HAMA

わらびもち

文字の大きさ
40 / 100
第六章 航海

第39話 格上殺しの技

しおりを挟む
「さて、僕が気になる子はいるかな?」

 子供は何かを喋ると街を見渡した。宙に浮かぶ人影に街の人々は驚いている。あちこちでザワザワと声が上がっていて、一部の冒険者は魔族ではないかと気づいているようだ。

「……分からないな。ネフィル=エスト! この街にいるだろう!!」

 おれ……? おれを探しているのか? そう思っていると子供は軽く手をかざし、街の東部、全体の5分の1程度の範囲を吹き飛ばした。まずい。おれが出ないと恐らくこの街全てを破壊するだろう。

 だがおれが行って勝てるか……? そしてヤツの攻撃を見て一つ分かったことがある。少ないから魔力を感じにくかったのではない。この一帯がヤツの魔力に覆われているのだ。だから分かりづらかったのだ。

 それとエルフの長老の話を思い出した。“近いうちに三界と出会うだろう”という話を。この規格外な魔族はつまり……

「エスト。行っちゃダメよ。多分アイツは三界だから」

「分かってるけど……このままじゃこの街が……!」
 
「でもダメ! 逃げることを考えないと、出てったところで魔族は人間をみんな殺すでしょうし」

 セリアの言っていることは理解できる。もっともなことだ。だが、人が死んでるのをこのまま見過ごせって……?

「落ち着くんだ。私達が行っても無駄死にするだけだからな。なんとか耐えるしかない」

「くそッ……!」

「早く出てきなよ。このまま街を全部破壊しちゃうよ」

 そう言って魔族はさらに街の一部を吹き飛ばす。何も出来ないのか……? くそッ…どうすればいい。

 街中から悲鳴が聞こえる。その中には子供の声もある。おれが隠れていてはヤツは破壊行為を止めないだろう。おれが行ったところで止めるとは限らないが、少しの時間稼ぎにはなるはずだ。

「おい、エスト!」

 イマイチ考えがまとまらないないまま、おれは精霊の力で体を浮かせて魔族に接近した。だがどうする…? 一応“身体強化ブースト”は使っているが、これでどれだけ時間を稼げるだろうか。稼いだところでどうするんだ?

「あのバカ、人の気も知らずに!」

 そういってグラはドラゴンの姿をとった。彼もまた大きな翼を動かしながら空を飛ぶ。

「おれがエストだ……。お前の言うとおり出てきてやったぞ」

「……が……エストか……?」

「そうだっつってんだろ」

「おい、エスト! 貴様勝手に出やがって!」

 叫ぶグラに対して“悪い”とだけ伝え、おれは相手を睨みつける。緊張感からか、あるいは恐怖からか、鼓動が激しくなり、それでいて恐ろしく寒く感じられた。生きた心地がしない。コイツの魔力に押しつぶされそうだ。

「君は竜帝グラダルオだね。今君には用がないんだよ。下がっててくれるかな?」

「ぐわッ!?」

「グラ!??」
 
 魔族はハエを払うように空に手を振ると、それと同時にグラの巨体が地面へと墜落した。しかも身体に大きな切り傷を伴って。下にいたフリナがすぐに向かったが、大怪我ではあれど致命傷ではなかったため下級ポーションだけ使っていた。

「……てめェ、何者だ!? なんでおれを探していた!?」

「うん? ああ、自己紹介がまだだったかな? 僕は“我界”カルタリア=デスバルト。三界の本山って言えば分かるかな?」

「本山……だと!?」

 三界は序列1位が本山、2位が双角、3位が三番と呼ばれる。つまりコイツは世界最強の魔族という訳だ。……本当にツいてねぇな……。

「君を探してた理由はね、気になったからだよ。ついこの間までは無名だったんでしょ? 有望な奴は見ておきたいからね」

 有望……? 何の話だ?

「不思議そうな顔をしてるね。まぁいずれ分かるさ。……ところでその指、いつ撃つんだい?」

「……」

 おれが右手で白天ハクテンを撃とうとしているのがバレた。目一杯に圧縮しるつもりだったので、バレるのは当然なのだが……。

「気づいてて止めねぇのか? 随分と余裕じゃねぇか」

「ははっ。だってその程度じゃ僕には効果がないだろ? そんなちっぽけな魔力、いや、魔素じゃさ」

「そう思うか? なら喰らってみやがれ!」
「『白天ハクテン』!!」

 おれは油断している相手に渾身の一撃をお見舞いした。ここまで溜めなくても九月を貫いた技だ。おれの攻撃の中では最も貫通力が高い。効くはずだ。少しくらいは効いてもいいはずだ……。

 不安と願望を込めた一撃が魔族の心臓部を貫くことはなかった。それどころか一切痛がる素振りを見せない。コイツは防御などしていなかった。能力スキルを発動した訳でもなかった。ただ単純に、おれの攻撃力が足りなかっただけだった。

「いい技だね。格上殺しジャイアントキリングにはもってこいだ。でも僕にはやっぱり効かなかったね。……確かこんなだったか?」
「『白天ハクテン』」

「がッ……!?」

 ヤツの構えた指先から魔力の光線が放たれた。確かに“白天ハクテン”だった。真似されたおれの光線は、おれの胸を貫いた。

「くッ……!」

「エスト!!」

 胸から溢れる血を抑えようとしたが、口からも血が出てきた。出血が酷い。心臓を貫かれたか……?

 全身の血の気が引いていくのが感じられた。だんだんと身体が冷えていく。大地からおれを呼ぶセリアの声も次第に小さくなっていく。

「君はこのくらいじゃ死なないだろ? またね。」

 そう言って魔族はおれの首に蹴りを入れた。おれはグラとは反対側に蹴り飛ばされた。今ので首と肩の骨も折れたいった気がする。

 地面に着く寸前、セリアがおれを受け止めてくれたおかげでそれ以上傷が悪化することはなかった。とは言っても傷が塞がるわけではない。口と胸から溢れる血液が体の表面を伝うのを感じ、その感覚が薄れていくのも感じた。

 かろうじて残る意識の中、空を覆っていた黒い雲が大量の雷を降らせるのを見た。次の瞬間、空には2つの人影があった。獄現門へ足を踏み入れようとするデスバルトと、もう一つの人影が。

「おっと、これはこれは大物が来たね」

 魔族はそう言ってもう一つの人影に向き合った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。 クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界異話 天使降臨

yahimoti
ファンタジー
空から天使が降って来た。 落ちたんだよ。転生かと思ったらいきなりゲームの世界「ロストヒストリーワールド」の設定をもとにしたような剣と魔法の世界にね。 それも面白がってちょっとだけ設定してみたキャラメイクのせいで天使族って。こんなのどうすんの?なんの目的もなければ何をしていいかわからないまま、巻き込まれるままにストーリーは進んでいく。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

処理中です...