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一章
16-名前
しおりを挟む「ど、どうするって言われても……俺もSランクになれるなんて思ってもみなかったし、どうしたら良いのか皆目見当もつかない」
いきなり自由を与えられて野に放たれても、逆に何をしていいのか分からない。
もちろん一人でも多くの女に仕返ししてやりたい、たくやの無念を晴らしたいという思いはあるが……
「そうだな……確かにSランクなどというものが形骸的な概念ではなく、実際に存在したというのは驚きだ。
前例がない故に、どうすべきという参考事例も提示出来ないが……逆にそれは法の範疇であれば何をしてもいいということだ」
「何をしても……?」
「ああ、そうだ。君に与えられた奴隷としての枷は、せいぜい3日間誰とも性交渉しなければランクを下げられるといったくらいだ。
君が拒否権を行使しない限り、そのノルマは優に達成出来るだろう。
それ以外の法律は全て女と全く同じものが適用されるため、社会一般的な範疇であれば何をするにも問題はない」
凛の話に従えば、ほぼ女と変わらない生活が可能ということになる。
つまり自分の進みたい道を自ら選択して進める訳だ。ならば―――
「―――俺は、普通の学校に通って学びたいと思う」
俺の年ならば普通はまだ義務教育の段階だ。
礼子程の金持ちが俺に全てを捧げるなんて言っているし、こいつを頼れば学校にいかずとも生きていくことは可能だろう。
だが、俺は今の世の中をもっと知る必要がある。それに―――
年の近い連中とヤりまくって、全員俺の手篭めにするってのも悪くない。
女は初潮の時期を境に性欲が爆発するというから、俺と同じくらいの年の女達は丁度盛り始めた頃だろう。
男は全員自分達の性奴隷という常識の中で、思う存分男を搾取出来る悦びを覚え、好き放題に性をむさぼっているに違いない。
そんな女達に他では味わえないセックスの快楽を与え、逆らえないよう俺が調教し直してやる。
「ふむ……まぁそれが一番無難な選択か」
俺の企みなど知る由もなく、凛が俺の思いに賛同する。
「既に入学の時期は過ぎているが……君の年齢ならばまだ一年生だし、始業からそれほど期間も経っていないから勉強の方はすぐに追いつくだろう。
今からでも男子の転入が可能な学校を探してこちらで手配しよう」
「ありがとうございます」
諸々の手続きは凛の方でやってもらえるらしく、俺は素直にお礼を述べる。
勉強の方に関しても前世の俺は高校生だったし、これでも一応進学校に通っていた。義務教育程度なら全く不安はない。
未来の授業が昔とどれくらい同じかは分からないが、少なくともこの歳で数学の微分積分や物理の運動方程式を習わされるといったことはないだろう。
「なぁに、育てた奴隷は巣立つまで面倒を見るのが、我々調教員の責任だ。
それに君のことは既に世に知れ渡っているしな。
なまじ変なところへ行って厄介なことになり、うちがその責任を問われるようなことになっては困る」
随分と義務的な理由であったが、凛が俺を慮る目と声の柔らかさからは、少なからず自分の施設で育てた奴隷への情のようなものが感じられ、あまり悪い印象も受けない。
とはいえこの女は、俺達を散々いたぶってきた調教員の親玉な訳だが。
凛がどれほど俺達のことを親身に思っているかは、甚だ疑問だ。
あまり深く心を許すこともなく、俺は軽く会釈するに留まった。
そんな俺の心境を察してかは分からないが、凛は軽やかな笑顔で別の話へと舵を切り替えた。
「それはそうと君の身元保証人は礼子が担うとして、これから君は学校へ通うのだから、せめて名前くらい名乗らないとな。
F-23732のままでは学校生活にも幾分か支障があるだろう。何か希望でもあるか?」
「そうですわ! 貴方様は今後わたくしを所有いただく訳ですから、主人として何か素敵なお名前をお名乗りいただかないと!」
名前……か。
礼子の主人になるとかいう話はまだ腑に落ちていないが、確かに礼子程名の知れた人物に身元保証人となってもらえるのはありがたい。
それに凛の言うとおり、今後学校に行き自立するともなれば名前が必要になってくるのは間違いない。
凛から話を振ってきたことを考えると、恐らく俺が名前を持つことや、その手続きに関しても問題はないのだろう。
であれば、俺が思い付く名は一つしかない。
「ゆうすけ……いや―――俺の名は比留川游助だ」
俺は、前世の名を声高らかに名乗った。
「ふむ。比留川游助か……」
「游助様……ああっ素敵なお名前ですわ!」
一応漢字の書き方についても、凛から紙とペンを貰い書き記す。
「……まるで事前に決まっていたかのような決断の早さだが、まぁ良いだろう。
これからは比留川游助として、君に関する諸々の手続きを取っておく。
転入先が決まったら礼子に連絡するから、それまでは君と礼子で考えて生活するように」
「游助様のことはわたくしにお任せいただければ、全て思うがままにして差し上げますわ」
これで俺は晴れて自由の身となった訳だ。
一人謎の女がくっ付いているが、これだけの財力と美貌を持つ女が一緒に居て苦など何もない。
なにせ俺はまだ世間について何も知らない少年だ。
ひとまず生活面については礼子を頼るとしよう。
「―――じゃあ早速、礼子に頼みたいことがあるんだけど」
「はい! な、何でしょうか游助様……!」
俺は施設を出る前に一つ、恐らく見当違いな期待を膨らませている礼子に、どうしてもやらねばならないことを命令……もとい依頼した。
そしてこの未来に生まれて初めて、自由の身で外の地へと足を踏み入れたのだった―――
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