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本編
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ギルドの建物に入ってすぐの場所が大きな部屋になっていて、部屋の半分の位置にカウンターがあり、新規登録、申請、依頼受付、依頼報告、買い取り、税金と細かく分けられている。
左の方にはパーテンションが立てられていて、そこには小さな紙が大量に貼り付けられている。カウンターの奥は事務職の方達が働いている。
なお、渡来人というか、お客さんが全くいない。
「人いないね」
「そうですね。それにしても、細かいところまで作りこまれていますね。とりあえず、新規登録しましょうか」
いつものように観察を切り上げ、新規登録カウンターのやや張り切りすぎている感じの青年が座っている場所に向かう。
「こんにちは。狩人の登録ですか?」
「いえ、違います。魔具職人になろうかと考えているので、そっちで登録を」
「……え? ……ま、魔具職人ですか。いた!」
大分間が開き、漸く答えたと思ったら青年が頭を叩かれて蹲る。青年の背後には、いつの間に立ったのか、栗色の髪を編み込んだ美人が木の棒を肩に担いでいた。
「私がやりますから、どいてください」
青年の後ろ襟を掴んだと思ったら後ろへヒョイッと放り投げ、棒を脇に立てかけて優雅に席に着
く。
大して力のなさそうな人だから少し驚きの光景。というか、青年が涙目になっているのは放置ですか。
「……こほん。すみません失礼しました。職人ですね。こちらに記入をお願いします」
咳払いの後、満面の笑みを浮かべて書類を出してくる。
先程見たことに関しては忘れることにして、受け取った書類に必要事項を書き込んでいき、項目を埋め終えると提出する。
「桜華さん。魔具職人志望ですか。あ、魔具とは何か。ご存知でしょうか」
「いえ。どのようなものでしょうか」
話は長くなるらしく、席を隣の申請に移して緑茶を淹れて仕切り直し。
「では、ご説明します。魔具とは魔法が掛かった道具の事で、それを作るのが魔具職人です」
三人揃ってお茶で喉を潤す。茶葉は良い物を使っているらしく、非常に美味しい。
「現在作られている主な魔具は魔獣避けと簡易的な結界となっています。後、迷宮の奥で発見された魔具で照明道具、魔法袋なんかもありますね。他にも迷宮の奥地で見つかる事もありますが、効果はよく分からないものが多いです」
魔具も道具である以上、ちゃんとした使い方をしないと効果が表れないので仕方のない話。
「魔具は石や木、鉄といった材料に魔方陣を刻むことで作られます。ただ、作業自体はそれぞれの職人でできてしまうので、研究者はいても、魔具専門の職人は大きな町以外にいないのが現状です」
「先達がいないのは、結構厳しいですね」
「後生の為にと職人が記した書物がありますよ」
「その本はどちらにありますか?」
「こちらになります」
非常に薄い本をカウンターの上に置かれる。お茶と一緒に持ってきたのでしょうか。
本を開いてみると、中は予想以上に薄くて数ページしかなかった。先達の残した貴重な資料ではあるけど、かなりの覚悟が必要となりそうだ。
「とりあえず、やってみます」
「頑張ってください」
冷ややかな対応をされても仕方ないのに、目の前の女性は心の底から応援してくれているようだ。
魔具についての話が一段落したので、話は次へと移る。
「他にご質問はありますか?」
「他には……あ。質問ではないのですが、先ほど村長へ挨拶した際に家を貸していただけると話がありまして」
懐に仕舞っていた手紙を差し出すと、女性は紙面に書かれた内容に目を通してから奥へと向かっていく。
程なくして戻ってきた女性は、数枚の紙と村の地図をカウンターに置く。
「こちらが、丘の家の物件情報です」
家はログハウスで三LDK。暖炉、水浴び場、トイレ付。中にある家財は使用、処分どちらでも好きな方で良いらしい。此処までは問題なし。
「付帯物件。牧場に厩舎?」
「家の裏手に牧場があります。家主は何度か変わりましたが、最初の家主が酪農をなさっていたそうです」
