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腹減り雀

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本編

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 ところで。これまでの流れから気になることがあるので、聞いてみましょうか。

「あの、風の精霊さん。ちょっといいですか?」
「何でしょうか」
「火の方はどうしていますか?」

 水、土、風と来たのなら、他の方々が来てもおかしくないよですよね。

「彼ならここに向かっていると思います。寧ろもう到着していると思っていましたが、いないのですか?」
「はい。まだ見ていません」
「そうですか。一体どこに行ったのでしょうか、調べてみましょう」

 フワっと高い処まで飛んでいくと、一定の範囲を泳ぎ……飛んでいます。どちらが正しいのでしょうか。
 暫くすると降りてきて、大きなため息が出ました。

「どうも村の中央にある建物の中に入っていったようです」
「村の中央にある建物……」
「火に関係ありそうなのは……」
「公衆浴場!」

 ラウルさん、キャシーさん、私の三人の声が揃いました。意見が揃ったので、公衆浴場へ移動を始めます。
 公衆浴場の魔具を纏めて置いてある部屋へ入ってみますが、こちらには姿がありません。

「この建物にいるのは間違いなさそうです」
「そうなると、男湯の確認はどうしましょうか」
「人払いをやっておくから、先に女湯を見ておけ」

 ラウルさんが男湯の方へ向かったので、女湯へ移動します。番台にいる人が何か言いたげな顔をしていましたが、合流したルーナさんに任せて浴室へ。

 屋内の方には……いませんね。こうなると男湯の方ですか。
 入口に戻って待つ事数分。ラウルさんが出てきました。

「入って大丈夫だ」

 一人で入るのも嫌なので、顔を真っ赤にしているルーナさんの袖を引っ張りながら中へ入ります。
 で。肝心の火の精霊さんを見つけることができました。体は火でできていますが、子供と同じくらいの人型をしているらしく、お湯に浸かって気持ち良さそうにしています。

 一緒に来ていた風の精霊に確認すると、間違いないようです。風の精霊さんが話をするそうなので、引き上げることにして公衆浴場前に戻ります。

「はぁ。また仕事が増えたな」

 ラウルさんが延々と呟く怨嗟の声を聞こえなかった振りでやり過ごしていると、風の精霊さんが火の精霊さんを伴って出てきました。火の精霊さんと挨拶を交わした後は、先程の質問の続きです。

「他の司る方々の動向ですが」
「皆、この村に向かっていると思います。追々挨拶に行くと思いますよ」

 それなら問題ないですね。

「では、私も用事があるのでそろそろ失礼します」
「ええ。お気をつけて」

 風の精霊さんに一礼して踵を返します。ラウルさんが何とも言えない顔をしていましたが、何も言ってこないので黙って横を通り過ぎて牧場へ向かいます。

 場面は打って変わって、牧場の先にある池の淵。

 シエロは潜っているのか出てきません。少し寂しく思いながら反対側に回ると、土の精霊に声をかけて拡張工事を始めます。
 結構時間がかかるかなと思っていたのですが、途中から一気に進みだして、油断していたルーナさんが穴に落ちそうになってしまいました。

「フェエエ。お、桜華さん」
「ごめんなさい。大丈夫ですか」

 いきなり作業速度が上がった原因を探して周囲を確認すると、土の精霊さんが顔を出しました。

「いやぁ、すまんの。張り切り過ぎてしまったわい」
「ふぇ、い、いえ、大丈夫です」

 土の精霊さんに頭を下げられて涙目で少し声が震えているルーナさんですが、必死に取り繕っています。

「お嬢さん、また儂らの力が必要なら行っておくれ」
「はい。その時があれば是非」

 土の方は満足そうにうむ、うむ。と頷いて帰っていきました。

「桜華さん。上位精霊を介した精霊魔法の使用は、控えてもらえると助かります」
「……土の精霊さんが来るとは想定外です」

 ディンさんから苦言を頂きました。でも、その通りですね。あの方々が出てくると大事になりそうです。

「とりあえず、ここはこれでいいですね。ルーナさん、どうですか」
「そうですね……」

 ルーナさんがギルドから持ってきた地図と現状を照らし合わせている間に、牧場の方へ視線を移します。

 牧場のあちらこちらに座り込んでいる小さな女の子に若奥様。皆さん一人に付き数匹のココットを抱え込んで、撫でながら毛繕いをしています。剛毅な方はメリちゃんを膝枕しながら毛を梳いています。
 そういえば、メリちゃんの毛刈りをしないといけませんね。イアンさんに聞きに行きましょうか。

「……桜華さん、予定より広くなっていますが、問題なさそうです」

 ルーナさんが涙目を向けてきて、ディンさんが胃のあたりを抑えながら遠くを見ています。

「すみません。って、私のせいですか」

 二人によると、土の大精霊には駄目と言えないから代わりに私らしいです。理不尽です。
 気持ちを切り替えて池を回り込んでいると、大きな音を立ててシエロが顔を出しました。

「フェエエエ!」
「……えぇっ」
「立派になりましたね」
「く~」

 シエロが鯨の様な高音と低音が交じり合った不思議な鳴き声で答えてくれます。
 頭部だけで私より大きくなっていて、体表が透明度高めの蒼い鱗が綺麗です。まだ大きくなるのでしょうか。

「桜華さん、こんにちは」
「こんにちは」

 水の精霊さんも水面に現れました。ですが、全体的に緑色(若草色かな)になっています。

「あの、その色はどうされたのですか?」
「水草を植えているので、その色です」

 本人にもよく分かっていないそうですが、水中の岩を弄っているときは白くなって、植物を弄っているときは緑になるそうです。

「桜華さん。実はこの子ですけど……」
「この子ですか?」

 返事の代わりに水中から現れたのは巨大な水塊。中に核があるのでアクアなのは確かですが、大きさが凄いことになっています。具体的に言うと、直径百メートルぐらい。

「フェ、フェ、エ」

 ルーナさんの声がとぎれとぎれです。ディンさんは表情が抜け落ちていますね。

「どうして大きくなったのでしょうか」

 アクアはゴーレムなので成長はありません。大きさが変わるのは、私がそうしたときだけの筈です。

「シエロちゃんの友達という事なのでこの子にも加護を渡したのですが、この様な形に。大丈夫でしょうか」
「体調に問題がなさそうですし、大丈夫です。二人に加護をくださり、ありがとうございます」
「いえいえ。友達ですから」

 コロコロと笑う水の方にお辞儀して帰宅しようとしたら、いつか聞いた笛の音が幾つも聞こえてきました。横にいるディンさんは深刻そうな顔をしています。

「ディンさん、何が」
「緊急事態です」
「ルーナさん、マコちゃんの事をお願いできますか」
「ひゃい! 分かりました!」

 厩舎へ向かうルーナさんが走り出したら、背後から大きな水音が聞こえてきました。振り返るとシエロとアクアが空中に浮かび上がっていました。

「く~」
「シエロ達も来てくれるの? でも、この場所の防衛が……」
「此処は私たちの家ですから、お任せください」

 水の精霊さんが胸を張って応じてくれたので、ここをお願いしてシエロ達と一緒に村の中心を通って避難所の前まで移動します。
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