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本編
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身支度と朝の日課を終えると、昨日持って帰ってきたラウルさんの用意していた書類をリビングのテーブルの上に広げます。
建築予定地は広場の一角で、ギルドの反対側にあたる地点。
一等地となるこの場所は村にとって有益な建物しか許可しないという方針があり、今まではそういった話がなかったそうです。
土地は広場側十五メートル、奥側二十五メートル、奥行き二十メートル。建築制限として二階建ては禁止で、それ以外は無し。
整地は終わっていて、定期的に雑草の処理を行っている為、すぐに建て始めることができる状態。
さて、方針を決めましょう。
目標は木造の古き良き銭湯。男女で別れた入り口に靴置き場と脱衣場。洗い場に浴槽、泡風呂とサウナでいいかな。あ、水風呂も。
色々とありますが、魔具であれば再現はできると信じましょう。
浴槽は岩にしましょうか。タイルも用意するのが大変そうだから石畳で。でも、石材は簡単に手に入るのでしょうか。
外を確認して、不機嫌そうな顔のディンさんに声をかけます。
「おはようございます、ディンさん。少しいいですか」
「おはようございます。どうされました」
「この辺で石材は手に入りますか? それと、ヨハンさんは?」
「少し上流になりますが、川の傍に岩が転がっている処があるので、それでよければ沢山。あいつは、遅刻ですね。何をしているのでしょうか」
「そうですか。ありがとうございます」
ヨハンさんが何をしているのかは分からないけれど、それが原因でディンさんが不機嫌になっているのは分かりました。それと、石材も何とかなりそうですね。
リビングに戻って図面を仕上げようと思ったとき、道の向こうから体格の良い壮年の男性がやってきます。確か、大工のグレンさんだったかな。
「おはよう。あんたが、桜華で良いのか」
「おはよございます。桜華です。えっと、大工のグレンさん?」
「おう。広場の建物って話だが」
「どうぞ、こちらへ」
リビングに戻ると、グレンさんが覗き込む中、図面の仕上げを行っていきます。
「ふむ。これなら十分できるな。が、問題は石材だ」
「川の上流にある岩を使おうと思っていますが、足りますか?」
「量は問題ないが、運搬が大変だ。手間も暇もかかる」
「手間の方は手段があります。図面はこれぐらいかな。素人丸出しですけど、大丈夫ですか?」
「問題ない。貰っていくぞ」
「はい。石材はいつ運びますか」
「ん。今日でも構わんぞ。岩がないと基礎ができないしな」
「分かりました。できる限り早めに運びます」
「おう。頼んだ。じゃ、こっちはやっておく」
グレンさんを見送っていると二人が起きてきたので、笹熊亭に移動して朝食にします。今日からご飯を作りたかったのですが、肝心の食材を買い忘れていました。
「ミッケさん。今日はどうしますか」
「どうしようかな。急に休みになると何をしていいのやら。桜華さんはやることがあっていいよね」
「いつも何かやってるもんね」
「私だって、そろそろゆっくりしたいですよ。予定がないなら手伝ってもらうことはできますか?」
「何をすればいいの?」
「ゴーレムに荷物の運搬をさせるので、それの警護と誘導ですね」
「桜華ちゃん、ゴーレムって術者が近くにいないと動かせないよ? それに魔力の消費もすごいらしいし」
近くにいた小父さんが可哀想な人を見る目で教えてくれますが、それに対してルルが悟りを開いたような顔で一言。
「桜華のやることに常識は存在していません」
「ルル?」
「常識があるなら魔法なんて簡単には使えていません」
そういえば、そのようなことを言っていた気がします。ずいぶん昔のように感じますね。
「そっかぁ。じゃあ、ゴーレムの護衛をすればいいんだね」
「ミッケさん。何故納得した顔になっているのですか」
「なんとなく」
然様ですか。私は納得できません。
「ミッケちゃんだけだったら心配だから、俺達もいくよ。監視者が必要だろうし」
「それもありましたね。ディンさんがあまりにも空気なので忘れていました」
「ひど! 桜華ちゃん、酷い!」
小父さん達から突っ込みが入り、ディンさんが静かに泣いています。
「さて、食べ終わりましたし、仕事しましょうか」
「ええ~!」
皆さんの叫び声とディンさんの声なき鳴き声を聞きつつ、笹熊亭を出て建築予定地へ移動します。こうしてみると、結構な広さがありますね。
「ここが予定地です。なので、岩はここへお願いします」
