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本編
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しおりを挟むいつもの時間に起き出すと、静かに朝食の準備をします。昨夜のうちに用意していたパン種を取り出し、温めた石窯の中へ。焼き上がりを待っている間にスープを作って、卵をいつでも焼けるように準備。
その他細々とした朝の一仕事を終えると、ミッケさんとルルの二人が欠伸しながら起きてきたので、顔を洗っている間に卵を焼いて食卓を整え、三人で声を揃えて食べ始めます。
「ねぇ、桜華は今日どうするの?」
「どうかしました?」
「偶には一緒に遊びたいなぁと」
「そうですね。偶にはのんびりしたいですが……まだゆっくりできないですね」
やりたいことに作りたいことがある。本当にゆっくりとしたいですね。
「決めた。今日は牧場でメリちゃんと一緒にいる!」
「させないよ!」
ミッケさんが手を伸ばしてルルを素早く使えます。しかし、ルルも必死に逃れようとしています。
「どうしました?」
「桜華のせいです!」
「桜華さんのせいです!」
二人同時に睨んできます。何かしたっけ?
「はぁ。昨日のエレノアさん、すごく怖かったよね。今日も不機嫌かもしれないって思うと……」
二人同時に身を震わせます。確かに昨日のエレノアさんは怖かったですね。
「おはようございます」
「ぴっ」
窓の向こうから聞こえてきたエレノアさんの声に、二人が小さな悲鳴をだして背筋を伸ばします。二人が動かないので代わりにテラスへと移動します。
外で待っていたのは、武装しているエレノアさんと若干顔色の悪いディンさんとルーナさん。それと、燃え尽きている状態のヨハンさん。……ヨハンさん。何があったのでしょう。
「皆さん、おはようございます。ヨハンさんはどうしました?」
「昨日仕事をさぼっていたようなので、ちょっとばかりお話をしました。二人は中ですか?」
「はい。あ、中へどうぞ」
エレノアさんが中へ入ってから、それほど間を開けずに二人を引き連れて出立していきました。
二人ともごめんなさい。今日も竜を背負っているエレノアさんを止める勇気は、私にはありません。
「さて、ディンさん。笹熊亭に寄り道してから行こうと思いますが、ヨハンさんはどうしましょうか」
「分かりました。ヨハンは気にしないでください」
爽やかな笑顔のディンさん。笑顔が眩しいです。
鞄に色々と入れてから笹熊亭へ。朝早い時間ではあるので、今日もそれなりに賑わっています。
「あ、桜華さんおはようございます」
「おはようございます、ピエナさん。弁当お願いできますか?」
「は~い。ちょっと待ってください」
サンドイッチを作り始めたピエナさんを見ながら、カウンターに手を載せて厨房を覗いて料理をする大将を観察します。
「なんだ。手伝ってくれるのか」
「残念ながら、竈を使って料理をするというのは苦手なので」
竈での料理は火力調整が非常に難しいので、素直に尊敬します。
「そうか。で、弁当ってどうしてだ」
「砦造りの手伝いなので、お昼にここへ来られるか分からなくて」
「お前、手伝いできるのか?」
「ひどいですね。私は職人です。できることはそれなりにあります」
ピエナさんに代わって料理を運びながら切り返すと、大将に鼻で笑われました。
「盗賊どもに殴り込みかける姿しか思い浮かばないな」
「私より先に、エレノアさんが飛び込みそうです」
圧倒的な力で暴れまわるエレノアさんと、それから逃げようと必死になる盗賊たちという地獄絵図。そんな光景しか思い描けない。話が聞こえていたお客さん達も頻りに頷いています。
「……否定はできんな。ほれ、運べ」
「は~い。お待たせしました」
次の料理を受け取って運んでいきます。ついでに、新しく来た人達の注文を受け取って大将へと伝えます。
「桜華さんできました。なんかすみません」
「勝手にやった事だから気にしないで」
お金を払って弁当を受け取ると、笹熊亭を出て公衆浴場の建築予定地へ。
