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終章
終話 遥か彼方から
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人魔大戦から2年、魔界には安定した獄現門が開いてあった。
三界と九月、魔王など、魔族を牽引する者達が全て死んだため、魔王の子であるユリハが新たな魔族の王として魔族を治めていた。そして魔族達はこの獄現門を通して、魔界に新たに設立された国と交流していた。
つまり、魔界は人類と魔族が共存するための架け橋となったのだ。
当然、初めは人類も魔族も反対していた。しかし、魔神を討伐し人類を救ったのがネフィル=エストという魔王であったこと、その魔王が人間として生活出来ていたことが両者の繋がる大きな要因となった。互いに争う必要は無いのだと、2000年かけて証明されたのだ。
とはいえ魔族は元来血の気の多い種族であった。そう簡単に人類と和解などしない。そのため、エルフのフリナがユリハを補佐し、反対する魔族と戦い、破った。
敗北した魔族に再び手を差し伸べ、部下として迎えることで彼らを治めたのだ。魔族は大抵、敗北した相手に従うため、少々手荒ではありつつ、伝統的な方法であった。
魔界に作られた国はまだまだ発展途上であった。まだ2年しか経っていないのだから当然だ。
しかし、もともと国にも匹敵する大きな組織がこの国を作ったので、国の成長は目を見張るほどに早かった。
ただ、元が組織であったために、国というより巨大な組織というような状態であったが。
この国の王はグランデュース=セルセリア改め、ネフィル=セルセリアであった。2年前の戦いに参加した者で、現役の法帝でもあるがために、発展途上とはいえ国の力は大きなものだった。
王に加えて法帝が2人も所属していることも大きな理由であった。
この日は人魔大戦が終結した日であった。セリアは花束を抱えて墓に向かった。大英雄・アリウスと同じく大英雄・ネフィル=エストの墓だ。
セリアはこの地に、この親子の墓を建てていた。セリアは毎日この墓に来ているが、エストの命日にはほとんど1日中、墓の前に座っていた。
「…………何回見てもすごいわね。私もエストみたいになれるかしら」
セリアは墓の奥の大穴を見ながらそう話しかけた。
墓はエストが魔神に放った『煌魔天』の跡地の近くに建てられていた。邪神を討伐した地として広く知られている。
大地も森も削られて、遥か遠くの海が見えるのもここくらいなものだ。
「街も大きくなってきたわよ。本当に立派に……エストが見たらはしゃいじゃうかもね。お城よりも大きい建物も建ちそうだから私達の威厳もなくなっちゃうわ。…………でもエストはなんだかんだ質素なのが好きだもんね。豪華なお家に住みたいって訳でもないでしょ? 見るのは好きだろうけどさ」
セリアはずっと話していた。何回も同じことを言っていたけれど、何回でも同じことを話したかったから。でも、悲しい話はしなかった。
2年前、エストと兄が死んで絶望の中にいたけれど、今ではもう愛する人の死を乗り越えたから。いつまでも楽しい話をしていた。
「…………でも……やっぱりまた会いたいな。エストは天国で私を見てるのかな。だったらいつか……また話そうね」
日は落ちて、セリアは城に帰っていった。仕事を強引に任せて飛び出してきたから、怒られやしないかとヒヤヒヤしていた。いや、どうせ怒られるだろうからどう誤魔化そうかと考えながら帰った。
***
ここは英雄の街・プリセリド、その近くの山だ。かつてはポラスリ山と呼ばれたこの山に、1人の男がずっと昔から住んでいた。
男の歳は二十歳くらい、白い長髪を後ろで結んだ青年だ。耳には綺麗なイヤリングを付けており、身長は170センチ程度であった。
彼は結界を張って住んでいる家を隠しており、自らを“アリス”と名乗ってときどきプリセリドに下りていた。彼が初めてプリセリドに来たのは5年前、1人の少女に案内されたのが初めてであった。
ただし、5年前というのは現実の時間のことであり、彼自身のその記憶は2000年近くも昔のものであった。
「おっさん、なんか飯作ってくれ」
アリスはプリセリドにある“熊の家”という宿屋兼飯屋に来ていた。
「お客さんか? この時間は宿取ってる人しか提供してませんよ……ん? お! お前アリスじゃねぇか!!」
奥から大男、この宿の主人が出てきた。まだ朝だ。本来ならまだ宿に泊まっている客にしか料理を提供しないのだが、アリスと主人は顔見知りのため、特別に野菜炒めを作って出した。
「アリスお前……最後に会ったのは5年前じゃねぇか?」
「5年……?」
俺は野菜炒めを食べながらおっさんの話を聞いていたが……5年だって……? っていうことは……。
「お前、山に籠ってたんじゃ知らねぇだろ。2年前、バンリューや法帝達が三界を倒したんだぞ。そんで昔ここに来たエストって小僧が魔神を倒したってのさ。スゲェよな。……まだガキのくせに死んじまったようだけどよ…………」
「…………2年か……」
しまった……! あんまり会うのが早すぎると気まずいと思ってたから少し間隔を空けようとおもったら……まさか2年も経ってるなんて。
長生きしてるせいで時間の感覚が狂ったかな。流石に2年は待たせすぎだ。こんなことならあのとき一瞬交代した直後に会いに行けばよかった……!
