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第十一章
71・おおきな屋敷の中
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薄氷の屋敷で過ごすことが増え、キイロは日々の生活に慣れつつあった。
(それにしても、なんて広いんだろ)
薄氷の屋敷はすざまじく広く、しかも似たような部屋ばかりなのでいまだに迷ってしまう。
今日も自室に帰ろうと思っているのに案の定、迷ってしまって困り果てた。
「もう、ここは一体どこなの」
多分、キイロの人生で一番おおきなお屋敷に違いない。
どこだ、と考えながら歩いていると、通りすがりの女中が頭を下げた。
「あ、あの、すみません!」
「はい、なんでしょうかムーラン様」
「えーと、……私の部屋はどこなのでしょう?」
「ご案内いたします」
さっとキイロにそう告げてくれるが、キイロはまたやってしまったとやや自己嫌悪だ。
薄氷の屋敷で働く女中は当然仕事中なわけであって、毎日のように迷子になるキイロの面倒をみるわけにはいかないというのに。
「本当にすみません。なかなか覚えられなくて」
「いえ、ムーラン様のご希望は全て通せと言われておりますので」
「はは……」
思わず力なく笑ってしまった。
これまでの生活が嘘のようだと思うのだけど、今の生活も逆の意味で嘘のようだ。
毎日お腹がすいてどうしようもなかった生活から、なんでも好きなものが食べられる生活だ。
(贅沢すぎて逆についていけないわ)
ありがたいのはありがたいけど、どうやって過ごせばいいのか困ってしまう。
毎日の仕事と言えば、りんの面倒を見る事くらいなのだが。
「キイロ―!丁度良かった!探してたのよ」
「梅花」
梅花がいれば安心だ。
もう部屋まで帰れると、キイロは女中に「下がって大丈夫です」と伝えると、女中は頷き、その場を去った。
梅花は風呂敷包みを抱えていた。
風呂敷の中には、瓶が包まれている。
「それなに?」
キイロが尋ねた。
「さっき青白さんがソーダを持ってきてくれたの!りんちゃんにって」
ほら、と梅花が抱えてみせた。
お酒かな、と思ったがソーダが入っているらしい。
「本当に毎日、持ってきてくれるのね」
ソーダ水が気に入ったりんは、毎日のみたい!と駄々をこね、結局朧の親友である青白が毎日、持ってきてくれている。
「できたての瓶詰ソーダ!とってもしゅわしゅわしてるの。キイロも飲みましょうよ!」
「そうねえ。うん、飲みましょうか」
そういって二人で部屋に戻ると、すでにりんが椅子に座って待っていた。
「届いたか!」
「ええ。お待ちかねのソーダですよ」
「待っておったぞ!」
うきうきしながらりんが喜んでいる。
あれから、りんの外見は大人のままだ。
ソーダをグラスに注いで、「いただきます!」と喜んでごくごく飲んでいる。
「ぷはあー!うまい!やはりたまらんな!」
キイロも梅花もソーダを貰い、ちょっとずつ飲んでいく。
「青白さんのソーダはとてもおいしいわね。っていうか、わたし、あんまりソーダってそこまで知らないけど」
貧乏暮らしの長いキイロが言うと、梅花が頷く。
「間違いなく青白さんのソーダが世界で一番おいしいわよ!こんなに炭酸がたくさん入って、ほのかな甘みと上品な香り、人気店なのわかるわ」
ほう、と梅花も満足そうに頷く。
「朧様のおかげで、毎日こんな贅沢をさせて貰って。なんだか申し訳ないわ」
キイロが言うと梅花が「なに言ってんの」と呆れた。
「素直に受け取っていればいいのよ。キイロ、あなたって物凄く苦労していたもの。このくらい当然よ」
「うーん、確かに苦労はそこそこしてると思うけど」
でも、似たような貧乏暮らしの子は、まわりにいくらでもいた。
キイロは家がそれなりの規模なのに、一人だけ、という点はおかしかったが、キイロに子守をさせてくれ、小遣いをわけてくれた近所の若い奥さんらだって決して生活は楽じゃなかった。
「私の場合は、苦労がむくわれたっていうより、本当にたまたま朧様が居たから、でしかないし」
「もう、いいかげんもっと贅沢に慣れなさいよ」
