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008_衝突
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アカネ「……リン!」
リン「……あ……」
何度目かの呼びかけに、リンはやっと反応を返した。
リン「ちょっと、ぼーっとしてた……です」
アカネ「大丈夫?」
深刻な顔をしたアカネに、リンはぽかんとした表情を返した。
リン「どうしたです?ちょっと、ぼーっとしただけ……です」
アカネ「ウソ!?あんた今、顔ヤバいよ?
目の隈とか、なんかやつれてる?感じ!」
リン「……元から、こんな、です……」
目を逸らして強がるリン。アカネの苛立ちは声にならなかった。
アカネ「もう、今日は良いから、一旦寝な?病院行く?」
リン「……でも、TORの設定変えないと、安全に動画上げられない、です」
TORとは、パソコンの通信を秘匿化する手法である。中継ノードを多数経由して通信することで、追跡が非常に困難となる。
デマゴーグの動画を上げる際には、必ず行うようにしていた。
デマゴーグとハッキング犯のつながりを疑う声は、依然として存在し、一部では同一視すらされている。
こうすることで、動画投稿サイトから投稿主が特定される可能性を大きく下げることが出来る。
アカネ「昨日も変えたじゃん!心配しすぎだって!」
通常、頻繁に設定を変更する必要はない。だが、使用しているTORの特徴を掴まれて追跡される可能性はわずかにある。
アカネ「もー、リンちゃん、ビビり過ぎ!」
アカネはリンの背中を軽く叩いた。
アカネ「そこまで警戒しなくても大丈夫だって。
それにあの、TORっての?むっちゃ通信遅くなってさー」
バァン!
リン「アカネはもっと警戒すべきです!」
リンは両手をキーボードに叩きつけて、大きく声を荒げた。
アカネは、リンがこれほど大きな声を出したところを初めて見た。
アカネ「……ごめん」
リン「……こっちも……です」
リンは呼吸を整えて、モニタに目を向け、アカネには分からない何事かを打ち込み始めた。
そして、ポツリ、と言葉を漏らした。
リン「この隠れ家も、早く引き払うべきだと思うです。やることたくさんあるです」
アカネ「分かった。そっちはわたしがやるから……」
リン「……ネットの痕跡一つ消せないアカネが?です?
……アカネはなんにも出来ないじゃない、ですか……」
リンは自分が今、口にしてはいけないことを言っていることを分かっていた。
でも、止められなかった。
アカネ「あ?!」
今度はアカネが声を荒げる番だった。
アカネ「リン!あんた、ケンカ売ってんの?さっきから!」
アカネがリンの肩をつかみ、強引に身体を自分の方に向けようとした。
リンは全身を強張らせて抵抗し、意地でもアカネの方に顔を向けなかった。
目にはこぼれる寸前まで、涙が溜まっている。
重苦しい沈黙の後、リンが口を開いた。
リン「デマゴーグはもう、捨てるべきです」
アカネ「は?何言い出すのよ!?」
リン「ハッキング犯への追跡は、絶対になくならない、です。
つながりを疑われているあのチャンネルは捨てて、次のことを始めるべき、です」
アカネ「簡単に言うな!バカ!」
リン「簡単に言ってるわけじゃないです!」
アカネはあふれ出しそうな怒りを堪え、大きく息を吐き出した。
アカネ「もう、話になんないわ。
そんな怖いの?捕まるのが?」
リン「……怖い、です……」
リンの目から涙があふれる。
アカネ「……なんなの、もう……!」
アカネは頭を抱えた。
リンのすすり泣く声だけが静かに響く。
リン「……アカネは……」
泣きじゃくりながら、リンは絶え絶えに言葉を発した。
リン「アカネは、良いです……
……動画投稿しただけなの、です……
本当の犯罪を犯してるのは……ボク……だけ、なのです……」
アカネ「は?」
それは、アカネが一番言われたくない言葉だったのかも知れない。
怒りがもう、抑えきれない。
アカネ「見損なった。あんたそんな風に思ってたの?
わたしが始めた話よ、これは!