「あ! アリス兄ちゃん! 久しぶりね!」
「おう。エリカか」
俺とおっさんの声を聞いて奥から出てきたのはエリカ、おっさんの娘だ。俺はエリカとおっさんと少し話した後、宿を出ることにした。
「じゃあ出発するか。またいつか来るよ!」
「おう、待ってるぞ! いつでも来い!」
「じゃあね! お兄ちゃん!」
「それとおれ……あぁ、いや、エストのことはそう心配しなくていいからな!」
おれはそう言って街を出た。“何か知ってるのか”と聞かれたが、“別に”とだけ答えておいた。本当のことを話しても信じてもらえないだろうしな。
死ぬつもりがまさか過去に飛ばされたなんて……おれでも信じないからな。
……じゃあ魔界に向かうとするか。
おれは山に帰り、家を丸ごと空間収納の中にしまった。
「じゃあ、じいちゃん、行ってきます」
おれは家のあったところに挨拶して歩き出した。
三界と九月、魔王など、魔族を牽引する者達が全て死んだため、魔王の子であるユリハが新たな魔族の王として魔族を治めていた。そして魔族達はこの獄現門を通して、魔界に新たに設立された国と交流していた。
つまり、魔界は人類と魔族が共存するための架け橋となったのだ。
当然、初めは人類も魔族も反対していた。しかし、魔神を討伐し人類を救ったのがネフィル=エストという魔王であったこと、その魔王が人間として生活出来ていたことが両者の繋がる大きな要因となった。互いに争う必要は無いのだと、2000年かけて証明されたのだ。
とはいえ魔族は元来血の気の多い種族であった。そう簡単に人類と和解などしない。そのため、エルフのフリナがユリハを補佐し、反対する魔族と戦い、破った。
敗北した魔族に再び手を差し伸べ、部下として迎えることで彼らを治めたのだ。魔族は大抵、敗北した相手に従うため、少々手荒ではありつつ、伝統的な方法であった。
魔界に作られた国はまだまだ発展途上であった。まだ2年しか経っていないのだから当然だ。
しかし、もともと国にも匹敵する大きな組織がこの国を作ったので、国の成長は目を見張るほどに早かった。
ただ、元が組織であったために、国というより巨大な組織というような状態であったが。
この国の王はグランデュース=セルセリア改め、ネフィル=セルセリアであった。2年前の戦いに参加した者で、現役の法帝でもあるがために、発展途上とはいえ国の力は大きなものだった。
王に加えて法帝が2人も所属していることも大きな理由であった。
この日は人魔大戦が終結した日であった。セリアは花束を抱えて墓に向かった。大英雄・アリウスと同じく大英雄・ネフィル=エストの墓だ。
セリアはこの地に、この親子の墓を建てていた。セリアは毎日この墓に来ているが、エストの命日にはほとんど1日中、墓の前に座っていた。
「…………何回見てもすごいわね。私もエストみたいになれるかしら」
セリアは墓の奥の大穴を見ながらそう話しかけた。
墓はエストが魔神に放った『煌魔天』の跡地の近くに建てられていた。邪神を討伐した地として広く知られている。
大地も森も削られて、遥か遠くの海が見えるのもここくらいなものだ。
「街も大きくなってきたわよ。本当に立派に……エストが見たらはしゃいじゃうかもね。お城よりも大きい建物も建ちそうだから私達の威厳もなくなっちゃうわ。…………でもエストはなんだかんだ質素なのが好きだもんね。豪華なお家に住みたいって訳でもないでしょ? 見るのは好きだろうけどさ」
セリアはずっと話していた。何回も同じことを言っていたけれど、何回でも同じことを話したかったから。でも、悲しい話はしなかった。
