キミが生きた証

keco

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…………。

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 ごめんな…


 キミが苦しんでいる時


 そばにいてあげられなかった…


 寂しかったろ?…



 タニ…



 会いたいよぉ…




 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆



 出張先で1日だけ休暇を取らせてくれた

 タニの亡骸は もう冷たくなっていた




 小さなタニ…



 泣いた…ツヤツヤだった体を撫でながら


 今にも 耳をピクピクさせて
 顔を上げて

 近づいた俺の頬を
 ペロペロ舐めるんじゃないかって



「タニ…起きてよ…っ…」



 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆



 プロジェクターの電源を入れ
 真っ暗な自室で
 壁一面にタニを映し出す


 想いをめぐらせた



 この世に生まれてきて良かったと
 思ってくれたら嬉しい

 俺に出会えてよかったと
 思ってくれたら…



「うっ…っ…」


 タニがいつも
 包まって寝ていたバスタオルを抱きしめ
 おいおいと声を上げて泣いた



 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆



 タニは 俺の中に生きている



 いつまでも悲しがってはいられない
 1日1日をそつなく過ごす




 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆



 キミが星になって1ヶ月が過ぎた


 友人は心配してくれるけど
 平静を装った


 ペットロス…結構キてる


 想い出がいっぱいあり過ぎるから
 休みの日は 家にいないことが多い
 タニの存在感が大きすぎて
 家に居るのがツラい

 図書館に行ったり 映画を観たり
 タニの居ない時間を 無理やり潰すのに
 必死になっていた


 外は暗くなってきて
 プラプラと家に向かって歩く



 タニとの散歩コースで歩いていた
 夜景の綺麗な場所



 何かに引っ張られるように立ち寄った



 あそこにあるベンチで
 休憩して水分補給してたっけ…


「はぁ…」

 ため息ばかり出る

 こんなことしても タニは戻らないのに





 それから毎日
 仕事帰りや休みの日も
 その場所に行く

 タニも俺も
 お気に入りの場所だったから


 今日は 仕事に向かう前に
 ポケットに忍ばせておいた
 タニの大好きなジャーキー…


 ベンチに腰掛けると
 封を切って 俺の横に供えた



 プシュ…

 献杯して缶ビールを飲む




「はぁ…」

 ため息なのか何なのか…




「よぉ、青年!今日も1人か…」


 声を掛けて来た人に
 視線を移した


 にっこりと笑うその人は
 スーツ姿で40代くらいの男性




「はい、1人です…」

「俺もここは帰り道で…
 最近、ここでよく君を見かけるから
 声かけてみたんだ…
 迷惑だったかな?」


 そう言いながら近づいてきた男性


「え…?」


 ベンチに置いてあった
 タニのジャーキーに指をさすと


「もしかして…これツマミに飲んでた?」

「(*°∀°)・∴ブハッ!!w」

「おー!ウケた!アハハ!」

「これ、ペット用のジャーキーですから!」

「ちょっとやべぇ奴に
 話しかけちゃったって焦ったよ!」

「まぁ、ヤバいっちゃヤバいんですけどね」

「何?悩みでもあるん?
 お兄さんに話してみる?
 いや、君からしたらオジサンかな?」

「あ~いや、悩みというか…」


 何て話していいのかわからない…
 いい歳して[ペットロスです]なんて


「失恋したの?」

「ハハッ!違いますよ!」

「じゃあ、借金か!悪い!
 その相談だったらオジサンには無理だ!」

「いやいや、借金でもないです!
 あ、隣どうぞ!」


 ジャーキーをポケットに仕舞って
 お兄さんを座らせた


「あ、じゃあ…お隣失礼して…
 そうだ名刺…」

 あちこちポケットを探って
 スっと差し出す


丹野たんの 良二りょうじ…さん」

「そうですぅ~私が丹野良二ですぅ~」

「げっ、変なおじさん!」

「お!知ってんの?!アハハ!」


 お互いに自己紹介…


名刺を片手に
金村かねむら りょうくん…て読むのかな?」


「亨と書いて (とおる)と読みます」

「かっこいいな!
 名前の由来聞いてもいい?」

「チラッと親が言ってたのは
 この1文字で『心が伝わる』っていう
 意味があるらしく…」

「おお~!親御さんに
 いい名前つけてもらったね~」


 初対面なのに
 良二さんは聞き上手なのか
 ペラペラと話してしまう


 良二さんとは それからも
 時間を合わせて落ち合って
 飲みに行ったり ご飯を食べに行ったり


 誰かと話をすると
 気持ちが紛れてちょうど良かった

 何より良二さんが
 俺の事をわかってくれるのが
 何より嬉しかった



 この日も 熱燗が美味いという
