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第十章 禁断の森
第66話 古の話
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セリアの炎が遺跡の中を照らし、“そいつ”は暗闇の中から姿わ現した。尖った耳に2本の鋭い歯、やや身長の高い女だった。人間ではない。雰囲気は魔族に近しいものを感じるが……魔族でもなさそうだ。
「待て……。お前が何もしなければ……おれ達も手を出すつもりはない……。だが戦るってんなら……容赦しねぇぞ……」
おれは傷口を押さえながら言葉を放った。あくまでも侵入者はおれ達、一回の攻撃は見逃すが……戦ったとしても場所的にはおれ達の方が不利だよな。相手が“良いヤツ”だったらいいんだが……。
「なぜこの森に入ってきた? 無理に来ようと思わない限りは入って来れないはずだが」
相手はおれに尋ねてきた。こっちの話を聞いて攻撃してこないということは、別におれ達と戦う必要があるわけではないようだ。話は通じるっぽいな。
「何言ってんだ。絶対に入れない森があるなら入るだろ。それが人の性ってもんだ」
「……。なるほど……悪かったな。判断を早まったようだ。ついてこい」
彼女はそう言っておれ達の後ろに回り込んだ。異様に速いな。恐らくではあるが……闇の中を移動しているのだろう。
一撃目は牽制だったってことかな。セリアにポーションと包帯で傷口の応急手当てをしてもらい、彼女についていった。
「エスト、大丈夫……? 傷痛まない?」
「うん。おれは大丈夫だ。…………で、どこに向かってんだ? 少しくらい話してくれよ」
おれは前を歩く彼女に尋ねた。この建物は何なのか、彼女は何者なのか、聞きたいことはいくらでもある。
「…………気づいているかは分からないが……我は吸血鬼だ。我以外の吸血鬼もここの下部にいる。そこで少し、お前達に話をしてやろう」
「もしかしてとは思ってたけど……吸血鬼って魔族の出現と共に滅んだ種族のはずよ。生き残りがいたなんて……」
「詳しいことは後で話す。とりあえず今は着いてくればいい」
滅んだ種族なのか。……まぁ魔力がある限りはこんなところには入ってこれないだろうからな。誰も存在を確認出来ないのは納得だが……なんでわざわざ隠れて過ごしてるんだ? 外で過ごしてもいいだろうに。
とはいえ、彼女はまだ話す気はなさそうなのでおれ達は黙って後を追った。
少し歩くとそこには大きな空間が広がっており、何百人もの吸血鬼が暮らしているようだ。暗い空間なのに畑があり、作物も育っている。特殊な空間なのか作物なのか……。
そこまで重要なことでもないか。その空間には無数の家があり、そのうちの一つへ入っていった。途中、珍しい目で見られることもあった。人間がここに来ることは滅多にないのだろう。
「さて、座ってくれ。……まず何から話せばいいか……。我の名はウラルスだ。まぁなんと呼んでくれても構わないんだが」
家の中に入り、おれ達は椅子に座った。ウラルスは奥から茶を出してくれた。おれ達のことを客として対応してくれているようだ。
「ウラルスか。……で、吸血鬼って随分前に滅んだ種族だそうじゃないか。それが何でこんなところに………というかこの建物は何なんだ?」
「そうだな……確かに吸血鬼はここにいる者達で全てだ。世界中を探してもいないだろうな。……まずは我々のことについて話そうか」
——2000年前、かつて吸血鬼は南大陸、つまり今でいう魔界に住んでいたんだ。だがある日、魔族が現れた。
それから200年ほど経ったとき、当時の吸血鬼はほとんど殲滅されたんだ。魔族の手によってな。そこから唯一生き残った吸血鬼、つまり我々の始祖がこの地にやって来たのだ。
たまたま出会った大英雄にこの建物を守るための結界を作ってもらって……それからずっと我々吸血鬼の生き残りはここに住んでいるという訳だ。
……それで、お前達をここまで連れてきた理由なんだが……大英雄がこの地を守ってくれたと言ったな。確かに今張られている結界も彼の物が主なのだが……当然それだけでは今まで保つことはない。