2年前、エストと兄が死んで絶望の中にいたけれど、今ではもう愛する人の死を乗り越えたから。いつまでも楽しい話をしていた。
「…………でも……やっぱりまた会いたいな。エストは天国で私を見てるのかな。だったらいつか……また話そうね」
日は落ちて、セリアは城に帰っていった。仕事を強引に任せて飛び出してきたから、怒られやしないかとヒヤヒヤしていた。いや、どうせ怒られるだろうからどう誤魔化そうかと考えながら帰った。
***
ここは英雄の街・プリセリド、その近くの山だ。かつてはポラスリ山と呼ばれたこの山に、1人の男がずっと昔から住んでいた。
男の歳は二十歳くらい、白い長髪を後ろで結んだ青年だ。耳には綺麗なイヤリングを付けており、身長は170センチ程度であった。
彼は結界を張って住んでいる家を隠しており、自らを“アリス”と名乗ってときどきプリセリドに下りていた。彼が初めてプリセリドに来たのは5年前、1人の少女に案内されたのが初めてであった。
ただし、5年前というのは現実の時間のことであり、彼自身のその記憶は2000年近くも昔のものであった。
「おっさん、なんか飯作ってくれ」
アリスはプリセリドにある“熊の家”という宿屋兼飯屋に来ていた。
「お客さんか? この時間は宿取ってる人しか提供してませんよ……ん? お! お前アリスじゃねぇか!!」
奥から大男、この宿の主人が出てきた。まだ朝だ。本来ならまだ宿に泊まっている客にしか料理を提供しないのだが、アリスと主人は顔見知りのため、特別に野菜炒めを作って出した。
「アリスお前……最後に会ったのは5年前じゃねぇか?」
「5年……?」
俺は野菜炒めを食べながらおっさんの話を聞いていたが……5年だって……? っていうことは……。
「お前、山に籠ってたんじゃ知らねぇだろ。2年前、バンリューや法帝達が三界を倒したんだぞ。そんで昔ここに来たエストって小僧が魔神を倒したってのさ。スゲェよな。……まだガキのくせに死んじまったようだけどよ…………」
「…………2年か……」
しまった……! あんまり会うのが早すぎると気まずいと思ってたから少し間隔を空けようとおもったら……まさか2年も経ってるなんて。
長生きしてるせいで時間の感覚が狂ったかな。流石に2年は待たせすぎだ。こんなことならあのとき一瞬交代した直後に会いに行けばよかった……!
「あ! アリス兄ちゃん! 久しぶりね!」
「おう。エリカか」
俺とおっさんの声を聞いて奥から出てきたのはエリカ、おっさんの娘だ。俺はエリカとおっさんと少し話した後、宿を出ることにした。
「じゃあ出発するか。またいつか来るよ!」
「おう、待ってるぞ! いつでも来い!」
「じゃあね! お兄ちゃん!」
「それとおれ……あぁ、いや、エストのことはそう心配しなくていいからな!」
おれはそう言って街を出た。“何か知ってるのか”と聞かれたが、“別に”とだけ答えておいた。本当のことを話しても信じてもらえないだろうしな。
死ぬつもりがまさか過去に飛ばされたなんて……おれでも信じないからな。
……じゃあ魔界に向かうとするか。
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「じゃあ、じいちゃん、行ってきます」
おれは家のあったところに挨拶して歩き出した。
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