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本編
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しおりを挟むカイゼルさんがディンさんのいる方角へと視線を彷徨わせている間、ラウルさんからにらまれているのを流しつつお茶を飲みます。 お茶が美味しいです。
「さてと。俺は仕事に戻る。桜華さん、明日から宜しく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
仕事へ戻っていくカイゼルさんを見送ると、ラウルさんも仕事に戻るらしくルーナさんに釘を刺してから奥へと消えていきます。
「あ、エレノアさん。祝い金ですが、口座に入れておいて一月単位で書類に纏めてもらう事ってできますか?」
「……普通なら必要のないことですが、桜華さんなら必要ですね。分かりました処理しておきます」
エレノアさんが素早く書類を書き上げ、それに署名して返します。
「……はい。確認しました。他に何かありますか?」
「後は……あ。ゴーレムの護衛をしてくれている狩猟者の皆さんに渡す報酬ですけど」
「あの人たちですね。今回の件は村の事業なので、村の予算から払われます。こちらの書類に署名をお願いします」
署名を終えれば今回の用事は全て終了。エレノアさんが書類をまとめてから立ち上がります。
「私も仕事に戻ります。桜華さん。程々にお願いしますね」
「善処します」
少し横を見ながら答えると、エレノアさんから笑顔を向けられて背筋がゾクッと来ました。怖いです。
笑顔で突き刺す視線を向けるエレノアさんから顔ごと逸らす私。膠着状態に陥りましたが、キャシーさんがスッと近づいてきました。
「あの、少し宜しいでしょうか」
「は、はい。何でしょうか」
「改めまして、キャシーです。私はここにいますが、担当ですので遠慮なさらずに来てください」
「その時は宜しくお願いします」
キャシーさんと挨拶を終えれば、次に来たのは限界まで膨らんだ鞄を抱えたルーナさん。
キャシーさんは早朝の日が昇る頃から夕方日が沈むまで、必応な書類を作成し、ギルドへ届けてくれるとのこと。非常に申し訳なくなる話で恐縮です。後、ルーナさんが売られていく子羊の様な顔をしているのが余計にきます。
ルーナさんと一緒にギルドを出ると、建築予定地へ向かいます。
ギルドについてきてくれなかったディンさんはクストースの動きを観察しながら剣の指導をしていて、親方達は敷いた石板の目地を埋めていました。
作業は大分捗っているようですね。
暫く待っていると他のゴーレムと狩猟者の皆さんが帰ってきました。皆さんクストースを見て騒めいています。
「皆さんお疲れ様です。ゴーレム達は土地の隅でゆっくりと休んで。小父様達は、今回は素材運搬の護衛依頼という事で処理がなされていますので、ギルドで手続きをお願いします。最後に、今日はありがとうございました」
「おう。これぐらいどうってことねえよ。ところで、あっちも気になるが――」
偶然前にいた小父さんが少しの間クストースの方へ視線を向けた後、私の横にいるルーナさんに向かいます。
「何で、ルーナさんがそこに?」
「私のお目付け役みたいで」
「ああ。また何かやったのか」
狩猟者の皆さんが何度も頷きながらクストースを見つめます。
「何もやってないですよ」
「桜華、あのゴーレムとか、岩を斬っていたとかあるでしょ。何もやってないなんてどの口が言うの」
ルルがものすごく呆れた顔をしています。いつの間にか近くに来たディンさんも頷いていますね。
「クストース……あ、あのゴーレムね。あの子はちょっとやってみたくてやった実験の結果です。実験の結果なら問題なんてないですよね」
「あれを作る実験を、ちょっとやってみたくて。でやるもんじゃないだろ」
悪戯をした子供を見守る生暖かい視線を皆さんから感じます。納得いきません。
「ま、程々にな。じゃ、お疲れさん」
口々にお疲れ様と言いながら、クストースの方へ向かっていきます。受け答えすることに気が付くと一斉にこちらを見て、生暖かい視線をくれました。何なんですか一体。