梅花は笑っていたが、ふと、あることを思い出した。
「そういえば、あなたに言おうと思っていたんだけど」
(それにしても、なんて広いんだろ)
薄氷の屋敷はすざまじく広く、しかも似たような部屋ばかりなのでいまだに迷ってしまう。
今日も自室に帰ろうと思っているのに案の定、迷ってしまって困り果てた。
「もう、ここは一体どこなの」
多分、キイロの人生で一番おおきなお屋敷に違いない。
どこだ、と考えながら歩いていると、通りすがりの女中が頭を下げた。
「あ、あの、すみません!」
「はい、なんでしょうかムーラン様」
「えーと、……私の部屋はどこなのでしょう?」
「ご案内いたします」
さっとキイロにそう告げてくれるが、キイロはまたやってしまったとやや自己嫌悪だ。
薄氷の屋敷で働く女中は当然仕事中なわけであって、毎日のように迷子になるキイロの面倒をみるわけにはいかないというのに。
「本当にすみません。なかなか覚えられなくて」
「いえ、ムーラン様のご希望は全て通せと言われておりますので」
「はは……」
思わず力なく笑ってしまった。
これまでの生活が嘘のようだと思うのだけど、今の生活も逆の意味で嘘のようだ。
毎日お腹がすいてどうしようもなかった生活から、なんでも好きなものが食べられる生活だ。
(贅沢すぎて逆についていけないわ)
ありがたいのはありがたいけど、どうやって過ごせばいいのか困ってしまう。
毎日の仕事と言えば、りんの面倒を見る事くらいなのだが。
「キイロ―!丁度良かった!探してたのよ」
「梅花」
梅花がいれば安心だ。
もう部屋まで帰れると、キイロは女中に「下がって大丈夫です」と伝えると、女中は頷き、その場を去った。
梅花は風呂敷包みを抱えていた。
風呂敷の中には、瓶が包まれている。
「それなに?」
キイロが尋ねた。
「さっき青白さんがソーダを持ってきてくれたの!りんちゃんにって」
ほら、と梅花が抱えてみせた。
お酒かな、と思ったがソーダが入っているらしい。
「本当に毎日、持ってきてくれるのね」
ソーダ水が気に入ったりんは、毎日のみたい!と駄々をこね、結局朧の親友である青白が毎日、持ってきてくれている。
「できたての瓶詰ソーダ!とってもしゅわしゅわしてるの。キイロも飲みましょうよ!」
「そうねえ。うん、飲みましょうか」
そういって二人で部屋に戻ると、すでにりんが椅子に座って待っていた。
「届いたか!」
「ええ。お待ちかねのソーダですよ」
「待っておったぞ!」
うきうきしながらりんが喜んでいる。
あれから、りんの外見は大人のままだ。
ソーダをグラスに注いで、「いただきます!」と喜んでごくごく飲んでいる。
「ぷはあー!うまい!やはりたまらんな!」
キイロも梅花もソーダを貰い、ちょっとずつ飲んでいく。
「青白さんのソーダはとてもおいしいわね。っていうか、わたし、あんまりソーダってそこまで知らないけど」
貧乏暮らしの長いキイロが言うと、梅花が頷く。
「間違いなく青白さんのソーダが世界で一番おいしいわよ!こんなに炭酸がたくさん入って、ほのかな甘みと上品な香り、人気店なのわかるわ」
ほう、と梅花も満足そうに頷く。
「朧様のおかげで、毎日こんな贅沢をさせて貰って。なんだか申し訳ないわ」
キイロが言うと梅花が「なに言ってんの」と呆れた。
「素直に受け取っていればいいのよ。キイロ、あなたって物凄く苦労していたもの。このくらい当然よ」
「うーん、確かに苦労はそこそこしてると思うけど」
でも、似たような貧乏暮らしの子は、まわりにいくらでもいた。
キイロは家がそれなりの規模なのに、一人だけ、という点はおかしかったが、キイロに子守をさせてくれ、小遣いをわけてくれた近所の若い奥さんらだって決して生活は楽じゃなかった。
「私の場合は、苦労がむくわれたっていうより、本当にたまたま朧様が居たから、でしかないし」
「もう、いいかげんもっと贅沢に慣れなさいよ」
梅花は笑っていたが、ふと、あることを思い出した。
「そういえば、あなたに言おうと思っていたんだけど」
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