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第七章・兎織の過去
44・兎織と誘拐犯
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大陸に到着して暫くは療養生活だった。
誘拐されたわりに、もしくはだからなのか、扱いは良いほうだった。
頭がいい部下が欲しいという男の言葉に嘘はないようだった。
兎織は学校に通っており、更に自分の家の将来を考えてフランス語と英語は出来た。
それが後々役に立った。
こちらの言葉をすぐに覚える必要があって、兎織は必死に毎日言葉を覚えた。
(幸い、文法はほぼ、というか一緒だな)
大陸とはいえ、言葉は何種類もあったが、場所の関係で英語を話す人も多かった。
言葉が通じれば便利な事も多く、徐々に兎織はここでの生活に慣れていった。
言葉を覚え、生活の方法を覚え、環境に馴染むのは大変ではあったが、そこらに居る親に捨てられた子供や、もう手遅れになって倒れている子供ら、人攫いにあって逃げてきたがどうすれば良いか判らず、結局別の家で奴隷のように扱われる子供を見ると、ずいぶん自分は、手間がかけられているのだなと判った。
起き上れるようになり、日常生活にあまり困らなくなった頃、兎織は男に尋ねた。
「なぜ僕を助けた?」
誘拐して、そのまま始末すれば良かっただけのはずなのに。
男は言った。
「言ったろ。賢い部下が欲しいって」
「僕は学校に通っていただけのただのボンボンだ」
「それが自分で言えるだけ大したもん、と言いたいところだが」
男は兎織に投げてよこした。
新聞だった。
「見ろよ。お前の父親が連日出していた、お前を探す記事だ」
兎織の父親は報奨金を出して息子を探していた。
その様子は新聞に連日書かれていた。
「これがなにか?」
「大したもんだぜおまえの親父は。ここまでされたら、そう簡単に処分なんかできないってわかってやってんだからな」
兎織は首を傾げた。
「まずその金額だ。その金はちょっとした役人の数年の年収位はある。役人はそりゃ必死になるよな。自分が一番権限を持っていてなおかつ金も入る。そしてその金額で息子が帰って来るならそれで良かった。しかし、帰ってこない。ということは、その金以上の価値がある情報を息子が持っているって事だ」
男の言葉に兎織は顔をあげた。
「ってことは、もしお前を処分すれば勿体ないと俺たちのようなクズは考える。お前にその価値があるか、もしくはその価値の『秘密』をお前が持っているか。しかし俺はこう考える。『お前にはその価値があると、父親がそう思っている』おまえんとこの店は、押しも押されぬデカい店だ。その店の一番偉い奴が、どんな金つんでも息子を取り戻したい。だったら、儲ける才能があるってことだろ?」
そこでやっと兎織は気づく。
こんなにも男が兎織を部下にしようとした理由。
それは、兎織の父の『目利き』のせいだ。
「俺らは商売人の目は信じる。べそべそ泣いて息子が誘拐されたと世間に同情されりゃ売り上げは伸びるってのに、そんなことせずに金の力で役所を脅し、俺らを脅す。度胸のある商売屋は、必ず成功する。そしてそんな商売屋が息子とはいえとんでもない金を出す」
「ただの親ばかじゃないのか」
兎織の言葉に、男は笑った。
「まさか!わかってんのさ、息子が無事に帰ってこないってのをな。だから大枚かけた。お役所は全力で探す、しかし見つからない。これだけで『そこらへんのザコ誘拐犯』相手じゃないとお前の親父は気づく」
兎織は父の考えにはっとした。
「雑魚なら息子の遺体はすぐに見つかるはずだ。だが見つからない。雑魚じゃなくても危険と思われれば見つからないように処分する。だが、息子は雑魚じゃない、返しさえすれば金はやる、だが息子は帰ってこない。でかい案件になったお前を、とっとと殺すのは馬鹿のやることだな」
そこまで考えてのことだろうか、と兎織が思うと男は苦笑した。
「誰も気づいちゃいないがな、お前の報奨金、ちゃんと書いてあったぜ。『無期限』だとな。ほとんどのやつは、親心と思っているかもしれないが、俺はそうは思わねえ。つまり、時効過ぎて息子を返しに来ても金はやるってことだ」
