追放されたΩの公子は大公に娶られ溺愛される

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3章.新たな人生のはじまり

26.リーゼンフェルト伯爵と養子について話し合う

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 僕がデーア大公国に移り住んでから約二ヶ月が経った。その間に僕は十九歳の誕生日を迎え、グスタフやニコラ、そして使用人達が内輪のパーティーを催してくれた。病気療養中という表向きの立場があるため外部の人間を呼ぶことはできなかったけど、それでも昨年の誕生日よりずっと温かく祝って貰えて嬉しかった。

 離宮での生活にも随分と慣れてきた。グスタフは朝食の後は公務のため出掛けて行き、夕方頃に帰って来て一緒に食事をする。早めに帰って来られたときは食事の前に一緒に庭や湖畔を散歩する。
 グスタフが治水技術や建築などに関する資料を大量に持ってきてくれたので、僕は彼の帰りを待つ間それを読んでいる。だから退屈するということはなかった。その資料だけでも、リュカシオン公国にあったどんな図書類よりも格段にレベルの高い内容でとても勉強になった。

 一方胎児は順調に育っているようで、僕のお腹はますます大きくなっていった。
 そして僕の出産もそろそろ近いだろうというある日、グスタフが幼馴染のオットー・リーゼンフェルト伯爵を離宮に呼んだ。グスタフと並んでも引けを取らない体躯の青年だ。ダークブラウンの髪にほぼ同色の瞳をしている。
「お初にお目にかかります、ルネ様。お会いできて光栄です。噂通りのお美しさですね」
「はじめまして」
 するとグスタフが面白くなさそうな顔で言う。
「オットー、彼をじろじろ見るのをやめろ」
「なんだよ、早く会わせてくれと何度も頼んだのにいつまでも君がルネ様に会わせてくれなかったんだ。少しくらい見たって良いだろう?」
「うるさい、とっとと座れ。近づきすぎだ」
 まるで野犬を追い払うかのような仕草で友人を下がらせるグスタフの様子がおかしくて僕はクスッと笑ってしまった。
「ああ、笑顔はまた格別の華やかさだ……」
 すると低い声でグスタフが言う。
「いい加減にしろ」
「はぁ、やれやれ。ルネ様、こうも束縛の激しい夫では息苦しくありませんか?」
「いえ、そんなことは……」
「ルネ。こいつのおふざけにまともに返事をする必要は無い」
 グスタフは一見苛ついているようだけど、その実相手に気を許していることは明白だった。その後もずっとリーゼンフェルト伯爵の飄々とした様子にグスタフがたじたじなのも面白かった。二人とも同じ二十五歳で、幼い頃からの付き合いだそうだ。
「事情は聞いております。ルネ様さえ良ければ、私がお腹のお子さんを養子にさせて頂きたいと思っております」
「本当に良いのですか? 僕と伯爵は親戚でもないのに赤ん坊をいきなり引き取ってもらうなんて……」
「良いんですよ。私は訳あって結婚するつもりはないし、今後子どもができる予定もありませんからね」
「そうなのですか。差し支えなければどうしてかお聞きしても……?」
 リーゼンフェルト伯爵は片頬を歪めて自嘲気味に笑った。
「恥ずかしながら、叶わぬ恋をしているのです」
「そう……でしたか」
 彼くらいの地位と容姿に恵まれていても手に入らないほどの高嶺の花なのだろうか。
(それとも、もしかして既に相手がいる方とか……?)
「こいつが恋してるのは恐ろしい悪魔のような相手なんだよ。こんなひよっこが敵うわけもないさ」
「うるさいぞ、グスタフ。いいよなぁ君は。俺より絶対君のほうが結婚に手こずると思ったのになんだよ、こんな美人をさっさと捕まえやがって」
「お前はそろそろその執着を捨ててきっぱり諦めることだよ」
「嫌だね、君に言われる筋合いはない」
 どうやらグスタフは伯爵の恋している相手を知っているようだ。
(悪魔のようとはどういうことなのかな。それほど美しくて蠱惑的、という意味?)
「とにかく私は喜んでお子様を引き取らせていただきます。もちろん、いつでも我が家に会いに来ていただいて構わないですから」
「ありがとう、リーゼンフェルト伯爵」
「オットーで良いですよ。あなたはグスタフの奥方になられるのですから」
「そうですか。ではオットーと呼ばせてもらいますね」
「ルネ、こんな奴に敬語を使う必要はないぞ」
「もちろん構いません。が、君に言われるのは腹が立つな」
「ふん」
 僕にはこのように気の置けない友人というものがいなかったので、二人の様子がとても羨ましかった。

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