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12.犯行動機
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「その先は唯斗も知ってる通りだよ」
そう言って彼は僕の髪の毛を優しく撫でた。
精神を病んだ薫の母は自ら命を絶った。息子が自分のせいでフォークとなり、将来的に殺人者となるかもしれない事実に耐えられなかったのだ。それを深く悲しんだ僕の母はその後病に倒れて翌年あっけなく命を落とした。
「そして後妻として旦那様に嫁いできたのが今の奥様だ。彼女は狡猾で目的のためなら何でもする野心家だった。唯斗の代わりに自分の息子を後継者にしようとありとあらゆる手を尽くした。君の食事に毒を盛る、階段から突き落とす、我が子を使って唯斗の頭上に鉢植えを落とさせようとする、体の弱い唯斗が風邪をこじらせるのを狙ってびしょ濡れのまま放置する……」
これを聞いただけで自分がどれだけ憎まれていたのかと思い知らされる。僕は気が滅入りそうになって彼の発言を遮った。
「やめてよ、薫。もういいじゃないか、今はもう彼女の魔の手からは逃れられたんだから」
「ああ、唯斗。君は本当に……心優しいというか、のんきというか」
「なに?」
「奥様の魔の手は今もずっと君に伸びているじゃないか。今夜だってそうだ」
「今夜って、どういうこと?」
「さっき俺が葬った男は、奥様の指示で君を捕食するためやってきたフォークの一人だよ」
「は……?」
(さっきのおじさんが、フォーク?)
「もしかして本当に気付いていなかったの? しきりにフォーク連続殺人のニュースを気にしていたのは唯斗じゃないか」
「それは、だって――」
「あれは全部、唯斗を狙ってやって来た人間なんだ。すべて奥様の手配したフォークだよ」
「嘘だ……そんなこと……」
「俺と君の特殊な秘密は旦那様以外に知られることがないようずっと隠してきたんだ。だけどとうとう奥様に知られてしまってね。それで、実家を出るしかなかったんだ」
どうして今更家を出ないといけないのかと、そのときは少し不思議に思った。そういう理由があったのか。
僕は薫が男性を殺してしまったかもしれないと思って怯えていた。だけど、そもそもあの男の方が僕の命を狙っていたなんて……。
「奥様が君を狙ってることは、旦那様もご存知なんだ。だけど、直接旦那様がやめるように言えば奥様の頭に血が昇って今度こそ何をしでかすかわからない。ケーキ・フォーク症の原因が君のお祖父さんの会社で製造していた薬だと世間にバラされる可能性もある。だから、送り込まれたフォークを俺が秘密裏に処理することを許可されてるんだ」
「許可って、そんな――理由はどうであれ、あんなことしたら……」
「どのみち、今の法的にはフォークがケーキを襲えば極刑は免れない。それを承知で奥様からの依頼を受けている人間だ。どうなろうと自己責任さ」
先程の話のように、現在フォークは政府に管理されている。ケーキを捕食したいという欲求を満たすための施設はあるが、そこで本当にケーキを食べられるわけじゃない。中には体液を舐めるだけでは満足できず、密かにケーキの全身を捕食したいと願ってやまないフォークもいるのだという。そのような者に継母は目をつけ、僕を狙わせたのだ。
「でも――」
「この件については、何度も言うけど旦那様も承知の上なんだ。君の安全を守りたいのは俺だけじゃない。旦那様も同じなんだよ」
僕はこの件をどう理解していいのかすぐには答えが出せなかった。いくら僕の命を守るためとはいえ、殺人は殺人じゃないか。
「本来君が知る必要は無かったんだ。唯斗は優しいから、きっと命を落とした相手が君を狙っていたフォークであれかわいそうだって思うだろう」
「それは……」
「唯斗。残酷なようだけど、上流階級の人達にとって命は平等じゃないんだ。君に理解してくれと言う気はないし、する必要もないと思ってる。だけど、世の中の誰もが唯斗みたいに綺麗なものだけを見て生きていけるわけじゃないんだ」
「ごめん……僕、何も知らなくて……」
「いいんだよ。唯斗は何も知る必要無いし、深く考えなくていいから……ね」
頭がパンクしそうな僕を薫が抱きしめた。
「唯斗がケーキとして生まれたのも、俺がフォークになったのも、俺達のせいじゃない」
「うん」
「気にする必要ない。俺は唯斗がいればそれでいいから」
「うん……僕も、よくわからないし、薫といられればいい」
ありがとう、と言って薫は僕にキスした。
口の端を舐められて、ふと僕は思い出した。
「薫は……今でも僕を食べたいの?」
それを聞いて薫が吹き出した。
「ははっ! そんなに直球で聞かれるとは思わなかった」
「だって……」
「そりゃ、食べたいよ。いつでも君は良い匂いがするしね。だけどそれより、唯斗とずっと一緒にいたいって気持ちのほうが強いから」
「薫……」
「だから俺が唯斗を食べるなんてことは無いから、安心して」
頬に口づけされる。
「最初に薫の後をつけたとき……もしかして他に好きな人がいるんじゃないかって疑ってたんだ」
「好きな人? 俺に?」
「うん。だって、薫は僕と、その……」
「なに?」
「セックスしてくれないから」
薫が目を丸くした。
そう言って彼は僕の髪の毛を優しく撫でた。
精神を病んだ薫の母は自ら命を絶った。息子が自分のせいでフォークとなり、将来的に殺人者となるかもしれない事実に耐えられなかったのだ。それを深く悲しんだ僕の母はその後病に倒れて翌年あっけなく命を落とした。
「そして後妻として旦那様に嫁いできたのが今の奥様だ。彼女は狡猾で目的のためなら何でもする野心家だった。唯斗の代わりに自分の息子を後継者にしようとありとあらゆる手を尽くした。君の食事に毒を盛る、階段から突き落とす、我が子を使って唯斗の頭上に鉢植えを落とさせようとする、体の弱い唯斗が風邪をこじらせるのを狙ってびしょ濡れのまま放置する……」
これを聞いただけで自分がどれだけ憎まれていたのかと思い知らされる。僕は気が滅入りそうになって彼の発言を遮った。
「やめてよ、薫。もういいじゃないか、今はもう彼女の魔の手からは逃れられたんだから」
「ああ、唯斗。君は本当に……心優しいというか、のんきというか」
「なに?」
「奥様の魔の手は今もずっと君に伸びているじゃないか。今夜だってそうだ」
「今夜って、どういうこと?」
「さっき俺が葬った男は、奥様の指示で君を捕食するためやってきたフォークの一人だよ」
「は……?」
(さっきのおじさんが、フォーク?)