「了解!」
元気な返事のミッケさんに無言で頷く小父さん達。そんな中、ルルが顎に指をあてて首を傾げます。
「ゴーレムはどうするの?」
「迷惑を掛けない様に、村の外で作ります」
一度家に寄って魔石を数個鞄に入れてから村の外へでると、村から少し離れたところで立ち止まります。鞄から土属性の魔石を三個取り出すと、一つ一つ間隔を開けるように放り投げます。
期待に満ちた表情をしている土の精霊達に、魔石が転がったあたりの土を使って十メートルほどのゴーレムを生成してもらいます。
ゴーレムを作り出した土の精霊達は、早速取り付いて姿が見えなくなりました。
作ったゴーレムは前回同様、のっぺりとした人型。要は、長方形の胴体に四本の棒がついて手足、頭がちょこんと乗っている状態です。
前回はそのまま動かしたけれど、非常に動きづらそうにしていました。理由は関節と呼べるものがないせいでしょうか。
今回は力仕事をしてもらうので動きやすくしましょう。
肩、肘、膝、股関節、手首、足首を球体関節に変更。指もはっきりと分かるように作り直して、足を若干太くします。
変更が済んだら土の精霊に動かしてもらって、各動作の確認を行い調整します。結果として、ゴーレムの動きは非常に滑らかになりました。
ついでに、魔力回復促進と物理・魔法障壁の効果を持つ魔法陣を貼り付けてみます。表面の分かりやすい処に刻まれるのかと思いきや、ゴーレムの中へと消えていき見えなくなりました。失敗したのでしょうか。
ゴーレムの前でうろうろしていたら、精霊達が核となった魔石を見やすい位置に移動させてくれました。
どうしてかと思えば、見せてくれた魔石に魔法陣が刻み込まれていました。精霊にお礼を言って戻してもらうと、
ミッケさんの指示に従って岩の運搬をお願いしましょう。
全て終わったので皆の方へと振り返ると、全員が口を開けていました。
「皆さん、どうしたのですか?」
小首を傾げてみれば、ルルが死んだような眼で目の前まで飛んできます。
「桜華ぁ~。魔力はまだあるの?」
「ありますよ」
土の精霊達が助けてくれたのか、消費はほとんどありません。その気になれば、あと十体は作れそうです。そう伝えると、ルルから乾いた笑いが帰ってきました。
「流石は歩く非常識ですよ。桜華に常識はあるのかな」
「酷いですね。常識ぐらいありますよ」
腰に手を当てながら言ってみれば、全員から失笑を頂きました。何故ですか。
建築予定地は広場の一角で、ギルドの反対側にあたる地点。
一等地となるこの場所は村にとって有益な建物しか許可しないという方針があり、今まではそういった話がなかったそうです。
土地は広場側十五メートル、奥側二十五メートル、奥行き二十メートル。建築制限として二階建ては禁止で、それ以外は無し。
整地は終わっていて、定期的に雑草の処理を行っている為、すぐに建て始めることができる状態。
さて、方針を決めましょう。
目標は木造の古き良き銭湯。男女で別れた入り口に靴置き場と脱衣場。洗い場に浴槽、泡風呂とサウナでいいかな。あ、水風呂も。
色々とありますが、魔具であれば再現はできると信じましょう。
浴槽は岩にしましょうか。タイルも用意するのが大変そうだから石畳で。でも、石材は簡単に手に入るのでしょうか。
外を確認して、不機嫌そうな顔のディンさんに声をかけます。
「おはようございます、ディンさん。少しいいですか」
「おはようございます。どうされました」
「この辺で石材は手に入りますか? それと、ヨハンさんは?」
「少し上流になりますが、川の傍に岩が転がっている処があるので、それでよければ沢山。あいつは、遅刻ですね。何をしているのでしょうか」
「そうですか。ありがとうございます」
ヨハンさんが何をしているのかは分からないけれど、それが原因でディンさんが不機嫌になっているのは分かりました。それと、石材も何とかなりそうですね。
リビングに戻って図面を仕上げようと思ったとき、道の向こうから体格の良い壮年の男性がやってきます。確か、大工のグレンさんだったかな。
「おはよう。あんたが、桜華で良いのか」
「おはよございます。桜華です。えっと、大工のグレンさん?」
「おう。広場の建物って話だが」
「どうぞ、こちらへ」
リビングに戻ると、グレンさんが覗き込む中、図面の仕上げを行っていきます。
「ふむ。これなら十分できるな。が、問題は石材だ」
「川の上流にある岩を使おうと思っていますが、足りますか?」
「量は問題ないが、運搬が大変だ。手間も暇もかかる」
「手間の方は手段があります。図面はこれぐらいかな。素人丸出しですけど、大丈夫ですか?」
