追放されたΩの公子は大公に娶られ溺愛される

grotta

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1章.狂った一族

9.【閑話】侍女ペネロープの独白

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 ルネ様がここを出て行ってしまわれるなんて……。てっきり私も連れて行っていただけるものと思っていたのに置いて行くなんて酷いです。
 でも私のことを思ってそうして下さったのがわかっているので、私はルネ様の代わりにここに残ってこのリュカシオン公国で今後起こることを見守ろうと思います。
 それにしても、バラデュール家の方々はどうかしているわ。あんなに可愛らしい方を皆で寄ってたかって虐めるなんて。誰一人ルネ様の話など聞きもしないんだから。
 私はそもそも今のイヴォンヌ奥様のことが大嫌い。だって、私の敬愛していたミレーヌ様が公妃でいらしたときから殿下に取り入ろうとして必死でアピールしていたのを知っていますから。
 女狐そのものの意地悪そうなお顔立ちで、ミレーヌ様がご病気になられた際にも、お見舞いの帰りにニヤニヤと笑っていたのを私は見ましたもの。
 まさかミレーヌ様が亡くなられてすぐに、彼女が公妃の座に収まるなんて思いもしなかった。それは使用人の仲間たち皆そうだったわ。あんな、下級貴族出身の女性が公妃になるなんて……。
 でも彼女は殿下の子を身籠っていらしたから仕方がなかったのよね。
 それがあの肥満児ヘクター様。子供の頃からわがままで、好き嫌いが激しくてお菓子や脂っこいものばかり召し上がるから幼い頃からあの体型。勉強だって剣術だってひとつも出来やしないし、ルネ様の方がずっとご立派でいらっしゃるのに。ヘクター様がアルファだなんて私は信じられないわ。
 ルネ様の元婚約者のヴィクトリーヌ様もお気の毒に。ヘクター様との婚約が決まってから、一度も社交界に顔を出されていないと聞くわ。

 聞いたと言えば、私こんなことも聞いてしまったのよね。
 あの日、ルネ様がオメガだと判定結果を言い渡された日――皆様一同お集まりの部屋の外で私は控えていました。そして一番最初にドアを開けて出てきたのが奥様とヘクター様。
「ああよかった、上手く行ったわ」
 奥様はこう仰った。そのときは何のことだかさっぱりわからなかったけれど、今ルネ様がこうしてお城を追い出されたことを思えば、なんだかルネ様がこうなってしまったのは奥様のせいであるように思えてならないのです。
 それに、アラン様は真面目で優秀なお世継ぎでいらっしゃるのに突然あんなことをなさるなんてちょっと不自然じゃないかと思っているんです。しかも、都合よくその現場を奥様が目撃されるだなんて……。ルネ様からお聞きした状況的にも、あんなお庭の奥に一体何の用がありましょう? 奥様は薔薇の花なんてこれまでちっともご興味が無かったのに。

 あの後殿下があのようにお怒りになられてルネ様は大変ショックを受けていらっしゃいました。殿下はミレーヌ様にご執心でしたから、生き写しのようなルネ様をそれはそれは可愛がってらっしゃいました。ですからあのように怒ったのはどうしてなのか私も疑問でならなかったのです。まさか、この城を出て行けと言うなんて。
 でもその後私はアラン様と、次男のドミニク様がお話しされているところにたまたま出くわしました。ちょっとお行儀が悪いですが、私はお二人から見えない位置で耳をそばだてて聞いていたのです。
「父上は俺に嫉妬してカンカンになっているのさ。本当は自分が手を出しいのにできなくて怒っているんだ。くくっ、いい気味だよ」
 アラン様はこう仰ったのです。それもとても自慢げに。そして続けてこう言いました。
「できれば発情期を迎えるまで待って俺が可愛いルネを一番に孕ませてやろうと思ったのに、残念だ」
「その次は俺が狙っていたのだがな」
 ドミニク様もこのように仰っていました。私は開いた口が塞がりませんでした。たしかに、高貴な血を残すために多少の近親婚は目を瞑られるのが貴族の習わしではあります。ですが、狩猟の獲物のように弟であるルネ様のことを話すご兄弟達に私は背筋が寒くなりました。
 あのようにお優しい心をお持ちのルネ様をこんな風に笑いの種にするなんて、悔しくてたまりません。

 ルネ様は最後までご自分のことではなく他人の心配をするような方です。ここを出て行かれる直前にも、村外れに住む老人の身を案じていらっしゃいました。ルネ様が熱心に取り組まれていた農地の水路のことで協力してもらっていた人です。身寄りが無く、ルネ様が食べるものや着るものの面倒を見てらしたんです。
 ですがルネ様がここを出てしまうと、その方がお困りになるだろうと気に病んでいらっしゃいました。殿下にも妃殿下にも全く聞き入れて貰えなかったそうです。もちろんアラン様が聞く耳を持つわけがありません。
 本当にこの一族は冷たい方々ばかりです。どなたも皆ご自分のことしか考えていない。そして心優しい善人の方が追放されてしまう。

 断言いたしますが、この一族は狂っています。
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