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シルティが学園に入る際、私は全生徒の素行調査を行った。さすがに越権行為だと、部下たちから呆れられたが、今、団長の権限を使わなくて、いつ使うのだと言って開き直った。
だが、私は気づいたのだ。
いくら全生徒を調べたとて、シルティが学園の中に入ってしまえば、涎を垂らした狼たちから、シルティを守る事ができないと。
そこで考えたのが、私も学園の生徒になって、堂々と学園に入る作戦だった。
早速、侍女頭のクレナに頼んで、10年以上も前に着ていた学園の制服を引っ張り出してもらった。
「旦那様、失礼ですが、正気ですか?」
「ああ、私の頭は冴え渡っているぞ」
「お勤めはどうなさるおつもりですか?」
「私の部下は優秀だ。私がいなくても、どうとでもなる」
「もう一度お尋ねします。正気ですか?」
あの時のクレナの私を見る目、まるで変態を見るような目だった。
翌日、キツキツの制服を着て、意気揚々とシルティの手を取った。我ながらいい案だと思ったが、シルティの瞳が戸惑いに揺れたのを、私は見逃さなかった。
シルティには悪いと思ったが、気づいていない体で、押し通す事に決めた。
だが、私の意志とは関係なく、王宮騎士団団長の肩書きが、私を仕事へと押し戻した。
シルティの傍にいるために団長になったのに、その肩書きによって、シルティと引き離されてしまうとは、なんという皮肉だろう。
「団長、いい大人が、何やってるんですか」
「ブラン、今、歳は関係ないだろ」
「ありありの大ありですよ!ふぅ、よく侯爵家の人たち、止めなかったですね」
「止めはしない、止めはしないが⋯、なぜか皆の目が、遠い目をしていたような気がする」
「当たり前ですよ!まったく、さっさと着替えて仕事してください!それと、もう学園に入ろうなんて、馬鹿な考えはやめてくださいよ、団長!」
ブラン、それは無理だ。
私には、シルティを狙う狼たちを、一匹残らず駆除する役目があるからな。
それに、学園に潜入する方法は、他にもいろいろ考えてある。
とは言っても、仕事に忙殺され、身動きが取れなくなるのは勤め人の運命で、愛だけではどうする事もできないと私は悟った。
そしてあっという間に時は過ぎ、シルティが卒業を間近に控える時期になった。
そこでようやく、私は焦り始めた。
成人した美しいΩの王族は、他国との友好のために、嫁がされるのが世の常だ。
シルティが、遠くに行ってしまう。
シルティが、私ではないαと番になる。
そう考えただけで、胸を掻きむしりたくなる衝動に駆られた。もしそんな事になってしまったら、私はもう、生きていけない。
だが、私にも希望がないわけではなかった。
もしかしたら、シルティから好意を向けられているのではないかと、感じる時もあった。
だがその好意が、ただ単に信頼からくるものなのか、それとも愛からくるものなのかは、私には分からなかった。
そんな時だった。
シルティの友人だという、やけにギラついた隣国の若い狼が、私に噛み付いてきた。
こんな奴が傍にいて、シルティが今までよく無事だったなと、背筋が凍る思いだった。
思わず冷静さを欠いて剣を抜いた私にも怯まず、私が気にしているシルティとの歳の差をいじり倒した若い狼は、私からシルティを奪うと、堂々と言い放った。
まだ尻の青い若造に煽られたのは気に食わなかったが、いよいよ私も覚悟を決める時がきた、そう思った。
当のシルティが、会話の内容を全く理解していないのが、少々気にはなったが、私はその後、早速陛下へ掛け合った。
だが、土下座する覚悟で臨んだ謁見は、予想外にあっけなく終わった。
「陛下、シルティ殿下との婚姻、どうかお許し頂きたい」
「アリウスが一途にシルティを想っていた事は、知っている。ほんの一瞬でもよそ見をすれば、許さぬはずだったが⋯、私の負けだ。シルティを幸せにしてやってくれ」
「⋯っ!ありがとうございますっ!陛下!」
「アリウス!よっ、よしなさいっ!」
嬉しすぎて、陛下に抱きつくところだった。
シルティも二つ返事で婚姻を受け入れてくれた。
少なからず、私に好意を持ってくれている事が分かって、ほっと胸を撫で下ろした。
後は急いで準備をするだけだ。
私は、主にシルティが触れる物を優先して、厳選に厳選を重ね、準備を進めた。
と同時に、私はシルティの登園に毎日付き添った。私の威嚇フェロモンをシルティに纏わせ、若い狼どもをシルティから遠ざけるために。
そんなある朝、私が無意識にフェロモンを出しすぎたのか、シルティがΩの本能を垣間見せた。
とろんした瞳で私を見つめ、あろう事か、私の歯に何度も口づけをしてきた。
ああ、何度思い返しても、腰が砕けそうだ。
だが、その時の私は、予想だにしていなかった。
