【R18】時間を保存しコピー出来るアプリを手に入れて人生バラ色

広東封建

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62-決意

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 俺は今―――病院の集中治療室の前で座りながら、茫然自失となっていた。
 中山さんは出血多量により危険な状態で、緊急手術を受けている。
 先程警察も俺のところに現れ、犯人と思われる者が自首したと報告を受けた。
 犯人は数日前から俺の自宅を探っており、計画的な犯行であったことを仄めかしている。
 また、高根ルイザと星宮しずくのファンであったことを公言し、「家から出てきた人間を誰でもいいから殺すつもりだった。そしたら知らない女性が出てきて、刺してしまったことにパニックとなり、その場で逃げ出した―――」と供述している。
 そして当時の犯人の風貌は、配達員を装っていた―――

 警察からの説明を受け、俺はその場に泣き崩れた。
 俺の行動が高根や星宮のファンの怒りを買い、なんの関係もない中山さんが惨い目に遭ってしまった。

 俺はただひたすら、後悔の念に押し潰されていた。
 このままでは、中山さんが死んでしまうかもしれない―――

 迷っている場合ではない。
 タイムリープして事件をなかったことにするんだ。
 アプリを使って犯人への報復を考えたところで、残酷なネット民達の更なる怒りを買うだけだ。
 同じような悪意の行動や嫌がらせは永遠に続く。
 敵は無数におり、情報開示や誹謗中傷を裁くだけの法律も整備されていない今の時代に、どれだけアプリを駆使したところで匿名の相手を全員見つけ出すことはできない。
 一度標的になった者はボロボロになるまで晒され、特定され、ネット住民達はなんの罪にも問われず平気な顔で人の人生を破壊し尽くす。
 今はまだそんな時代だ。
 
 記者に写真を撮られる前に戻すしかない。中山さんの命には替えられない。

 そう考えてアプリを開いたところで、俺の指は止まった。

 もとはといえば―――俺の生き方が悪かったんじゃないか……?
 たとえ週刊誌の掲載をなかったことにしたところで、このようなことが再び起きないと、果たして言えるだろうか。
 また中山さんや、それに高根、星宮の身に危険が及ぶことはないと、どうして言い切れるだろうか……
 高根や星宮は有名人だ。どうしたって発覚は免れない。
 その度にタイムリープして元に戻したところで、中山さんが刺された記憶は残り続ける。
 そんな状況で、果たして今まで通り皆で楽しく暮らせたりなど、できるだろうか。

 ならば、俺以外の三人から記憶を消して戻す――――

 いつ―――どの時点に?

 どこからやり直せばいいんだ?
 旅行の前?
 論文を書く前?

 論文を書く前に戻したとして、記憶のない高根に、どうやって論文を書くなと説得すればいいんだ。
 そもそもそんなこと、高根のあの涙を見てしまったからには絶対にやりたくない。

 そして星宮とアダルトショップに行く前に戻したとして、何も知らない星宮は、パパラッチの目を警戒してビクビクと星宮の行動や愛情表現を制限する俺のことを、どう思うだろうか。

 俺は皆に能力を打ち明けており、既に一心同体だ。
 俺だけが記憶を残して戻れば、皆すぐに俺の態度の違和感に気付くだろう。
 事件のことを説明すれば納得してもらえるかもしれないが、それでも皆には俺が内緒で時間を戻したことを知られることとなる。
 俺からすれば仕方がないと思って取った行動でも、皆はそれをどう思うだろうか。
 自分がその立場になった時―――どうして記憶を残してくれなかったのかと、問い詰めはしないだろうか。

 そして皆に黙って時間を戻すような行動は、危険回避のためだから仕方ないとはいえ、俺がそれをやってしまう人間だと分かったとき、その後の皆は心の底から俺のことを信用してくれるだろうか。
 だって―――皆は何も知らないのだから。
 下手をすれば日常的に後ろめたいことを隠していないだろうかといった、俺への疑念が芽生えたりしないだろうか。
 
 なにより―――仮に俺以外の三人から記憶を消したとして、俺は何度も彼女達の身が危険に晒される光景を、見続けなければならないのか?

