HAMA

わらびもち

文字の大きさ
61 / 100
第八章 復活

第58話 人生最大級の幸せ

しおりを挟む
「いやぁ……旨いなぁ……現世の飯は最高だよ……」

「そう? それは良かったわ」

 おれ達はギルドから少し歩いたところにある料理屋に来ていた。おれはサラダとステーキを頼んだ。

 奢ってもらうのは悪い気がしたが、セリアはおれ達のリーダーだし、おれは金がもうないので大人しく奢ってもらうことにした。ちゃんと収入があったらお礼させてもらおう。

「そういえばエストさ。その右腕はどうしたの? 地獄にいたら生えてきたとか?」

「まさか。これはね……魔素をこう……ギュッとしてつくったんだよ。魔物だって元々濃度の高い魔素だろ? その要領で」

 おれは失った右腕の代わりの義腕について軽く説明した。地獄あっちで色々試しているうちに魔素のコントロール技術が向上したおかげで魔素を物質化できるようになったのだ。

 まぁそうするのに時間が掛かるから技などに応用するのは難しいが……。今は黒い腕だが、もっと練度が上がれば本物の皮膚のようなものも作れるだろう。せっかくなら本物リアルっぽい方がいいからな。

「ここにいたんですね。セルセリアちゃん」

「?」

「! ミーランさんじゃない! どうしたの?」

 座っている後ろからセリアを呼ぶ女の声がした。ミーランさん? とか言ったか。知らない顔だが、一つ分かることは、この人は強い。多分イリアと同じくらい、恐らく八法帝のうちの1人だろう。

 “ここにいた”ってのは探してたってことだよな。……煌焔の本部からは遠いのに? そんな疑問を顔にしていると、セリアは疑問に答えてくれた。

「ああ、彼女ね、ユーリア=ミーランさんよ。八法帝の1人で、能力スキルの他に強力な風魔法を使えるの」

「風の声を聞いて来たんです。さっきはイリアちゃんと一緒にいましたよね? 結構暴れてたみたいですけど」

「私の連れがね。ちょっと揉めてたみたいで。ところで私を探してたんでしょ? 何かあったの?」

 セリアは軽く説明をして肝心な質問をした。確かに何かあったのか? 法帝ほうおうがわざわざ伝えに来るなんてのは割と珍しいことな気がするが。

 おれは2人のやり取りを気にしながら飯をパクパクと食べ進めた。

 「ヘルダルムに連絡したけどあなたが居なかったからグラダルオ君には伝えたのですけど。一月後、つまりひょうの月の12の夜にバンリューと八法帝で会議を行うことになりました」

「会議? ……もしかして……」

「ええ。3年前に我界が宣言した魔族の大侵攻、人間の住む土地で迎え撃つのはリスクが高いから、奴らが動く前に私達が魔界へと奇襲することになったのです。もっとも相手はすぐに気づくでしょうけど」

「………まぁ、確かに。地の利はあっちにあっても人を守りながらだともっと戦いづらいものね。でもそんな少人数で行くわけではないんでしょ?」

「もちろんです。Sランクの冒険者や各国の騎士団も参加させますが、会議は私達と……まぁ一部の力のある方達が参加します。グリセラ大陸のラライアで」

「分かったわ。わざわざありがとうね」

 セリアとミーランの話を聞いていたが、おれにはとりあえず関係なさそうだ。奇襲、というより戦争になるだろうが、それにはおれも参加させてもらうが。

 ……今のおれは三界相手にどれくらい戦えるのだろうか。時間がないから今戦える実力はないと話にならないのだが……なんとかバンリューに会って手合わせしてもらうか。

 弱気というよりはただ単に今のおれがどれくらい強くなったのかを確認しておきたい。

「ところでセルセリアちゃん。そちらの方は? さっきの話からするとあなたの連れですよね?」

「おれ? おれはエストだ。……うん」

 なんて言おうか。おれはおれだと、それ以上の説明は出来ないな。でもこんなんじゃ説明とも言えないし……。

「彼はうちの大団長よ。ご存知でしょ? 煌焔のNo.2」

 セリアは得意げにそう言った。……おれってそんな立場の人間なの? つい今までおれがいなかったんだからグラやフリナに任せておけば良かったろうに。でもおれが帰ってくるのを信じてくれていたという訳だから、なんだか嬉しくもある。

「セルセリアちゃんがいつも言ってたエスト君ってことですか!? 生きてたんですね! 本当に良かったですね!!」

「ふふっ。そんなにいつも言ってたかしら?」

「その話しか聞きませんでしたよ。一途だったじゃないですか」

「ちょッ! ちょっと! 恥ずかしいからあんまり言わないでよ!」

 そうか。セリアはいつでもおれの心配をしてくれていたんだな。うん。やっぱり嬉しいな。

「まだ他の人には言わないでよ。グラ達にサプライズするんだから。その後うちから新聞出すし」

「分かりました。じゃあ私からはそれだけなので……後は楽しんでくださいね。若者同士」

 そう言ってミーランは店を出て行った。若者って言ったけどあの人も若いんじゃないのか? ……いや、あまり深く考えるべきではないな。下手なことを言ったら消されるかもしれないし。

「食い終わったし……出発するか? セリア。歩いてったら時間かかるだろ?」

「いや、今日はこの街で過ごしましょう。エストも疲れた顔してるし。地獄じゃ休めなかったでしょ?久しぶりだから明日は朝遅くても怒らないわよ」

「いいのか?」

「もちろんよ。エストがちゃんと休んで楽になってもらった方が私も嬉しいから」

「……そうか。ありがとう」
 
 おれ達はそう話をして料理屋を出た。そして近くの宿に向かう。まだ日は沈んでいないが、確かにおれは疲れがどっと溜まっていた。

 現世に戻った安心感と今日起こったことが原因か……いや、単純シンプルに地獄ではまともに休めることが無かったからそのせいか。あそこは寝ても悪夢しか見ないような環境だからな。

 おれは久しぶりにフカフカのベッドに飛びかかった。ああ……幸せだ。現世に戻れた、セリアに会えた、まともな飯も食えたしまともな睡眠も取れる。本来なら普通かもしれないが、多分、今以上に幸せを実感することもないだろう。

 なんか……部屋に1人になってから込み上げてくるものがあった。本当に幸せだ。おれは隠す相手もいない涙を隠しながら深い眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安
ファンタジー
ごく普通のフリーター・岩倉運命は謎の少年に刺され、命を落としてしまう。そんな岩倉運命だったが、サダメ・レールステンとして転生を果たす…

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

処理中です...