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本編
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気になったら実験です。
額にかけていた水を体にかけてみます。少し掛けたら額の方へと戻し、水を掛けた部分を手で抄いてみます。何度か繰り返してみると、羊毛がサラサラになりました。
「わ~、サラサラだ」
「サラサラだね」
「フェエエ!」
あ、ルーナさんの奇声が羊っぽく聞こえました。メリちゃん達も僅かにではありますが、反応しました。
「お姉ちゃん! 私もやってみたい!」
「無理やりやったらだめだよ」
メリちゃんの体全体に水を掛けながら、女の子達の手元を注意深く観察します。
「お。何してんの?」
男の子達が近寄ってきて、女の子達の手元を見て不思議そうにしています。
「サラサラにしているの」
「サラサラ?」
「こっちおいで。この子はまだ水を掛けてないから、触り心地が普通の状態」
男の子達を誘導して、触り心地を確認してもらいます。次に女の子達の触っている部分を触ってもらうと、目を丸くして驚いています。
「すっげー。全然違う!」
「本当だ! お姉ちゃん、もっと!」
「はーい。すみません、ディンさん。無理やり引っ張らないか見てもらっていてもいいですか?」
「分かりました」
護衛の筈なのに、関係ない頼み事も笑顔で引き受けてくれます。一方で、ヨハンさんはこっちに近寄ってこないで遠巻きに見ています。護衛にしては少し離れすぎているような気がしますが、気にしないことにしましょう。
暫くの間皆で梳いていると、メリちゃんの一頭がフワモコからフワサラの羊になりました。
風に棚引く羊毛というのも、何というか……、……ファンタジーですね。
「お姉ちゃん、こっちの子も!」
子供達の要望を受けてもう一頭の方も水を掛けていきます。ところで、フワサラの羊ですが、性質も同じなのでしょうか。
「ディンさん、ナイフありますか?」
「ありますよ。どうぞ」
借りたナイフを左手に持って、指を刀身に沿わせ間に羊毛を挟む形で切ってみます。
通常の方は全くもって、切れる感じがしません。次にフワサラの方ですが、こちらは大した抵抗もなく切れました。
ただ、切れた事よりも切った瞬間毛が伸びた事の方が驚きました。
「これは水浴び場を用意した方がいいかな。あ。ナイフ、ありがとうございます」
水浴び場はどういう風に作りましょうか。いっその事噴水にしようかな。悩みますね。
「桜華さん。何を考えているのか分かりませんが、常識の範囲にしてくださいね」
「ディンさん、私ってそんなに信用無いですか」
「いえ、ま、その、信頼はしていますよ」
ディンさんが目を合わせてくれません。ルーナさんは話を聞いていませんと主張するかの如く、耳を伏せて女の子達と混ざってメリちゃんを触っています。
「作業するにしても、暫くは無理ですね」
公衆浴場の建設に避難所の建設。私が何か行うのは公衆浴場だけではあるけれど、忘れてはいけないのがコンロの件。
魔力がいくらあっても足りないですね。作業時に下に敷いている布に回復促進を付けてみましょうか。
足場がぬかるみだしたので水を掛けるのを止めると、メリちゃん達が寂しそうな顔(潤んだ瞳付き)をします。
ぐぅ。負けません。
「お姉ちゃん、もう終わり?」
「終わりです。また今度ね。それに、もう夕方。早く帰らないとお母さんに怒られますよ」
子供たちが空を見上げて、ルーナさんみたいに驚いた声を上げています。いえ、ルーナさんも一緒になっていますね。
如雨露を片付けて、皆で一緒に広場まで移動します。子供達とはここでお別れ。元気よく駆けていく子供達を見送ります。
「おう、桜華。ちょっといいか」
呼ばれたので振り返ってみると、グレンさんが額の汗をぬぐいながら近寄ってきていました。