「もしかして本当に気付いていなかったの? しきりにフォーク連続殺人のニュースを気にしていたのは唯斗じゃないか」
「それは、だって――」
「あれは全部、唯斗を狙ってやって来た人間なんだ。すべて奥様の手配したフォークだよ」
「嘘だ……そんなこと……」
「俺と君の特殊な秘密は旦那様以外に知られることがないようずっと隠してきたんだ。だけどとうとう奥様に知られてしまってね。それで、実家を出るしかなかったんだ」
どうして今更家を出ないといけないのかと、そのときは少し不思議に思った。そういう理由があったのか。
僕は薫が男性を殺してしまったかもしれないと思って怯えていた。だけど、そもそもあの男の方が僕の命を狙っていたなんて……。
「奥様が君を狙ってることは、旦那様もご存知なんだ。だけど、直接旦那様がやめるように言えば奥様の頭に血が昇って今度こそ何をしでかすかわからない。ケーキ・フォーク症の原因が君のお祖父さんの会社で製造していた薬だと世間にバラされる可能性もある。だから、送り込まれたフォークを俺が秘密裏に処理することを許可されてるんだ」
「許可って、そんな――理由はどうであれ、あんなことしたら……」
「どのみち、今の法的にはフォークがケーキを襲えば極刑は免れない。それを承知で奥様からの依頼を受けている人間だ。どうなろうと自己責任さ」
先程の話のように、現在フォークは政府に管理されている。ケーキを捕食したいという欲求を満たすための施設はあるが、そこで本当にケーキを食べられるわけじゃない。中には体液を舐めるだけでは満足できず、密かにケーキの全身を捕食したいと願ってやまないフォークもいるのだという。そのような者に継母は目をつけ、僕を狙わせたのだ。
「でも――」
「この件については、何度も言うけど旦那様も承知の上なんだ。君の安全を守りたいのは俺だけじゃない。旦那様も同じなんだよ」
僕はこの件をどう理解していいのかすぐには答えが出せなかった。いくら僕の命を守るためとはいえ、殺人は殺人じゃないか。
「本来君が知る必要は無かったんだ。唯斗は優しいから、きっと命を落とした相手が君を狙っていたフォークであれかわいそうだって思うだろう」
「それは……」
「唯斗。残酷なようだけど、上流階級の人達にとって命は平等じゃないんだ。君に理解してくれと言う気はないし、する必要もないと思ってる。だけど、世の中の誰もが唯斗みたいに綺麗なものだけを見て生きていけるわけじゃないんだ」
「ごめん……僕、何も知らなくて……」
「いいんだよ。唯斗は何も知る必要無いし、深く考えなくていいから……ね」
頭がパンクしそうな僕を薫が抱きしめた。
「唯斗がケーキとして生まれたのも、俺がフォークになったのも、俺達のせいじゃない」
「うん」
「気にする必要ない。俺は唯斗がいればそれでいいから」
「うん……僕も、よくわからないし、薫といられればいい」
ありがとう、と言って薫は僕にキスした。
口の端を舐められて、ふと僕は思い出した。
「薫は……今でも僕を食べたいの?」
それを聞いて薫が吹き出した。
「ははっ! そんなに直球で聞かれるとは思わなかった」
「だって……」
「そりゃ、食べたいよ。いつでも君は良い匂いがするしね。だけどそれより、唯斗とずっと一緒にいたいって気持ちのほうが強いから」
「薫……」
「だから俺が唯斗を食べるなんてことは無いから、安心して」
頬に口づけされる。
「最初に薫の後をつけたとき……もしかして他に好きな人がいるんじゃないかって疑ってたんだ」
「好きな人? 俺に?」
「うん。だって、薫は僕と、その……」
「なに?」
「セックスしてくれないから」
薫が目を丸くした。
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