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本編
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笹熊亭の中に入ると、ルルが寝転び、ミッケさんがテーブルにもたれかかって伸びているのを見つけました。物凄くお疲れのようですね。
ピエナさんに注文をしながら、同じテーブルに着きます。
「二人ともお疲れ様です。大丈夫ですか」
「……大丈夫じゃない」
ミッケさんは返事を絞り出せたようですが、ルルは唸り声だけでした。
「明日は朝から用事があるので、朝食は笹熊亭で食べるようにしたいのですが、良いですか」
「いいけど、どうしたの?」
ミッケさんがテーブルに顎を載せたまま、視線をこちらに向けてきます。
「公衆浴場のことをうっかり忘れて、避難所の方で魔力を使いすぎました。そのせいで作業に詰まりが起きそうになっています」
「またやらかしたんだ」
「桜華だもんね」
やんちゃな子供を優しく見つめる保護者見たいな視線が、周囲から寄せられています。何故ですか。
「お待たせしました」
「ピエナちゃん、突飛なことが起きたらどう思う?」
「突飛なことですか? 桜華さん何かしました?」
「ピエナさんまで」
あんまりな反応に体中から力が抜けていきます。一方で、笹熊亭全体で笑い声が沸き上がります。皆さん酷いです。
「そういえば、桜華ちゃんと遊んだって言ってた餓鬼どもが変なことを言ってたな」
狩猟者の小父さんがエールを呑みながらふと零した一言に、周囲の人が期待の視線を向けます。
何か変なことをしたっけ?
「なんでも、メリちゃんの毛がこう……そう、女の髪みたいになったっていってた」
こうと言いながら空いていた手をふらふらさせ、丁度目の前を通ったピエナさんの髪を指さしました。
「この髪? どういう事?」
「どういうこった」
いきなり指差された女性だけでなく、周囲の人も同じように首を傾げます。
「俺もじかに見た訳じゃないからよく分からないよ」
「見てないならしょうがないな」
全員がうんうんと頷いたと思ったら、綺麗に揃った動きで私の方へ視線を向けてきます。
「で、どういう事?」
「皆さん息があってますね。えっと、メリちゃんですか。ちょっと実験していたら、風に棚引く羊毛を持つ羊になっただけです」
「風に棚引く……」
想像しているのか、少し上を向く皆さん。少しすると、一斉に笑い始めます。勿論、ミッケさんとルルも同様です。実際に目にしていたディンさんとルーナさんは、疲れ切った笑顔でした。
「ぷっ。桜華、何してんの」
「ルル、笑い終わってからにした方がいいですよ」
お腹を抱えて机を叩きながら笑うルル。他の人達も似たような状況ですね。料理を運んでいたはずのピエナさんまでも、近くの机に料理を置いて笑っています。
「何をしてもいいけどよ。こっちにまで飛び火しねぇようにしてくれ」
背後からの声に振り替えれば、ダガンさんが樽を傍に置いて食事をしていました。向こう側に見えるセンさんは、ミッケさん達と同じように疲れ果てているように見えますが、今は必死に笑いを堪えていました。
「明日には纏まった数ができるから、でき次第そっちに運ぶぞ」
「分かりました。テラスにお願いします」
お疲れな様子のダガンさんとセンさんの様子に、笑いの収まった皆さんが顔を寄せ合って何やら囁いていますが、気にしないことにして食事を終えます。
「ルルとミッケさん。ギルドに寄るので、少し遅くなりますね」
「了解。エレノアさんを怒らせないでね」
ルルとミッケさんに見送られて笹熊亭を出るとそのままギルドへ入り、カウンターに座っていたキャシーさんの下へ向かいます。
「こんばんは。今日もあるみたいですね」
