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本編
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不意に不思議そうな顔をしたルルが正面に回り込んでくる。
「ところで、どうして村長のところへ?」
「村でやっていくつもりなので、挨拶しようかと」
「なるほど。桜華はしっかりしているね」
妙な関心をしているルルを連れて、村の入口から歩くこと数分で村長の家に到着。下から見上げると、トンガリ屋根は煙突も兼ねているらしいと判明。でも、手入れは大変そう。
見上げるのも止めにして、中へ一歩入る。
「すみません。どなたかいませんか」
「はい。少しお待ちください」
近くから聞こえてきた声に従って待っていると、すぐに執事らしき恰好をした白髪の男性がやってくる。
「こんにちは。お嬢様方。どのようなご用件でしょうか」
「唐突にすみません。渡来人の桜華、妖精のルルと申します。この村を中心に活動しようと考えていますので、ご挨拶をと思いまして」
「そうでしたか。では、こちらへ」
すぐ近くの客間へと案内されると、執事は少しお待ちくださいと告げて部屋から出ていく。
質素と言っていい内装の客間ではあったけど、どの調度品も部屋の雰囲気に合った物で上品に纏められている。そんな部屋の中央にあるソファにちょこんと座って待つ。
座り心地の良いソファに感心していると、軽めのノック。間を開けずに侍女と思われる女性が入ってくる。
「お茶をお持ちしました。どうぞ、ごゆっくり」
侍女さんは見事な手捌きで紅茶を淹れると、あっという間に部屋から出ていく。静かな足捌きに、淀みのない動き。さらに、淹れてくれた紅茶は薫り高く、すっきりとした味わい。一流の技に、驚きが尽きない。
「桜華、苦くない?」
「私はこれぐらいが好みだけど、ルルには苦かった?」
「うん。もうちょっとかな」
頷きながら砂糖を足していって、最終的には角砂糖2.5個を入れたところで美味しそうに飲み始める。ルルの体格から言って砂糖の取り過ぎが心配。
紅茶の飲み方で雑談をしていると小さなノック。それから一呼吸分を空けて、先程の執事さんと四十前後とみられる髭を生やした渋めの男性が部屋へ入って来る。立ち上がって向き直ると、ルルと一緒にお辞儀をする。
「こんにちは。村長を務めているコリンズと言います」
「こんにちは。渡来人の桜華と申します。こちらは妖精のルルです」
にこやかに笑うコリンズさんに、簡単な自己紹介。手でソファを示されたので、浅く腰掛ける。
「桜華さんとルルさんですね。こういっては失礼かと思いますが、この村は何もありません。何故この村をお選びになられたのか。宜しければお聞かせ願えませんか?」
「ゆっくり暮らしたいと思いまして」
心の奥深くを見通そうとするかのように鋭い目つきに、臆することなくまっすぐ見つめ返す。目が合っていたのは数秒。だけど、それにしては長く感じる時間が過ぎた後、鋭い目つきが和らぐ。
「失礼な事を聞いてしまいました。申し訳ありません」
「いえ、お構いなく」
先程の空気を追い出し、改めて向かい合うと、コリンズさんは笑顔を浮かべて右手を差し出す。
「ようこそフェナンへ」
「よろしくお願いします」
差し出された手を握り、和やかに挨拶を終える。少し落ち着かない様子のルルも握手したのでこれで終わりになるかと思えば、コリンズさんが名案を思いついたという表情を浮かべる。
「そうだ。桜華さんとルルさん。町の外れに誰も住んでない家があります。どうです? お住まいになりませんか」
「……拠点が必要なのは確かですし、そうしたいのも山々です。ですが、手持ちがありませんし、安定的な収入も不透明ですから」
「家は誰かが住むために作られ、誰も住まなければ直ぐに廃れてしまいます。お金の事は気にせず、どうぞお使いください」