私がこだわり抜いたベッドの弾力性を、初夜で発情がきたシルティと、思う存分試す事になろうとは。
だが、私は気づいたのだ。
いくら全生徒を調べたとて、シルティが学園の中に入ってしまえば、涎を垂らした狼たちから、シルティを守る事ができないと。
そこで考えたのが、私も学園の生徒になって、堂々と学園に入る作戦だった。
早速、侍女頭のクレナに頼んで、10年以上も前に着ていた学園の制服を引っ張り出してもらった。
「旦那様、失礼ですが、正気ですか?」
「ああ、私の頭は冴え渡っているぞ」
「お勤めはどうなさるおつもりですか?」
「私の部下は優秀だ。私がいなくても、どうとでもなる」
「もう一度お尋ねします。正気ですか?」
あの時のクレナの私を見る目、まるで変態を見るような目だった。
翌日、キツキツの制服を着て、意気揚々とシルティの手を取った。我ながらいい案だと思ったが、シルティの瞳が戸惑いに揺れたのを、私は見逃さなかった。
シルティには悪いと思ったが、気づいていない体で、押し通す事に決めた。
だが、私の意志とは関係なく、王宮騎士団団長の肩書きが、私を仕事へと押し戻した。
シルティの傍にいるために団長になったのに、その肩書きによって、シルティと引き離されてしまうとは、なんという皮肉だろう。
「団長、いい大人が、何やってるんですか」
「ブラン、今、歳は関係ないだろ」
「ありありの大ありですよ!ふぅ、よく侯爵家の人たち、止めなかったですね」
「止めはしない、止めはしないが⋯、なぜか皆の目が、遠い目をしていたような気がする」
「当たり前ですよ!まったく、さっさと着替えて仕事してください!それと、もう学園に入ろうなんて、馬鹿な考えはやめてくださいよ、団長!」
ブラン、それは無理だ。
私には、シルティを狙う狼たちを、一匹残らず駆除する役目があるからな。
それに、学園に潜入する方法は、他にもいろいろ考えてある。
とは言っても、仕事に忙殺され、身動きが取れなくなるのは勤め人の運命で、愛だけではどうする事もできないと私は悟った。
そしてあっという間に時は過ぎ、シルティが卒業を間近に控える時期になった。
そこでようやく、私は焦り始めた。
成人した美しいΩの王族は、他国との友好のために、嫁がされるのが世の常だ。
シルティが、遠くに行ってしまう。
シルティが、私ではないαと番になる。
そう考えただけで、胸を掻きむしりたくなる衝動に駆られた。もしそんな事になってしまったら、私はもう、生きていけない。
だが、私にも希望がないわけではなかった。
もしかしたら、シルティから好意を向けられているのではないかと、感じる時もあった。
だがその好意が、ただ単に信頼からくるものなのか、それとも愛からくるものなのかは、私には分からなかった。
そんな時だった。
シルティの友人だという、やけにギラついた隣国の若い狼が、私に噛み付いてきた。
こんな奴が傍にいて、シルティが今までよく無事だったなと、背筋が凍る思いだった。
思わず冷静さを欠いて剣を抜いた私にも怯まず、私が気にしているシルティとの歳の差をいじり倒した若い狼は、私からシルティを奪うと、堂々と言い放った。
まだ尻の青い若造に煽られたのは気に食わなかったが、いよいよ私も覚悟を決める時がきた、そう思った。
当のシルティが、会話の内容を全く理解していないのが、少々気にはなったが、私はその後、早速陛下へ掛け合った。
だが、土下座する覚悟で臨んだ謁見は、予想外にあっけなく終わった。
「陛下、シルティ殿下との婚姻、どうかお許し頂きたい」
「アリウスが一途にシルティを想っていた事は、知っている。ほんの一瞬でもよそ見をすれば、許さぬはずだったが⋯、私の負けだ。シルティを幸せにしてやってくれ」
「⋯っ!ありがとうございますっ!陛下!」
「アリウス!よっ、よしなさいっ!」
嬉しすぎて、陛下に抱きつくところだった。
シルティも二つ返事で婚姻を受け入れてくれた。
少なからず、私に好意を持ってくれている事が分かって、ほっと胸を撫で下ろした。
後は急いで準備をするだけだ。
私は、主にシルティが触れる物を優先して、厳選に厳選を重ね、準備を進めた。
と同時に、私はシルティの登園に毎日付き添った。私の威嚇フェロモンをシルティに纏わせ、若い狼どもをシルティから遠ざけるために。
そんなある朝、私が無意識にフェロモンを出しすぎたのか、シルティがΩの本能を垣間見せた。
とろんした瞳で私を見つめ、あろう事か、私の歯に何度も口づけをしてきた。
ああ、何度思い返しても、腰が砕けそうだ。
だが、その時の私は、予想だにしていなかった。
私がこだわり抜いたベッドの弾力性を、初夜で発情がきたシルティと、思う存分試す事になろうとは。
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