「問題ない。貰っていくぞ」
「はい。石材はいつ運びますか」
「ん。今日でも構わんぞ。岩がないと基礎ができないしな」
「分かりました。できる限り早めに運びます」
「おう。頼んだ。じゃ、こっちはやっておく」
グレンさんを見送っていると二人が起きてきたので、笹熊亭に移動して朝食にします。今日からご飯を作りたかったのですが、肝心の食材を買い忘れていました。
「ミッケさん。今日はどうしますか」
「どうしようかな。急に休みになると何をしていいのやら。桜華さんはやることがあっていいよね」
「いつも何かやってるもんね」
「私だって、そろそろゆっくりしたいですよ。予定がないなら手伝ってもらうことはできますか?」
「何をすればいいの?」
「ゴーレムに荷物の運搬をさせるので、それの警護と誘導ですね」
「桜華ちゃん、ゴーレムって術者が近くにいないと動かせないよ? それに魔力の消費もすごいらしいし」
近くにいた小父さんが可哀想な人を見る目で教えてくれますが、それに対してルルが悟りを開いたような顔で一言。
「桜華のやることに常識は存在していません」
「ルル?」
「常識があるなら魔法なんて簡単には使えていません」
そういえば、そのようなことを言っていた気がします。ずいぶん昔のように感じますね。
「そっかぁ。じゃあ、ゴーレムの護衛をすればいいんだね」
「ミッケさん。何故納得した顔になっているのですか」
「なんとなく」
然様ですか。私は納得できません。
「ミッケちゃんだけだったら心配だから、俺達もいくよ。監視者が必要だろうし」
「それもありましたね。ディンさんがあまりにも空気なので忘れていました」
「ひど! 桜華ちゃん、酷い!」
小父さん達から突っ込みが入り、ディンさんが静かに泣いています。
「さて、食べ終わりましたし、仕事しましょうか」
「ええ~!」
皆さんの叫び声とディンさんの声なき鳴き声を聞きつつ、笹熊亭を出て建築予定地へ移動します。こうしてみると、結構な広さがありますね。
「ここが予定地です。なので、岩はここへお願いします」
「了解!」
元気な返事のミッケさんに無言で頷く小父さん達。そんな中、ルルが顎に指をあてて首を傾げます。
「ゴーレムはどうするの?」
「迷惑を掛けない様に、村の外で作ります」
一度家に寄って魔石を数個鞄に入れてから村の外へでると、村から少し離れたところで立ち止まります。鞄から土属性の魔石を三個取り出すと、一つ一つ間隔を開けるように放り投げます。
期待に満ちた表情をしている土の精霊達に、魔石が転がったあたりの土を使って十メートルほどのゴーレムを生成してもらいます。
ゴーレムを作り出した土の精霊達は、早速取り付いて姿が見えなくなりました。
作ったゴーレムは前回同様、のっぺりとした人型。要は、長方形の胴体に四本の棒がついて手足、頭がちょこんと乗っている状態です。
前回はそのまま動かしたけれど、非常に動きづらそうにしていました。理由は関節と呼べるものがないせいでしょうか。
今回は力仕事をしてもらうので動きやすくしましょう。
肩、肘、膝、股関節、手首、足首を球体関節に変更。指もはっきりと分かるように作り直して、足を若干太くします。
変更が済んだら土の精霊に動かしてもらって、各動作の確認を行い調整します。結果として、ゴーレムの動きは非常に滑らかになりました。
ついでに、魔力回復促進と物理・魔法障壁の効果を持つ魔法陣を貼り付けてみます。表面の分かりやすい処に刻まれるのかと思いきや、ゴーレムの中へと消えていき見えなくなりました。失敗したのでしょうか。
ゴーレムの前でうろうろしていたら、精霊達が核となった魔石を見やすい位置に移動させてくれました。
どうしてかと思えば、見せてくれた魔石に魔法陣が刻み込まれていました。精霊にお礼を言って戻してもらうと、
ミッケさんの指示に従って岩の運搬をお願いしましょう。
全て終わったので皆の方へと振り返ると、全員が口を開けていました。
「皆さん、どうしたのですか?」
小首を傾げてみれば、ルルが死んだような眼で目の前まで飛んできます。
「桜華ぁ~。魔力はまだあるの?」
「ありますよ」
土の精霊達が助けてくれたのか、消費はほとんどありません。その気になれば、あと十体は作れそうです。そう伝えると、ルルから乾いた笑いが帰ってきました。
「流石は歩く非常識ですよ。桜華に常識はあるのかな」
「酷いですね。常識ぐらいありますよ」
腰に手を当てながら言ってみれば、全員から失笑を頂きました。何故ですか。
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