牧場。搾りたての牛乳を使ったチーズとか美味しそう。ん? 牛乳を飲まないのかって? 私の胃は牛乳を受け付けない体です。ゲームで再現しているかは知らないけど、進んで飲みたいとは思わない。
「あの、動物は居ますか?」
「長いこと経っていますので、現在はいません」
「そうですか」
「では、ここに署名をお願いします」
指示された通りに署名。書類を受理してもらい、家の鍵を受け取る。
「最後となりましたが、私はエレノアと申します。今後とも宜しくお願いしますね」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
互いにお辞儀して席を立つ。ギルドから出る際に振り返ってみると、エレノアさんは奥の方へと移
動して座る。そこが普段の担当席という事だろうけど、その背後にエレノアさんの背丈を超える巨大な剣が立てかけられている。
見なかったことにするために視線を逸らして前を見ると、丁度入ってこようとしていた若い女性とぶつかりそうになる。
「あ、すみません」
「こっちこそ、ごめんなさい」
一歩下がって頭を下げると、相手の女性も同じよう動作をして謝罪を行う。顔を上げて互いの視線が交わると、明るい緑色の髪を肩に触れる程度にした女性が首を傾げる。
「ところで、プレイヤーですか?」
「はい。桜華と申します。こっちは妖精のルルです一応、NPC……えっと、ルルはどういう立ち位置ですか?」
「他のゲーム的にはそれだけど、ここでは普通に住人だよ。ちなみに、プレイヤーは渡来人です」
「なるほど」
「へ~。って、どうしてここに」
「キャラメイクの時の担当さんが、面白そうだからとストーカと化して付いてきました」
「ストーカじゃないよ。私の直感が、桜華の傍は非常に楽しいのだと叫び声を上げるのです」
ルルが胸の前で握り拳を作って力強く宣言すると、女性も「おおっ」と、好奇心が止まらない子供
のような眼をする。
「あっと。私はミッケです。ミッケと呼んでください。もしよかったら、フレンド良い?」
「私は只管ゆっくりとやるつもりですが、それでも良ければ」
「同じ。私も村でゆっくりとハンターをやるつもり。よろしく」
「よろしくお願いします」
差し出された手を握り返し、フレンド登録を行う。その後、狩人の登録に向かうミッケさんと別れて外へ。
左の方にはパーテンションが立てられていて、そこには小さな紙が大量に貼り付けられている。カウンターの奥は事務職の方達が働いている。
なお、渡来人というか、お客さんが全くいない。
「人いないね」
「そうですね。それにしても、細かいところまで作りこまれていますね。とりあえず、新規登録しましょうか」
いつものように観察を切り上げ、新規登録カウンターのやや張り切りすぎている感じの青年が座っている場所に向かう。
「こんにちは。狩人の登録ですか?」
「いえ、違います。魔具職人になろうかと考えているので、そっちで登録を」
「……え? ……ま、魔具職人ですか。いた!」
大分間が開き、漸く答えたと思ったら青年が頭を叩かれて蹲る。青年の背後には、いつの間に立ったのか、栗色の髪を編み込んだ美人が木の棒を肩に担いでいた。
「私がやりますから、どいてください」
青年の後ろ襟を掴んだと思ったら後ろへヒョイッと放り投げ、棒を脇に立てかけて優雅に席に着
く。
大して力のなさそうな人だから少し驚きの光景。というか、青年が涙目になっているのは放置ですか。
「……こほん。すみません失礼しました。職人ですね。こちらに記入をお願いします」
咳払いの後、満面の笑みを浮かべて書類を出してくる。
先程見たことに関しては忘れることにして、受け取った書類に必要事項を書き込んでいき、項目を埋め終えると提出する。
「桜華さん。魔具職人志望ですか。あ、魔具とは何か。ご存知でしょうか」
「いえ。どのようなものでしょうか」
話は長くなるらしく、席を隣の申請に移して緑茶を淹れて仕切り直し。
「では、ご説明します。魔具とは魔法が掛かった道具の事で、それを作るのが魔具職人です」
三人揃ってお茶で喉を潤す。茶葉は良い物を使っているらしく、非常に美味しい。
「現在作られている主な魔具は魔獣避けと簡易的な結界となっています。後、迷宮の奥で発見された魔具で照明道具、魔法袋なんかもありますね。他にも迷宮の奥地で見つかる事もありますが、効果はよく分からないものが多いです」
