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【最終回】-再会
しおりを挟む月日は流れ―――
「やった……あった!」
俺は大学入試の合格発表のホームページ画面を見ながら、歓喜の声を上げた。
あれから必死に勉強し、なんとか地元国立大のA判定まで成績を上げ、こうして合格を手にすることができた。
正直東大に比べれば偏差値はかなり劣るが―――それでも合格したときの喜びは、東大に受かったときの何倍にも勝った。
なんの取り柄もなかった俺が、自分の努力だけで最初の大学よりずっといいところに合格できたのだ。
しかも翌日には学校で中山さんも合格したことを知り、「来年からもまたよろしく」と、笑顔で互いの合格を祝い合った。
中山さんと同じ大学に通える―――そのことに俺は涙を流して喜んだ。
今の俺なら―――もう一度中山さんの彼氏になれるだろうか。
必死に頑張って、ようやく中山さんと同じところに来れた。
自分のお腹をさすると、以前ほどとはいかずとも、しっかりと腹筋の割れを確認できる。
まだ中山さんの理想には遠く及ばないかもしれないが、俺の想いを真剣に伝えれば、ひょっとしたら―――振り向いてくれるだろうか。
伝えよう。
今度は俺から中山さんへ―――
ずっと―――ずっと好きだったと……
積年の思いを告白し―――もう一度二人の時間を取り戻すんだ。
俺は自分から中山さんに告白することを心に決め、その時を待った。
そして、卒業式の日がやってきた。
皆と肩を組みながら写真を撮り、「卒業してからもずっと友達でいよう」なんて、臭い言葉を交わしあった。
初めはなんの思い出も残らず、二回目は踏み台でしかなかった高校3年生の一年間が、俺の中で大切な思い出と変わっていた。
皆と涙ながらに別れの言葉を交わし合った後校舎を出ると、そこには一人感慨深げに校舎を見つめる中山さんの姿があった。
「―――誰か、待ってるの?」
俺はかつて―――中山さんが俺の第二ボタンを貰ってくれた時のことを思い出しながら、恐る恐る訊ねた。
今回もまた―――俺のボタンを貰ってくれるのだろうか。
そんな淡い期待を寄せながら、中山さんの様子を伺う。だが―――
「ううん―――ちょっと感傷に浸ってただけだよっ。
満保君は同じ大学だけど、他の子達は皆離れ離れになっちゃうから……」
そういうと中山さんは、寂しげな笑顔を浮かべた。
「じゃあね、時生君っ。また皆と遊ぼうね!」
無情にも―――中山さんは俺に別れを告げ、校門へと歩いていった。
「待って―――中山さん!」
俺は去りゆく中山さんを、必死に呼び止める。
今の中山さんは、俺の第二ボタンなんて望んじゃいなかった。
だからって―――諦められるか……!
「中山さん……こ、これを見てくれて!」
「えっ―――」
気付けば俺は―――シャツをまくり上げ、中山さんに鍛え上げた腹筋を見せ付けていた。
あまりに唐突な出来事に、中山さんはポカンと固まる。
「お、俺っ―――君の理想の男になりたくてっ、ここまで鍛えてきたんだっ!
中山さん―――いや、美玖っ!
俺はずっと、君のことが好きだった!
