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16.別にショックなんて受けてねえ

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サラリーマン風の男こと日下部さんはたしかに肉のうまい店に連れて行ってくれた。しかしこれまで課長に食べさせられた食事の数々を思い出してしまいかえって胸糞悪くなった。
それで俺は全部忘れたくて次々に酒を飲んだ。

「おいおい、そんな飲んで大丈夫?」

「明日休みなんで」

「そういうことじゃないんだけど……まあ、いいか。俺が付いてるから安心して飲んで」

「………」

ぐいっとグラスをあおる。

「おかわり!」

「あはは、良い飲みっぷり~」

日下部さんはここ2~3ヶ月は月に1回のペースでパーティーに参加してるんだそうだ。

「君みたいな好みの子とまた会えるかもしれないって諦められなくてね」

これってつまり数回通っても彼はなかなか気に入った相手には出会えなかったってことだよね。でも俺的にはサクラとしての役割はしっかり果たせていたようだ。

「俺のどこがいいんですか?別に普通だと思うけど」

「え?本気で言ってるなら嫌味だよ。君すごく可愛いじゃないか。モテただろう今までも」

「……別に」

「嘘だね」

「ゲイの人って可愛いと思ったらすぐ手を出して、それで簡単に次の男探しに行くものなの?」

「え?ゲイの人って、他人事みたいに言ってるけど君もでしょ?面白いなぁ奏太くん」

しまった。変な言い方しちまった。しかし日下部さんは気にしていないようでそのまま話を続けてくれた。

「まぁ、そういう人もいるんじゃない?でもそれはゲイだからというより個人差だと思うけど。俺は一途だよ。付き合ったら長いタイプ」

別にあんたの付き合い方なんてどうでもいい。俺は暁斗さんがそういう奴なのかって知りたいだけだし。
ああ、ちがう。別に課長がどういう付き合い方しようと関係ない。
しかも、簡単に他の男に乗り換えるような男ならむしろ万々歳。後腐れなくこの恋人ごっこをやめられるじゃないか。

「この間の彼は、ちょっと相手が悪いよ。あんなイケメンなかなかいないでしょう。君も可愛いからわかるんじゃないの?あっちからもこっちからもモテたら少しずつつまみ食いしたくなる気持ち」

「はぁ?」

そこまでモテたことねーからわんねえよ。
大体彼女に振られて今の俺があるわけだしな。

「ほら、あんな男のことなんて忘れちゃいなよ。俺がいるじゃない」

「別に、そんなに引きずってるわけじゃないし」

「強がっちゃって可愛いなあ。ねえ、もう一軒行く?」

さすがに俺は二軒目まで付き合う気にはなれず断った。しかし既に結構酔っていて足元がおぼつかなくなっていた。

「タクシーで送っていくよ」

「そんなんしなくていいです。1人で帰れますから」

「いいからいいから。住所言える?」

課長にお持ち帰りされた時のことを思い出し、俺は必死で意識をつなぎとめて自宅マンションの住所を運転手に伝えた。これで帰れる……今夜は散々だった。サクラのバイトだけでも嫌なのに、ショックなことを知ってしまって……いや、ショックってなんだよ。別にショックなんて受けてねーし。

はぁ。嘘だ。わかってる、俺はめちゃくちゃショックを受けたんだ。

普段厳しい課長に週末だけ優しくされたのがそんなに嬉しかったのか?俺はいつの間にか課長に特別な感情を抱くようになっていたみたいだ。別に恋愛じゃねーぞ。ただ、課長は俺のことが好きなんだって思い込んでたからショックだっただけだ。

「くそ……」

「寝てていいよ。着いたら起こしてあげる」

寝るかよ。男なんてみんな嫌いだ、暁斗さんも、日下部さんも姉ちゃんもみんなバーカ。
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