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エピローグ:彼女がいなくなった日
1.一通のDM
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学校の帰り道、真広は駅前のコンビニに立ち寄り、レジ横のホットスナックの棚を無意識に眺めていた。肉まん、唐揚げ棒、ハッシュドポテト。どれも見慣れた、変わらない日常の品揃え。数日前まで、そんな普通がまるで別の惑星の景色だったように思える。配信が止まり、結月が姿を消してからというもの、世界は見た目こそ元通りだが、どこかに“薄い膜”が張りついたような違和感が常に付きまとっていた。
スマホを取り出すと、画面に一件の通知が浮かび上がっていた。DM。それも、アカウント名のない匿名から。既視感があった。指先が汗ばんだ。無意識に喉が鳴る。周囲の雑音が遠のいていく中、彼はそっと画面を開いた。
──「そのときは、今度こそ誰かを助けて。」
短い。あまりにも短く、唐突なメッセージだった。だが、そこには何かしらの“確信”が込められていた。誰からとも知れない文面に、真広はしばらく指を動かせずにいた。何かの引用か、なにかの再送信か。それとも、結月自身なのか。仮面の主催者なのか。いくつもの可能性が頭をよぎるが、どれも証明のしようがなかった。
「今度こそ」とは、どういう意味なのか。
誰かを救ったことになっていなかったということか。結月のあの夜は、彼女が望んだ結末ではなかったのか。それとも、これは全く別の“誰か”からの、まったく別の“ゲームの続き”なのか。真広の中に、小さな緊張が蘇る。
返信しようと、画面をタップする。
が、次の瞬間、画面上からそのメッセージは消えた。アカウント情報が無効化され、ユーザーは存在しないと表示されていた。会話履歴も、キャッシュも、なかったことにされていく。
あの夜と同じだった。
突然現れ、何かを告げ、そして消える。
まるで“物語”の続きをほのめかすかのように。
コンビニの照明が急に眩しく感じられた。真広は背中に寒気を覚えながら、レジに向かうこともなく店を後にした。外の空気は生ぬるく、春の終わりの湿気を含んでいた。電車の発車ベルが遠くで鳴っている。数分前まで考えていた“普通の帰り道”は、もう完全に壊れてしまっていた。
駅のホームに立ちながら、真広は考える。
あのメッセージは幻覚だったのではないか。見間違いか、誰かの悪戯か。
それでも、自分の中のどこかは確信していた。あれは“何か”の始まりだったと。
夜の電車がホームに滑り込んできた。ドアの前に立ち、反射した自分の顔を見つめる。その瞳に、あの夜の赤い録画ランプがうっすらと重なるように見えた。きっと、まだ終わっていない。どこかで、あの仕掛けを動かしている者がいて、そしてまた“誰かの声”がスクリーン越しに待っている。
だが、次にその通知が届いたとき、自分はどうするのか――。
真広はスマホをポケットにしまい、電車に乗り込んだ。車内の広告には、最新のアニメ映画の告知が出ていた。偶然にも、そのキャッチコピーが目に留まる。
──「世界が気づかないまま、誰かが消えていく。」
知らず、息が詰まった。誰かが書いた物語の中に、自分の現実が滑り込んでくるような感覚。
“そのとき”がまた来るのなら、自分は本当に誰かを救えるのか。
あるいはまた、見ているだけの“観客”に戻ってしまうのか。
答えのない問いだけが、電車の窓に映る夜景の中で、静かに揺れていた。
スマホを取り出すと、画面に一件の通知が浮かび上がっていた。DM。それも、アカウント名のない匿名から。既視感があった。指先が汗ばんだ。無意識に喉が鳴る。周囲の雑音が遠のいていく中、彼はそっと画面を開いた。
──「そのときは、今度こそ誰かを助けて。」
短い。あまりにも短く、唐突なメッセージだった。だが、そこには何かしらの“確信”が込められていた。誰からとも知れない文面に、真広はしばらく指を動かせずにいた。何かの引用か、なにかの再送信か。それとも、結月自身なのか。仮面の主催者なのか。いくつもの可能性が頭をよぎるが、どれも証明のしようがなかった。
「今度こそ」とは、どういう意味なのか。
誰かを救ったことになっていなかったということか。結月のあの夜は、彼女が望んだ結末ではなかったのか。それとも、これは全く別の“誰か”からの、まったく別の“ゲームの続き”なのか。真広の中に、小さな緊張が蘇る。
返信しようと、画面をタップする。
が、次の瞬間、画面上からそのメッセージは消えた。アカウント情報が無効化され、ユーザーは存在しないと表示されていた。会話履歴も、キャッシュも、なかったことにされていく。
あの夜と同じだった。
突然現れ、何かを告げ、そして消える。
まるで“物語”の続きをほのめかすかのように。
コンビニの照明が急に眩しく感じられた。真広は背中に寒気を覚えながら、レジに向かうこともなく店を後にした。外の空気は生ぬるく、春の終わりの湿気を含んでいた。電車の発車ベルが遠くで鳴っている。数分前まで考えていた“普通の帰り道”は、もう完全に壊れてしまっていた。
駅のホームに立ちながら、真広は考える。
あのメッセージは幻覚だったのではないか。見間違いか、誰かの悪戯か。
それでも、自分の中のどこかは確信していた。あれは“何か”の始まりだったと。
夜の電車がホームに滑り込んできた。ドアの前に立ち、反射した自分の顔を見つめる。その瞳に、あの夜の赤い録画ランプがうっすらと重なるように見えた。きっと、まだ終わっていない。どこかで、あの仕掛けを動かしている者がいて、そしてまた“誰かの声”がスクリーン越しに待っている。
だが、次にその通知が届いたとき、自分はどうするのか――。
真広はスマホをポケットにしまい、電車に乗り込んだ。車内の広告には、最新のアニメ映画の告知が出ていた。偶然にも、そのキャッチコピーが目に留まる。
──「世界が気づかないまま、誰かが消えていく。」
知らず、息が詰まった。誰かが書いた物語の中に、自分の現実が滑り込んでくるような感覚。
“そのとき”がまた来るのなら、自分は本当に誰かを救えるのか。
あるいはまた、見ているだけの“観客”に戻ってしまうのか。
答えのない問いだけが、電車の窓に映る夜景の中で、静かに揺れていた。
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