「こんばんは。すみません、お世話になります」
キャシーさんが苦笑しながらお茶を淹れてくれます。
「今日申請があったのは、避難所を魔具とする防御用の魔法陣ですね。他にあるのですか?」
「まだ詳細を決めていないのですが、牧場に噴水の様な物を作るつもりです。念のため先に伝えておきます」
「噴水のような物ですか。詳細が決まったら申請をお願いします。ですが、何故そのような話に?」
「村の子供達と牧場に遊びに行った際、イアンさんからメリちゃんの水浴びをするという習性を聞きまして。気になったので水を掛けていると、偶然手が触れた場所にある毛の性質が変わっていることに気が付きまして」
不思議そうに小首を傾げるキャシーさん。聞き耳を立てていたと思われる他の職員さんも不思議そうにしています。
「どうやら水に濡れると、柔らかさが出るというか何というか分かりませんが、ナイフで簡単に切ることができるようになります」
驚いているキャシーさんに、風に棚引く羊毛の事を伝えると視線を上に向けて考え込みます。少しすると、想像でもしていたのか小さく吹き出し、すぐに何もなかったかのように取り繕います。
ただ、聞き耳を立てていた職員さんは必至に笑いを堪えていますが。
「それは、不思議ですが有用な習性ですね。こちらの記入をお願いします。題名は、桜華流メリちゃんの毛刈り方法ですね」
「……メリちゃんの毛刈り法ですね。これで良いですか?」
題名の記入欄に自分の名前を除いた部分を記入し、水を掛ける作業から毛を抄く処まで細かく記入して提出。
「桜華流が抜けていますよ」
「いえいえ。こういうのは、短くて分かりやすいのが一番ですよね」
キャシーさんと笑顔のまま睨み合います。暫く続きましたが、どうにか睨み合いに勝利してこのまま受理してもらいました。
「では、また何かありましたら、ルーナか私の処へ気軽に仰ってください」
「はい」
ギルドを出ると、帰っていくディンさんに代わる夜番の人達と一緒に帰宅します。
先に帰宅しているはずのミッケさんとルルは既に部屋で眠っているらしく、明かりをつけたままで姿は見えませんでした。
さて。眠る前に一仕事です。
作業時に使っている布や、ベッドの基部に魔力回復促進用の魔法陣を貼り付けます。どこまで効果がある変わらないですが、やらないよりましだと考えましょう。
今日は魔力も尽きているので日課としている研究ができないので、代わりに柔軟体操をしてからお風呂に入って就寝です。
ピエナさんに注文をしながら、同じテーブルに着きます。
「二人ともお疲れ様です。大丈夫ですか」
「……大丈夫じゃない」
ミッケさんは返事を絞り出せたようですが、ルルは唸り声だけでした。
「明日は朝から用事があるので、朝食は笹熊亭で食べるようにしたいのですが、良いですか」
「いいけど、どうしたの?」
ミッケさんがテーブルに顎を載せたまま、視線をこちらに向けてきます。
「公衆浴場のことをうっかり忘れて、避難所の方で魔力を使いすぎました。そのせいで作業に詰まりが起きそうになっています」
「またやらかしたんだ」
「桜華だもんね」
やんちゃな子供を優しく見つめる保護者見たいな視線が、周囲から寄せられています。何故ですか。
「お待たせしました」
「ピエナちゃん、突飛なことが起きたらどう思う?」
「突飛なことですか? 桜華さん何かしました?」
「ピエナさんまで」
あんまりな反応に体中から力が抜けていきます。一方で、笹熊亭全体で笑い声が沸き上がります。皆さん酷いです。
「そういえば、桜華ちゃんと遊んだって言ってた餓鬼どもが変なことを言ってたな」
狩猟者の小父さんがエールを呑みながらふと零した一言に、周囲の人が期待の視線を向けます。
何か変なことをしたっけ?