誘拐されたわりに、もしくはだからなのか、扱いは良いほうだった。
頭がいい部下が欲しいという男の言葉に嘘はないようだった。
兎織は学校に通っており、更に自分の家の将来を考えてフランス語と英語は出来た。
それが後々役に立った。
こちらの言葉をすぐに覚える必要があって、兎織は必死に毎日言葉を覚えた。
(幸い、文法はほぼ、というか一緒だな)
大陸とはいえ、言葉は何種類もあったが、場所の関係で英語を話す人も多かった。
言葉が通じれば便利な事も多く、徐々に兎織はここでの生活に慣れていった。
言葉を覚え、生活の方法を覚え、環境に馴染むのは大変ではあったが、そこらに居る親に捨てられた子供や、もう手遅れになって倒れている子供ら、人攫いにあって逃げてきたがどうすれば良いか判らず、結局別の家で奴隷のように扱われる子供を見ると、ずいぶん自分は、手間がかけられているのだなと判った。
起き上れるようになり、日常生活にあまり困らなくなった頃、兎織は男に尋ねた。
「なぜ僕を助けた?」
誘拐して、そのまま始末すれば良かっただけのはずなのに。
男は言った。
「言ったろ。賢い部下が欲しいって」
「僕は学校に通っていただけのただのボンボンだ」
「それが自分で言えるだけ大したもん、と言いたいところだが」
男は兎織に投げてよこした。
新聞だった。
「見ろよ。お前の父親が連日出していた、お前を探す記事だ」
兎織の父親は報奨金を出して息子を探していた。
その様子は新聞に連日書かれていた。
「これがなにか?」
「大したもんだぜおまえの親父は。ここまでされたら、そう簡単に処分なんかできないってわかってやってんだからな」
兎織は首を傾げた。
「まずその金額だ。その金はちょっとした役人の数年の年収位はある。役人はそりゃ必死になるよな。自分が一番権限を持っていてなおかつ金も入る。そしてその金額で息子が帰って来るならそれで良かった。しかし、帰ってこない。ということは、その金以上の価値がある情報を息子が持っているって事だ」
男の言葉に兎織は顔をあげた。
「ってことは、もしお前を処分すれば勿体ないと俺たちのようなクズは考える。お前にその価値があるか、もしくはその価値の『秘密』をお前が持っているか。しかし俺はこう考える。『お前にはその価値があると、父親がそう思っている』おまえんとこの店は、押しも押されぬデカい店だ。その店の一番偉い奴が、どんな金つんでも息子を取り戻したい。だったら、儲ける才能があるってことだろ?」
そこでやっと兎織は気づく。
こんなにも男が兎織を部下にしようとした理由。
それは、兎織の父の『目利き』のせいだ。
「俺らは商売人の目は信じる。べそべそ泣いて息子が誘拐されたと世間に同情されりゃ売り上げは伸びるってのに、そんなことせずに金の力で役所を脅し、俺らを脅す。度胸のある商売屋は、必ず成功する。そしてそんな商売屋が息子とはいえとんでもない金を出す」
「ただの親ばかじゃないのか」
兎織の言葉に、男は笑った。
「まさか!わかってんのさ、息子が無事に帰ってこないってのをな。だから大枚かけた。お役所は全力で探す、しかし見つからない。これだけで『そこらへんのザコ誘拐犯』相手じゃないとお前の親父は気づく」
兎織は父の考えにはっとした。
「雑魚なら息子の遺体はすぐに見つかるはずだ。だが見つからない。雑魚じゃなくても危険と思われれば見つからないように処分する。だが、息子は雑魚じゃない、返しさえすれば金はやる、だが息子は帰ってこない。でかい案件になったお前を、とっとと殺すのは馬鹿のやることだな」
そこまで考えてのことだろうか、と兎織が思うと男は苦笑した。
「誰も気づいちゃいないがな、お前の報奨金、ちゃんと書いてあったぜ。『無期限』だとな。ほとんどのやつは、親心と思っているかもしれないが、俺はそうは思わねえ。つまり、時効過ぎて息子を返しに来ても金はやるってことだ」
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