「おかげで、基本的にはできたぞ。後は浴室だったか? あそこだけだ」
「流石ですね。明日朝のうちに岩の切断をやっておきます」
「おう。作業が終わったら、あれはどうする?」
親指で待機状態のゴーレムを指さしています。
「石材の端材をうちの牧場の隅に運んでもらいます」
何を作るにしても、これだけあれば十分足りるはずです。後の問題は私の魔力が持つかどうかですね。
「そうかい。じゃ、お疲れさん」
「はい。お疲れ様でした」
笹熊亭に向かうグレンさんを見送り、一度避難所の建設現場へ移動します。
こちらは高速で作業している訳ではないらしく、基礎の柱が建て終わったところでした。いえ、十分早いような気もします。
今も元気に指示を出している監督を探して声を掛けます。
「お疲れ様です、監督」
「ん? おお。お疲れ」
「ゴーレムの方はどうですか」
「ばっちりだな。あそこまで細かく仕事してくれるとは思わなかったぞ」
石積みの細かいズレもきちんと対応しているそうで、作業が捗っていると、ご満悦です。
「明後日にはもう一体のゴーレムを追加できると思います」
「まだいるのか!」
監督が体全体で驚きを表現しています。それほど驚く話ではないと思いますけど。
「作ろうと思えば、まだ作れます。ただ、これ以上作っても居場所がないですし、後後の処置に困ります。なにより……」
「桜華さん。それだけはやめてください。お願いします」
「やめてください、お願いします」
ディンさんとルーナさんが、ほぼ同時に頭を下げてきます。二人共反応が早すぎです。
「……という感じで、各方面から苦情・苦言が来ると思われるので追加は無しですね」
「嬢ちゃん、何をやったんだ」
呆れを多分に含んだ言葉と一緒に、冷たい視線を頂きました。
「色々でしょうか。私としては大したことはしていないのですが。あっと、そろそろ失礼しますね」
「おう。まあ、なんだ、程々にな」
笑いながら手を振ることで返事として、晩御飯を食べに笹熊亭に移動します。
今日の晩御飯は何でしょうか。期待に胸が躍ります。
額にかけていた水を体にかけてみます。少し掛けたら額の方へと戻し、水を掛けた部分を手で抄いてみます。何度か繰り返してみると、羊毛がサラサラになりました。
「わ~、サラサラだ」
「サラサラだね」
「フェエエ!」
あ、ルーナさんの奇声が羊っぽく聞こえました。メリちゃん達も僅かにではありますが、反応しました。
「お姉ちゃん! 私もやってみたい!」
「無理やりやったらだめだよ」
メリちゃんの体全体に水を掛けながら、女の子達の手元を注意深く観察します。
「お。何してんの?」
男の子達が近寄ってきて、女の子達の手元を見て不思議そうにしています。
「サラサラにしているの」
「サラサラ?」
「こっちおいで。この子はまだ水を掛けてないから、触り心地が普通の状態」
男の子達を誘導して、触り心地を確認してもらいます。次に女の子達の触っている部分を触ってもらうと、目を丸くして驚いています。
「すっげー。全然違う!」
「本当だ! お姉ちゃん、もっと!」
「はーい。すみません、ディンさん。無理やり引っ張らないか見てもらっていてもいいですか?」
「分かりました」
護衛の筈なのに、関係ない頼み事も笑顔で引き受けてくれます。一方で、ヨハンさんはこっちに近寄ってこないで遠巻きに見ています。護衛にしては少し離れすぎているような気がしますが、気にしないことにしましょう。
暫くの間皆で梳いていると、メリちゃんの一頭がフワモコからフワサラの羊になりました。
風に棚引く羊毛というのも、何というか……、……ファンタジーですね。
「お姉ちゃん、こっちの子も!」
子供達の要望を受けてもう一頭の方も水を掛けていきます。ところで、フワサラの羊ですが、性質も同じなのでしょうか。
「ディンさん、ナイフありますか?」
「ありますよ。どうぞ」
借りたナイフを左手に持って、指を刀身に沿わせ間に羊毛を挟む形で切ってみます。
