【完結】僕の匂いだけがわかるイケメン美食家αにおいしく頂かれてしまいそうです

grotta

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第一章 オードヴル

5.誕生日=100日後にお見合いさせられるΩ

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 夕希は浮ついた気分で自宅へ帰った。
――この僕が、鷲尾隼一の手伝いをするんだ。しかもNホテルのケーキが食べられるなんて。それからもっと他にも今まで食べたことのないような美味しいものにも出会えるかも……!

 マンションに着いて鼻歌交じりにポストを開けると、大きめの封筒が届いている。

「本でも頼んでたっけ?」

 しかし封筒の差出人を見て夕希は大きなため息をついた。

「母さん……」

 明るかった気分は一気に急降下だ。夕希は母のことが嫌いなわけではない。家族が好きだし母も好きだけど、一緒に住んでいたときは価値観の違いでぶつかり合うことが多かった。彼女からの電話や手紙が息子のためを思ってのことだとわかってはいても、それによって夕希が嬉しいと思ったことはほとんどなかった。今回もきっと良くない知らせだと封を切る前から嫌な予感がする。

 部屋に入って着替えをし、封筒を開けた。中にはしっかりした表紙付きの大判写真が入っていた。

「え、これってお見合い写真じゃ……!?」

 封筒の中身はアルファ男性の写真と身上書しんじょうしょだった。母の手紙も添えてある。

『夕希へ 元気にしていますか? もう少しであなたの二十八歳の誕生日ですね。
約束通り私達があなたのために素敵な人との縁談を用意しました。写真と身上書を見ておいてね。
先方もあなたに会うのを楽しみにしてくれています。
仕事ばかりしていないで早く家に帰ってきて下さい。 母より』

「やっぱりあの約束のこと、忘れてくれるわけないよな」

 良い知らせのはずはないと思ったけど、まさか本気でお見合い写真を送ってくるだなんて……。
 夕希は結婚に関して母とある約束をしていた。

「今三月だから――七月の誕生日まで四ヶ月……あと大体100日の猶予か」

 夕希は写真をもう一度よく見てみた。いかにもアルファらしい、気位の高そうな青年が写っている。身上書によると年齢は三十歳で三つ年上のようだ。父の経営している会社の取引先のご子息らしい。

「取引先関係って、これ断れないやつじゃん」

 夕希は写真の表紙を閉じて封筒に入れ、引き出しの奥に仕舞い込んだ。
 帰宅するまではこれから先の未来を明るく思い描いていた。しかし、母からの手紙のせいで夕希は過去の暗い記憶を思い出してしまった。



 中学時代に第二の性がオメガだと診断された際、夕希は比較的すんなり納得することができた。自分の母親も兄もオメガだったし、その当時夕希は同級生のアルファ男子に恋をしていたからだ。

 高校に入って初めて発情期を経験すると周りの生徒の態度は少しずつ変化し、距離を取られ始めたのに夕希は気づいていた。
 そんな中、好きだった男子生徒と二人きりになったとき向こうからキスをされた。夕希は初めてのキスに心を躍らせ、彼と両想いなんだと知って胸がいっぱいになった。この時点で夕希は当然自分たちは付き合っているものだと思い込んでいた。
 しかし、そうではなかった。
 ある日教室に忘れ物をして放課後取りに戻った際、彼とその友人たちの会話を偶然聞いてしまったのだ。

「あー、さっきの試合まじ腹立つ」
「早瀬がいるとつまんねえよな」

 苛立った男子生徒の会話の中に自分の名前が出てきて、夕希はドアの陰で立ち止まった。
――僕の話? 
 この日は体育の授業でバスケットボールをやった。話を聞くに、オメガの夕希がいることでアルファの男子生徒は思いきり体を動かすことができず不満を抱えているようだった。たしかにぶつからないよう気を遣ってくれているのは感じていたけど――。

「あいつなんでここにいるわけ? オメガ専門校行けよ」
「お前あいつと付き合ってるんだろ? 転校しろって言ってやれよ」

 どうやら彼氏の友人たちが、夕希に文句を言うよう促しているようだ。夕希は彼がそれを突っぱねて守ってくれるはずだと期待した。しかしその期待は裏切られた。

「は? オメガなんかと付き合うわけねーだろ。ヤらせてくれそうだから構ってるだけ。やった後つきまとわれても面倒だし、うまく言いくるめて追い出すわ」

 彼の声と友人たちの笑い声が夕希の耳に無情に響いた。

「うーわ、サイテー!」

 好きな人の心無い発言を聞いて夕希は目の前が真っ暗になった。
――やらせてくれそうだから構ってるだけ……?

「まあオメガってエッチする以外に価値ないからな」
「でもあいつ、キスしたらすっげぇいい匂いするんだぜ」
「え~俺にも嗅がせてよ」
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