 そんなの嫌だ。
 もう二度と、中山さんが血を流す光景なんて見たくない。
 辛くて、怖くて、怒りと悲しさで全身が震え上がった。
 あんな思い、もう二度としたくない。
 中山さんにも、もう二度とこんな辛い思いをさせたくない。
 
 もし―――ふしだらな三股関係がダメだったというのなら、高根や星宮と出会ったことを、なかったことにするのか……?
 俺はもう、二人を心から愛している。
 二人も俺を愛してくれている。
 やり直して―――二人のことは忘れて、中山さんとだけ付き合うなんて、今の俺にできるのか……?

 間違っていたのはどこからだ。
 どこで選択を間違えたんだ。
 俺のなにが間違っていたんだ。

 すべてが―――間違っていたのか?

 俺は病院の廊下で一人、思い詰めていた。すると―――

「―――時生!」

「ご主人様ぁ~~! 美玖しゃ~~ん!」

 向こうから高根と星宮が走ってくる姿が見えた。
 二人には先程俺からメールを入れていた。中山さんが刺されたと―――

「美玖の容態は!?」

「今手術を受けているんだけど、出血が酷くて気を抜けない状態らしい……」

「そ、そんな……」

 俺が中山さんの容態を伝えると、高根と星宮の顔が青ざめる。
 星宮に至っては、顔が涙と鼻水でグシャグシャになっていた。

「―――許せないっ……!
 私達に嫉妬して、なんの関係もない美玖をこんな目に遭わせるなんて……!
 もし美玖になにかあったら、ただじゃおかないわ……!」

 高根が怒りのあまり、わなわなを身を震わせる。
 その隣で星宮は、ヒックヒックと涙をこぼす。

「俺は、全部―――やり直そうと思う」

 そんな二人に向けて、俺はぽつりと呟いた。
 高根は驚いてこちらを振り向くが、すぐに安堵の表情に切り替わった。

「そ、そうね! 美玖がこんな目に遭ったんだもの、私の論文なんてどうでもいいわ!
 時生としずが記者に写真を撮られる前に戻して、全部やり直しましょう!」

「ご主人様ぁ~~っ! 美玖しゃんを助けてくださぁ~~い!
 しずのせいで美玖しゃんが死んじゃうなんてぇっ……そんなの絶対嫌ですぅ~~~っ!」

 二人も俺の意見に賛同する。
 だが俺は静かに目を瞑り―――首を横に振った。

「違う―――全部だ。
 はじめから全部―――やり直そうと思う」

「はじめからって―――ど、どういうこと?」

 俺の言葉の意味を汲み取れず、高根と星宮は首を傾げた。

「時間も皆の記憶も全部―――俺が能力を使い始める前の頃に戻す。
 皆には黙っていたけど、実は俺―――あの能力を使って、一度人生をやり直していたんだ」

「えっ―――」

 俺が真実を打ち明けると、二人は驚きのあまり、その場で立ち尽くした。

「俺は元々33歳だった。それがある日突然この能力を手にしてから、高校3年生まで時間を戻した。
 元々の人生では、中山さんとも、ルイザとも、しずくとも、誰とも付き合っていないんだ。
 でも人生をやり直したことで中山さんの彼氏になって、ルイザやしずくとも出会った。
 元々は皆―――俺と関わることなんてなく、それぞれの人生を歩んでいたんだ。
 それを―――俺が全部変えてしまった。
 その結果、中山さんをこんな目に遭わせてしまったんだ。
 だからもう―――ぜんぶやり直して、この能力は二度と使わないでおこうと思う」

 皆、本来は俺と関わる余地もない程明るい人生を送っていた。
 卒業後の中山さんがどうだったかまでは知る由もないが―――少なくとも今ほどに乱れた生活は送っていなかっただろう。
 きっと―――いい人と出会い、誰もが羨むような人生を―――

「そ、それで―――私と時生が出会ったことも、その記憶も全部、なかったことにするっていうの……?
 そんなの絶対に嫌よっ!」

「そ、そんなぁ……ご主人様の前の人生とかよく分かんないけど、でも……そんなの嫌ですぅっ!」

 二人は涙を溢しながら、俺の出した結論に反対した。

「俺も二人のことを心から愛しているし、本当は離れたくない。中山さんとだって、能力を使わなきゃもう二度と付き合えない。
 それくらい元々の俺は、なんの取り柄も才能もない、小太りの凡人なんだ。だけど俺は―――
 そんな誰にも愛されない、冴えない俺よりも―――中山さんをこんな目に遭わせてしまった今の俺の方が、何倍も許せないんだっ……!」

 大好きな中山さんを、守れなかった。
 俺のために寄り添ってくれて、俺を守ろうとしてくれた中山さんを、酷い目に遭わせてしまった。
 たとえ数ヶ月前に時間を戻してやり直したって、この後悔は消えない。
 中山さんを抱き上げた時の―――残酷なまでに生温かい血の感触は、俺の記憶から一生なくならないんだ!