通常の方は全くもって、切れる感じがしません。次にフワサラの方ですが、こちらは大した抵抗もなく切れました。
ただ、切れた事よりも切った瞬間毛が伸びた事の方が驚きました。
「これは水浴び場を用意した方がいいかな。あ。ナイフ、ありがとうございます」
水浴び場はどういう風に作りましょうか。いっその事噴水にしようかな。悩みますね。
「桜華さん。何を考えているのか分かりませんが、常識の範囲にしてくださいね」
「ディンさん、私ってそんなに信用無いですか」
「いえ、ま、その、信頼はしていますよ」
ディンさんが目を合わせてくれません。ルーナさんは話を聞いていませんと主張するかの如く、耳を伏せて女の子達と混ざってメリちゃんを触っています。
「作業するにしても、暫くは無理ですね」
公衆浴場の建設に避難所の建設。私が何か行うのは公衆浴場だけではあるけれど、忘れてはいけないのがコンロの件。
魔力がいくらあっても足りないですね。作業時に下に敷いている布に回復促進を付けてみましょうか。
足場がぬかるみだしたので水を掛けるのを止めると、メリちゃん達が寂しそうな顔(潤んだ瞳付き)をします。
ぐぅ。負けません。
「お姉ちゃん、もう終わり?」
「終わりです。また今度ね。それに、もう夕方。早く帰らないとお母さんに怒られますよ」
子供たちが空を見上げて、ルーナさんみたいに驚いた声を上げています。いえ、ルーナさんも一緒になっていますね。
如雨露を片付けて、皆で一緒に広場まで移動します。子供達とはここでお別れ。元気よく駆けていく子供達を見送ります。
「おう、桜華。ちょっといいか」
呼ばれたので振り返ってみると、グレンさんが額の汗をぬぐいながら近寄ってきていました。
「おかげで、基本的にはできたぞ。後は浴室だったか? あそこだけだ」
「流石ですね。明日朝のうちに岩の切断をやっておきます」
「おう。作業が終わったら、あれはどうする?」
親指で待機状態のゴーレムを指さしています。
「石材の端材をうちの牧場の隅に運んでもらいます」
何を作るにしても、これだけあれば十分足りるはずです。後の問題は私の魔力が持つかどうかですね。
「そうかい。じゃ、お疲れさん」
「はい。お疲れ様でした」
笹熊亭に向かうグレンさんを見送り、一度避難所の建設現場へ移動します。
こちらは高速で作業している訳ではないらしく、基礎の柱が建て終わったところでした。いえ、十分早いような気もします。
今も元気に指示を出している監督を探して声を掛けます。
「お疲れ様です、監督」
「ん? おお。お疲れ」
「ゴーレムの方はどうですか」
「ばっちりだな。あそこまで細かく仕事してくれるとは思わなかったぞ」
石積みの細かいズレもきちんと対応しているそうで、作業が捗っていると、ご満悦です。
「明後日にはもう一体のゴーレムを追加できると思います」
「まだいるのか!」
監督が体全体で驚きを表現しています。それほど驚く話ではないと思いますけど。
「作ろうと思えば、まだ作れます。ただ、これ以上作っても居場所がないですし、後後の処置に困ります。なにより……」
「桜華さん。それだけはやめてください。お願いします」
「やめてください、お願いします」
ディンさんとルーナさんが、ほぼ同時に頭を下げてきます。二人共反応が早すぎです。
「……という感じで、各方面から苦情・苦言が来ると思われるので追加は無しですね」
「嬢ちゃん、何をやったんだ」
呆れを多分に含んだ言葉と一緒に、冷たい視線を頂きました。
「色々でしょうか。私としては大したことはしていないのですが。あっと、そろそろ失礼しますね」
「おう。まあ、なんだ、程々にな」
笑いながら手を振ることで返事として、晩御飯を食べに笹熊亭に移動します。
今日の晩御飯は何でしょうか。期待に胸が躍ります。
応援ありがとうございます!
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