待機していたゴーレムの一体をグレンさんの指示に従うようにお願いして、他のゴーレム二体とクストースを連れて南門近くの避難所建築現場へ向かいます。
避難所建築現場には大量の石材が積まれた場所と少し掘られた場所があり、大勢の人が作業をしています。ただ、数人の人が唖然とした顔でこちらの方を見ていました。
何故こちらを見ているのか不思議に思いますが。積まれた石材の近くに管理者っぽい人を見つけたので近寄ります。
「おはようございます。この現場の管理者ですか?」
「ああ。管理者というより監督だが……」
「今日からこちらを手伝うよう依頼を受けた桜華と申します」
「あ、ああ。そうか」
「地下室を作っている処ですか」
「ああ。地下室と基礎分を掘っている。それ、期待していいのか?」
「はい。あ。そうだ」
魔法を駆使して円匙を作り出してクストースとゴーレム達に持たせ、作業していた人達の指示を受けながら作業へ入ってもらいます。
サイズの大きいゴーレム用の大きな円匙は、一掬いが大きいためすごい勢いで掘られていきます。
「こいつはたまげた。嬢ちゃん、魔力は大丈夫か?」
「この子達は特別性なので、大丈夫です」
監督の傍に避難所の図面があったので、確認させてもらいます。
土地は前三十メートル、奥五十メートル。建物は前十五メートル、奥三十メートル、高さ九メートルの三階建て。地下は深さ五メートルまで掘り下げ基礎兼地下室とする。
周囲を石積みの塀と空堀で囲み、避難所兼砦の完成となる。
現在、運びこまれている石材は地上一階部分までの量しかなく、残りは運搬中とのこと。
「結構本格的ですね」
「せっかく作るなら、それなりにってやつだろうさ」
確かに後々の手間を考えると、中途半端に作ってもしょうがないですね。
「さてと。監督さん。あっちの方にいるので、基礎ができたら呼んでください」
「おう。分かった」
クストースが剣と盾を置いた場所に移動すると、鞄から木材と道具を取り出して加工を始めます。すかさず、ルーナさんが鞄から書類を取り出して近寄ってきます。
「あの、これは何でしょうか」
「これはただの糸繰り車です。追加機能はないですよ」
何でもかんでも魔具にしたりしません。
糸繰り車の加工が終わって確認をしていると、監督から基礎ができたと声をかけてくれたので、すべて片づけてから基礎の近くへ移動します。
「それで、何かするのか?」
「せっかくなので少々手を加えます」
まずはクストースにお願いして基礎部の中央まで連れて行ってもらいます。
次に、対物理と対魔法用の結界を生成し、魔力の回復速度を上昇させる効果を持たせた魔法陣を作成。端っこを撮むと一気に広げて基礎一杯まで拡大して、床に張り付けます。
ところで。結界は、特に指定しない場合に生成されるのは板状で正面のみ。少し前に柵へ張り付けたときは、横木の下側に張り付けたので、まったくの無意味でした。このことについては、聞かれるまで黙っている所存です。
今回生成する結界は、塀の外側に添うように生成するように指定しました。
無事に魔法陣が定着しているのを確認して、監督の傍へ戻ります。
「なあ、嬢ちゃん。何をした」
「結界を生成する魔法陣です。余計なことをしました?」
「あ、いや。より防御力が上がるという意味では最高だが、顔色が悪いけど大丈夫か?」
「魔力を一気に消費して気持ち悪いだけです。あと、この配置でこの魔石を仕込んでもらえますか」
魔力を大量に消費すると、ここまで気持ち悪くなるとは思いませんでした。なんとか気持ち悪さを呑み込んで、図面を指さしながら配置を伝えて鞄から魔石を取り出します。
「おう。任せろ」
監督との話を終えたので、邪魔にならない位置に移動して地面に座って休憩します。
「桜華さん、本当に大丈夫ですか?」
「……ルーナさん、そんな顔しないでくださいよ」
今にも泣きそうな顔をしたルーナさんが恐る恐る話しかけてきました。
少し待ってもらってから、申請用紙を受け取ってできるだけ分かりやすく記入していきます。……清書はお願いしないと駄目そうです。
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