俺と―――付き合ってくれ!」
腹を出しながら告白という、なんとも間抜けな光景に、周りからクスクスと笑みが聞こえる。
「お、おいっ……時生のやつなにやってんだ!?」
「うっそ~~っ! 腹筋見せながら告白なんて、時生最高にバカじゃーん!」
気付けば友人達からも後ろ指をさされ、俺はシャツを握る手がプルプルと震える。
やっぱりこんな告白はダメだったか―――
俺はあまりの恥ずかしさに、顔が真っ赤に染まる。すると―――
「―――ふふっ、あはははっ」
中山さんまでも、お腹を抱えて笑いだしてしまった。
終わった―――俺の夢は潰えた。
消えてなくなりたい。
俺は絶望に打ちひしがれ、ガクリと肩を落とす。
すると中山さんが、ゆっくりと俺の方に近付いてきた。そしてなぜか俺のお腹をペタペタと触る。
「う~~ん、確かに引き締まってるけど、私の理想のお腹にはまだまだかなぁ」
中山さんに腹筋を品評され、くすぐったさと情けなさに涙が出そうになるのを必死に堪えていた。
ふと―――頭にポンとなにかが乗る。
恐る恐る顔を上げると、中山さんが笑顔で俺の頭をよしよしと撫でていた。
「でも―――こんなに頑張ったんだねっ。
時生君があれだけ努力していたのが私のためだったなんて、私―――すっごく嬉しいっ」
中山さんは満面の笑みを浮かべながら、俺の頑張りを褒めてくれた。
そしてそれを―――嬉しいと言ってくれた。
その言葉に、俺の目が更に潤んでしまう。
本当に頑張ったんだ―――
才能のない自分が辛くて、どうしようもないくらい惨めで……毎日心が折れそうだった。
でも―――やれた。
君のそばに立つためなら、どんなに辛くても、諦めずにここまで来れた。
君のおかげで、今の俺があるんだ。
今までの思い出が走馬灯のように蘇り、今の中山さんと重なる。
俺の記憶にある中山さんが―――「ありがとう、大好きだよ」と言って、今の中山さんの体に覆いかぶさるような―――そんな幻覚すら目に映った。
「不束者ですが―――よろしくお願いします、時生君っ」
中山さんが告白を受け入れてくれたと同時に、俺はその場に泣き崩れた―――
あれから俺達は、カップルとして仲睦まじく大学生活を送った。
アプリを使っていないせいか、中山さんは以前ほどの狂った変態さは見せないが、それでも愛くるしく俺の体をそこそこ頻繁に―――というより毎日求めてくれている。
中山さんのエッチな側面は、以前も今も変わっていなかった。
初めての日は「本当に初めてなの?」と疑われるくらい、中山さんを前戯でイかせまくった。
俺は必死に童貞であることを伝えたが、中々信じてもらえず、その後の対応に苦労した。
しかしそれが功を奏したのか、俺達は以前のようにセックス三昧の生活を送ることとなった。
初めて結ばれた時と同じ―――中山さんの部屋で、来る日も来る日もセックスに明け暮れた。
それはまるで―――魂の記憶の奥底にある、未曾有の快楽を思い出そうとしているかのようだった。
以前とは一つだけ異なった点がある。それは中山さんは割と強気で、俺に当たるようになったことだ。
「ほらもっと頑張って! そんなのでへこたれてたら、まだまだ私の理想には遠いよっ?」
俺は毎日中山さんのスパルタコーチを受けながら、ひたすら筋トレに励んでいる。
中山さんは俺を理想の体型にしようと、躍起になっているようだ。
これは中々に堪えたが、それでも中山さんが俺を愛してくれている事実に変わりはなく、俺は喜んで筋トレに励んだ。
そして大学1年生の夏休みを迎えた頃―――
「時生君急いで! 早くしないと場所がなくなっちゃうよっ!」
「そんなに急がなくても、開演までまだ時間はあるだろ~?」
「何言ってるの! あのほっしーの路上ライブだよっ!?
