生きる

ヤヤヤ

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生きる

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 もうなんつーかさ、めんどくさいんだよな、全てのことが。
 全てのことって言うのは、家族のこと、仕事のこと、友だちのこと、人付き合いのこと、年齢のこと、住まいのこと、お金のこと……。もうさ、全部だよ全部。だからさ、首でも括ってやろうかと思っていたんだよな、ついさっきまで。今はさ、もうちょっとくらい生きてやってもいいかなって思っている。
 だってさ、たった今、馬が苦しみながら息絶えたんだ。目の前のテレビに映っている、さっきまで必死に先頭を走っていた馬が。
 俺は競馬が大好きでさ、最後に全財産を最低人気の馬に賭けて、大勝ちするか、大負けするか、あの世に行く前に自分の人生をじっくり眺めるつもりで、この日を迎えたんだ。まあ負けるだろうな、って当然のように思っていたんだけど、結果は勝ちでも負けでもなかった。
 最低人気馬は一生懸命だったよ。一生懸命に先頭を走っていた。たぶんこいつはわかっていたんだろうな。これを勝てなければ、もう次はないってさ。でもさ、これも運なのかな、最低人気馬はあっけなく転んで、結局あの世行きになっちまった。
 天井から垂らしたロープを握りながらさ、俺、どうすることもできないで、ただ時間だけが過ぎていった。気づいた時には、顔中が涙でぐちゃぐちゃでさ、低い声で唸っていたんだ。
 馬券の面で言うと、もちろん負けにはなるんだけど、なんか、そういったものじゃないんだよな。わかるかな、俺の言っていること。
 最低人気馬はどういう生き方をしてきたんだろうな。多くの人に愛されていたのか、それとも人知れず孤独を抱えていたのか。そんなことは知りようもないけど、今日、あいつは必死だったよ。「運が悪かった」って言えるほど、必死だった。
 もうちょっとだけ、生きてみるか。
 そんなことを思いながら、俺はテレビの前にばらまいた馬券を一枚だけ拾い上げ、強く、強く、握りしめた。
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