魔具も道具である以上、ちゃんとした使い方をしないと効果が表れないので仕方のない話。
「魔具は石や木、鉄といった材料に魔方陣を刻むことで作られます。ただ、作業自体はそれぞれの職人でできてしまうので、研究者はいても、魔具専門の職人は大きな町以外にいないのが現状です」
「先達がいないのは、結構厳しいですね」
「後生の為にと職人が記した書物がありますよ」
「その本はどちらにありますか?」
「こちらになります」
非常に薄い本をカウンターの上に置かれる。お茶と一緒に持ってきたのでしょうか。
本を開いてみると、中は予想以上に薄くて数ページしかなかった。先達の残した貴重な資料ではあるけど、かなりの覚悟が必要となりそうだ。
「とりあえず、やってみます」
「頑張ってください」
冷ややかな対応をされても仕方ないのに、目の前の女性は心の底から応援してくれているようだ。
魔具についての話が一段落したので、話は次へと移る。
「他にご質問はありますか?」
「他には……あ。質問ではないのですが、先ほど村長へ挨拶した際に家を貸していただけると話がありまして」
懐に仕舞っていた手紙を差し出すと、女性は紙面に書かれた内容に目を通してから奥へと向かっていく。
程なくして戻ってきた女性は、数枚の紙と村の地図をカウンターに置く。
「こちらが、丘の家の物件情報です」
家はログハウスで三LDK。暖炉、水浴び場、トイレ付。中にある家財は使用、処分どちらでも好きな方で良いらしい。此処までは問題なし。
「付帯物件。牧場に厩舎?」
「家の裏手に牧場があります。家主は何度か変わりましたが、最初の家主が酪農をなさっていたそうです」
牧場。搾りたての牛乳を使ったチーズとか美味しそう。ん? 牛乳を飲まないのかって? 私の胃は牛乳を受け付けない体です。ゲームで再現しているかは知らないけど、進んで飲みたいとは思わない。
「あの、動物は居ますか?」
「長いこと経っていますので、現在はいません」
「そうですか」
「では、ここに署名をお願いします」
指示された通りに署名。書類を受理してもらい、家の鍵を受け取る。
「最後となりましたが、私はエレノアと申します。今後とも宜しくお願いしますね」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
互いにお辞儀して席を立つ。ギルドから出る際に振り返ってみると、エレノアさんは奥の方へと移
動して座る。そこが普段の担当席という事だろうけど、その背後にエレノアさんの背丈を超える巨大な剣が立てかけられている。
見なかったことにするために視線を逸らして前を見ると、丁度入ってこようとしていた若い女性とぶつかりそうになる。
「あ、すみません」
「こっちこそ、ごめんなさい」
一歩下がって頭を下げると、相手の女性も同じよう動作をして謝罪を行う。顔を上げて互いの視線が交わると、明るい緑色の髪を肩に触れる程度にした女性が首を傾げる。
「ところで、プレイヤーですか?」
「はい。桜華と申します。こっちは妖精のルルです一応、NPC……えっと、ルルはどういう立ち位置ですか?」
「他のゲーム的にはそれだけど、ここでは普通に住人だよ。ちなみに、プレイヤーは渡来人です」
「なるほど」
「へ~。って、どうしてここに」
「キャラメイクの時の担当さんが、面白そうだからとストーカと化して付いてきました」
「ストーカじゃないよ。私の直感が、桜華の傍は非常に楽しいのだと叫び声を上げるのです」
ルルが胸の前で握り拳を作って力強く宣言すると、女性も「おおっ」と、好奇心が止まらない子供
のような眼をする。
「あっと。私はミッケです。ミッケと呼んでください。もしよかったら、フレンド良い?」
「私は只管ゆっくりとやるつもりですが、それでも良ければ」
「同じ。私も村でゆっくりとハンターをやるつもり。よろしく」
「よろしくお願いします」
差し出された手を握り返し、フレンド登録を行う。その後、狩人の登録に向かうミッケさんと別れて外へ。
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