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第十一章
75・恋の話
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「でも、幼い頃の事ですよ?朧様は立派な方だし、私がいくらその、古い家の出身と言っても何も知らないわけですし」
「自分が『立派』だなんて思った事はありません。むしろ子供の頃は意味も分からずしなければならないことばかりで不安でした。あなたに初めて会った時も、意味も分からず儀式を受けて、ただ怖くて不安だった。大人になった今なら、別になんてことはないと判るのですが」
ふっと朧は微笑んだ。
「あなただけが、不安な僕をそのまま慰めてくれたのです。どんなに救われたか。だから僕は『あの頃のあなた』の為に生きて来た。ずっと探して探して……やっと見つけた時、どうしようか、と一瞬思いました。もしあなたが、あの頃と全く違ったら。でもそんなことはどうでもいい、と思ったんです」
「なぜですか?」
「多分僕は、変わってしまったあなたこそ、どうしてそうなったのかを知りたいと思ったからです。そしてあの頃のあなたが、あなたの中にいないとしても、僕の中にはある。それが壊れない限り、絶対に僕はあなたを愛するからと判っていたから」
そして続けた。
「理屈じゃない、というより、それが理屈かな。僕はあの頃のあなたをずっと愛しているし、あなたの中にはそれがある。いまのあなたを見ていても、あの頃のあなたを感じるのです。それだけでも、毎日どんなに幸福か、あなたにはわからないかもしれませんね」
キイロはちょっと困ってしまった。
正直に言うなら、立派な家というより、毎日食事と布団に困らないということばかり、頭のなかにあるからだ。
(なんだかちょっと恥ずかしいな)
愛されるというのはわかるけれど、自分は朧の思うような幼い頃のやさしさはいま、あるだろうか、と思うとちょっと自信がない。
「多分、小さい頃のわたしのほうが立派です」
「おや」
「きっと、いまはなんていうか。貧乏暮らしが染みついて、朧様はあとから呆れるかも」
「もしそうでも、後からの話です」
ふふっと朧はなにを気にする事もなく笑った。
「あとからがっかりする楽しみがありますね」
「がっかりするのが楽しみって」
朧ってちょっと変な人なのかな?とキイロが思うと朧は楽しそうに笑っている。
「からかっているのですか?」
「いいえ。でもそう思われたならごめんなさい」
余裕で笑っている朧に、キイロはもう、とちょっと呆れたのだが。
「あ、いけない!朧様に用事があったのに、すっかり忘れてしまってた」
「そういえば言ってましたね。どうしました?」
キイロは頷き、梅花から聞いたことをそのまま伝えた。
潤朱の誰かが船上で結婚を企んでいるかもしれない。
そしてそれを先導しているのがひょっとして思ではないかと。
「その噂は知っています。舛花がよく調べてくれています」
「もうご存じだったんですね」
「ええ。どこから出た情報なのか調べさせていますが、ひょっとしたら梅花さんのお兄さんのほうが詳しいかもしれないな。軍では限界がありますが、商人ならこっちの知らないルートも知っているかもしれない」
「梅花はお兄さんにお願いしてるそうです」
「だったら直接そっちと繋がったほうが早いかもしれないな。まったく、何を考えているんだ思は」
面倒そうに言う朧に、キイロは思い切って尋ねた。
「朧様は、思様と幼馴染だったんですよね?」
「ええ」
「だったら、どうしてお付き合いとかの可能性がなかったのですか?」
思は気が強いが美しい女性だ。
朧と一緒に居ても、なんとなくお似合いな雰囲気すらある。
我儘なお姫様といったふうだが、そのぶん派手な朧と一緒に居ても、違和感はない。
「あなたがそれを言うのですか?僕には思と出逢う前に、あなたに恋をしていたからですよ」
朧の言葉に、恋、とキイロは繰り返した。
「自分が『立派』だなんて思った事はありません。むしろ子供の頃は意味も分からずしなければならないことばかりで不安でした。あなたに初めて会った時も、意味も分からず儀式を受けて、ただ怖くて不安だった。大人になった今なら、別になんてことはないと判るのですが」
ふっと朧は微笑んだ。
「あなただけが、不安な僕をそのまま慰めてくれたのです。どんなに救われたか。だから僕は『あの頃のあなた』の為に生きて来た。ずっと探して探して……やっと見つけた時、どうしようか、と一瞬思いました。もしあなたが、あの頃と全く違ったら。でもそんなことはどうでもいい、と思ったんです」
「なぜですか?」
「多分僕は、変わってしまったあなたこそ、どうしてそうなったのかを知りたいと思ったからです。そしてあの頃のあなたが、あなたの中にいないとしても、僕の中にはある。それが壊れない限り、絶対に僕はあなたを愛するからと判っていたから」
そして続けた。
「理屈じゃない、というより、それが理屈かな。僕はあの頃のあなたをずっと愛しているし、あなたの中にはそれがある。いまのあなたを見ていても、あの頃のあなたを感じるのです。それだけでも、毎日どんなに幸福か、あなたにはわからないかもしれませんね」
キイロはちょっと困ってしまった。
正直に言うなら、立派な家というより、毎日食事と布団に困らないということばかり、頭のなかにあるからだ。
(なんだかちょっと恥ずかしいな)
愛されるというのはわかるけれど、自分は朧の思うような幼い頃のやさしさはいま、あるだろうか、と思うとちょっと自信がない。
「多分、小さい頃のわたしのほうが立派です」
「おや」
「きっと、いまはなんていうか。貧乏暮らしが染みついて、朧様はあとから呆れるかも」
「もしそうでも、後からの話です」
ふふっと朧はなにを気にする事もなく笑った。
「あとからがっかりする楽しみがありますね」
「がっかりするのが楽しみって」
朧ってちょっと変な人なのかな?とキイロが思うと朧は楽しそうに笑っている。
「からかっているのですか?」
「いいえ。でもそう思われたならごめんなさい」
余裕で笑っている朧に、キイロはもう、とちょっと呆れたのだが。
「あ、いけない!朧様に用事があったのに、すっかり忘れてしまってた」
「そういえば言ってましたね。どうしました?」
キイロは頷き、梅花から聞いたことをそのまま伝えた。
潤朱の誰かが船上で結婚を企んでいるかもしれない。
そしてそれを先導しているのがひょっとして思ではないかと。
「その噂は知っています。舛花がよく調べてくれています」
「もうご存じだったんですね」
「ええ。どこから出た情報なのか調べさせていますが、ひょっとしたら梅花さんのお兄さんのほうが詳しいかもしれないな。軍では限界がありますが、商人ならこっちの知らないルートも知っているかもしれない」
「梅花はお兄さんにお願いしてるそうです」
「だったら直接そっちと繋がったほうが早いかもしれないな。まったく、何を考えているんだ思は」
面倒そうに言う朧に、キイロは思い切って尋ねた。
「朧様は、思様と幼馴染だったんですよね?」
「ええ」
「だったら、どうしてお付き合いとかの可能性がなかったのですか?」
思は気が強いが美しい女性だ。
朧と一緒に居ても、なんとなくお似合いな雰囲気すらある。
我儘なお姫様といったふうだが、そのぶん派手な朧と一緒に居ても、違和感はない。
「あなたがそれを言うのですか?僕には思と出逢う前に、あなたに恋をしていたからですよ」
朧の言葉に、恋、とキイロは繰り返した。
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