ここに住み始めてまた200年ほどのことだ。白髪の青年がやってきて結界を補強してくれたんだ。それまでは完全に大英雄の残った魔力で稼働していた結界魔法だったんだが、その男が大気中の魔素で保てるようにしてくれたんだ。そして男は当時の吸血鬼にこう言ったのだ。
“これで君達はこれからも安全に暮らせるだろう。だがいずれ、それは遥か未来の話だが、英雄の意志を継ぐ者が仲間を連れてやってくるだろう。そいつらはこの結界を通ってくるはずだ。だがそいつらは敵ではない。そいつらが新たな世界を創り出すから、ぜひもてなしてくれ”
「……と。かつての吸血鬼の恩人の言葉といえ、未来を予言するなんて現実的ではなくてな。まさかとは思っていたのだが……お前達が恐らく彼の言った“そいつら”なのだろうな。攻撃をしてしまい本当に申し訳なかった」
「おい、頭は下げないでくれ。侵入してきたのはおれ達なんだ。警戒して当然だろう」
「そう言ってくれると嬉しいな。そう、それで彼が我々に残した予言はもう一つある」
“魔を破って夜明け前、神を喰らって日が昇る”
「“魔族を倒して人類の世界の夜が明ける”という意味だ。お前達が世界の導き手になるのなら……我は新たな英雄を目にしてるのかもな」
そう言ってウラルスは優しく微笑んだ。話に聞いただけでは全てを理解することは出来ないが……それにしても大英雄は本当に凄いんだな。少なくとも200年は結界を保ってたってことだもんな。途方もない魔力を持ってたってことか?
「ねぇ、その青年? の言葉だけど、神を喰らうってどういうこと? 神って誰のこと?」
「魔神のことだろうな。創造神様ならそう明記するはずだ。未来は確定してるものではないが、お前達が魔族、特に三界と戦うなら注意してくれ。恐ろしく強いとの話だからな」
「知ってるさ。でも戦らなきゃならねぇ」
そうだ。戦わなくては未来は暗い。それこそ世界は夜のままだ。魔族に怯える世界を変えなくては……世界に太陽が昇らなくてはならない。
「もう少し話をしたいが……ここを少し見ていくか?」
会議はあるがそこまで急いでいる訳でもないからな。おれ達はウラルスの提案に乗ることにした。吸血鬼の文明を見てみたいという興味と、大英雄などの話も聞きたかったのだ。
「待て……。お前が何もしなければ……おれ達も手を出すつもりはない……。だが戦るってんなら……容赦しねぇぞ……」
おれは傷口を押さえながら言葉を放った。あくまでも侵入者はおれ達、一回の攻撃は見逃すが……戦ったとしても場所的にはおれ達の方が不利だよな。相手が“良いヤツ”だったらいいんだが……。
「なぜこの森に入ってきた? 無理に来ようと思わない限りは入って来れないはずだが」
相手はおれに尋ねてきた。こっちの話を聞いて攻撃してこないということは、別におれ達と戦う必要があるわけではないようだ。話は通じるっぽいな。
「何言ってんだ。絶対に入れない森があるなら入るだろ。それが人の性ってもんだ」
「……。なるほど……悪かったな。判断を早まったようだ。ついてこい」
彼女はそう言っておれ達の後ろに回り込んだ。異様に速いな。恐らくではあるが……闇の中を移動しているのだろう。
一撃目は牽制だったってことかな。セリアにポーションと包帯で傷口の応急手当てをしてもらい、彼女についていった。
「エスト、大丈夫……? 傷痛まない?」
「うん。おれは大丈夫だ。…………で、どこに向かってんだ? 少しくらい話してくれよ」
おれは前を歩く彼女に尋ねた。この建物は何なのか、彼女は何者なのか、聞きたいことはいくらでもある。
「…………気づいているかは分からないが……我は吸血鬼だ。我以外の吸血鬼もここの下部にいる。そこで少し、お前達に話をしてやろう」
「もしかしてとは思ってたけど……吸血鬼って魔族の出現と共に滅んだ種族のはずよ。生き残りがいたなんて……」
「詳しいことは後で話す。とりあえず今は着いてくればいい」
滅んだ種族なのか。……まぁ魔力がある限りはこんなところには入ってこれないだろうからな。誰も存在を確認出来ないのは納得だが……なんでわざわざ隠れて過ごしてるんだ? 外で過ごしてもいいだろうに。
