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腹減り雀

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本編

54

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 家に帰ってくると、家の前にミッケさんとルルの二人が座り込んで待っていました。装備はつけていないので、お風呂には入っているようですね。

「おかえり~。桜華さんが暗くなっても家にいないなんて珍しいね」
「ただいま、ミッケさん。牧場で少し用事がありまして。あの、体に力がうまく入らなくて、笹熊亭でご飯にしてもいいでしょうか」
「いいよ。ルルちゃんが干乾びる前に早く行こう」

 すでにミッケさんの肩の上で息も絶え絶えです。急げる範囲で急ぎましょう。
 ミッケさんに肩を貸してもらって何とか笹熊亭にやってきました。私達が店にい入ってから空いている席に座るまでの間、それまでの賑わいが嘘みたいに静かになっています。

 周囲の様子に戸惑っていると、心配そうな顔をしたピエナさんがお盆を抱くように抱えてやってきました。

「桜華さん、一体何と戦ったんですか?」
「疲れただけです。戦うって、どうして」
「えぇっと、桜華さんだから?」

 可愛らしく小首を傾げるピエナさんと、何度も頷く周囲の皆さん。

「熊とか、猪とか?」
「蛙とか、蜥蜴とか?」

 ミッケさんとルルまでもピエナさんと同じような姿勢です。なお、蛙と蜥蜴はどちらも大人と同じぐらいの大きさで、グルーベアと戦う事もあるとか。

「心外ですね。ちょっと地面を掘ったぐらいです」

 ディンさんと夜番の方々が、無言で首を横に振っています。近くにいた小父さんがそれに気が付いて二人の傍へ。

「なあ、ちょっと地面を掘ったで、どうやったらここまで疲れるんだ?」
「恐らくですが、気を纏った蹴りですね。それで地面を割って細めの水路を作っていました」
「割ると掘るはだいぶ違うし、水路って無茶苦茶な」

「さすが、桜華さんですね」
「さすが桜華さん!」

 笑顔のピエナさんが纏めると、皆さんが一斉に杯を掲げて唱和しています。乾杯の合図みたいで非常に嫌なのですが。

「桜華さん、少しいいかな」
「あれ、カイゼルさん。珍しいですね」
「偶には外で食べる事もある」

 顎で示された先に、奥様と息子さんらしき人達が楽しそうに食事しています。

「話を戻すぞ。池の件で報告が来た」
「あ。早いですね」
「逐次報告する様に言ってあるから。で、あの辺の柵を少し変更することになった。詳細は書面で渡すから確認してほしい」
「分かりました」
「あまり、無茶をしない様に」

 カイゼルさんが私の肩を軽く叩いて家族の下へ去っていきました。入れ替わるようにエレノアさんが登場です。

「桜華さん、馬車の件でお話があります。後でギルドに来てくださいね」
「分かりました」
「また呼び出しだ。桜華さん、なにしたの」

 両手にご飯を持ったルルとミッケさんがやんちゃな子供を見る目になっています。

「馬車は魔具職人の仕事の話ですね」

 いそいそと食事を終えると、盛り上がりを見せる皆さんを羨みながら笹熊亭を後にします。

 既に暗くなっているのですが、賑わっている公衆浴場を見ながらギルドへ。書類仕事をしていたキャシーさんに声をかけて席に着きます。

「いくつか話があります。まずは馬車の件です」

 奥の部屋から多少やつれた様子のラウルさんが現れて、私の傍に椅子を持ってきて座りました。

「魔方陣に関しては既に本部に報告を済ませました。後は職人の方々がやっていくことになります。で、普段お世話になっているロームさんの馬車を改造するという話になりました」

