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第三章・薊と瑠璃
21・恋をしている目
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すでに誰もが眠っている深夜、車を使ったわけでもないのにわざわざ車庫から隠れるように薊は屋敷へ入った。
「おかえりなさいませ」
たった一人、待っていたボーイが薊に頭を下げる。
「うん、ただいま。なにか変わった事は?」
「御心配なく、ただ、ライシャンが」
「―――――ああ、」
それだけで薊は頷いた。
「わかった。ありがとう」
そういって薊は部屋へ向かう廊下を歩く。
暫くすると、誰かが腕を組み、壁のようへ寄って立っていた。
夜来香だった。
「まだ寝てなかったのか」
「一体どこに行ってたの」
「散歩みたいなものかな」
「あの嬢ちゃんの所でしょ」
ふんと夜来香は鼻を鳴らした。
「アジ―らしくない。どうしてあんな小娘に夢中なの」
「商売の話だ。この先、あの娘の家がどうしても商売の障壁になる。だからだ」
「どこまで本当だか」
残念ながら、どこまでも本当だった。
薊の仕事を遂行するためには、どうしても瑠璃の家と衝突するしかなくなる。
どうにもならない規模の話だ。
「お前の考えているようなことはなにもないよ。どっちにしろあの子の家とは戦う羽目になる。それまで、こちらに用心されちゃ溜まったもんじゃないだろう」
「そりゃそうかもしれないけどさ!」
「お前はどうした。らしくない態度をとるんだな」
「だってアジ―、まるで恋におちてるみたいだからさ」
ライシャンに言われ、薊は噴出した。
「ハハッ!お前にそんな風に言われるとはな」
「あんたの目、まっとうじゃないわよ。いつものアジ―とは全然違う。どうしてあの子を見ている時は正気じゃなくなるのよ」
「だとしたら、そう見えるだけだ」
「そうは見えない!」
「お前の知らない俺だってあるさ。知らない記憶の中の感傷がそうさせるのかもな」
薊はそう言うとライシャンの肩を叩いた。
「お前の心配するような事じゃない」
「でも……」
そういってライシャンは薊に寄りかかるが、薊は手で押しのけた。
「疲れているんだ。悪いな」
「―――――そう、おやすみなさい」
「おやすみ」
そういって薊はそのまま、振り返りもせずに部屋へ戻って行った。
(さて、どうするか)
この先、瑠璃の家とどうかかわって、薊の抱えるいくつもの仕事をどうやって処理するか。
(うまくいかせることができなければ)
こっちもあちらも共倒れだ。
それだけはどうにか避けたいが。
そして瑠璃の身も危なくなる。
(ただでさえ面倒だというのに)
あのしつこそうな佐貫が諦めるとは思わない。
だったら、強引にでも手を打つしかないか。
薊は溜息をついて、この先どうするかを考えながら目を閉じた。
女学校が終わり、いつものように団子を買い、瑠璃は神社へ向かった。
かけあしで石段を上るとすでに薊が、ではなくそこに居たのは万葉だった。
「よう、嬢ちゃん」
「万葉さん?薊さんは?」
「あいつはちょっと仕事が忙しくてね」
「そうなんですか」
ちょっと聞きたいことがあったのだが、と困っていると万葉が尋ねた。
「なにか用事でも?」
「ええ。この前お借りした着物をお返しできるので、持ってきて良いかどうかをお尋ねしたかったんですけど」
「着物はここに?」
「いえ、いまから帰ったら出来上がっているはずなので、お届けにあがろうかと」
フーンと万葉は頷いた。
「じゃあ、いまから行くか?」
「え?」
「嬢ちゃんはお参りがもう済んだろ?だったらこれから家に帰るんだよな?」
「はい」
「俺もあいつん家に行く用事があったんだ。今日は嬢ちゃんへ伝言で来ただけでさ」
「そうだったんですか」
わざわざ、自分の為に来れない場合でも頼んでくれたとは。
「薊さんって親切な方なんですね」
「―――――さあ、それはどうかな」
万葉は笑いながら、それでもあまり感情のこもらない声でそう答えた。