 屋台に連れていってくれて

「良二さんに話しちゃおうかな~」
「お!何!?彼女でもできたか?」
「違うよ…」


 タニのことを話す


「そうか…それで あの場所に…」
「あの場所で また会えたら…なんて…」
「……うん」
「会えるわけないのにね…」


 ポロポロ弱い心をさらけ出して
 良二さんに話した


「あの小さな体で
 たくさん俺を愛してくれた…」

「……そうだな」

「いつもそばで見てたから わかるんだよ…」

「…タニシくんは トオルに会うために
 生まれてきたんだよ…」

「え?…」

「トオルに育ててもらって幸せだったさ!」

「そうかな…もっと上手に過ごせたら
 もっと長く生きられたんじゃないかって…
 無理させてたのかなって…」

「そんなことないよ!
 2年も寿命延ばせたんだ!
 すごいことだぞ?もっと自信を持て!
 タニシくんをしっかり愛情かけて育てて
 送ってあげたんだから!…な?」

「良二さん…っうっ…っ」


 良二さんの前で
 タニを送った日以来 留めておいた涙を
 滝のように流す

 肩を抱いて
「トオルは良くやったよ!偉いぞ!
 タニシくんも 喜んでる!信じろ!」


 話す一言一言が涙の要因
 一緒にいて楽しかったことも
 1人になって ツラかったことも
 全部 ふわふわと空に飛んでいく感覚




「トオル…ありがとう…」




 良二さんの声が
 遠くで聞こえて 意識も遠のいた



 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆



 心配だったんだ…
 無理やり他のことをして
 気を紛らわせようと
 してるんじゃないかって…


 毎日あの場所に行って
 ため息ばかりついてるトオルを
 見ているのがつらくて…声掛けちゃったよ




 もうダメかもって 死期を悟った日
 でも トオルの目の前で息絶えるのは
 自分にとっても耐え難いことだったから
 あえて 居ない時に…


 どっちにしても トオルは
 こんな風になってたのかもしれないね


 トオル…
 キミに会えたことは僕の幸運…

 みんな、僕を見て 去っていく中
 キミは手を差し伸べてくれた…
 感謝してもしきれない…


 "ありがとう"も言えないまま
 逝くのは嫌だったから…
 頼んで降ろしてもらったんだ


 子どもの姿かと思ったのに
 おじさんだったよ…
 犬の7歳って…人間の40代なんだって


 まぁ、いいや



 トオル、たくさん愛してくれて
 ありがとうね



 僕は

 キミに出会えて本当に良かった

 それこそが 僕の生きた証…



 あまりお酒を飲みすぎると
 愚痴っぽくなるから
 気をつけるんだよ

 自分を追い込む癖 それなんとかして!
 絶対に無理しないで…


 僕は最期まで 幸せだったよ…



 ありがとう…トオル




 キミは時より 天然を爆発させるから
 最後まで 気付かれずに済んだ…


 丹野 良二…

 ンノ 良

 読めなくはないだろ?



 ネーミングセンスは…
 飼い主に似るみたいだな…ヘヘッ…


 いつかまた どこかで…





 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆





 目を覚ますと
 自室のベッドの上…


 アレ?昨日は確か…良二さんと飲んで…


 家に送ってくれたのかな?



 お礼を言おうと
 スマホで発信履歴を探す



「えっ…」


 良二さんの番号がどこにも見当たらない



「あ、名刺!」


 スーツのポケット
 カバンの中
 名刺フォルダー…


 どこを探しても見つからない…




 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆




「タニ…行ってきます!」



 今日も タニの写真に向かって
 元気に挨拶をする



 俺は今日も
 タニとの想い出とともに
 1日1日を大切に生きていく








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感想 2

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みんなの感想(2件)

こぉぷ
2024.12.18 こぉぷ

お風呂で「うふうふ」言うタニシくんが可愛くて可愛くて♡寂しいけれど乗り越えられる、そのきっかけをくれたのが丹野さん(*´艸`)フフフ
とても素敵なお話でした、ありがとうございました。

2024.12.23 keco

お返事が遅くなりすみません🙇‍♀️
小さいながらも頑張って生きたタニシ…
きっと来世は健康な体で産まれてくるでしょう‼️

解除
悠木全(#zen)

1話目がとても悲しかったですが
2話目で素敵なハプニングが起きて良かったです。
笑うところもあって楽しませていただきました!
素敵な作品をありがとうございます!

2024.12.18 keco

コメントありがとうございます"(ノ*>∀<)ノ
自分も経験があるペットロス…
盛り込んでみました!

解除

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