも食べてみて!ものすごく美味しいの!可愛くてこんなにもおいしいなんて!」
「え、ちょっと食べさせて」
梅花のほうは、最中とあんこ、そしてカラフルなお餅とアイスクリームのデザートだった。
「うわ、おいしい……!」
「でしょう?毎日でも食べたい!」
喜ぶ梅花とキイロに、今度はりんが言った。
「われも!われも食べる!」
りんが騒ぐので、梅花とキイロはりんにデザートを食べさせた。
りんはあんなにいつも偉そうにしているのに、ただの子供みたいに一生懸命デザートを頬張る。
「うまい!」
「良かったわね」
にこにこと見守るキイロを、朧がじっと見つめていた。
なんだろう、ときょとんとしていると、朧はデザートのクリームをすくって、キイロの前へ持って来た。
「どうぞ」
どうぞって、とキイロは困惑するが、朧が微笑んでいるのでこれは食べろということかな、とクリームを食べた。
「おいしいですか」
「はい、とても。甘いです」
「良かった」
微笑む朧の表情に、周りに居た女性からため息が漏れる。
「あら、お熱いのねご夫婦」
梅花が言うので、キイロは慌てたが、朧は満足そうに「幸せです」と頷く。
キイロは慌ててしまって、間が持たなくてデザートを次々口に頬張った。
(な、なんだか息が詰まる……!)
食べ過ぎてはいけないなと思いながら、朧の視線が恥ずかしくてついデザートの方へ目を向け、一生懸命食べる事に集中した。
やがて満腹になって、お茶を飲んでいると、店の中がまたざわっとした空気に包まれる。
なんだろうと思って顔をあげると、そこに居たのは。
「藍銅伯爵!」
「やあ、こちらに居ると聞いてね」
朧が椅子から立ち上がった。
「そちらへ向かうとお伝えしていましたが」
「うん、でも仕事がちょっと早く片付いたから。この店はよく来ているから、こっちに来てみようと思ってね」
そして用意された椅子に腰かけ、藍銅伯爵はキイロを見て目を細めた。
「ああ、よく似合っている。というか想像以上だね。とても可愛らしい」
「プレゼントをありがとうございました。あんなにたくさん素敵なものを」
「なにを言うんだね。君という娘がいるだけで、どんなに毎日が楽しくなったか」
にこにこと微笑む藍銅伯爵にキイロは驚く。
「君の事はよく知っているよ。だから朧が、君の父に選んでくれた事を嬉しいと思っていてね。こんなに可愛い娘なら尚更」
「あんまり独占しないで下さいよ」
「なにを言うんだね。もうすぐ嫁にやるから寂しいじゃないか」
むくれる藍銅伯爵に、朧は呆れて言った。
「そんな乗り気じゃなかったくせに」
「いまは乗り気だよ。だからこんなに浮かれているんだろう?」
楽しそうな二人に、キイロは胸が熱くなる。
こんなにもよくしてもらえる理由が判らない。
働き場所さえなんとかすれば、すぐに出て行く。
だから暫く置いて欲しい。
夫になる人にそう言えば、少しは置いてくれるだろうか。
せめて奴隷扱いはされずに済むだろうか。
そんなことばかり考えていたのに。
「どうしました?」
「いえ。あまりに幸せで」
「おや、そんなにこの店のデザートは口にあったかね?」
藍銅伯爵を見ると、全て判っているような瞳でじっと見つめられた。
「―――――はい、」
キイロは笑顔で頷く。
「なにもかも、朧様のおかげです」
覚えていない自分だというのに、こんなにもよくして貰えるなんて。
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