「ま、どうせあいつの所に行くんだ。まずは嬢ちゃんの家に行くか」
「あ、はい」
瑠璃は頷き、万葉と一緒に自宅へと向かった。
「おかえりなさいませ」
たった一人、待っていたボーイが薊に頭を下げる。
「うん、ただいま。なにか変わった事は?」
「御心配なく、ただ、ライシャンが」
「―――――ああ、」
それだけで薊は頷いた。
「わかった。ありがとう」
そういって薊は部屋へ向かう廊下を歩く。
暫くすると、誰かが腕を組み、壁のようへ寄って立っていた。
夜来香だった。
「まだ寝てなかったのか」
「一体どこに行ってたの」
「散歩みたいなものかな」
「あの嬢ちゃんの所でしょ」
ふんと夜来香は鼻を鳴らした。
「アジ―らしくない。どうしてあんな小娘に夢中なの」
「商売の話だ。この先、あの娘の家がどうしても商売の障壁になる。だからだ」
「どこまで本当だか」
残念ながら、どこまでも本当だった。
薊の仕事を遂行するためには、どうしても瑠璃の家と衝突するしかなくなる。
どうにもならない規模の話だ。
「お前の考えているようなことはなにもないよ。どっちにしろあの子の家とは戦う羽目になる。それまで、こちらに用心されちゃ溜まったもんじゃないだろう」
「そりゃそうかもしれないけどさ!」
「お前はどうした。らしくない態度をとるんだな」
「だってアジ―、まるで恋におちてるみたいだからさ」
ライシャンに言われ、薊は噴出した。
「ハハッ!お前にそんな風に言われるとはな」
「あんたの目、まっとうじゃないわよ。いつものアジ―とは全然違う。どうしてあの子を見ている時は正気じゃなくなるのよ」
「だとしたら、そう見えるだけだ」
「そうは見えない!」
「お前の知らない俺だってあるさ。知らない記憶の中の感傷がそうさせるのかもな」
薊はそう言うとライシャンの肩を叩いた。
「お前の心配するような事じゃない」
「でも……」
そういってライシャンは薊に寄りかかるが、薊は手で押しのけた。
「疲れているんだ。悪いな」
「―――――そう、おやすみなさい」
「おやすみ」
そういって薊はそのまま、振り返りもせずに部屋へ戻って行った。
(さて、どうするか)
この先、瑠璃の家とどうかかわって、薊の抱えるいくつもの仕事をどうやって処理するか。
(うまくいかせることができなければ)
こっちもあちらも共倒れだ。
それだけはどうにか避けたいが。
そして瑠璃の身も危なくなる。
(ただでさえ面倒だというのに)
あのしつこそうな佐貫が諦めるとは思わない。
だったら、強引にでも手を打つしかないか。
薊は溜息をついて、この先どうするかを考えながら目を閉じた。
女学校が終わり、いつものように団子を買い、瑠璃は神社へ向かった。
かけあしで石段を上るとすでに薊が、ではなくそこに居たのは万葉だった。
「よう、嬢ちゃん」
「万葉さん?薊さんは?」
「あいつはちょっと仕事が忙しくてね」
「そうなんですか」
ちょっと聞きたいことがあったのだが、と困っていると万葉が尋ねた。
「なにか用事でも?」
「ええ。この前お借りした着物をお返しできるので、持ってきて良いかどうかをお尋ねしたかったんですけど」
「着物はここに?」
「いえ、いまから帰ったら出来上がっているはずなので、お届けにあがろうかと」
フーンと万葉は頷いた。
「じゃあ、いまから行くか?」
「え?」
「嬢ちゃんはお参りがもう済んだろ?だったらこれから家に帰るんだよな?」
「はい」
「俺もあいつん家に行く用事があったんだ。今日は嬢ちゃんへ伝言で来ただけでさ」
「そうだったんですか」
わざわざ、自分の為に来れない場合でも頼んでくれたとは。
「薊さんって親切な方なんですね」
「―――――さあ、それはどうかな」
万葉は笑いながら、それでもあまり感情のこもらない声でそう答えた。
「ま、どうせあいつの所に行くんだ。まずは嬢ちゃんの家に行くか」
「あ、はい」
瑠璃は頷き、万葉と一緒に自宅へと向かった。
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