 真剣な話をしているのに、横にいるラウルさんが大きな骨付き肉に齧りつき始めました。良い匂いをしています。

「堅牢と軽量、空間拡張。この三つ、可能でしょうか」
「可能だと思います」
「では、四日後に新しいのが二台できるのでお願いします」

 グレンさんが作業すれば明日にはできるそうですが、柵の方を優先するために他の方が担当するので四日後になるそうです。

「次に、柵の件です。池は柵の内側になるように作っていたようですが、水の精霊とシエロちゃんの事情があるので、いっその事、池を柵の代わりにすることが決まりました」

 一枚の絵図を取り出して、指で指示してくれます。

「この絵図のように、外側に向けて池を四割ほど、深さも現状の倍まで拡大してください」
「えっと、作業は私が?」
「ええ。人手が足りませんので」

 有無を言わせない、素晴らしい笑顔のキャシーさん。ラウルさんが横で爪の手入れをしています。

「後は、こちらに記名をお願いします」

 差し出された書類を手前に引き寄せて内容を確認します。

「特殊養成師の新規申請書?」
「はい。走竜を始めとする大型の魔物を飼育している方や、魔物の特殊個体を養成している方が申請するものです」
「ベックみたいに貸出とかをやっている奴らの事だ。ま、特殊な職種ってやつだな」

 爪を照明にかざして研ぎ具合を確認するラウルさん。良い光り具合です。

「本来、個人で魔獣と一緒にいるやつらには関係のない話だが、お前の場合は村として切り離しづらいものがあるし、数が多い上に質も恐ろしいものがある。となっては色々と煩く言ってくる連中がいるから、申請しておくに越したことはない」

 狩猟者等が個人的に従えている場合の名称として従魔士というのがあるそうですが、あくまでも名称であって、職種ではないそうです。

 トト、アウラ、シエロの事を考えると納得できたので、大人しく名前を書いて申請しておきます。
 なお、メリちゃん等少し狂暴なものを一定数以上飼育する場合は、養成士の申請が必要になるそうです。今の処必要数には届いていないので申請は必要ないそうです。

「はい、受け付けます。さて、最後になります」

 書類をまとめていたキャシーさんが姿勢を正し、ラウルさんも心なしか近寄ってきました。

「報告によると、私達では姿を見るどころか気配を感じることもできませんが、水の精霊で相当上位の方が来られているとか」
「はい。池にいます」

「コリンズさん、カイゼルさん、ラウルさん、エレノアさんで話し合いが行われた結果、今後桜華さんがいる以上、他の上位精霊が来られる可能性があるとなりました。そうなった場合の対処は桜華さんにお任せして、私たちはかの方々に気にいっていただける環境づくりをすることになりました」

「えっと、丸投げですか?」
「桜華さんしか対処できませんから。嫌と言われてもエレノアさんが笑顔になるだけです」

 それは恐ろしい話ですね。想像しただけで冷や汗が噴き出してきます。

「難しいことは言わん。仲介すりゃいいだけだ」
「分かりました」
「話は以上になります」

 最後に今まで以上に連携を図ることを確認して終わりです。
 ギルドから外に出て、今日も賑やかな大樹を見上げます。本当に他の上位精霊の方が来るのでしょうか。

「おや、桜華さんではありませんか」
「あ、ロームさん」

 声の聞こえてきた方を見れば、商隊の時と比べて幾分か楽な格好をしたロームさんが飲み物を片手に立っていました。

「ロームさん、どうしてこちらに」
「そちらにある公衆浴場というものに行ってきまして。いやあ、実に気持ちいいでですね」
「町の方にこういった設備はないのですか?」
「渡来人の中に、風呂という文化について熱く語る方々がいるというのはよく聞きます。ですが、この様な設備はありませんね」
「そうでしたか」
「しばらくはこの村でゆっくりすることになっているので、何かあれば来てください」

 もちろん、有料ですがと朗らかに笑うロームさん。

「その時は、お手柔らかにお願いします」

 挨拶を交わした後、ふらつこうとする足を励ましながら帰宅します。先に帰っていたマコちゃんが出迎えてくれました。
 家族の出迎えって、良いですよね。

 ……ミッケさん、ルル、ノノさんですか? 三人は酔い潰れてリビングに転がっていて、ほぼ寝言でお帰りと言ってくれましたよ。呆れると同時にほっとしてしまったのは、どうしてでしょうか。
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