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エピローグ
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翌日の放課後、教室の後片付けをしている美乃と凪の元に、涙と鼻水にまみれた紀里香が飛び込んで来た。
「ひ、ひゃんで……ひゃんでおぉっ!」
「な、何!?ハンデがどうしたって……」
美乃が驚きの余り握っていたチョークを十本ほどへし折ってしまった。
「うぅ……ひゅえが……うぅ……ひゅえが……」
美乃が紀里香を椅子に座らせ、深呼吸してやっと『うぅひゅえ』が『祐介』であると判明した。
「祐介が突然……別れたいって言ってきた……」
口にハンカチを咥えながら声を震わせる。
「…………!?」
それを聞いて美乃はごくりと喉を鳴らした。
昨日の鷹崎祐介との会話が脳裏に蘇る。
あの後、美乃の強烈な一発を食らった祐介は、怒りもせず去って行った。
不敵な笑みの中に微かな影を落としながら……
山広智也とその後どうなったかは知らない。
紀里香に別れを告げたのは、もう必要性が無くなったということだろう。
勿論、紀里香には話していないし、話す気もない。
今回の件で一番被害を被ったのはこの女子だからだ。
信じていた相手には裏切られ、ストーカー被害まで受けて……
全く、とんだ片想いだったわね……
「それは……残念ね」
かける言葉の見当たらない美乃は一言だけ呟いた。
「きっと女よ!他に好きな子ができたんだわ。ね、そうでしょ!」
いや男だよとも言えず、ただ頷き返すしかなかった。
「あの浮気者っ!……いいわよ、あんな奴こっちから願い下げよ。私もさっさと新しい人見つけて乗り換えてやるから。今に見てなさい!」
気持ちの切り替えの早さは、さすが女子高生というべきか。
天井を睨みながら、ぶつぶつと数人の男子の名を呟き始める。
その様子に美乃は思わず吹き出しそうになった。
どうやら大丈夫そうだ。
「あら……あなた……」
こちらに視線を戻した紀里香が、唐突に凪の顔を覗き込む。
「よく見ると、悪くないわね……」
「ひゃ、ひゃぁ……」
突然のご指名に、いつもの『はぁ』が悲鳴に変わっている。
「あなた……滝宮君だったわよね。今彼女とかはい……」
「いませんっ!」
本人より先に美乃が答える。
その勢いに紀里香は一瞬たじろぐが、やがて何か悟ったように目を細めた。
「ふうん、そっか……なるほどね……」
おいおい、なんだその目は!?
なんかとんでもないこと考えてないだろな。
美乃の胸にいやな予感がよぎる。
「じゃ帰るわ。お邪魔さま♪」
いや、ちょっと待て!
なんだ最後の『♪』は?
「浜野さん!何か勘ちが……」
美乃の言葉が終わらぬ間に、紀里香はさっさと教室から出て行ってしまった。
しまった……
なんであんなこと言ってしまったのか。
つい無意識に口走ったのだ。
だがそれは……別に……決して……深い意味は無くて……
美乃は自分の顔が湯たんぽのごとく火照るのを感じた。
私はただ、事実じゃないから否定しようと勢いで……
そうよ、勢いよ……
「……だから、勢いだからね!」
主語が無いので意味不明だが、とにかく念押しだけはしとかないと。
出来得る限りのしかめ面を凪に向ける。
「いいお顔です……美乃さん」
屈託のない笑顔で凪が囁く。
その真っ直ぐな眼差しに、美乃の顔は夕日よりも赤く染まるのだった……
「ひ、ひゃんで……ひゃんでおぉっ!」
「な、何!?ハンデがどうしたって……」
美乃が驚きの余り握っていたチョークを十本ほどへし折ってしまった。
「うぅ……ひゅえが……うぅ……ひゅえが……」
美乃が紀里香を椅子に座らせ、深呼吸してやっと『うぅひゅえ』が『祐介』であると判明した。
「祐介が突然……別れたいって言ってきた……」
口にハンカチを咥えながら声を震わせる。
「…………!?」
それを聞いて美乃はごくりと喉を鳴らした。
昨日の鷹崎祐介との会話が脳裏に蘇る。
あの後、美乃の強烈な一発を食らった祐介は、怒りもせず去って行った。
不敵な笑みの中に微かな影を落としながら……
山広智也とその後どうなったかは知らない。
紀里香に別れを告げたのは、もう必要性が無くなったということだろう。
勿論、紀里香には話していないし、話す気もない。
今回の件で一番被害を被ったのはこの女子だからだ。
信じていた相手には裏切られ、ストーカー被害まで受けて……
全く、とんだ片想いだったわね……
「それは……残念ね」
かける言葉の見当たらない美乃は一言だけ呟いた。
「きっと女よ!他に好きな子ができたんだわ。ね、そうでしょ!」
いや男だよとも言えず、ただ頷き返すしかなかった。
「あの浮気者っ!……いいわよ、あんな奴こっちから願い下げよ。私もさっさと新しい人見つけて乗り換えてやるから。今に見てなさい!」
気持ちの切り替えの早さは、さすが女子高生というべきか。
天井を睨みながら、ぶつぶつと数人の男子の名を呟き始める。
その様子に美乃は思わず吹き出しそうになった。
どうやら大丈夫そうだ。
「あら……あなた……」
こちらに視線を戻した紀里香が、唐突に凪の顔を覗き込む。
「よく見ると、悪くないわね……」
「ひゃ、ひゃぁ……」
突然のご指名に、いつもの『はぁ』が悲鳴に変わっている。
「あなた……滝宮君だったわよね。今彼女とかはい……」
「いませんっ!」
本人より先に美乃が答える。
その勢いに紀里香は一瞬たじろぐが、やがて何か悟ったように目を細めた。
「ふうん、そっか……なるほどね……」
おいおい、なんだその目は!?
なんかとんでもないこと考えてないだろな。
美乃の胸にいやな予感がよぎる。
「じゃ帰るわ。お邪魔さま♪」
いや、ちょっと待て!
なんだ最後の『♪』は?
「浜野さん!何か勘ちが……」
美乃の言葉が終わらぬ間に、紀里香はさっさと教室から出て行ってしまった。
しまった……
なんであんなこと言ってしまったのか。
つい無意識に口走ったのだ。
だがそれは……別に……決して……深い意味は無くて……
美乃は自分の顔が湯たんぽのごとく火照るのを感じた。
私はただ、事実じゃないから否定しようと勢いで……
そうよ、勢いよ……
「……だから、勢いだからね!」
主語が無いので意味不明だが、とにかく念押しだけはしとかないと。
出来得る限りのしかめ面を凪に向ける。
「いいお顔です……美乃さん」
屈託のない笑顔で凪が囁く。
その真っ直ぐな眼差しに、美乃の顔は夕日よりも赤く染まるのだった……
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