とはいえ、彼女はまだ話す気はなさそうなのでおれ達は黙って後を追った。
少し歩くとそこには大きな空間が広がっており、何百人もの吸血鬼が暮らしているようだ。暗い空間なのに畑があり、作物も育っている。特殊な空間なのか作物なのか……。
そこまで重要なことでもないか。その空間には無数の家があり、そのうちの一つへ入っていった。途中、珍しい目で見られることもあった。人間がここに来ることは滅多にないのだろう。
「さて、座ってくれ。……まず何から話せばいいか……。我の名はウラルスだ。まぁなんと呼んでくれても構わないんだが」
家の中に入り、おれ達は椅子に座った。ウラルスは奥から茶を出してくれた。おれ達のことを客として対応してくれているようだ。
「ウラルスか。……で、吸血鬼って随分前に滅んだ種族だそうじゃないか。それが何でこんなところに………というかこの建物は何なんだ?」
「そうだな……確かに吸血鬼はここにいる者達で全てだ。世界中を探してもいないだろうな。……まずは我々のことについて話そうか」
——2000年前、かつて吸血鬼は南大陸、つまり今でいう魔界に住んでいたんだ。だがある日、魔族が現れた。
それから200年ほど経ったとき、当時の吸血鬼はほとんど殲滅されたんだ。魔族の手によってな。そこから唯一生き残った吸血鬼、つまり我々の始祖がこの地にやって来たのだ。
たまたま出会った大英雄にこの建物を守るための結界を作ってもらって……それからずっと我々吸血鬼の生き残りはここに住んでいるという訳だ。
……それで、お前達をここまで連れてきた理由なんだが……大英雄がこの地を守ってくれたと言ったな。確かに今張られている結界も彼の物が主なのだが……当然それだけでは今まで保つことはない。
ここに住み始めてまた200年ほどのことだ。白髪の青年がやってきて結界を補強してくれたんだ。それまでは完全に大英雄の残った魔力で稼働していた結界魔法だったんだが、その男が大気中の魔素で保てるようにしてくれたんだ。そして男は当時の吸血鬼にこう言ったのだ。
“これで君達はこれからも安全に暮らせるだろう。だがいずれ、それは遥か未来の話だが、英雄の意志を継ぐ者が仲間を連れてやってくるだろう。そいつらはこの結界を通ってくるはずだ。だがそいつらは敵ではない。そいつらが新たな世界を創り出すから、ぜひもてなしてくれ”
「……と。かつての吸血鬼の恩人の言葉といえ、未来を予言するなんて現実的ではなくてな。まさかとは思っていたのだが……お前達が恐らく彼の言った“そいつら”なのだろうな。攻撃をしてしまい本当に申し訳なかった」
「おい、頭は下げないでくれ。侵入してきたのはおれ達なんだ。警戒して当然だろう」
「そう言ってくれると嬉しいな。そう、それで彼が我々に残した予言はもう一つある」
“魔を破って夜明け前、神を喰らって日が昇る”
「“魔族を倒して人類の世界の夜が明ける”という意味だ。お前達が世界の導き手になるのなら……我は新たな英雄を目にしてるのかもな」
そう言ってウラルスは優しく微笑んだ。話に聞いただけでは全てを理解することは出来ないが……それにしても大英雄は本当に凄いんだな。少なくとも200年は結界を保ってたってことだもんな。途方もない魔力を持ってたってことか?
「ねぇ、その青年? の言葉だけど、神を喰らうってどういうこと? 神って誰のこと?」
「魔神のことだろうな。創造神様ならそう明記するはずだ。未来は確定してるものではないが、お前達が魔族、特に三界と戦うなら注意してくれ。恐ろしく強いとの話だからな」
「知ってるさ。でも戦らなきゃならねぇ」
そうだ。戦わなくては未来は暗い。それこそ世界は夜のままだ。魔族に怯える世界を変えなくては……世界に太陽が昇らなくてはならない。
「もう少し話をしたいが……ここを少し見ていくか?」
会議はあるがそこまで急いでいる訳でもないからな。おれ達はウラルスの提案に乗ることにした。吸血鬼の文明を見てみたいという興味と、大英雄などの話も聞きたかったのだ。
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