要は家が勿体ないという事でしょうか。固辞してもいいけど、これ以上はせっかくの好意を無碍にしてしまうので、丁度いいと思う事にしましょう。
「では、ありがたく使わせていただきます」
コリンズさんが満足そうに頷くので、深くお辞儀する。
「場所は丘の家。鍵は村の中心部にある総合組合に預けてあります」
コリンズさんが執事さんから受け取った紙に何かを書いていく。
「では、これを総合組合に渡してください」
執事さん経由で手渡された紙には、丘の家を無償で貸し出すといった趣旨の事が書かれている。
「ありがとうございます」
コリンズさんにお辞儀して家を出て少し歩くと、ルルが大きなため息をつく。
「どうしました?」
「どうしたじゃないですよぅ。すごく緊張した~。なんで桜華は平気なの」
「緊張するようなことがありましたか?」
ルルの不服そうな視線を受け流しつつ、再度村の様子を見ながら村の中心部へと向かう。
村の中心点となる広場には、一際大きな木とそれを囲むように作られた噴水と花壇。ベンチも置かれていて、町の人の憩い場になっているようだ。
この広場を囲むように店舗があり、武具屋と雑貨屋、薬屋と食材屋、食堂兼酒場と総合組合(通称ギルド)が軒を連ねている。店の間には道が四本あり、村の中を増えたり減ったりしながら通り抜けていき、最終的に二本の道へと繋がり、通ってきた南門と反対側の北門へ出る道に続く。なお、南門付近に兵士達の詰所と隊舎があるそうだ。
少し縦に長く、中央部が膨らんでいるのがフェナンの形だと、通りがかった住人が教えてくれる。 住人にお礼を言った後、一通り店に挨拶して回ってから総合組合の建物に入る。
ここは商人組合、職人組合、狩人組合が一体となった場所。本来は人口の少ない村にギルドが作られることはない。しかし、フェナンでは渡来人が来る可能性が有った為、問題対処の為に特例的に設置が決まり、その特例であるが故に統合されていれば作業的に無駄がないという事でこの建物に集約されているそうだ。
「ところで、どうして村長のところへ?」
「村でやっていくつもりなので、挨拶しようかと」
「なるほど。桜華はしっかりしているね」
妙な関心をしているルルを連れて、村の入口から歩くこと数分で村長の家に到着。下から見上げると、トンガリ屋根は煙突も兼ねているらしいと判明。でも、手入れは大変そう。
見上げるのも止めにして、中へ一歩入る。
「すみません。どなたかいませんか」
「はい。少しお待ちください」
近くから聞こえてきた声に従って待っていると、すぐに執事らしき恰好をした白髪の男性がやってくる。
「こんにちは。お嬢様方。どのようなご用件でしょうか」
「唐突にすみません。渡来人の桜華、妖精のルルと申します。この村を中心に活動しようと考えていますので、ご挨拶をと思いまして」
「そうでしたか。では、こちらへ」
すぐ近くの客間へと案内されると、執事は少しお待ちくださいと告げて部屋から出ていく。
質素と言っていい内装の客間ではあったけど、どの調度品も部屋の雰囲気に合った物で上品に纏められている。そんな部屋の中央にあるソファにちょこんと座って待つ。
座り心地の良いソファに感心していると、軽めのノック。間を開けずに侍女と思われる女性が入ってくる。
「お茶をお持ちしました。どうぞ、ごゆっくり」
侍女さんは見事な手捌きで紅茶を淹れると、あっという間に部屋から出ていく。静かな足捌きに、淀みのない動き。さらに、淹れてくれた紅茶は薫り高く、すっきりとした味わい。一流の技に、驚きが尽きない。
「桜華、苦くない?」
「私はこれぐらいが好みだけど、ルルには苦かった?」
「うん。もうちょっとかな」
頷きながら砂糖を足していって、最終的には角砂糖2.5個を入れたところで美味しそうに飲み始める。ルルの体格から言って砂糖の取り過ぎが心配。