皆さんの視線に耐えながら、ギルドで手続きを終えたミッケさんを待って家路につきます。
道中、ミッケさんとルル、ルーナさんがそれぞれ挨拶を交わしています。
「あ、寄り道しますね」
断りを入れて食材屋に立ち寄って買い物。とりあえず今夜と明日の朝分は買っておきます。
購入した食材と調味料を鞄に入れていると、ミッケさんが肩越しに覗き込んできました。
「ねえ、桜華さん。その鞄ってアイテムボックス的なやつ?」
「そうですけど、どうしました?」
「どこで手に入れたの?」
「作りました」
「作っちゃったんだ。お金払ったら作ってくれる?」
「良いですよ。ただ、価格はギルドに聞かないといけないですけど」
「ぜひともお願いします」
「お願いします」
「お願いしましゅ」
ミッケさんに続いてルルも頭を下げてきました。ルーナさんも続こうとして舌を噛んでしまい、顔を真っ赤にしています。
「では、ギルドに聞きに行きましょうか」
「あ、私が行ってきます」
ルーナさんが片手を上げたと思ったら、風の様に走っていきました。
「ディンさん。ルーナさんの事って知っていますか?」
「ええ。ギルド一の面白い方として有名です」
そんな一言を聞いてしまったせいでしょうか。戻ってきたルーナさんを、全員が笑顔でお迎えしてしまいました。
「ルーナさん、ありがとうございます」
「いえいえ。ええと、基準として、この鞄の大きさで入る量が倍の場合に十五万カーナと決まっていて、後は入れ物の大きさと入れられる容量によって複雑に変わるそうです」
ルーナさんが、これといって自身が持っているトートバッグを指差してくれます。
「熊三十頭分ぐらいですか。大変ですね」
「いやいや、熊で考えないでください! しかも、あの熊ですよね? あれは普通じゃないですから!」
「うんうん。三十頭も倒せないよ」
ディンさんが顔の前で手を振りながら突っ込みを入れて、ルルも大きく頷いています。そうですか。あの熊を基準にしてはいけないのですね。
「笹熊亭の一食が百カーナぐらい。そう考えると、一般家庭の一年三ヵ月分ぐらいですか?」
「もう少し上ぐらいですね」
「高いよう。桜華さん、頭金は払うからローンはありですか?」
「ミッケさんならいいですよ」
まじめな人だし、ちゃんと働いていますから。一方ルーナさんは鞄から角ばった重そうな袋を取り出しました。
「わ、私もお願いします。この鞄で容量が倍で!」
基準と同じという事なので、鞄の内側に魔法陣を貼り付け。お金は後で口座に振り込んでもらうことにしました。
「ミッケさんはどうしますか?」
「鞄買ってきます!」
「私も!」
「先に帰っていますね~」
元気よく走っていく二人の背中に声をかけておいて、ゆっくりと歩いて帰宅。買ってきた食材を仕舞って、お茶を淹れて一息。あ、ディンさんは護衛だからとテラスで待機しています。
暫くして帰ってきた二人から鞄を受け取り、お風呂へ行って汗を流すように促します。
さて、ミッケさんから受け取った鞄は革製のウエストバッグ。容量を増やすついでに長持ちする効果も一括りにして貼り付け。
ルルのは革製のリュック。飛ぶのに羽を動かしている訳ではないので大丈夫だと思うけど、不思議に思ってしまいます。こちらもミッケさんと同じ魔法陣を貼り付けます。
出来上がった鞄はリビングのテーブルの上に置いて、木工を始めます。
お風呂から上がってきた二人が机の上の鞄に気が付いてはしゃいでいる声を聴きながら、椅子六脚と箪笥一棹を仕上げます。
椅子四脚はリビングのテーブルへ、箪笥はミッケさんの部屋へ、それぞれ運んでもらっている間に木材加工の片付けを終えると、すぐに晩御飯の準備。
日が沈む少し前から照明をつけて作業をしていたのですが、ルーナさんが照明に目を丸くしていました。
今日はルーナさんとディンさんも一緒に晩御飯。こっちで初めて作った料理は、ちょっと納得がいかない出来でした。近いうちにリベンジしましょう。
その後、家に帰るルーナさんと夜番と交替して帰っていくディンさんを見送り、武具の手入れをしているミッケさんを横目に見ながら朝食の仕込みを行って、早めに就寝します。
明日は何をしましょうか。
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