「なんでも、メリちゃんの毛がこう……そう、女の髪みたいになったっていってた」
こうと言いながら空いていた手をふらふらさせ、丁度目の前を通ったピエナさんの髪を指さしました。
「この髪? どういう事?」
「どういうこった」
いきなり指差された女性だけでなく、周囲の人も同じように首を傾げます。
「俺もじかに見た訳じゃないからよく分からないよ」
「見てないならしょうがないな」
全員がうんうんと頷いたと思ったら、綺麗に揃った動きで私の方へ視線を向けてきます。
「で、どういう事?」
「皆さん息があってますね。えっと、メリちゃんですか。ちょっと実験していたら、風に棚引く羊毛を持つ羊になっただけです」
「風に棚引く……」
想像しているのか、少し上を向く皆さん。少しすると、一斉に笑い始めます。勿論、ミッケさんとルルも同様です。実際に目にしていたディンさんとルーナさんは、疲れ切った笑顔でした。
「ぷっ。桜華、何してんの」
「ルル、笑い終わってからにした方がいいですよ」
お腹を抱えて机を叩きながら笑うルル。他の人達も似たような状況ですね。料理を運んでいたはずのピエナさんまでも、近くの机に料理を置いて笑っています。
「何をしてもいいけどよ。こっちにまで飛び火しねぇようにしてくれ」
背後からの声に振り替えれば、ダガンさんが樽を傍に置いて食事をしていました。向こう側に見えるセンさんは、ミッケさん達と同じように疲れ果てているように見えますが、今は必死に笑いを堪えていました。
「明日には纏まった数ができるから、でき次第そっちに運ぶぞ」
「分かりました。テラスにお願いします」
お疲れな様子のダガンさんとセンさんの様子に、笑いの収まった皆さんが顔を寄せ合って何やら囁いていますが、気にしないことにして食事を終えます。
「ルルとミッケさん。ギルドに寄るので、少し遅くなりますね」
「了解。エレノアさんを怒らせないでね」
ルルとミッケさんに見送られて笹熊亭を出るとそのままギルドへ入り、カウンターに座っていたキャシーさんの下へ向かいます。
「こんばんは。今日もあるみたいですね」
「こんばんは。すみません、お世話になります」
キャシーさんが苦笑しながらお茶を淹れてくれます。
「今日申請があったのは、避難所を魔具とする防御用の魔法陣ですね。他にあるのですか?」
「まだ詳細を決めていないのですが、牧場に噴水の様な物を作るつもりです。念のため先に伝えておきます」
「噴水のような物ですか。詳細が決まったら申請をお願いします。ですが、何故そのような話に?」
「村の子供達と牧場に遊びに行った際、イアンさんからメリちゃんの水浴びをするという習性を聞きまして。気になったので水を掛けていると、偶然手が触れた場所にある毛の性質が変わっていることに気が付きまして」
不思議そうに小首を傾げるキャシーさん。聞き耳を立てていたと思われる他の職員さんも不思議そうにしています。
「どうやら水に濡れると、柔らかさが出るというか何というか分かりませんが、ナイフで簡単に切ることができるようになります」
驚いているキャシーさんに、風に棚引く羊毛の事を伝えると視線を上に向けて考え込みます。少しすると、想像でもしていたのか小さく吹き出し、すぐに何もなかったかのように取り繕います。
ただ、聞き耳を立てていた職員さんは必至に笑いを堪えていますが。
「それは、不思議ですが有用な習性ですね。こちらの記入をお願いします。題名は、桜華流メリちゃんの毛刈り方法ですね」
「……メリちゃんの毛刈り法ですね。これで良いですか?」
題名の記入欄に自分の名前を除いた部分を記入し、水を掛ける作業から毛を抄く処まで細かく記入して提出。
「桜華流が抜けていますよ」
「いえいえ。こういうのは、短くて分かりやすいのが一番ですよね」
キャシーさんと笑顔のまま睨み合います。暫く続きましたが、どうにか睨み合いに勝利してこのまま受理してもらいました。
「では、また何かありましたら、ルーナか私の処へ気軽に仰ってください」
「はい」
ギルドを出ると、帰っていくディンさんに代わる夜番の人達と一緒に帰宅します。
先に帰宅しているはずのミッケさんとルルは既に部屋で眠っているらしく、明かりをつけたままで姿は見えませんでした。
さて。眠る前に一仕事です。
作業時に使っている布や、ベッドの基部に魔力回復促進用の魔法陣を貼り付けます。どこまで効果がある変わらないですが、やらないよりましだと考えましょう。
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