 俺は手に残った血の跡を見つめながら、奥歯を噛みしめた。その姿に―――高根と星宮は、かける言葉もなく俯いた。
 しばらくの間、不気味なまでの静寂が、俺達の周囲を覆った。


 そして―――高根がゆっくりと口を開き、長い沈黙を破った。

「時生―――あなたの決意は固いのね?」

「うん……ごめん……」

 高根から再び意思を問われ、俺はただただ申し訳なく頭を下げる。
 これだけ共に過ごしてきて、記憶を残さずにすべてを消そうというのだ。普通の人間ならば受け入れられるわけがない。
 だが高根は、「ふぅーっ」と長い息を吐くと、ニコリと微笑んだ。

「なら、そうしなさい」

 高根の口から出た同意の言葉に、俺と星宮が驚いた顔を向ける。

「ル、ルイ先輩っ! それでいいんですか!?
 ご主人様や美玖さんと過ごした思い出も消えて、もう二度と会えないかもしれないんですよぉ!?」

 星宮が涙を散らしながら、高根に向けて必死に訴える。その姿に、俺の心臓がズキンと痛む。

「時生―――すべてを実行する前に、私達にちゃんと話してくれてありがとう。
 大丈夫よしず。私達が愛した男だもの。絶対にまた会えるわ」

 高根は俺に感謝の言葉を述べると、星宮に向かってニコリと微笑みかける。それはまるで我が子を諭す母親のような、慈愛に満ちた笑顔だった。
 その姿に―――俺の心はズキズキと痛み、罪悪感を募らせる。

「い、いや……その……多分、もう会えないと思う……
 俺には能力を使わずに東大に受かる頭なんてないし、なんの才能もない。
 ルイザもしずくも、そして中山さんも―――かつての俺に惹かれるようなことは、きっとない……」

 俺は本来の自分の姿を思い出しながら、あまりにも寂しく、惨めな感情に襲われ、泣きそうになる。

「そんなわけないじゃない。だって、私は信じてるもの―――」

 高根はなおも優しい笑顔を見せると―――目から一筋の涙をこぼした。

「時生と出会った時っ……心が引っ張られるようなあの気持ちはっ、絶対に―――運命だって……信じてるものっ……!」

 一筋のしずくが、大粒の涙へと変わる。

「だからっ……! 絶対、絶対に出会うんだからっ!」

 高根が肩を震わせながら、まるで自分に言い聞かせるように―――強く、必死に訴えた。

「時生がっ、どんな姿で、どんなことをしていようともっ!
 絶対にあなたを―――好きになってみせるんだからぁあっ!」

 高根がボロボロと泣く姿に、俺の目からも涙があふれる。

「し、しずもぉお~~~っ! 絶対にご主人しゃまを好きになりましゅぅ~~~っ!」

 星宮もわんわんと泣き崩れる。

 無理だ。
 昔の俺のことなんて、スターの二人が絶対に好きになんてなるわけない。
 俺は誰にも愛されない、無価値な男なんだ。
 きっと中山さんにも愛されない。

 俺は劣等感に苛まれながらも、二人から向けられる最大限の愛情に、涙が止まらなかった。

「だからぁっ……絶対、絶対に会いに来てよ、時生ぉっ!」

「まだじずに会いにぎでくだざいっご主人じゃまぁあ~~~っ!」

 二人は泣きながら俺の体にしがみ付いた。
 再びやり直した俺は、皆の眼中にも入らないかもしれない。むしろ皆の人生を狂わさないためにやり直すのだから、それが一番いいはずだ。
 だが―――涙を流しながら再会を願う二人の気持ちを、今ここで無下にできるはずもなかった。

 せめて―――皆には、もう一度会いに行こう。

「ああ、約束する……! 約束するよ……!
  絶対皆に、会いに行くよ……!」

 俺は二人を強く抱き締めながら再会を誓うと、ゆっくりとスマホを手に取る。
 そして―――アプリに保存したすべてのファイルを消去した。
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