……一人だけ悲劇ぶってんじゃないわよ!」
アカネは苛立ちに任せて、壁を蹴りつけた。
そしてそのまま、スマホだけを手に隠れ家を出て行く。
力任せにドアを閉めた音が、大きく響いた。
そして、再びリンのすすり泣く声。
リン「どうしよう……アカネが……
アカネも捕まっちゃう……
私の、私のせいで……
……アカネが……」
リン「……あ……」
何度目かの呼びかけに、リンはやっと反応を返した。
リン「ちょっと、ぼーっとしてた……です」
アカネ「大丈夫?」
深刻な顔をしたアカネに、リンはぽかんとした表情を返した。
リン「どうしたです?ちょっと、ぼーっとしただけ……です」
アカネ「ウソ!?あんた今、顔ヤバいよ?
目の隈とか、なんかやつれてる?感じ!」
リン「……元から、こんな、です……」
目を逸らして強がるリン。アカネの苛立ちは声にならなかった。
アカネ「もう、今日は良いから、一旦寝な?病院行く?」
リン「……でも、TORの設定変えないと、安全に動画上げられない、です」
TORとは、パソコンの通信を秘匿化する手法である。中継ノードを多数経由して通信することで、追跡が非常に困難となる。
デマゴーグの動画を上げる際には、必ず行うようにしていた。
デマゴーグとハッキング犯のつながりを疑う声は、依然として存在し、一部では同一視すらされている。
こうすることで、動画投稿サイトから投稿主が特定される可能性を大きく下げることが出来る。
アカネ「昨日も変えたじゃん!心配しすぎだって!」
通常、頻繁に設定を変更する必要はない。だが、使用しているTORの特徴を掴まれて追跡される可能性はわずかにある。
アカネ「もー、リンちゃん、ビビり過ぎ!」
アカネはリンの背中を軽く叩いた。
アカネ「そこまで警戒しなくても大丈夫だって。
それにあの、TORっての?むっちゃ通信遅くなってさー」
バァン!
リン「アカネはもっと警戒すべきです!」
リンは両手をキーボードに叩きつけて、大きく声を荒げた。
アカネは、リンがこれほど大きな声を出したところを初めて見た。
アカネ「……ごめん」
リン「……こっちも……です」
リンは呼吸を整えて、モニタに目を向け、アカネには分からない何事かを打ち込み始めた。
そして、ポツリ、と言葉を漏らした。
リン「この隠れ家も、早く引き払うべきだと思うです。やることたくさんあるです」
アカネ「分かった。そっちはわたしがやるから……」
リン「……ネットの痕跡一つ消せないアカネが?です?
……アカネはなんにも出来ないじゃない、ですか……」
リンは自分が今、口にしてはいけないことを言っていることを分かっていた。
でも、止められなかった。
アカネ「あ?!」
今度はアカネが声を荒げる番だった。
アカネ「リン!あんた、ケンカ売ってんの?さっきから!」
アカネがリンの肩をつかみ、強引に身体を自分の方に向けようとした。
リンは全身を強張らせて抵抗し、意地でもアカネの方に顔を向けなかった。
目にはこぼれる寸前まで、涙が溜まっている。
重苦しい沈黙の後、リンが口を開いた。
リン「デマゴーグはもう、捨てるべきです」
アカネ「は?何言い出すのよ!?」
リン「ハッキング犯への追跡は、絶対になくならない、です。
つながりを疑われているあのチャンネルは捨てて、次のことを始めるべき、です」
アカネ「簡単に言うな!バカ!」
リン「簡単に言ってるわけじゃないです!」
アカネはあふれ出しそうな怒りを堪え、大きく息を吐き出した。
アカネ「もう、話になんないわ。
そんな怖いの?捕まるのが?」
リン「……怖い、です……」
リンの目から涙があふれる。
アカネ「……なんなの、もう……!」
アカネは頭を抱えた。
リンのすすり泣く声だけが静かに響く。
リン「……アカネは……」
泣きじゃくりながら、リンは絶え絶えに言葉を発した。
リン「アカネは、良いです……
……動画投稿しただけなの、です……
本当の犯罪を犯してるのは……ボク……だけ、なのです……」
アカネ「は?」
それは、アカネが一番言われたくない言葉だったのかも知れない。
怒りがもう、抑えきれない。
アカネ「見損なった。あんたそんな風に思ってたの?
わたしが始めた話よ、これは!
……一人だけ悲劇ぶってんじゃないわよ!」
アカネは苛立ちに任せて、壁を蹴りつけた。
そしてそのまま、スマホだけを手に隠れ家を出て行く。
力任せにドアを閉めた音が、大きく響いた。
そして、再びリンのすすり泣く声。
リン「どうしよう……アカネが……
アカネも捕まっちゃう……
私の、私のせいで……
……アカネが……」
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