紅茶の飲み方で雑談をしていると小さなノック。それから一呼吸分を空けて、先程の執事さんと四十前後とみられる髭を生やした渋めの男性が部屋へ入って来る。立ち上がって向き直ると、ルルと一緒にお辞儀をする。
「こんにちは。村長を務めているコリンズと言います」
「こんにちは。渡来人の桜華と申します。こちらは妖精のルルです」
にこやかに笑うコリンズさんに、簡単な自己紹介。手でソファを示されたので、浅く腰掛ける。
「桜華さんとルルさんですね。こういっては失礼かと思いますが、この村は何もありません。何故この村をお選びになられたのか。宜しければお聞かせ願えませんか?」
「ゆっくり暮らしたいと思いまして」
心の奥深くを見通そうとするかのように鋭い目つきに、臆することなくまっすぐ見つめ返す。目が合っていたのは数秒。だけど、それにしては長く感じる時間が過ぎた後、鋭い目つきが和らぐ。
「失礼な事を聞いてしまいました。申し訳ありません」
「いえ、お構いなく」
先程の空気を追い出し、改めて向かい合うと、コリンズさんは笑顔を浮かべて右手を差し出す。
「ようこそフェナンへ」
「よろしくお願いします」
差し出された手を握り、和やかに挨拶を終える。少し落ち着かない様子のルルも握手したのでこれで終わりになるかと思えば、コリンズさんが名案を思いついたという表情を浮かべる。
「そうだ。桜華さんとルルさん。町の外れに誰も住んでない家があります。どうです? お住まいになりませんか」
「……拠点が必要なのは確かですし、そうしたいのも山々です。ですが、手持ちがありませんし、安定的な収入も不透明ですから」
「家は誰かが住むために作られ、誰も住まなければ直ぐに廃れてしまいます。お金の事は気にせず、どうぞお使いください」
要は家が勿体ないという事でしょうか。固辞してもいいけど、これ以上はせっかくの好意を無碍にしてしまうので、丁度いいと思う事にしましょう。
「では、ありがたく使わせていただきます」
コリンズさんが満足そうに頷くので、深くお辞儀する。
「場所は丘の家。鍵は村の中心部にある総合組合に預けてあります」
コリンズさんが執事さんから受け取った紙に何かを書いていく。
「では、これを総合組合に渡してください」
執事さん経由で手渡された紙には、丘の家を無償で貸し出すといった趣旨の事が書かれている。
「ありがとうございます」
コリンズさんにお辞儀して家を出て少し歩くと、ルルが大きなため息をつく。
「どうしました?」
「どうしたじゃないですよぅ。すごく緊張した~。なんで桜華は平気なの」
「緊張するようなことがありましたか?」
ルルの不服そうな視線を受け流しつつ、再度村の様子を見ながら村の中心部へと向かう。
村の中心点となる広場には、一際大きな木とそれを囲むように作られた噴水と花壇。ベンチも置かれていて、町の人の憩い場になっているようだ。
この広場を囲むように店舗があり、武具屋と雑貨屋、薬屋と食材屋、食堂兼酒場と総合組合(通称ギルド)が軒を連ねている。店の間には道が四本あり、村の中を増えたり減ったりしながら通り抜けていき、最終的に二本の道へと繋がり、通ってきた南門と反対側の北門へ出る道に続く。なお、南門付近に兵士達の詰所と隊舎があるそうだ。
少し縦に長く、中央部が膨らんでいるのがフェナンの形だと、通りがかった住人が教えてくれる。 住人にお礼を言った後、一通り店に挨拶して回ってから総合組合の建物に入る。
ここは商人組合、職人組合、狩人組合が一体となった場所。本来は人口の少ない村にギルドが作られることはない。しかし、フェナンでは渡来人が来る可能性が有った為、問題対処の為に特例的に設置が決まり、その特例であるが故に統合されていれば作業的に無駄がないという事でこの建物に集約されているそうだ。
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