そんな悠長に構えてたら、ほっしーを近くで見れなくなっちゃうよ!」
俺達は夏休みを利用し、星宮しずくの路上ライブを観る目的で、東京へ旅行に来ていた。
人生をやり直した後も、星宮は相も変わらずスターアイドルの道を駆け上がっていた。
俺は見る景色に懐かしさを覚えながら、中山さんの跡を追う。
しずくのやつ―――俺に気付いてくれるだろうか。
俺はあり得ないことと知りながらも、期待を膨らませてしまう。
会場に付くと、そこは超満員の人で溢れていた。
「ほら~、だから言ったじゃん!」
頬を膨らませて怒る中山さんをなんとかなだめ、俺達はわずかに見える隙間を探し出し、星宮の登場を待った。
そして程なく、星宮の路上ライブは開始された。
「皆ー! 今日はしずのために集まってくれてありがとー!」
星宮の登場に、会場は大歓声に湧く。
遠くから見る星宮は、あの時と変わらず、可愛らしい笑顔を振りまいていた。
「それじゃあ早速一曲目いくよー!」
ライブが始まると、中山さんは先程までの怒りも忘れてウキウキとはしゃいだ。
俺も懐かしい曲に耳を傾けながら、心地良いリズムに身を揺らした―――
「皆ありがとー! また会おうねー!」
ライブはあっという間に過ぎ、星宮は颯爽とステージを後にする。
会場は星宮を惜しむ声援と、大きな拍手に包まれた。
やっぱり、ここからじゃ見えないか―――
俺は心に寂しさを覚えながら、去りゆく星宮を目で追う。すると―――
「―――ッ」
不意に星宮の足が止まった。
そしてチラリとこちらに顔を向ける。
その瞬間―――俺は星宮と目が合ったような気がした。
ほんの数秒間だが―――確かに俺達は見つめ合い、その時星宮は、小さく笑みを浮かべた。
そして再び観衆へと手を振り、ステージ袖へと去っていった。
「今っ―――ほっしーがこっちを見て笑いかけたよね!?」
隣で中山さんが大興奮しながら、俺に訊ねてくる。
そうだ―――俺を見ていたとは限らない。
きっと気のせいだ。
「そうかもしれないね。
それじゃあライブも終わったし―――次のところへ行こうよ、中山さん」
俺は淡い期待を振り払い、中山さんの手を取った―――
「―――ねえ満保君、どうしてこんなところに来ようと思ったの?」
次なる目的地を歩きながら、中山さんが不思議そうに訊ねてくる。
「それはね―――昔の約束を果たすためだよ」
俺はニコリと笑い、中山さんの疑問に応える。
すると中山さんは、未だ解せない様子で首を傾げた。
俺達は今―――東強大学のキャンパスの中を歩いている。
ここはかつて、俺が通っていた場所だ。
今はもうここの学生ではないが、毎日通った場所に様々な記憶が思い起こされる。
講堂に食堂、サークル棟……
どれも俺の思い出の場所であり、見るものすべてに感傷的な気持ちが呼び起こされる。
すると目の前に、見慣れた男達の姿があった。
あっ―――あいつらだ。
当時俺と仲良くしていた友人達が、楽しそうに談笑しながら歩いていた。
その場に俺はいないが、皆仲良くやっているようで、俺は複雑な感情を覚える。
「満保君、どうしたの?」
中山さんが心配して俺に声をかける。どうやら感情が顔に出ていたらしい。
「ううん―――なんでもないよ。
もうちょっと歩こうか」
俺は中山さんに笑顔を向けると、再びキャンパスを散策し始めた。
いない、いない―――
どこにもいない。
俺が探している人物の姿は、どこにも見当たらなかった。
やはり―――夏休み中に来たのは間違いだったか。
普段ならばいざ知らず、夏休み中で学生も少ない時期に来たところで、会えるわけがない。
隣を歩く中山さんも、興味のない場所で歩き回され、さすがに疲れが見て取れた。
仕方ない―――諦めて帰るか。
俺は名残り惜しい気持ちを抑え、大学を去ろうと踵を返す。と―――その時だった。
「そこのあなた―――ちょっといい?」
不意に懐かしい声が後ろから聞こえ、ハッと振り向く。すると―――
求めていた彼女の―――
可憐に佇む姿が、そこにあった―――
『ピコンッ』
『~アプリがバージョンアップされ、新たな機能が追加されました~』
―――
次回はエピローグで、アプリ開発者の物語になります。
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