New Page on-line

腹減り雀

文字の大きさ
22 / 61
本編

20

しおりを挟む
 諸々の実験と確認が終わった後は、リビングに移動して鞄から取り出した蔦の加工を始めます。

 最初は縦八本(一本だけものすごく長い)を軸に円形で編みはじめ、直径二センチ程でおこして少し太くなるように広げながら円筒状に編み始めます。十センチ程の円筒ができたら、四本はそのまま。残り四本を外側に曲げて傘部分の編み込み。

 これと同じものを十個作ったら、リビングに二つ。キッチンに一つ。奥へ行く廊下に二つ。各部屋に一つ。奥の作業部屋だけ二つ。それぞれの天井に釘を押し込んで(強化魔法でできました。便利です)、残していた四本を使って天井に吊るします。

 長い一本はそのまま垂らして、頭より少しだけ上になるよう長さを調整して一部を開けた球状に編み込み。

 角灯と違って空気中の魔力で作動する様にして、魔石を補助として細かい調整ができるように魔法陣を貼り付け。球状の部分を突くと円筒の先に光球ができて辺りを照らします。

 範囲と照度は夜に確認するとして、点灯と消灯を確認して完成です。

 明かりの作業が終了すると、テラスに移動して木材を選別してこちらの加工を開始。今回の木材は、冷蔵庫、糸繰り車、機織り機の順に優先し、余裕があればソファやロッキングチェアも作る予定です。

 いつになったら指し物職人を脱して魔具職人らしく暮らせるのか。そんな雑念に捕らわれないように、集中して作業をこなしていきます。

 作業途中、何かに髪を引っ張られる感覚が数回。不思議に思って下――毛先を見れば、土、風、植物の精霊がじゃれついていました。
 仲よく遊んでいる姿が非常に可愛いです。こちらの事は気にしていないようなので、そのままにして作業の再開。

 手元が暗くなってきたので作業を止めます。
 ストレッチで強張った筋肉をほぐすと、テラスに置いていた木材を屋内へと移動させます。雨の日や暗くなっても作業できるように、テラスに屋根と照明でもつけようかな。ですが、そうなると……また木材加工が増えます。その辺も要検討ですね。

 お腹もすいてきたので、テラスの近くで素振りをしていたディンさん達に声をかけて笹熊亭へ。

「あ、桜華さんだ」

 笹熊亭の前で、疲れた様子のミッケさんとルルに会いました。

「お疲れ様です。晩御飯はこれからですか?」
「うん。もうペコペコ」
「早く行こうよ~」

 お腹をさすっているミッケさんと、ミッケさんの肩に寝転びながらお腹を摩っているルル。二人の様子に苦笑しながら店の中へ入り、カウンター付近にいたピエナさんに手を振ってから空いている席に座ります。

「明日も二人は訓練ですか?」
「明日は昼までで、そのまま明後日も休みだって。桜華さんは?」
「明日の午前中はカームさんのお手伝いと、魔具の仕上げですね。ルル、もうじき来るから寝ないでください」
「ふぁい」
「ベアーシチュー、お待たせしました!」
「ありがとうございます。ピエナさんは食べましたか?」
「うん! 美味しかった!」

 ピエナさんが軽く手を振りながら、妙にキラキラした目で周囲を見渡してから私を見てきます。
 一瞬意味が分からなかったけれど、少し経ってから意味に気がついたので、大きく頷きます。

「皆さん! 本日は桜華さんのお陰でベアーシチューがあります! どうぞ注文してください!」

 ピエナさんの元気な売り込みに反して、周囲の人達が静まり返る。その反応にピエナさんが戸惑っていると、ミッケさんが少し手を上げました。

「あの~。ベアーって熊だよね?」

 普段、笹熊亭で使われるのは羊、豚、兎の肉。熊は週に一度程度です。

「はい。グルーベアです。美味しいですよ?」
「美味しいのか~……って、桜華さんのお陰って、まさか!」
 
 ミッケさんが目を見開いて見つめてきます。同時に、店中の視線を感じます。

「ちょっと森に入った時に出会ったので。比較的弱い個体だったかと思いますよ?」
「いやいや、三メートルの巨体だから! 滅茶苦茶強いから!」

 一緒の席についていたディンさんが二段階のツッコミを入れた、その直後。周囲の様子を窺っていた人達が、口に含んでいた人達が一斉に噴き出しました。
 近くにいたミッケさん、ルル、ピエナさんも目を丸くしています。

「三メートルって、本当か! しかし、いいのか? 激闘だっただろ」

 後ろの席に座っていた小父さんが話に入って来る。これだけ反応されると、流石に何かおかしいと分かります。うまくごまかして鎮静化しようと思いましたが、ヨハンさんの方が早かった。

「いや、二撃。しかも、初撃で頭蓋骨を砕いたのが致命傷」

 エールを飲んでいる訳でもないのに、ヨハンさんがかなりの勢いで一部始終を話し始めます。さすがにディンさんも頭を抱えてしまっているが、今さら止められそうもありません。

 なので、一切合切無視して大人しくシチューを食べます。
 うん。美味しい。どうせだったら猪も食べたいですね。あの森にいるのでしょうか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲
歴史・時代
 ワシントン軍縮条約、さらにそれに続くロンドン軍縮条約によって帝国海軍は米英に対して砲戦力ならびに水雷戦力において、決定的とも言える劣勢に立たされてしまう。  その差を補うため、帝国海軍は航空戦力にその活路を見出す。  そして、昭和一六年一二月八日。  日本は米英蘭に対して宣戦を布告。  未曾有の国難を救うべく、帝国海軍の艨艟たちは抜錨。  多数の艦上機を搭載した新鋭空母群もまた、強大な敵に立ち向かっていく。

処理中です...